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おみくじ
*オープニング*
「ねぇねぇ、カスミせんせー!聞いて聞いてっ!」
「ん、なぁに?山田さん?」
神聖都学園音楽教師、響カスミ。
綺麗な容姿もさることながら、それを鼻にかけるでもなく気さくな対応をすることから
生徒にも人気のあるナイスバディ教師だ。
そんなカスミが、廊下で女子生徒に声をかけられた。
そんなことは日常茶飯事なのだが…
「どうしたのかしら?山田さん。なんだか嬉しそうよ」
微笑みながら、女生徒に問う。
「先生は、裏の神社のおみくじ、知ってる?あたし、あそこで大吉が出たのー!!!」
…裏の神社。名前すらもパッと出てこないような、小さくてマイナーな神社があったことをカスミは思い出す。
だがしかし、それしきのことで、こんなに大喜びすることかしら?とキョトンとしていると、
女生徒がフフ、と笑った。
「あれ?せんせー知らないの?あそこの神社のおみくじ、すっっっごくよく当たるんだよ〜!
大吉でね、【ラッキーカラーは藤色】とか書いてあったから、次の日、薄い紫の服着て出かけたんだっ。
そしたらね、大好きだった佐藤君に偶然出会って!その後お茶して、意気投合!
付き合うことになっちゃった。もう、超幸せ〜♪」
たんなるノロ気話に聞こえなくもないが…
「ねね、せんせーも行ってみなよー!!ほら、先生の苦手な怪奇現象も克服出来るかもよっ」
それとこれとは関係あるのかしら?と思いつつ、カスミは笑顔で「そうね」と頷く。
…おみくじかぁ…しばらくやってないな…
そんなことを考えながら、カスミは職員室へと戻った。
*レッツ★おみくじ*
「へぇ、おみくじねぇ…」
女生徒と、響カスミのやりとりを聞いていたのは、五代・真。
デイパックを背負い、愛用のマンテンバイクにて日本中を旅している青年である。
高校を卒業し、就職したものの、己の能力を更に高めたい!という気持ちから、職を捨てデイパック一つだけで旅に出た浪漫青年である。
だが、だ。
やはり、日本中を旅するにはそれなりの資金がいる。
優しい人、親切な人にご飯を奢ってもらったりすることもあるが、やはりそれでもいつかは懐が寂しくなる。
そうなると、この東京に戻ってくる。
本人としては「やっぱり時給高いし!」という気持ちがあるから、という意識があるのだろうが…
きっと、東京の数々の事件が彼を引き寄せているのかもしれない。
と、いうわけで、今現在は東京にて日雇いのバイトなどをし資金を貯めている最中である。
さて、そんな彼が何故、神聖都学園に。
バイトではない。親戚に届け物があったため、訪れていたのだ。
そして、女生徒とカスミが話している場に遭遇し、このおみくじの話が耳に入った。
「女性ってのはホント、占いの類とか好きだよなー。
当たるも八卦、当たらぬも八卦だから、俺はあんまり信じてないんだよなー」
そう呟きつつ、真は神聖都学園を後にする。
腕時計を見る。
これから入っているバイトにはまだ時間がある。
…おみくじがよく当たる神社、か…
何か、不思議な力のある神社なのか…?
神社、のキーワードに惹かれた真。
「まっ、時間もあるし、ちょっと覗いてみるとすっかな」
真は愛用のマウンテンバイクにまたがり、学園の裏手に回った。
*大亜多利神社*
その神社は、小さいながらもわかりやすかった。
なぜなら…
「よく当たるおみくじあります…」
真は、神社の名前よりも派手に置かれている看板に目がいってしまった。
よく見ると、その脇には『体験者の声』などといった見出しで、イニシャルではあるが、感謝の手紙らしきものが数点載っていたり…
「思いっきり、雑誌のいかがわしい『幸運を呼ぶなんたら』のノリだな…」
真は肩を落とす。神聖であるはずの神社がこんなんやってていいのか?と。
若干落胆した真に、後ろから声がかかった。
「あらっ、お兄さんはひいてかないの?お・み・く・じ♪」
真はその声に振り返ると、箒を持った巫女さんが立っていた。ニコニコと笑顔である。
違和感。明らかに違和感。
まず、声が女性のものでない。
そして、金髪。思いっきり日本人顔なのに。
明らかに不振な目を向けている真に気づいてるのか気づいてないのか、謎すぎる巫女は「ほら、おみくじならこっちよ!!」と
強引に真の手を引いた。
…ゴッツイ手。
男だ、コイツ明らかに男だ。
日本各地を旅している間に、こんなエセ神社も出来ちまったのか、と若き青年は世を憂いだ…とか。
そんなこんなで、真は気づいたら女装巫女に手をしっかりと掴まれたまま、鳥居に続く階段を登っていた。
呆気に取られていたため声を出していなかったことに気づく。
「って、あのっ!」
「ん?なぁに?」
金髪巫女(いかがわしい)は、笑顔を真に向ける。
「俺、おみくじに興味がある、というよりか、その、神社に興味があって…」
「あらっ、珍しいっ!!」
金髪巫女は、驚いて開いた自分の口元をおさえる。そのゴツイ手で。
「あまりにも、おみくじが当たるって聞いたから…何か特別な力でもある場所なのかと思ったんだが…」
…なんか、明らかに地方の観光地チックだよな…と、いう言葉はギリギリ飲み込んだ。
「あら、若いのに神社に興味を持ってるなんて…ビックリ☆」
いかがわしい巫女は愛想を振りまく。可愛くない愛想を。固まる真に、更に言葉を続ける。
「えっとね、この大亜多利神社は結構古くからある神社でぇ…
おみくじも昔からあったんだけど、『当たる』って評判が出てきたのは最近ね。
あれよあれよと人が来て、神主が悪乗りして、こんなゴテゴテにしちゃったわけ。
もう、商売っ気丸出しって感じぃ〜」
「そ、そうか…」
あんたが言うか、あんたが!と、いう言葉を真はギリギリ飲み込んだ。
「ともかく、神社自体はちっちゃいし、見るもんないし…せっかくだからひいていけば?アレ。」
そう、いかがわしい巫女が示す先は、おみくじが入ってるであろう、箱。
意外にも質素なのは神主の最後の良心か。
真は一瞬躊躇したものの、後ろでいかがわしい巫女がニコニコしている気配を感じると
引かねばここを早々と立ち去れぬ!と思いに駆られ…
100円を投じる。
「はい、それじゃあ箱の中のおみくじ、一個取り出してくださぁい♪」
真は、箱に手を入れ、直感でひとつのおみくじを取り出した。
そして、中を読む。
いかがわしい巫女も、楽しそうに真の反応を見守っている。
おみくじに書いてあった文字、それは…
…大吉。
『やり、大吉♪何か良いことが起こりそうな予感がするぜ!』
そう、心の中で喜ぶ真に、いかがわしい巫女が覗き込む。
「あら、大吉じゃない☆凄いわねー!!ここの神社何気に大吉少ないのにー!
むしろ凶ばっかなのに…あなた、相当運がいいわねぇ」
「凶ばっかりって…それで『当たる神社』って、あんまり嬉しくないような…」
そう苦笑する真に、いかがわしい巫女は、チチチ、と指をふる。
「お守りが、売れるのよ」
…エセ神社だ…
そう、真が落胆したのは言うまでもない。
「何かイイコトあったら、ぜひ報告してねー!!」
そう、いかがわしい巫女(性別不明)は、真に手を振り見送る。
真は軽く会釈をし、その大亜多利神社を後にした。
*大吉*
「なんだったんだ、あの神社…明らかにいかがわしいし…
まぁ、大吉が出たのはよかったよな。よく当たるっておみくじが凶だったらビクビクしなきゃならないし。」
改めて、おみくじを見る。
大吉。万事にかけて問題なし
恋愛運 絶好調。花に関わるものを身に付けるとよし
仕事運 絶好調。水が更に幸運を呼ぶ
勉強運 絶好調。そのままのペースで続けるがよし
健康運 絶好調。白いものを身に付けると、万事から身を守れる
「へぇ、見事にいい結果だな…ま、何にもないことこそが良いことかもしれないけど…」
そう言いつつ、相棒のマウンテンバイクにまたがる真。
腕時計を見る。
「ん、バイトに行くには丁度いい時間だな。」
真は爽やかにマウンテンバイクでバイト先へと向かった。
*大吉?*
本日のバイトは、道路の交通整理。体力や判断力のいる仕事であり、日給もそこそこよい。
度々お世話になっている現場指示者と挨拶を交わし、持ち場に着く。
そこからはレッドランプを持った単純作業。
水道管工事のため、車道を一本減らして作業している。
様々な車が通るのを眺めつつ、真はおみくじのことを思い返す。
…花…水…白…………水!?
今やっている仕事は水道管工事。
『まぁ、水に関わるよな…』
そう思う真。そして、着ている制服のベストが白。
『…流石に、花はないよな』
苦笑しつつ、また作業へと集中する。
しばしの時間が流れた頃、ふと、真は声をかけられた。
「あの、すみませーーーん。ちょっと道をお尋ねしたいのですがー」
見れば、車の中から女性が真に声をかけていた。
真っ白い、透き通るような肌が印象的な、美人。
真は昼間のいかがわしく胡散臭い巫女と対比したのは言うまでもなく。
見れば、信号は赤。ちょうど真の目の前に止まったので、声をかけたのだろう。
真は「どうしました?」と車の方へと歩み寄る。
フ、と女性は意味深に微笑んだ。
その時だった。
ドォォォォォォン!!と、真の背後で腹に響く音が鳴った。
そのあまりの音に真は振り返る。
見れば、水道管が破裂したのだろう、豪快に水が下から上へと散っていた。
『水の花だ…』
不謹慎にも真は思ってしまった。怪我人はいなさそうだが、周りの人間が慌てふためいている。
そして、真は気づいた。
水の花が咲く根本は、先ほどまで自分が立っていた場所。
高い運動神経を持つ真なら、すんででよけられたかもしれない。
それでも、こうやって女性に話しかけられたことは幸いしているわけで…
真は車の方へ向き直った。きっと女性も驚いているだろう…と、思ったのだが。
『あれ?』
すでに女性の乗っている車はいなくなっていた。
信号は、まだ赤だった。
*義理報告*
「と、いうわけだ」
翌日、真は悩んだ末に昨日訪れた大亜多利神社にやってきた。
そして、話の顛末をいかがわしい巫女に伝える。
ニッコニコの笑顔で胡散臭い巫女は「よかったじゃない♪」とハシャいでいる。
「や、っていうか、大吉なのか?これは…」
「あなたが五体満足、怪我がないなら、それが大吉!それとも、その消えた女性とラブロマンスでも始めたいわけ?」
「いや、そんな気はまったくない。不思議だとは思うけどなぁ」
そう言って、真はもう一度おみくじを読み返そうと、おみくじを仕舞っていた財布を探る。
「…あれ?ない。絶対ここに入れたハズなのに!」
いかがわしく、胡散臭い巫女はニッコリと微笑みながら、真に話しかけた。
「今日もおみくじ引いて行く?また何か起こるかも、よ♪」
「け、結構です」
日々が平穏なことこそ、きっと大吉。
改めてそう感じつつ、真は大亜多利神社を後にした。
*END*
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1335/五代・真/男性/20歳/バックパッカー】
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■ ライター通信 ■
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はじめまして!ヘッポコ稲穂ライター千野千智です。
この度はご発注ありがとうございました!
心よりお礼申し上げます!!
そして…大幅にお届けが遅れまして、大変申し訳ございませんでした(土下座)
今回、参加者さんが五代さんおひとり、ということで想像で色々動かせてしまいました。
サイコロを二度振り、その合計が少ないほど大吉に近い仕様だったのですが
2+1で見事に大吉でございました☆
内容的には「平穏が一番」となってしまっておりますが…ほんの少しでもお気に召していただければ幸いです。
イメージと違う!!など、お叱りなどございましたら真摯に受け止めさせていただきます(土下座)
ご発注、本当にありがとうございました!
よろしければ、またお会いできることを願って…では!!
2006-06-29
千野千智
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