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<東京怪談・PCゲームノベル>


『少女失踪事件』

 スーパーは夕食の買物に訪れた主婦達で、ごった返していた。
 学生の帰宅時間ということもあり、若い男女の姿も見られる。
 そんな中でも、水菜の姿は目立つはず。
 彼女の金色の髪は、脱色や染めた髪よりも鮮やかで美しい。
 だから、目の端に映りさえすれば、見つけられるはずなのだ……。
 アリス・ルシファールは、最近の少女失踪事件について思い起こしてみる。
 失踪したのは、主に中学生だ。華奢な可愛らしい子ばかりだという。
 少女達が最後に目撃された場所は、大抵このスーパー付近であり、現在も警察が頻繁に見回りを行なっているようだ。
「いませんね……」
「どこに行ったんだろう」
 スーパーの中心、パンコーナー付近で、呉・苑香とアリスは合流する。
 呉家に顔を出そうとしたアリスは、家の前で苑香から事情を聞き、一緒に捜しに出たのだ。
 しかし、手分けして捜しても見つからない。
 どうやらこのスーパーにはいないらしい。
 苑香は携帯電話を取り出し、家と水菜に電話をかけている。
 家にはまだ戻っていないようだ。
 バサバサ……
 突如、アリスの後ろのパンが崩れ落ちた。
 女性客が慌てたように拾い上げている。
 アリスも自然に手伝い、パンを拾い上げて棚に並べた。
「ありがとうございます」
 髪を掬いながら礼を言ったのは、黒髪の綺麗な女性だった。アリスの倍くらいの年齢だろうか。
「あなた、とても綺麗な髪をしているのね」
 女性の手が、アリスの毛先に触れた。
 アリスの髪の色も、水菜と同じ金色だ。 
「手伝ってくれたお礼に、特別料金でカットしてあげるわ。はい、店の一階の受付でこの名刺を出してね。あなただけ特別よ」
 女性はアリスに名刺を手渡した。
 綺麗な微笑みは嫌味がなく、好感がもてた。
 ……しかし、アリスは見た。
 女性が何枚もの名刺を持っていたことを。
 その名刺全て、肩書きが違っていたことを。
 アリスが受け取った名刺では、美容師となっている。
「だめだ、やっぱり水菜出ないよー」
 苑香が折りたたみ式の携帯電話を閉じる。
「……苑香さん、今度は外を捜しましょう。苑香さんは表通りを中心に捜してください。私は姉と一緒ですので、裏道を探してみます」
「わかった」
 既にあの女性の姿はない。
 苑香と別れると、アリスはサーヴァント『アンジェラ』と共に、名刺に描かれた地図の店に向うのであった。

 外はひんやりとしていた。
 太陽の光はもう降りてこない。
 街灯が点滅しながら点灯した。
 アリスは名刺に描かれた店へと急ぐ。
 裏道といっても、寂れてはいない。人通りもそれなりにある。
 名刺の店はすぐに見つかった。
 3階建てのビルだ。1Fは広々としたスペースに、観葉植物や絵画が飾ってあり、清潔感の漂う空間を醸し出している。
 受付には、女性が一人。
 アリスは迷うことなくドアを開け、受付の女性に名刺を見せた。
「格安でカットして下さるってことなので、きちゃいました」
 少し緊張しているかのように、恥ずかしげににっこり笑って見せると、受付の女性は微笑みながら立ち上がり、アリスを二階へと導いた。
 階段は少し薄暗い。アリスは前を歩かされているため、引き返すことはできなかった。もとよりそのつもりはないが。
「そこの部屋よ」
 言われるがまま、ドアを開ける。
 そこは、到底美容室には見えない。小さな会社の事務所のように見える。
「いらっしゃい。早かったわね」
 煙草を吹かしていたのは、あのスーパーで出会った女性だ。美しさは変わらないのだが、目つきが違う。アリスの顔を値踏むように見た後、彼女は妖しく微笑んだ。
「あの……髪を……」
 ここが美容室ではないことは、もう解っていた。だけれど、アリスはあえて無垢な少女のふりを続ける。
「切ってあげるわよ、無料でね」
 女性が近付いてきた。そっと、アリスの髪に触れ……次の瞬間、ぐいっと引っ張った。
「痛っ」
 痛みに気をとられた隙に、アリスの手に手錠が嵌められる。
「な、なんですか!?」
「うふふ、これからあなたは、何でも無料でできるようになるのよ。髪を切るのもタダ、食事の心配も住む場所の心配も、働く場所の心配もいらないの」
 アリスの腕を引き、女性は隣の部屋へと誘う。
 壁が厚い。その部屋は、カラオケボックスのような防音設備が施されているようだった。
 ドアの奥には……柵が張られていた。まるで、檻のような。
 真っ暗な部屋の中に、音楽と小さな泣き声が響いている。
 アリスは、柵の中へと放り込まれる。12畳ほどの部屋に、少女が5人閉じ込められていた。
 その中に、水菜はいない。
「ちょうど金髪の女の子が欲しいって客がいてね。先ほど1体出庫したんだけれど、東京でもう1体手に入るなんてついてるわ〜」
「私達をどうするつもりですか!?」
 アリスは柵にしがみ付く。女性はまるでコレクションでも見るかのように、薄い笑みを浮かべているだけだった。
「誰にも言いませんから、家に帰してください」
 アリスの後ろから、少女が必死に訴えている。
「じきに、家に帰してあげるわよ、新しい家にね」
 人身売買……まさか、こんな身近で行なわれていたとは。
 出庫した1体というのは、水菜のことだろう。
 早く助けに行かないと……!
 アリスは歯噛みした。
「怖がらなくても大丈夫よ、うちのお客様は、皆優しい方ばかりだから。……従順にしていればね」
 女性が部屋を出て行く。
 室内は暗闇に包まれる。
 音楽を流しているのは、助けを呼ぶ声を妨害するためだろう。
 ――しかし、突如音楽が消し飛ぶ!
 耳をつんざく爆音が周囲を襲った。部屋がガタガタとゆれ、少女達は悲鳴を上げて、抱き合った。
 メリメリと、家が裂ける音が響く。
「きゃーっ! 嫌、何っ!!」
 少女達は気が狂ったように柵に飛びつき揺すった。
 バコッ。音をたて、壁の一部が剥がれ落ちる。即座にアリスは剥がれ落ちた壁に寄り、そこに見えるモノに目配せをすると下を確認する。
「隣の非常階段に乗り移れます。皆、早く!」
 まず、隅でガタガタ震えている少女の手をとって、アリスは壁の外へと促す。柵にしがみ付いていた少女達も、一斉に壁へ殺到してきた。
 少女達はまるで転げ落ちるかのように、非常階段を駆け下りる。
 全員少女が道路に下りたのを確認すると、アリスは頭上に向って手を上げた。
 花火が暴発したかのような音が響く。
 叫び声をあげる少女達の体に、粉塵が降り注ぐ。
 ――見上げれば、監禁されていたビルが崩れていた。

「お疲れ様です、アンジェラ」
 自由になった手をさすりながら、アリスは小さく息をつく。
 サイレンが鳴り響く中、アリスはアンジェラと合流を果たした。
 ビルへ入る際、アリスはアンジェラと別行動をとった。アンジェラには高い位置からビルや周辺を探らせており、事態を把握したアリスのエマージェンシーコールで、アンジェラにビルを強襲させたのだ。
 本当はここまでするつもりはなかったのだが、壁に数箇所穴を開けての侵入にビルが耐え切れず倒壊したらしい。
「と、早く水菜さんを捜さないと!」
「はい」
 踵を返したアリスの目の前に、月明かりを弾いた金色の糸が舞った。……返事をしたのは、水菜だった。
「水菜さん、いつからここに!?」
「アンジェラさんを見つけたので、アリスさんに会いにきました」
 水菜は状況の把握が出来ていないらしく、きょろきょろしている。
 詳しく話を聞くと、どうやら水菜は車で連れ去られている最中、家から離れていくことが嫌になり、信号待ちの隙に縛られた紐を引きちぎって車から飛び出し、一人走って戻ってきたらしい。途中、アンジェラに発見され、よくわからないままアリスを捜していたということだ。
「とにかく……よかったです」
「はい、アリスさんに会えて嬉しいです」
 水菜の無邪気な言葉に、思わず苦笑してしまう。自分が誘拐されていたとは、理解していないのだろう。
 ほっと吐息を付きながら、アリスはあの見かけだけ綺麗な女性と、受付の女性が警官に捕まるのを確認した。
「それでは、私達は帰りましょうか」
「はい!」
 元気いっぱい水菜が答えた。
 二人は闇と野次馬に紛れ、足早に呉家へ戻るのであった。

「アリスさん、ホントありがとう。水菜! もうまったく……」
 電話で先に連絡を入れておいたため、苑香は玄関の前で待っていた。
 苑香もなんと注意していいのかわからないらしく、とりあえず夕食を食べながら話を聞かせてと、皆を家に入れた。
 水菜とアリスから掻い摘んだ事情を聞くと、驚きながら苑香はTVをつけた。案の定、ニュースになっている。
「だから、大丈夫だっていったでしょ」
 夕食を食べに、水香が現れる。研究が順調に進み出したらしく、今は機嫌がいいようだ。
「それにしても、派手に壊したわね〜。力はあっても、素手でこういうことはできないはずなんだけど。どうやって壊したの?」
 水香の言葉に水菜はきょとんとしている。
 アリスはくすりと笑いながら、立ち上がる。
「私、夕食の準備手伝いますね!」
 今晩は女の子ばかりの、賑やかな夕食になりそうだ。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【6047/アリス・ルシファール/女性/13歳/時空管理維持局特殊執務官/魔操の奏者】

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、川岸です。いつもありがとうございます。
アリスさんが現場に乗り込んで解決を図ってくださったお陰で、事件解決! 少女達も助かりました。
この後の夕食は、少女達皆でわきあいあい楽しんだのだと思います。
ご参加ありがとうございました!