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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


入れ替わった草間と那智

●オープニング
 本日も閑古鳥が鳴いている草間興信所。
「煙草でも買いに行くか。零、留守番頼む」
「はい、兄さん。買い過ぎないようにしてくださいね。身体の為にも」
「わかってるよ」

 自販機でマルボロを買い終え、ウキウキ気分で家路に帰る草間。
 さっそく一本取り出し、吸いながら興信所に向うその時だった。ある人物とぶつかったのは。
「いて…」
「っ…」
 尻餅をついたまま、ぶつかった相手を見る草間は驚いた。
「な、何で俺自身が!?」
 ぶつかった相手が自分であることに驚いたが、自分の身体にも何か変化が起こっているような…。
 髪が急に伸び、声も違うような気がする…のは気のせい…ではなかった。
「だ、大丈夫ですか?」
 草間自身が全くと言って使わないだろう丁寧な言葉をかけてくる。自分自身の声でそう言われるのは気色悪い。
「だ、誰だよお前は!」
「ああ、自己紹介がまだでしたね。私は香月那智と言います。あなたが私になった、ということは…『変化の香』の効果です。この香は、入れ替わりたいもの同士が「入れ替わりたい」と願いながら香を聞くことで、心が肉体を変える、所謂チェンジですね、というものです」
 火の無いところで香が焚かれたのは、草間の銜え煙草のせいだろう。
「おい、俺達元に戻れるのかよ!」
「心配無用です。香が燃え尽きれば、自然に元に戻れますから。それまで、入れ替わっているのも面白そうじゃないですか」
 全然面白くない! という草間のツッコミを無視し、あなたのお宅に伺いましょうとちゃっかり興信所に居座るつもりの那智。

 …ということで、草間は客人の香月那智となり、那智は草間武彦として探偵の仕事をすることになった。

●何かおかしい
 身体が入れ替わってしまったまま、興信所に帰宅した草間。那智は客人としてちゃっかりとついて来ている。
「ここが草間興信所ですか。ボロい雑居ビルにしか見えないのですが」
 ハードボイルドな外見でおっとりとした口調はどうもアンバランスすぎる。
「悪かったな、ボロで。というか、何でお前、付いて来たんだよ! 帰れ!」
 物腰優美な長髪男の乱暴口調というのもアンバランスすぎる。
 外見が変わっても、中身(性格、心)が変わらないというのは何ともはや…。
 二人が興信所内に入ろうとしたその時、
「こんちゃー、遊びに来たでー」
 と草間興信所にちょくちょく遊びに来る小学生、門屋将紀(かどや・まさき)がやって来た。
「えぇと、君は…」
「よ、よう将紀。元気にしてっか?」
 草間になった那智(以下:草間那智)を慌てて那智になった草間(以下:那智草間)がフォロー。
 その様子を怪しいかと思った将紀はじーっと二人の目を見つめる。

 ――あーやべー、もうちょいで香月の奴、ボロ出すとこだった…。

 那智草間のぼやきが将紀には聞こえたような気がしたが、将紀は空耳だと思い無視。でも、怪しいと睨んでいる。
 将紀は僅かな時間制限がありながらも読心能力使えるが、能力は自動的発動が多いため全く気づいていない。
「はよ入ろうや、シュライン姉ちゃんが待っとるで」 
 将紀に促され、二人は興信所内に入った。

「おかえりなさい、武彦さん。そちらはお客様かしら?」
 事務所内の掃除を終え、デスクで書類整理をしていたシュライン・エマが手を止める。
 お茶でも淹れようかと思い立ち上がったその時、那智草間が話しかける。
「えぇと…何と言うか…その…」
 おどおどする草間の態度に、何かを感じるシュライン。草間に付き添う時間が長い彼女の直感だ。
「こんちは、シュライン姉ちゃん」
 二人と共に入って来た将紀が明るい笑顔で挨拶する。
「こんにちは、将紀君。武彦さん、どうしたの? いつもの武彦さんらしくないわよ」
 それを見て「草間のおっちゃん、いつもと違うねん。猫借りたみたいに大人しゅうて…」と子供なりに説明する将紀。
「おかしい、というのは私も同意見ね。どういうことかしら、武彦さん」
 草間と客人である那智を見比べ問い詰めるシュラインに根負けしたのか那智草間が、草間那智と共に事情を話し始めた。
「実はですね…」
「話せば長くなるが」
 
『入れ替わってしまったんです(だよ)!』

 中身は入れ替わっても、一寸の狂いもない見事なまでの二重音声であった。同調率が高くなっている…ような気が…。
 話せば長くなるが、というが、一言で済んだことに呆気にとられたシュラインと将紀。

●さあどうする
「え、えぇと…その『変化の香』というお香のせいで二人が入れ替わってしまったのね?」
 入れ替わった二人を見比べ、シュラインは戸惑いながら確認。
「そういうワケです、はい」
「何がそういうワケです、だ! その変な香のせいで俺たちがこんな目に遭っちまったんじゃねぇか!」
 二人とも落ち着いてとシュラインが話を中断しようとするが、那智草間を宥めることはできなかった。
「お前、香の説明する時『入れ替わりたいもの同士が「入れ替わりたい」と願いながら香を聞くことで、肉体を変える』って言っただろうが! 俺はそんなこと願ってねぇぞ! それに、香は「嗅ぐ」ものであって「聞く」ものではないだろう!」
「う〜ん、『変化の香』は改良の余地有りですね。それと、香道では「聞く」というのが正しい表現ですので、その部分は間違いでは
ないですよ。「嗅ぐ」でも良いのですが」
 草間が穏やかに微笑んでる。その光景にシュラインと将紀はものすごい違和感をおぼえた。

「香道のお話は大体わかりました。それで、香月さん、香が燃え尽きるのにどの程度時間がかかるの?」
「そうですねぇ、香炉自体が両掌にすっぽり収まるサイズですから、長くて二時間といったところでしょうか」
 そう言って、小さな梟の香炉を見せた。
 その様子を見た将紀は(草間のおっちゃんが真面目なんはおかしい)と心の中でひっそり呟いた。
「効果が二時間なら、少しの間我慢すれば兄さんと香月さんは戻れる、ということですね。安心しました」
 シュインの代わりにお茶を差し出す草間零がほっとした。
「零ちゃんの言うとおりね。でも、心は武彦さんでも、外見上が香月さんが事務所に居なくちゃ。お仕事てもらわないと。職業柄、ココは守秘義務内容の物も多いわけだけど…どうしようかしら?」
 真剣に悩むシュラインに対し「緊急事態だから香月に見せても…」という那智草間の言葉を遮るかのように、将紀が「いいこと思いついたで!」と言う。
「せやったら、二人が元に戻るまで一緒に行動したらええやん。お仕事する時も、ご飯を食べる時も」
「それって、香月さんとなった兄さんが兄さんになった香月さんの助手をするってことですか?」
 零の質問に「せや」と笑顔でキッパリ将紀は答える。
「…そうね。守秘義務類対応は零ちゃんに任せて、私は二人の監視を兼ねて事務所に残るわ」
「おっちゃん、どうする? 香月の兄ちゃんに全部任せて、お香の効き目が無くなるまでどっか行くんか?」
 そんなこと出来るか! と断言した那智草間は、効き目が無くなるまで草間那智と行動を共にすることにした。
「ボクも二人が元に戻るまで付き合うで! シュライン姉ちゃん、電話借して。帰りが遅くなるかもしれないってお家に連絡するさかい」
 将紀は電話で叔父に草間興信所で遊んで来ると伝えた。彼の叔父は草間興信所に来る面子となら問題無いだろうとあっさり承諾した。

●お仕事開始?
「仕事と言っても、客が来ないんじゃしようが無いじゃないか」
 買ってきたマルボロに火をつけ、那智草間はぼやいたいた。
「煙草は吸わないでください。私、刺激物は一切口にしない主義なんですから」
 那智草間から煙草を取り上げ、それを灰皿に押し付けて消す草間那智。
「何で刺激物あかんの?」
 首を傾げながら尋ねる将紀に「刺激物は匂いを嗅ぐ妨げになるからですよ」と草間那智は丁寧に答えた。
「何を言っているの二人共、仕事ならあるわよ。はい、これ。書類を整理して頂戴」
 接客用テーブルに置かれたのは、書類の山だった。全部を整理するのはものすごく時間がかかるだろう。
「頑張ってや、おっちゃん達。ボクは子供だから整理でけんもん」
 子供であることを理由に、将紀は仕事をさぼる気でいる。シュラインもまだ小さい将紀に手伝いをさせないだろう。
「しかたが無いですね。やりましょう、草間さん」
「しゃーねぇ、やるか」
 黙々と一枚ずつ書類を整理する二人であった。

 その間、将紀は両掌サイズの梟の香炉を持ち出そうとしていた。
「将紀君、それをどうしようとしているのかな?」
 突然すっと横に来たシュラインに驚きながら、
「水かけて消せば、お香の効果が切れるの早いんやないかと思うてな…」
 水をかけて消しても、匂いがまだ残っていることを将紀は知らなかった。
「そんなことしても駄目よ。お香を消しても匂いは残るわ」
 ええ案やと思たのになぁとぼやく将紀に対し、仕方無いでしょうと言うシュライン。

 そんな遣り取りをしている間に、依頼人がやってきた。
「あの…草間探偵いらっしゃいますでしょうか…」
 客だ、と喜ぶ那智草間を私のお客様ですよと静止する草間那智。
「草間は俺だ。立ち話もなんだから、事務所へ」
 あいつ、何時の間に俺の口調を…と感心する那智草間。だったら俺も! と那智草間もやる気を出した。
「シュラインさん、お客様ですよ」
 うう…情けねぇと呟きながらも那智の振りをする那智草間。
 依頼人は緊張しているのか、なかなか話を切り出そうとはしない。
 その様子を見たシュラインは、草間那智から聞いたお香の話を思い出し、彼から手渡されたお香立てに、コーン型のラベンダーのお香を乗せ、ライターで火をつけた。煙が出ると同時に、ラベンダーの良い香りがする。
 コーヒーを那智草間と依頼人に差し出すと同時に、さりげなくお香立てをテーブルの端に置く。
 緊張がほぐれ落ち着いたのか、依頼人は少しずつ話し始めた。

 ――流石は香月さん。言いことを聞いたわ。この方法、これからも続けようかしら。

 その様子を見て、シュラインは微笑んだ。

 依頼人との話し合いが済んだ頃には、夕日が沈んでいた。
 そろそろ香の効き目が切れるだろうと思っていたが、二人に変化は無い。
「お風呂の用意が出来ましたよ、兄さん」
 零が食事の前に風呂に入るよう勧める。
「そうだな。何かと苦労しまくりで汗かいたし」
 零の一言で何か閃いたのか、将紀が何か思いついたようだ。
「おっちゃんと香月の兄ちゃんが同時にお風呂入ればええんちゃう? その間にシュライン姉ちゃんがお部屋を換気すれば、元に戻れるのが早くなると思うねん」
「確かにそうすれば少しは効き目が無くなるでしょうね。将紀君の案、やってみましょう」
「元に戻れるなら、俺は何でも良い」
「善は急げや。風呂入ろう、風呂。ボクも一緒に入るー!」
 将紀に促され、風呂場に向う二人。

●元に戻れたか
 三人が風呂に入っている間、零は換気扇を回し、シュラインは事務所の窓を開けた。先程のラベンダーの香は既に燃え尽きている。
「これで兄さん達が元に戻れたらいいですね」
「そうね。でも、ちょっと勿体無い気もするけど」
 那智のままでも草間は草間。それは変えようもない事実。その様子をもう少し楽しみたい、というのがシュラインの本音。

 その頃、風呂場では将紀が草間那智の背中を洗っていた。
「草間のおっちゃん、相変わらずええ体つきやなぁ。前に銭湯行った時と変わってへん」
「お前なぁ…体型はだらけた生活してねぇと維持されるんだよ。俺は毎日仕事で自然と鍛えられてんだ」
 バスタブに浸かっている那智草間が突っ込む。
「しっかしこの髪、うざいな。那智、お前良く我慢できるな」
「慣れですよ、慣れ」
 草間の長髪姿を想像したのか、将紀がぷっと吹き出した。
「そこ、笑うな!」
 将紀の頭に那智草間はきつーい拳骨を食らわすが、腕力があまりないので、殴ったほうが痛がった。
「子供に乱暴はいけませんよ、草間さん」
「やかましい!」
 …結構、賑わっているようである。

 三人が風呂から上がると、テーブルにはシュラインが最も得意とする里芋の煮っ転がしをはじめとする彼女手製の家庭料理が並んでいた。
「見た目がとても綺麗ですね。お母さんの手料理というカンジです」
「おいしそうや〜♪」
「シュラインの料理は美味いぞ。さっそくいただくか」
 零が具が豆腐とワカメの味噌汁の入った鍋を持っきて、鍋敷きにそれを置くと、お椀によそい始めた。
 炊きたてのご飯に湯気が立つ味噌汁、里芋の煮っ転がしを始めとする見栄えの良い料理が揃ったところで夕飯の用意完了。
「さあ、召し上がれ」
「「「いただきます」」」
 草間那智、那智草間、将紀の声がこれまた見事なタイミングで多重音声と化す。
 二人が箸を持ったその時、シュラインは変化に気づいた。
「香月さんは左利きなんですか」
「ええ、そうです。正確には両利きですけど。いつも左手で物を持ったりしましから使い勝手が良くて」
 いつの間にか、二人は入れ替わっていた。香の効果が完全に切れたのだろう。
「いつの間にか元に戻ったようですね。ああ、よかった」
「良かったじゃねぇよ。こっちは偉い目にあったんだから。シュライン、おかわり」
 元に戻れてほっとした草間がご飯茶碗を差し出し、シュラインにおかわりを頼む。
「二人とも、無事元に戻れて良かったな」
 那智の隣に座っていた将紀がにっこり微笑む。

 経緯はどうであれ、元に戻れてめでたしめでたし。
 しかし、那智は性懲りも無くお香の改良を考えている、というのはここだけの話。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
2371 / 門屋・将紀 / 男性 / 8歳 / 小学生

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■         ライター通信          ■
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火村 笙です。
この度は『入れ替わった草間と那智』にご参加くださり、ありがとうございました。
今回の依頼は少しコメディ系となりました。少しでも楽しんでいただけたら光栄です。

>シュライン・エマ様
お久しぶりです。
探偵の仕事には守秘義務があるので、素人の那智には書類整理を手伝っていただきました。
料理に関しては設定を参照させていただきました。
シュライン様お手製の里芋の煮っ転がしを食べてみたいな、と思いました。
それと、あまり香のことを書けなくてすみませんでした。

ご意見、ご感想等がありましたら、ご遠慮なくお申し出下さい。

次回でもお会いできることを楽しみにしつつ、これにて失礼致します。