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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


あの娘が綺麗になった理由
●オープニング【0】
「ねえねえ、山城さん近頃やけに綺麗じゃない?」
「そうね、性格はちょっとあれだけど、元から綺麗なのがさらに……でしょう?」
「恋でもしてるのかしら」
「そういえば高輪先輩にアタックしてるらしいわよ、山城さんって」
 いつの世も、学校で女子生徒の間で話題に上るこのような会話。それは決して神聖都学園も例外ではない。憧れ、羨望、嫉妬……まあ、色々と感情が入り混じっているけれども。
「え、そうなの? でもあの性格なのにねえ。そっちも近頃酷くなってない? お高くとまって」
「決まってるじゃない、猫かぶってるの。先輩の前で、にゃーにゃー言ってるんだわ」
「……あたし知ってるわよ。山城さん、いい化粧水を手に入れたのよ。ほら、あそこの路地あるじゃない。あの奥に小さなお店が出来て、そこから出てくる山城さんを見たのよ、あたし」
「へーえ、そうなんだ……って、まさかあなた!?」
「ふっふっふ、内緒♪」
「ね、場所教えて! あたしたちも買いに行かなくっちゃ!!」
「いいわよ。そうそう、そのお店ね、あの川口さんも出入りしてるの」
「えー、あの娘が? あの顔で? 化粧水使っても変わる訳ないでしょー?」
「あはは、言えてるー。やっても無駄なのにねー」
 ……ま、色々とあるようで。
 ところで、その化粧水の名前だけれども。
「ええと、『妖精香』という名前ですって」
 話を聞き込んできた影沼ヒミコは、同級生の原田文子へそう教えた。
 店の場所も、化粧水の名前も分かった。さて……あなたはこれからどうしますか?

●朴念仁、かの女性へ尋ねし【3A】
「また面白いこと聞くもんだね、あんたも」
 碧摩蓮はまじまじと目の前の少年、守崎啓斗の顔を見つめてから苦笑した。ここはアンティークショップ・レン、啓斗は蓮に話を聞くべく訪れていた。
「……何かおかしいか……?」
 首を傾げる啓斗に対し、蓮は今言ったことをもう1度言うよう促した。
「だから……女って、綺麗になると性格が悪くなるのかって」
「女の前でそれ言うと、かなりの確率で殴られるよ」
 蓮はさらに苦笑い。だが、すっと真面目な表情になってこう続ける。
「確かにまあ、そういう奴も居るけどね。自分の美しさを鼻にかけ、性格の悪い奴。けど、全部が全部そうじゃないさ。その『妖精香』って化粧水? それ使って綺麗になったのなら、考えられることは3つしかないだろうさ」
「その3つとは?」
「一種のプラシーボ効果。それから、使用者と化粧水との相性の合致。そしてそれこそ、妖精みたく不可思議な力。だいたい、学校で話題になってるってことは、学生でも手に入れやすいんだろう? 貴重な物が、そうそう出回るはずもないんだけどねえ……」
 ふむ、と思案する蓮。さらに話を続けた。
「もし本当にそれに魔力でもあるんなら、出回らせているのには何か裏でもありそうだね。意図的にやってるのか、それとも本当に気紛れなのか。その店の名前『妖精の手』なんだろう? 妖精って奴は気紛れだからねえ」
「……今の所、悪い評判は聞いていないんだが」
 啓斗がぽつりとつぶやいた。啓斗なりに『妖精香』の評判を集めてみたのだが、使用して悪い効果が出たという話は今まで出てきていなかった。結構神聖都学園内で広まっているようなのだが、それで悪評出てないのだから別段『妖精香』は悪い物ではないのかもしれない。もっとも長期的な影響はまだ分かっていないので、そう結論付けるには早いのだけれども。
「それにしても、化粧品というのは、調べれば頭が痛いな……」
 眉をひそめる啓斗。それを聞いて蓮がニヤッと笑った。
「プラセンタ……かねえ? その辺は考えると嫌になってくるから、ほどほどにしとくんだね。ついでに言うとさ、化粧水の原価って思ってる以上に安いよ。何しろ、自作も出来る訳だしさ、化粧水なんて」
「忠告感謝」
 と礼を言い、アンティークショップ・レンを後にする啓斗。これからどうするかと考え、啓斗は神聖都学園へ向かってみることにした。
(……よく山城って奴の名前が挙がってたからな。行動をちょっと観察してみよう……)

●山城の本性【4B】
 放課後――啓斗は山城の行動を観察していた。どうやら高等部3年の教室がある階へ行くようなので、先回りして校舎に張り付いて廊下側の窓から様子を窺うことにした。
 その山城、すらっとしてスタイルもよく、ゆるくウェーブのかかった長い髪がそこはかとない色気も醸し出し、確かに綺麗と言われるだけのことはある美人であった。
 すると、ある教室から1人の女子生徒がきょろきょろ辺りを窺いながら出てきた。そばかすやにきびがあり、そのせいで可愛らしいとはちと言い難い女子生徒であった。その女子生徒は足早に、山城が居るのとは逆の方向にある階段へ向かっていった。その後を別の女子生徒が通ってゆく。
 やがて山城は、そばかすの女子生徒がたった今出てきた教室へ入っていった。
(逆に回るかな)
 大急ぎで教室側の窓へ向かう啓斗。啓斗が教室を覗き込んだ時、ちょうど山城はリボンのかかった小箱をある机の中へ押し込もうとしている所であった。
(プレゼントか……ん?)
 啓斗が眉をひそめる。山城は何故か、入れ替わりに白い封筒を手にしていた。どうするつもりかと見ていると……何とびりびりに破ってしまったではないか!
 山城の口がこう動いた。
「……ふん。先輩にはあたしがふさわしいのよ」
 山城は封筒の残骸をポケットに仕舞うと、そのまま教室を出ていった。啓斗はその後ろ姿をじっと見つめている。
「綺麗な花には棘がある……? 性格が豪快に悪くなると絶世の美女に……?」
 小首、いやそれ以上に首を傾げる啓斗。とりあえずあれだ、今のつぶやきを女性たちの前でやったなら、刺されてもおかしくはない気がする。
 だが、山城の性格が悪いということは、疑いようのない事実であるようだ――。

●悲劇【6】
 啓斗は山城の後を追いかけていた。学校を出た山城は本屋やコンビニに寄った後、そのまま自宅へと戻った。鍵を開けて入っていったことから、一戸建ての家には他に誰も居ないのだろう。
 啓斗はしばらく近くに留まって、家の様子を窺っていた。中の風呂場と思しき所から、水の音が聞こえてくる。シャワーでも浴びているのかもしれない。
(そろそろ行くか)
 シャワーの音が聞こえなくなって少しして、啓斗は山城の家から離れようとした。まだ『妖精香』も買っていないのだから、ずっとここに居る訳にもゆかない。
 と、啓斗が家から背を向けた時だった。
「い……いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
 突然つんざくような女性の悲鳴が、家の中から聞こえてきたのである。明らかに山城の悲鳴であった。
(何事だっ!?)
 踵を返し、家の庭へ向かう啓斗。ちょうどまさにその時、Tシャツに下着姿という山城が2階のベランダから身を投げ出した瞬間であったのである。
「いかん!」
 山城の落下予想位置へ滑り込む啓斗。強い衝撃が啓斗の身体を襲ったが、その分山城へのダメージを抑えられたはずである。
「おい、大丈夫か!!」
 痛みを感じている暇なく、啓斗は山城へ声をかけたのだが――。
「……う……」
 啓斗は山城の顔を見て言葉を失ってしまった。山城のその顔は、とてもただれてみにくくなってしまっていたのだから。それこそ、直視するのもはばかられてしまうような。
 そんな山城の顔や手からは、ほのかによい香りがしていた……。

●相変わらずの噂話【8】
「ね、ね、山城さんどうしたの?」
「何か入院だって。ベランダから落ちたみたい。お見舞いも断ってるそうよ」
「へーえ。結構重症なのね、それじゃ。それよりもほら、山城さんがアタックかけてた高輪先輩! 彼女出来たってほんとっ?」
「本当よ。それがさ、あの川口さんなの!」
「嘘っ! だってそばかすもにきびもないし、つやつやで表情も輝いてて……嘘ぉっ!!」
「やっぱりあの『妖精香』のおかげ?」
「えー。でもあたしも使ってるけど効果ないしー。他に何かいい物でも見付けたんじゃない?」
「整形でもしたんだったりして」
「あはは、そうかもー」
 相変わらずの女子生徒たちの噂話。それをただ聞いているヒミコと文子。
「本当は……どうなの……?」
「……どうなんでしょう?」
 文子とヒミコが顔を見合わせ首を傾げる。真実をつかんでいる者は、とても少ないのかもしれない――。

【あの娘が綺麗になった理由 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
     / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【 0554 / 守崎・啓斗(もりさき・けいと)
                / 男 / 17 / 高校生(忍) 】
【 2748 / 亜矢坂9・すばる(あやさかないん・すばる)
     / 女 / 16? / 日本国文武火学省特務機関特命生徒 】
【 3806 / 久良木・アゲハ(くらき・あげは)
                   / 女 / 16 / 高校生 】
【 4682 / 黒榊・魅月姫(くろさかき・みづき)
       / 女 / 中学生? / 吸血鬼(真祖)/深淵の魔女 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全16場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせしてしまい申し訳ありません。ここに噂の化粧水についてのお話をお届けいたします。高原としましては、久々に黒いなあ……などと思いながら書いていた訳ですが、いかがだったでしょうか。
・今回、事件の全体像を確実につかんでいる方が居られるかどうか、高原にもちょっと分かりません。アプローチの仕方であれこれと得られた結果が変わっているはずですから。ちなみにオープニングと場面【8】以外、皆さん異なる文章だったりします。
・あ、もし自分で使ってみるという方が居られた場合、行動次第ではえらいことになっていたかもしれないとは言っておきます。それはそれで、ある意味では面白い結果があったのかもしれませんが……。
・守崎啓斗さん、17度目のご参加ありがとうございます。レンからのアプローチは面白かったと思います。あと、山城の観察。その結果、あのような場面を目撃することとなりました。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。