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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


本日晴天思い出日和!


――それは偶然二人の休みが重なった事から始まった。


「えっ、閑くんも今日休みなのっ!?」
携帯を片手に寝そべっていた染藤朔実は勢い良く体を起した。
壁にかけてある時計を見れば時刻はまだ昼の12時。一日が始まったばかりと言えなくもない時間。
『予定されてた撮影が少し延びたんだよ』
電話の相手、也沢閑の返答に朔実の表情がみるみる内にほころんでいく。
「じゃぁさ、一緒に遊ぼうよっ!俺、閑くんと遊びたいっ」
テンションの上がりきった朔実の声に閑は小さく笑い二つ返事でその誘いを受けた。





あっちを見ても、こっちを見ても、人ヒトひと。
取引先を渡り歩いているのであろう社会人、制服を着たまま地面に座り込む女子高生、奇抜な格好をした年齢不詳の人。
若者に人気のこの街には休日など無いのだろう。いつ来ても人で溢れかえり、騒がしい程の賑わいを見せている。
そんな人込みの中、無事落合った二人は行く先を話しながらその人波に乗っていた。
「取り合えず街に出たはいいけど、何処に行こうか。朔実は何か希望とかある?」
「閑くんは行きたい所とかないの?」
「朔実の行きたい所に付き合うよ」
閑の返事に朔実は待ってましたとばかりに笑顔を浮かべた。
「やっぱカラオケでしょっ!うん、絶対カラオケッ!」
一人納得し、颯爽とカラオケ店へ向かっていく朔実。その後を追う様に閑もカラオケ店へと向かう。
知り合っての月日は多少あるが、まだ二人でカラオケに行った事はない。
お互いがお互いの歌声に期待しながらエレベーターへ乗り込んだ。


エレベーターのドアが開き、受付が目に入ると朔実の口から沈んだ声がこぼれた。
「うわぁ……すっごい混んでる」
目の前には若者の山。皆、部屋が空くのを待ち焦がれている様子だ。
「……そうだね。まぁ、訊くだけきいてみよう。二人部屋なら空いてるかもしれない」
「空いてるのかなぁ〜……」
「俺が訊いてくるから、朔実はそこで待ってて」
そう言い残し、閑は女性店員の所へと向かっていく。
一言二言、閑と女性店員は言葉を交わしている。女性店員の顔が赤いのは気のせいではないだろう。
話がまとまったのか、閑は朔実の方を振り返り手招きをする。
「部屋空いてるって」
にっこり笑顔を浮かべている閑の後ろには、今だ顔を赤らめている女性店員の姿。
「……そ、そっか」
「腑に落ちないって顔してるけど?」
「なっ、なんでもない!さーっ、歌うぞっ」
店員について部屋に向かう間、朔実は心の中で"お得意の囁きを使ったに違いない"っと一人納得していた。
当の本人である閑は、朔実が考えているであろう事が手に取る様に分かり心の中で微笑んでいた。


案内された部屋は決して広くはないけれど、二人で歌うには十分な広さ。
朔実はどかりとソファーに腰掛ると、分厚い歌本をパラパラとめくり始めた。
――っと思ったら、早速リモコンへ手を伸ばし曲番号を入力して立ち上がった。その素早い動きに閑は小さく驚いた表情。
「トップバッター染藤朔実、歌いますっ!」
その掛け声の後、タイミングバッチリに曲のイントロが流れ出す。
今、若者の間で絶大な人気を誇る人気ヒップホップユニットの新曲。
朔実はただ歌うだけではなく、得意のダンスも一緒に披露した。
本物と寸分違わぬその動きに加え、所々にオリジナルな動きも加えられている。
格好よく決めながら踊っているのに、大きな音程のズレも無くほぼ完璧だ。
ノリノリで朔実が歌っていると、小さく部屋のドアがノックされ店員が室内へと入って来た。
手に持っているのは入店時に頼んだ飲み物。突然の店員来訪なんて気にもせず歌って踊りつづける朔実。
朔実のパフォーマンスに店員は見とれつつ、笑顔で飲み物を受け取る閑にも見とれつつ二人の部屋を後にした。
曲も終盤にかかり、朔実のダンスと歌にも熱が入る。最後の最後までビシッと決めて1曲目を歌い上げた。
「やっぱり思いっきり弾けて歌うと気分いいなーっ」
再びソファーに体を預け、机に置いてあった飲み物を喉に流す。
「1曲目から飛ばしすぎじゃないか?」
歌本をめくりながら問いかけた閑に朔実はニッと笑った。
「カラオケは最初から最後まで飛ばしてかないと!ってゆうか、俺の歌とダンスどうだった!?」
「すごく良かったよ。正直、ここまで上手いとは予想外だったかな」
「へへっ、ありがと!じゃ、次は閑くんの番!」
朔実は自分の前に置いてあったリモコンを掴み閑の前に置いた。そのリモコンを受け取り閑はゆっくりと番号を入力する。
「歌う事からは逃げられないみたいだね」
「当り前じゃん。ここまで来て歌わないなんて野暮な事はなし!」
「……仕方ないか」
番号の入力が終わり、イントロが流れ始める。
アップテンポな曲をチョイスした朔実とは対照的に、閑はラブソング系のチョイス。
(閑くん、見た目も声も格好いいし。きっと歌も上手いんだろうな)
胸に響くイントロが終わり、いよいよ閑の歌声が部屋に響き始める。
(………………)
惜しむことなくその美声を披露する閑。部屋にはガンガンにその歌声がこだましている。
(………………こ、こんな歌だったっけ?)
確かに美声なのだが、何かがおかしい。朔実は目を閉じ、耳を澄まして閑の歌声に意識を集中させた。
意識を集中してすぐに朔実はおかしな事の真相に辿り着く。
(――閑くんって、もしかして……)
綺麗なメロディに綺麗な声。――だが、それぞれが全く合っていない。所謂、音痴。声が美声でも音痴は音痴。
音程がちょっと外れているとかそうゆう問題ではない。正に、天才的な音痴と言えるだろう。
しかも本人は全くそれに気付いておらず、気持ち良さそうに熱唱しつづけている。
予想外すぎる出来事にしばらく朔実は呆然としたけれど、どこかホッとしていた。
(閑くんにもダメな部分があったんだ……なんかちょっと安心したかも)
その後、歌い終わった閑に感想を求められ、朔実が焦った事は秘密にしておこう。





お互いの歌声を十分に堪能した二人は大満足でカラオケ店を後にした。
その足で、閑が希望したアクセサリーショップへと向かう。
最近雑誌でよく特集を組まれているショップから、激安のショップ。
目に付いたショップをブラブラと回り、最後に訪れた閑一押しのショップ。
大通りからちょっと外れた場所にあるそのショップは隠れ家的穴場スポット。
少し分かりにくい場所にあるにも関わらず、店内には人がいっぱいだ。
「へぇ〜、なんかすごくオシャレ」
ネックレスやピアス等のアクセサリーだけではなくお洒落眼鏡や付け毛等様々なアイテムが揃っている。
「俺のお気に入りのショップなんだよ。結構変わったフレームの眼鏡が多くてね」
視力は悪くないのだが、一種のアクセサリーとして閑は眼鏡をかけたりしている。
今日も趣味の良い黒縁の眼鏡をかけているが、それがまたよく似合い色気を増している様に思える。
綺麗に陳列された眼鏡を見ながら、朔実はあれやこれやと手に取る。
「あっ、コレ閑くんに似合いそう!あ〜でもちょっと待って、やっぱりコレが一番似合うかもっ!」
「そう?朔実がそう言うならそれにしようかな。……さてっと、朔実にはどれがいいかな?」
「えっ?」
「買ってあげるよ。朔実、多分眼鏡似合うと思うから」


しばらく二人で店内をうろつき、色々と吟味するがいまいちピンッと来る物が無い。
すると、ある一つの眼鏡の所で朔実がピタリと足を止めた。
視線の先には、綺麗な赤縁で可愛い感じの眼鏡がライトを浴びてキラキラと光っている。
閑はひょいっと朔実の顔を覗き込むが、反応は無い。完璧に眼鏡に視線を奪われている。
「それがいいの?」
問いかけの言葉に、ハッと朔実は我にかえると閑に視線を向け笑った。
「べっ、別に!ちょっと、いいな〜って見てただけっ」
明らかに何か遠慮する様な喋り方。閑は朔実が見ていた眼鏡に手を伸ばすと、無言で朔実にそれをかけた。
その眼鏡は最初から朔実の為に作られたかの様にピッタリだった。
「閑くん?」
「ほら、やっぱり似合う」
「えっ……」
朔実にかけた眼鏡を取り、自分が買う眼鏡と一緒にレジへと向かっていく。慌てて朔実が閑の腕を掴み止めた。
「悪いって!俺、自分で買うよ」
赤縁の眼鏡を取り返そうと朔実は必死に手を伸ばすが、身長差が激しくて届かない。朔実の手は虚しく空中を泳ぐだけ。
「今更なに遠慮してるんだ?」
「遠慮じゃなくて……とっ、とにかく悪いからさっ」
「そんな事お前が気にする必要はないよ。俺が買ってあげたいんだから、ね?」
「…………」
幼い子を宥める様に閑は朔実の頭を撫で、スマートに会計を済ませてしまう。
ショップを後にし、買ったばかりの赤縁の眼鏡を朔実に手渡す。
「はい、俺からのプレゼント」
「……なんか、ごめん」
「あやまる所じゃないだろ?」
「……そうだよなっ。うんっ、ありがと、閑くん!」
「どういたしまして」
「俺、ずっと大切にするから!ずっと、ずっと!」
嬉しそうに早速眼鏡をかけ、はしゃぐ朔実。喜びの気持ちを素直に表す朔実に、閑は満足そうに笑った。





机に置かれた思い出の赤縁の眼鏡。そこから始まった二人の昔話。
「ちゃんと覚えてたんだね」
「当たり前じゃん!特に、あの閑くんの歌は忘れようとしても忘れられないし」
「……それはどうゆう意味かな?朔実」
「えっ、あー……えっと、この眼鏡!ちゃんと大切にしてるし、傷一つないんだからっ」
上手く誤魔化しつつ朔実は眼鏡をかけ、くいっと顔を閑の前に突き出した。
それを閑はじっと見つめ、朔実の言う通り傷一つ付いていない事を確認しくすっと少し意地悪に笑った。
「それはあまり使ってないって事?」
「ちっがーう!大切に使ってるって事!」
「……冗談だよ」
微笑む閑に朔実は最初むくれていたが、次第にほころび笑顔にかわっていく。
お互いから小さくもれていた笑い声は次第に大きさを増し二人で笑いあった。


穏やかな風が木々を優しくざわめかせる心地良い日。
二人は懐かしい思い出話に華を咲かせながら、また新しい思い出を作っていく――


―fin―