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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


あの娘が綺麗になった理由
●オープニング【0】
「ねえねえ、山城さん近頃やけに綺麗じゃない?」
「そうね、性格はちょっとあれだけど、元から綺麗なのがさらに……でしょう?」
「恋でもしてるのかしら」
「そういえば高輪先輩にアタックしてるらしいわよ、山城さんって」
 いつの世も、学校で女子生徒の間で話題に上るこのような会話。それは決して神聖都学園も例外ではない。憧れ、羨望、嫉妬……まあ、色々と感情が入り混じっているけれども。
「え、そうなの? でもあの性格なのにねえ。そっちも近頃酷くなってない? お高くとまって」
「決まってるじゃない、猫かぶってるの。先輩の前で、にゃーにゃー言ってるんだわ」
「……あたし知ってるわよ。山城さん、いい化粧水を手に入れたのよ。ほら、あそこの路地あるじゃない。あの奥に小さなお店が出来て、そこから出てくる山城さんを見たのよ、あたし」
「へーえ、そうなんだ……って、まさかあなた!?」
「ふっふっふ、内緒♪」
「ね、場所教えて! あたしたちも買いに行かなくっちゃ!!」
「いいわよ。そうそう、そのお店ね、あの川口さんも出入りしてるの」
「えー、あの娘が? あの顔で? 化粧水使っても変わる訳ないでしょー?」
「あはは、言えてるー。やっても無駄なのにねー」
 ……ま、色々とあるようで。
 ところで、その化粧水の名前だけれども。
「ええと、『妖精香』という名前ですって」
 話を聞き込んできた影沼ヒミコは、同級生の原田文子へそう教えた。
 店の場所も、化粧水の名前も分かった。さて……あなたはこれからどうしますか?

●気になるの【1B】
「でね、昨日買ってきたの」
「えー、ほんとー! 『妖精の手』ででしょー?」
「ね、ね、使い心地どうなのっ?」
 教室の窓際の席で、女子生徒3人がきゃいきゃいとはしゃいでいる。その光景を、同じクラスの久良木アゲハは何気なく見つめていた。とりあえず、聞く気はあろうがなかろうが、女子生徒たちの会話は耳に入ってくる訳で。
「んー、ちょっといい香りがしたかな? 使い心地はまだよく分かんない。どうかなあ、夕べと今朝と使ってみたんだけど」
「いつもと同じ顔に見えるわ」
「使い続けて効果が出るんじゃない?」
「1日だけじゃダメなのね、やっぱり」
「そりゃそうよ。2年の山城さんみたく使い続けないと、綺麗にならないんじゃない? あの人の場合、元もいいけどー」
(……どういう仕組みなんでしょうね?)
 女子生徒たちの会話を聞きながら、アゲハはふとそんなことを思った。元がよくて、なお綺麗になったと言われるということは、明らかに何かが作用していると思われる。化粧品の類は洗顔フォームと日焼け止めくらいしか使っていないアゲハであっても、これはちょっと気になる話題であった。
「他にも綺麗になった人、居るのかな……」
 ぽつりつぶやくアゲハ。とりあえず、それについて調べてみるのもよいかもしれないと思った。

●糸を辿って【2B】
 アゲハは噂を辿っていってみることにした。どこかに噂を広めた張本人が居るはずだと思ったのだ。
(探す過程で、他に誰が綺麗になったか分かるかもしれないし)
 一石二鳥とはこのことか。しかし噂を辿るため、アゲハは校内をあちこちと動き回らねばならぬはめになってしまった。
 けれどもそれだけの価値はあったようで、何とか張本人らしき人物に接触することが出来た。それは山城と同じクラスの女子生徒で、意外にも化粧には興味がなさそうな地味な少女であった。
「え、あの噂? うん、私が何人かお友だちに話したら、隣のクラスとか他の学年とかにどんどん広まっていっちゃって……」
 と語る女子生徒はちと困惑した表情。
「でも私が話したのは、山城さんがそのお店から出てきたということと、そこで『妖精香』って化粧水を売っているってことだけよ。その化粧水使ってるから綺麗なのかな……とは自然に言った気もするけど」
「え。じゃあ化粧水の効果で綺麗になった訳じゃ……」
「ごめんなさい、私にはよく分からないの。でも綺麗になったって誰か他の人が言っているのなら、効果があったということじゃないのかしら?」
「はあ……。どうもありがとうございました」
 ぺこりと頭を下げ、立ち去るアゲハ。
 噂の広まり方についてはこれで分かった。噂の張本人たる女子生徒が友だちに話し、それがどんどん広まっていったのだ。話を聞いた友だちも、また自分の目で山城の姿を目撃したと思われる。
(そういえば、近付くにつれて、山城さんのことを知っている口振りになっていたような)
 噂が曖昧になってゆく過程を逆に辿った気がアゲハはしていた。
「あれ?」
 その時、アゲハあることに気付いた。
「他に綺麗になった人って、結局聞いていないかも……」
 そうなのだ、山城以外に誰か綺麗になったとはアゲハはついぞ耳にすることはなかったのだ。

●分析結果【5A】
 神聖都学園からほど近い路地の奥、そこに件の店『妖精の手』は確かにあった。アゲハが中に入ってみると、同じ神聖都学園の女子生徒たちで賑わっていた。10人近くは居るだろうか。
 中は小さな外観から感じた通り狭く、あと5、6人も入ったら一杯になりそうだと感じられた。
「あ、これですね」
 目的の『妖精香』を見付けたアゲハはそれを手に取ると、すぐに会計を済ませることにした。レジの所に、銀髪の小柄な女性の姿があったので、『妖精香』の瓶を手渡した。
「1200円です」
 静かに値段を告げる女性。200ミリ入りで1200円なら妥当な値段であるだろう。
 支払いを終えたアゲハは、それを持ってすぐに分析をしてもらうべく帰りを急いだ。
 そして肝心の分析結果が出る。
「精製水にグリセリン、クエン酸……」
 分析結果を見るアゲハ。それはごく普通のよくある化粧水の成分。使用を続けても害はないものと思われる、と分析結果は結論付けられていた。
「……人間心理なんでしょうか……」
 アゲハが首を傾げる。人間そのように思っているとそう見えてしまう、ということが意外にある。山城のケースもそれに当てはまるのだろうか。
 少なくとも、『妖精香』の成分は普通の化粧水と変わりないようなのだから――。

●相変わらずの噂話【8】
「ね、ね、山城さんどうしたの?」
「何か入院だって。ベランダから落ちたみたい。お見舞いも断ってるそうよ」
「へーえ。結構重症なのね、それじゃ。それよりもほら、山城さんがアタックかけてた高輪先輩! 彼女出来たってほんとっ?」
「本当よ。それがさ、あの川口さんなの!」
「嘘っ! だってそばかすもにきびもないし、つやつやで表情も輝いてて……嘘ぉっ!!」
「やっぱりあの『妖精香』のおかげ?」
「えー。でもあたしも使ってるけど効果ないしー。他に何かいい物でも見付けたんじゃない?」
「整形でもしたんだったりして」
「あはは、そうかもー」
 相変わらずの女子生徒たちの噂話。それをただ聞いているヒミコと文子。
「本当は……どうなの……?」
「……どうなんでしょう?」
 文子とヒミコが顔を見合わせ首を傾げる。真実をつかんでいる者は、とても少ないのかもしれない――。

【あの娘が綺麗になった理由 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
     / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【 0554 / 守崎・啓斗(もりさき・けいと)
                / 男 / 17 / 高校生(忍) 】
【 2748 / 亜矢坂9・すばる(あやさかないん・すばる)
     / 女 / 16? / 日本国文武火学省特務機関特命生徒 】
【 3806 / 久良木・アゲハ(くらき・あげは)
                   / 女 / 16 / 高校生 】
【 4682 / 黒榊・魅月姫(くろさかき・みづき)
       / 女 / 中学生? / 吸血鬼(真祖)/深淵の魔女 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全16場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせしてしまい申し訳ありません。ここに噂の化粧水についてのお話をお届けいたします。高原としましては、久々に黒いなあ……などと思いながら書いていた訳ですが、いかがだったでしょうか。
・今回、事件の全体像を確実につかんでいる方が居られるかどうか、高原にもちょっと分かりません。アプローチの仕方であれこれと得られた結果が変わっているはずですから。ちなみにオープニングと場面【8】以外、皆さん異なる文章だったりします。
・あ、もし自分で使ってみるという方が居られた場合、行動次第ではえらいことになっていたかもしれないとは言っておきます。それはそれで、ある意味では面白い結果があったのかもしれませんが……。
・久良木アゲハさん、初めましてですね。噂について調べてみたのはよかったと思います。そのため、噂を辿ることになりました。『妖精香』については前者かな……と思われますが、あの分析結果からだとちょっとよく分かりません。あと、OMCイラストをイメージの参考とさせていただきました。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。