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<東京怪談・PCゲームノベル>


お嫁さんいらっしゃい!



 それは天気の良いある日のこと。
 暇だし、と遊びに入ろうとした銀屋。少し開いた戸口からはいつものごとく騒がしく、何やらある様子。
 中に入ることをやめ、耳をぴこっと動かしながらその様子を伺う。
「……楽しそうやな……」
 騒いでいることのキーワードは藍ノ介、見合い。
 藍ノ介の義姉であり、奈津ノ介の叔母であるものが見合いの話を持ってきているようで。
 でもそれはどう聞いても藍ノ介を弄っているようにしか聞こえない。
 困っているような声に笑いがこみ上げてくる。
「こんな楽しそうなことに仲間はずれになるんは嫌やわ」
 にやり、と笑みを浮かべ高野クロはどうしようかと考える。
 猫のままの姿で弄るのも楽しいだろうが、もっと面白くしたい。
 と、戸口で思案していると自分の上に黒い影が、重なる。
 振り向くとそこには懐かしい顔が。
「あ、クロじゃないか。うっわ、話には聞いてたが久しぶりだ」
「あら、やっと会えたわ、久しぶりやね、変わっとらんなぁ、遙貴……どないしたん、そのおめかしは」
「ん、これ? これは藍ノ介を弄るために我が見合いの一人としてやってくる、という設定なんだ。似合う……かな?」
 普段は着ないようなちょっと良い着物を着て、化粧もちゃんとして、綺麗なお姉さんな遙貴にクロはうんうん、と頷く。
「クロは、中に入らないのか?」
「うちは……うちも弄るのに一枚かませて貰おうと思うてタイミングはかっとるんよ」
「……楽しすぎるよな」
「楽しすぎるやろな」
 二人はニヤリと笑いあう。
「じゃあ先に弄ってくるから、クロも楽しむといい。当分このネタで弄れそうだ、くくっ」
「じーっくり、練ってからやらなあかんね、これは」
「よし、楽しみに中で待ってる。早く来いよ」
 からりと扉を開けて中へと遙貴は入っていく。
 それを見送りつつ、クロはあれだと一つ策を思いつく。
「ふふ、驚く顔見るんもちょっと楽しみやわ」
 瞳を細め、店を一瞥した後、クロは人気のない通りへと入る。
 そしてそこから出てきたのは黒猫の姿ではなく、十五、六歳ほどの少女。
 髪を靡かせつつ足取りは軽く。
 銀屋の戸から少し距離をおいて走りこむ。
 そして勢い良く扉をがらっと開けて。
 目には勿論一杯の涙。
「藍ノ介様……! 藍ノ介様あぁ!!」
「な、なんだ今度は……!?」
「あぁ……藍ノ介様は酷い人や……うちを捨てようやなんて……!」
 その言葉に、どういうことだと問い詰める視線が送られるが本人は知らないと首を横に振るばかり。
「親父殿……こんな若い子に何を……というか初耳なんですけど」
「いや、だから知らんと!」
「藍ノ介、最悪だな」
「最悪」
「酷い人ですね」
「私を望みながらこんな子まで……」
「藍ノ介さんて、ロリコンだったのね……」
 それぞれ思い思いの言葉を吐く。
 それが心のそこからなのか面白がってなのかは、微妙な所。
「待て、待て! わしは亜真知を望んでもおらんし、ましてや汝とは初対面だ!!」
「ああ、そんな、うちのこと忘れてしもたん? うちは陽炎よ、思い出して藍ノ介様……!」
「落ち着いて、陽炎さん。藍ノ介さんは気が動転してるだけかもしれないわ」
「おおきに、でも……でも藍ノ介様……!」
「だから知らぬと!」
 少し修羅場状態。
 女性陣の視線は冷たく、男性陣の視線もそこそこ冷たく。
「藍ノ介、どういうことか説明しなさい」
「そうですね、僕も知りたいな、親父殿」
「うん、早めにしゃべっちゃった方が言いと思うよ」
「静まで……! いや、いや汝も今は敵か……! 風槻と佑紀……も敵だな……!」
 そんなことない、と二人苦笑をするもののそんなことは、ある。
「陽炎さん、でしたよね? 親父殿とはお久しぶりなんですか?」
「あんたは奈津ノ介君やろ? 知っとるよ、藍ノ介様がよく教えてくれたから……うち、うちあの人に捨てられたら、生きていけへん……!」
「陽炎様、そんなにも藍ノ介様のことを……私、その想いには負けます。お幸せになってください」
「あんた……ええ人や……藍ノ介様、うちは一生ついていきますから」
「結婚式を挙げる時は人気挙式場など調べてきてあげますから任せてください」
「うん、万事整ったら早い方がいい。藍ノ介、さっさと結婚してしまえ」
「いや、な、だからっ!」
「結婚式には私も呼んでくださいね、お祝いいたしますから」
「パパさん、俺を捨ててその人と……いえいいんです、いいんです、俺が耐え凌げば良いだけだから」
 と、盛り上がる反対で奏都が弱く笑いながら言う。その瞳の端にはきらりと光るものが。
 そこへ静かがフォローを入れる。
「奏都さん、藍ノ介さんがいなくても僕たちがいるから大丈夫だよ」
「そう、ですね……パパさんお幸せに……」
「親父殿お幸せに……陽炎さん、至らない父ですが宜しくお願いします」
「ええ、うち頑張って藍ノ介さんを支えていきます」
「良かったわね、ルリヤさんもこれで安心でしょ?」
「本当に良かった、うん。良い相手でよかったな藍ノ介。もったいないくらいだ」
 と、話は纏まって一安心。
 というのは一名除く、で。
「わ、わしは……」
 ぷるぷるっと肩を震わせて藍ノ介は立ち上がる。
 どうしたのか、と集まる視線。
「わしは結婚などしないのだああああああっ!!!!!!」
 そう叫びながら、藍ノ介は店の戸口へとダッシュ。
 そのままどこかへ、走り去っていく。
「…………遊びすぎましたか?」
「そのうち戻ってきますよ」
 苦笑しながら奏都が問うけれども、さらりと奈津ノ介は問題ないというように返す。
「藍ノ介さんは面白い人ね……間に受けちゃって」
「それが良いところ、ということにしておきましょう。一応リサーチ手伝ってくれたし」
「ぶふ……うっ、あはははははっ! こ、こらえてたから、もう、もう……!」
 畳に突っ伏して、突然遙貴は笑い出す。
 それに、陽炎が笑いすぎと一言返す。
「あれ、お知り合いなんですか? 陽炎様と」
「まぁ、悪巧みをちょっと……安心し、藍の字はうちに手は出しとらんから」
「え、あれ……? あれ、クロさんですか!?」
「ふー笑った……我もその姿初めて見るが……藍ノ介くくっ……」
 相当笑いのツボにはまったのか、また遙貴は笑い出す。
「陽炎さん、はクロさん……てことなのかしら」
 佑紀が問うと、その通りと陽炎、クロは頷く。
「……陽炎様の本当のお名前はクロ様、ということですか?」
 亜真知の問いにもうんうん、と頷く。
「つまり、あの高野クロという黒猫が、この陽炎さん」
「そうそう、この前あったやろ?」
「クロ様は黒猫なのですね? ああ、なるほど、わかりました。ここは不思議だと噂で聞いてきたのですが、本当に不思議がありますね。クロ様、どうぞ宜しくお願いします」
 ぺこっと礼儀正しく亜真知が言うと、クロも頭を下げて返す。
「で、遙貴さんは笑いとまったの?」
「ま、まだちょっと無理……!」
「面白かったからなぁ……本当に藍ノ介は手がかかる……」
 ルリヤがそう言うと、そうですねと苦笑を浮かべながら奈津ノ介が言う。
「皆さんご協力ありがとうございました。お茶淹れますね、亜真知さんが持ってきてくださったもの食べましょう」
「是非召し上がってください」
「あ、そうだ。さっきから言おうと思ってたんだけど。遙貴さんは今回の騒ぎに入っちゃ駄目だと思うんだよね」
 静がとうとうと言う。
 どうして、という視線を受けてにこりと。
「やだなぁ、わかってないの? 遙貴さんの相手は藍ノ介さんじゃなくて……奈津ノ介さんだよ?」
「な、何を言って!」
「お二人はそんな仲だったのですか?」
「ええ、そういう仲なんです」
「こら奈津!」
「奈津……遙貴なのか……そうなのか……遙貴、奈津を宜しく」
「いや、ちょっと……なんで我まで弄られなくちゃいけない!」
 かぁっと、ちょっとだけ赤面しながら声を上げて。
 その様子は照れているとしか思えない。
「嫌々言ってるのは好きってことよ。奈津さん頑張って」
「応援しますよ」
「遙貴も観念したらええのに……」
「皆さんありがとうございます」
 味方をたくさん得て、奈津ノ介はご機嫌。遙貴はたじたじ。
 藍ノ介だけを弄るはずが、どうやらちょっとばかり飛び火。
 それはこの後、暫く続く。




<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【1593/榊船・亜真知/女性/999歳/超高位次元知的生命体・・・神さま!?】
【5566/菊坂・静/男性/15歳/高校生、「気狂い屋」】
【5686/高野・クロ/女性/681歳/黒猫】
【5884/小坂・佑紀/女性/15歳/高校一年生】
【6235/法条・風槻/女性/25歳/情報請負人】
(整理番号順)


【NPC/藍ノ介/男性/897歳/雑貨屋居候】
【NPC/奈津ノ介/男性/332歳/雑貨屋店主】
【NPC/遙貴/両性/888歳/観察者】

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■         ライター通信          ■
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 ライターの志摩です。弄りお疲れ様でした、とても楽しかったです!
 勢いのみで思いついたネタなのに食いついてくださり感謝感激雨霰でございます。そのうちまた似た感じで弄りなシナリオを忘れた頃にでも(ぇ)というか自分も弄れて皆様も楽しんでいただければそれが一番です!

 高野・クロさま

 いつもお世話になっております!
 プレイングを見た瞬間にぶふっと画面前で噴出し笑っておりました。人間姿なクロさまを描けて嬉しかったです!そして今回も似非関西弁いっぱいです!(自己申告)
 ではではまたお会いできれば嬉しく思います!