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<東京怪談・PCゲームノベル>


お嫁さんいらっしゃい!



 それは丁度、優雅な午後の、お茶のひと時の事。
「うわー僕に新しい母上ができるんですね」
「いや、ちょっと待て、待てありえん、そんなことはありえん!!」
 棒読みの奈津ノ介の言葉に、藍ノ介は本気になって返す。
 遊ばれている、というのは一目瞭然だった。
「そうね……どんな人がいいの? 好みの人を選んだ方がいいと思うのよね」
「いやっ、だから」
 にっこり笑顔で小坂佑紀は言う。
「おもしろ……大変そうだね藍ノ介さん」
 菊坂静も、もちろん参加する気満々で。出そうになった本音を咳で掻き消し、そして物凄く優しい笑顔を送った。
「まぁ、見合い写真も見て……その中の一人もそのうちくるからな」
「うぐっ……!」
 逃げるなよ、という無言の圧迫。
「かかかか、奏都はいいのか!? 嫁などと言われておるが!? 男同士だぞ!?」
「愛があれば気になりません。パパさん、俺のこと幸せにしてくれるんでしょう?」
 にっこりと満面の笑顔。奏都ももちろん、この弄りに協力するようで。
「とりあえず藍ノ介さん落ち着いて、ね? お見合いするだけですぐに結婚っていうわけじゃないのよ?」
「そうだ、とりあえず見合いだけでもしろ。わらわの顔に泥を塗るな」
「お見合い……するんですか?」
 と、いつのまにやらそこにいたのは法条風槻。今日は髪をまとめてスーツ姿、そして何やら大荷物。仕事帰りのリサーチに付き合ってもらおうと思ったところに出くわしたこの騒動。関わらないわけがない。
「風槻……! た、助けろっ!」
 藍ノ介の言葉に、風槻はにっこりと笑顔。
「せっかくセッティングされてるようですし。会うだけでもなさってはどうですか? もったいないですよ。 それにあたしが持ってきたものも無駄にならないみたい」
 持ってきた荷を和室に置き中のものを出す。
 それは多種多様の服。
「今流行の『ちょい悪おやじ』のファッションのリサーチ結果確認したいので、ご協力願えますでしょうか? ちょっと着てみるだけですよ、ね?」
「それは丁度いい、やれ、藍ノ介」
「うわー僕も見てみたいなー」
「似合うといいんだけどね」
「パパさん俺のために格好良くなってくれるんですね」
 もちろん藍ノ介に拒否権は無く。着せ替えごっこが始まるのだった。
 とっかえひっかえの服装チェンジの末、無難にスーツとシャツを着せられ、いつもはゆるく縛るだけの髪も整えられ。
 でも誰もが思うのは一つ。
 微妙に似合わない。
「可もなく不可もなくなんだけど……データ間違ってるのかしら。奏都さんも試して……うーん、年齢がちょっと若いのよね……」
「無理のようだ。顔がいいのは認めてやるが藍ノ介はやっぱり駄目だな」
「なっ、汝さらりと酷いことを言うな! ルリヤなどに言われたくないわ!」
「親父殿、伯母上にそんなこと言っちゃ駄目です」
「そうね、肉親には礼儀正しくしないと駄目ってデータにも……」
「知らんわ!!」
「どなったり大人気ないね、藍ノ介さん」
 口々にいわれる言葉は容赦なくぐさぐさと藍ノ介へと突き刺さる。
 そんな彼らを少しの間うかがっていた少女が、クスリと微笑を称えながら近づいてくる。視線は自然にそちらへ。
「お取り込み中でしたので……聞き入ってしまってごめんなさい。大変なご様子ですね。お見合いですか……あ、申し送れました。私は榊船亜真知と申します。よろしければこれをどうぞ、お近付きに」
 深々と礼儀正しく亜真知は礼をし、差し出したのはきんつばと芋きんつば。それを有難うございます、と奈津ノ介が受け取る。
「な、汝はわしを助けてくれるのか……!?」
 期待に満ちた視線を受け亜真知はにっこりと微笑んだ後ルリヤの方へ。
「私などは如何でしょうか?」
「うん、合格!」
 ぐっと親指を立て満面の笑み。面白くて仕方ないというようなルリヤ。
「ありがとうございます」
「親父殿もてもて」
「もててるのは服のお陰かしら……とりあえずデータを……」
「藍ノ介さん、酷い、そんな浮気みたいな……ちょっと見損なっちゃったわ」
「そうです、パパさん俺は、俺はどうなるんですかっ……!」
「奏都さん、そんな、早まっちゃ駄目ですよ! 無限館の皆はどうするの? 僕でよかったら相談に乗るから……だから死に急がないで……!」
 うるりとにじませた瞳で静が言う。奏都は静にありがとう、と同じく涙目でかえす。
 亜真知も奈津ノ介も風槻も佑紀も、誰一人として藍ノ介の味方ではない。
「ちょ、ちょっと待て! 待て静! わしが奏都を殺してしまうような言い方ではないかそれはっ!」
「え、だって藍ノ介さん相手にしてたらきっと心労で……人身御供だよ、自覚してください」
「わ、わしは何もせんぞ!」
「どうでしょうね……パパさんきっと無意識のうちに酷いことを……」
「せぬ、せぬぞ!」
「そういえば藍ノ介さんはどんな人が好みなの? 一応、かわいそうだから聞くだけ聞いてあげましょう」
 と、佑紀が一応、助けをだす。これもまた新たなる弄りに発展するのを見越して。
「うん、まぁ聞いてやろう。どうなんだ藍ノ介」
 ルリヤに言われ、ここは答えるべきかどうか藍ノ介は少しの間迷う。
 だがしかし、全員の視線は言え、と強く強く求めていた。
「……せ、清楚美人…………」
 ぼそりと小さな声、視線をそらしつつ答える藍ノ介。
 亜真知はにっこり笑顔を向ける。
「それなら私、ぴったりですね。自分で言うのもなんですが、清楚美人です」
「そうね……確かに清楚美人さん……」
 ずずいっと前に身を乗り出し亜真知は言う。それに佑紀も頷いて、後押し。
 あわあわと必死にそれを拒絶する藍ノ介の姿は、いつも威厳はないがさらにない。
「私ではご不満ですか?」
「不満とかそうではなくてなっ……!」
「じゃあ何なのですか?」
 小首を傾げつつ問うと、その答えは出てこないらしい。
「いや、その、あのな……ええと」
「藍ノ介さん、はっきりしない男は嫌われますよ」
 視線が早く言え、とばかりにぐさぐさと鋭い。
 藍ノ介は言葉を飲み込んで、表情は引きつるばかりだ。
「年齢なら、大丈夫ですよ。ほらこんな風に」
 にこり、と亜真知が笑顔を浮かべる。
 するとその身体は二十歳前後、少女から大人へと変わる。
「な、ん!? な、汝は人でなかったのか!?」
「そのあたりは内緒です」
 ふふ、と笑みを浮かべて亜真知はごまかす。
 と、からりと扉が開く音がする。視線はそちらの方を自然に向く。
 見るとそこには、着飾った遙貴がいる。
「え、ちょ、姉さんどうし……まさか」
「わらわが呼んだ。藍ノ介のことをよーく知っておるから、良い嫁候補だと思って」
 ほらほら、と見合い写真の一つをルリヤは広げる。そこにはしっかりと、遙貴の姿があり、奈津ノ介は少し驚いた後にそれを受け取って傍らに置いた。
 そしてそれを静は見逃さず。
「奈津さんしっかりしてるね」
「貰えるは貰っておかないと。姉さんも上にどうぞ、ほら僕の隣開いてますよ」
「……奈津の隣はなんだか嫌だな……」
「何でですか」
「なんとなく……」
「じゃあ私の隣にどう?」
 と、微妙な雰囲気をかもし出す奈津ノ介と遙貴をやんわりと助けたのは佑紀。
 おとなしくその隣に遙貴が腰を下ろした時だった。
 がらっと勢い良く扉が開いて、そして入ってきたのは十五、六の少女。
 目には一杯の涙を、溜めて。
「藍ノ介様……! 藍ノ介様あぁ!!」
「な、なんだ今度は……!?」
「あぁ……藍ノ介様は酷い人や……うちを捨てようやなんて……!」
 その言葉に、どういうことだと問い詰める視線が送られるが本人は知らないと首を横に振るばかり。
「親父殿……こんな若い子に何を……というか初耳なんですけど」
「いや、だから知らんと!」
「藍ノ介、最悪だな」
「最悪」
「酷い人ですね」
「私を望みながらこんな子まで……」
「藍ノ介さんて、ロリコンだったのね……」
 それぞれ思い思いの言葉を吐く。
 それが心のそこからなのか面白がってなのかは、微妙な所。
「待て、待て! わしは亜真知を望んでもおらんし、ましてや汝とは初対面だ!!」
「ああ、そんな、うちのこと忘れてしもたん? うちは陽炎よ、思い出して藍ノ介様……!」
「落ち着いて、陽炎さん。藍ノ介さんは気が動転してるだけかもしれないわ」
「おおきに、でも……でも藍ノ介様……!」
「だから知らぬと!」
 少し修羅場状態。
 女性陣の視線は冷たく、男性陣の視線もそこそこ冷たく。
「藍ノ介、どういうことか説明しなさい」
「そうですね、僕も知りたいな、親父殿」
「うん、早めにしゃべっちゃった方が言いと思うよ」
「静まで……! いや、いや汝も今は敵か……! 風槻と佑紀……も敵だな……!」
 そんなことない、と二人苦笑をするもののそんなことは、ある。
「陽炎さん、でしたよね? 親父殿とはお久しぶりなんですか?」
「あんたは奈津ノ介君やろ? 知っとるよ、藍ノ介様がよく教えてくれたから……うち、うちあの人に捨てられたら、生きていけへん……!」
「陽炎様、そんなにも藍ノ介様のことを……私、その想いには負けます。お幸せになってください」
「あんた……ええ人や……藍ノ介様、うちは一生ついていきますから」
「結婚式を挙げる時は人気挙式場など調べてきてあげますから任せてください」
「うん、万事整ったら早い方がいい。藍ノ介、さっさと結婚してしまえ」
「いや、な、だからっ!」
「結婚式には私も呼んでくださいね、お祝いいたしますから」
「パパさん、俺を捨ててその人と……いえいいんです、いいんです、俺が耐え凌げば良いだけだから」
 と、盛り上がる反対で奏都が弱く笑いながら言う。その瞳の端にはきらりと光るものが。
 そこへ静かがフォローを入れる。
「奏都さん、藍ノ介さんがいなくても僕たちがいるから大丈夫だよ」
「そう、ですね……パパさんお幸せに……」
「親父殿お幸せに……陽炎さん、至らない父ですが宜しくお願いします」
「ええ、うち頑張って藍ノ介さんを支えていきます」
「良かったわね、ルリヤさんもこれで安心でしょ?」
「本当に良かった、うん。良い相手でよかったな藍ノ介。もったいないくらいだ」
 と、話は纏まって一安心。
 というのは一名除く、で。
「わ、わしは……」
 ぷるぷるっと肩を震わせて藍ノ介は立ち上がる。
 どうしたのか、と集まる視線。
「わしは結婚などしないのだああああああっ!!!!!!」
 そう叫びながら、藍ノ介は店の戸口へとダッシュ。
 そのままどこかへ、走り去っていく。
「…………遊びすぎましたか?」
「そのうち戻ってきますよ」
 苦笑しながら奏都が問うけれども、さらりと奈津ノ介は問題ないというように返す。
「藍ノ介さんは面白い人ね……間に受けちゃって」
「それが良いところ、ということにしておきましょう。一応リサーチ手伝ってくれたし」
「ぶふ……うっ、あはははははっ! こ、こらえてたから、もう、もう……!」
 畳に突っ伏して、突然遙貴は笑い出す。
 それに、陽炎が笑いすぎと一言返す。
「あれ、お知り合いなんですか? 陽炎様と」
「まぁ、悪巧みをちょっと……安心し、藍の字はうちに手は出しとらんから」
「え、あれ……? あれ、クロさんですか!?」
「ふー笑った……我もその姿初めて見るが……藍ノ介くくっ……」
 相当笑いのツボにはまったのか、また遙貴は笑い出す。
「陽炎さん、はクロさん……てことなのかしら」
 佑紀が問うと、その通りと陽炎、クロは頷く。
「……陽炎様の本当のお名前はクロ様、ということですか?」
 亜真知の問いにもうんうん、と頷く。
「つまり、あの高野クロという黒猫が、この陽炎さん」
「そうそう、この前あったやろ?」
「クロ様は黒猫なのですね? ああ、なるほど、わかりました。ここは不思議だと噂で聞いてきたのですが、本当に不思議がありますね。クロ様、どうぞ宜しくお願いします」
 ぺこっと礼儀正しく亜真知が言うと、クロも頭を下げて返す。
「で、遙貴さんは笑いとまったの?」
「ま、まだちょっと無理……!」
「面白かったからなぁ……本当に藍ノ介は手がかかる……」
 ルリヤがそう言うと、そうですねと苦笑を浮かべながら奈津ノ介が言う。
「皆さんご協力ありがとうございました。お茶淹れますね、亜真知さんが持ってきてくださったもの食べましょう」
「是非召し上がってください」
「あ、そうだ。さっきから言おうと思ってたんだけど。遙貴さんは今回の騒ぎに入っちゃ駄目だと思うんだよね」
 静がとうとうと言う。
 どうして、という視線を受けてにこりと。
「やだなぁ、わかってないの? 遙貴さんの相手は藍ノ介さんじゃなくて……奈津ノ介さんだよ?」
「な、何を言って!」
「お二人はそんな仲だったのですか?」
「ええ、そういう仲なんです」
「こら奈津!」
「奈津……遙貴なのか……そうなのか……遙貴、奈津を宜しく」
「いや、ちょっと……なんで我まで弄られなくちゃいけない!」
 かぁっと、ちょっとだけ赤面しながら声を上げて。
 その様子は照れているとしか思えない。
「嫌々言ってるのは好きってことよ。奈津さん頑張って」
「応援しますよ」
「遙貴も観念したらええのに……」
「皆さんありがとうございます」
 味方をたくさん得て、奈津ノ介はご機嫌。遙貴はたじたじ。
 藍ノ介だけを弄るはずが、どうやらちょっとばかり飛び火。
 それはこの後、暫く続く。




<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【1593/榊船・亜真知/女性/999歳/超高位次元知的生命体・・・神さま!?】
【5566/菊坂・静/男性/15歳/高校生、「気狂い屋」】
【5686/高野・クロ/女性/681歳/黒猫】
【5884/小坂・佑紀/女性/15歳/高校一年生】
【6235/法条・風槻/女性/25歳/情報請負人】
(整理番号順)


【NPC/藍ノ介/男性/897歳/雑貨屋居候】
【NPC/奈津ノ介/男性/332歳/雑貨屋店主】
【NPC/遙貴/両性/888歳/観察者】

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■         ライター通信          ■
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  ライターの志摩です。弄りお疲れ様でした、とても楽しかったです!
 勢いのみで思いついたネタなのに食いついてくださり感謝感激雨霰でございます。そのうちまた似た感じで弄りなシナリオを忘れた頃にでも(ぇ)というか自分も弄れて皆様も楽しんでいただければそれが一番です!

 法条・風槻さま

 いつもお世話になっております!
 お仕事姿にキュンしながら書かせていただきました!しっかりとデータとりつつつこみつつ弄りつつ…流石でございます…!