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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


ちびっここっくりさん

 かたかたと背中でランドセルが心地よいリズムを刻む。
 海原みあおは軽く息を弾ませながら街を走っていた。学校が終わっても、みあおの一日は終わらない。面白いことを探して心当たりを回らなければいけないのだ。
 みあおは、およそこのような少女の来るような場所とは思えないような、無愛想な雑居ビルの階段をリズミカルに駆け上がった。そして、その一室のドアを景気良く押し開ける。
「ぐっどもーにんぐっ!」
 どんなねぼすけでも一瞬で起きるだろうというような元気の良い声を張り上げた。もちろん、時計の針は午後を差しているのだが、そんなことに構うみあおではない。
「たとえ夜でもおはようっ、て草間っ! なんかおもしろそうなことある?」
 たたみかけるように続けてから、みあおは草間興信所の事務所内を見回した。
「ああ、また1人うるさいのが増えた……」
 憮然とした顔で頭をかかえる草間武彦の周りには、小学校高学年くらいの女の子が4人、あれやこれやと口騒がしくしゃべっている。
 どうやら、事務所内がちらかりすぎていると文句を言いつつ、自分たちも片付けているらしい。雰囲気を察するだに、草間は煙草すら吸わせてもらえず、片付けに参加させられているようだった。
「ってお客さん?」
 みあおは軽く首を傾げた。ぱっと頭の中に電球の光が灯る。
「ということは怪奇ネタだね」
「ということとはどういうことだ。うちは興信所だ、こ・う・し・ん・じょ」
 期待に胸をはずませたみあおに、草間は苦りきった顔をした。
「でも草間は怪奇探偵でしょ?」
 何を今更、とみあおが言えば、草間はぎりぎりと歯ぎしりをした。
「その名を言うな! ま、まあ、確かに今回は、怪奇がらみなんだが……」
「今回も、でしょ。みあおも参加させて。ね、何があったの」
 またまたぐっと息をのんだ草間をもはや見向きもせず、みあおは依頼人の少女たちに向き直った。
「えっと……」
 少女たちは困惑したような表情を浮かべた。
「ああ、そいつはこんなだが、こういうことには何度も首をつっこんでるから、その点は安心していいぞ。あと、3人程捕まったが、まだ来るまでに時間はあるだろ、その間に話しておいたらどうだ?」
 助け舟を出したのは草間だった。もっとも、草間としては、事件を任せてしまうのが一番の厄介払いになると考えたのかもしれないが。
 少女たちは互いに顔を見合わせ、頷き合った。
「海原みあおだよ、よろしくね」
 彼女たちの反応を了承ととって、みあおは自分の名を名乗った。
「あたしはマユリ、それからこっちがユイで、アイサ、それからミサキ」
 依頼人の中でリーダー格とおぼしき少女が、簡単に自己紹介をする。
「マユリ、ユイ、アイサ、ミサキだね」
 みあおが頷き返すと、マユリも頷いて、本題を切り出した。
「私たちの友達でミカっていう子がいるんだけど、その子がこっくりさんに取り憑かれちゃったの」
「本当に狐みたいになっちゃって……、ずっと四つん這いで、言葉も話さなくて、『きゅん、きゅん』だけだし……」
「ご飯も食べなくなって、お皿にミルクを入れてあげないと飲まないの」
「うん……、もとはといえば、ダメって言われてたのにこっくりさんやっちゃったのがいけないんだけど」
 マユリに続いて他の子たちも次々に口を開いた。
「こっくりさんかぁ……」
 みあおは小さく呟いた。定番といえば定番だが、実際に取り憑かれたという子はあまり見たことがない。おもしろそうだ、とみあおはさすがにそれは口に出さずに心の中にしまい込んだ。
 ちょうどその時、はかったようなタイミングで、興信所のドアが開いた。
「あ、シュライン!」
 入ってきたのは、興信所事務員のシュライン・エマだった。草間のことだ、彼女に声をかけないはずがない。
「こんにちは!」
「よろしくお願いします」
 少女たちも、彼女が自分たちのために来てくれたとすぐにわかったのだろう、殊勝な挨拶を口にした。
「やっぱりシュラインも来たんだね」
 みあおがにっこりと笑えば、シュラインも微笑み返した。
 と、再び玄関からブザーの音が響く。
「はぁい」
 さすがというべきか、シュラインが実に自然な所作でそれに応対した。
「こんにちは」
「お邪魔しますよ」
 入ってきたのは細身で長身の、一見すれば男に見間違えそうな女性と、青い髪に金色の目が印象的な、端正な顔立ちの男性だった。
「おや、これは可愛らしい依頼人たちで」
 青髪の男は、少女たちを認めて金色の目を優しげに細めた。その珍しい容姿に驚いてか、少女たちはぽかんと口を開けて男を見上げる。
「お、揃ったな。これで全員だ」
 草間の声で、一同は応接室のソファに腰掛けた。
 まずは、とこれまたいつもの流れで自己紹介が始まる。とりあえず一番興信所に馴染みのあるシュラインが口火を切り、みあおが元気よくそれに続いた。さばさばした印象の女性は陸玖翠(りくみどり)と名乗り、青髪の男性は玲焔麒(れいえんき)と名乗った。
「よろしくお願いします。どうかミカを助けて下さい」
 マユリがシュラインたちにも自己紹介をし、深々と頭を下げた。
「こっくりさんみたいに霊を呼ぶことは誰でもある程度はできますがね」
 焔麒がゆっくりと口を開いた。
「望んだ相手がくることは滅多にありませんし、帰すには訓練が必要です。今後二度とこのようなことをしないと約束するのであれば手を貸しましょう」
「はい……。よくわかりました」
 マユリがきゅっと唇を噛んで俯く。
「うん……。やっぱりダメって言われてたもんね」
 他の少女たちも神妙な顔をしてこくこくと頷いた。みあおたちも軽く顔を見合わせて頷き合う。
「それじゃあこっくりさんやった時の状況を教えてくれる? こっくりさんをやった日とミカちゃんが狐になっちゃった日って同じ? こっくりさん途中で止めちゃったからそうなっちゃったとかそういうことはない? あと、こっくりさんがダメって言ってたのはそのミカちゃんかしら? それとも先生とか周りの大人の人?」
 シュラインが立て続けとも思える調子で、質問を始めた。
「こっくりさんは3日前、学校が終わった後で、みんなでミカの家に集まってやりました。ミカのお家は広いし、お母さん、お仕事でいないので……。こっくりさんは学校で禁止されてるんですが、その、しゃべっているうちに男の子の話になって……」
 と、それまではきはきと説明していたマユリが言い淀んだ。その隣でユイの顔が青ざめる。どうやらこっくりさんをやろうと言い出したのは彼女なのだろう。
「その……、好きな男の子の気持ちが知りたいね、こっくりさんに聞いてみようっていう流れになって……。ミカは学校で禁止されてるからやめようって言ってたんですけど、『怖いの?』っていう風になっちゃって」
 今までとはうってかわって、マユリがぼかしたような物言いになる。
「それで結局はミカとユイとでこっくりさんをやることになったんです。10円玉に指を置いてこっくりさんを呼んだ後すぐに、ミカの様子がおかしくなっちゃって……。それからずっと狐みたいになっちゃったんです」
「それは誰の前でもそんな感じかしら?」
「はい」
「そう……。ミカちゃんって元々どんな子? 感受性が強いとか……」
 シュラインのこの問いには、他の少女たちが口々に答えた。
「真面目で勉強も運動もできて……」
「結構気も強いよね」
「うん、負けず嫌い」
「そう、ありがとう」
「ねえ、とりあえずはそのミカに会ってみようよ」
 話が切れたのを見計らって、みあおはそう切り出した。
「そうですね。行ってみれば何かわかるでしょう」
 翠もそれに頷いてくれた。
「ええ……。でもその前にマユリちゃんたちは一度お家に帰った方がいいんじゃないかしら? ランドセル持ってるってことは学校の帰りよね? お家はこの辺りかしら」
 シュラインが言えば、少女たちはそれぞれに頷いた。
「じゃあ一度お家に帰って、またここに来てくれる? それでミカちゃんのお家に案内してくれるかしら?」
 シュラインの言葉に少女たちは再び頷いて、元気よく事務所を飛び出して行った。
「おや、元気なことですね」
 焔麒がその後ろ姿を見送って小さく笑う。
「それにしても、そのミカの様子からすると、狐じゃなくても犬でもいいようなリアクションしてない?」
 少女たちがいなくなったことで気遣いがいらなくなったみあおは、ずっと感じていたことを口に出した。
「狐とは限りませんがなにかしらの動物が憑いてしまったみたいですね」
 翠もそれに頷いた。
「けれど、この手の多感な子どもは暗示にかかりやすく、実際には霊等ついていない場合もありますからね」
 一方で焔麒は慎重なものの見方をしているようだ。
「ええ……。それにもし低級霊がついていても、彼女がもともと激しい悩みやストレスを抱えていて、こっくりさんがきっかけで今回の事態に発展したのだとしたら、霊を祓っても根本的解決にはならないもの」
「なるほど……」
 シュラインの意見に、翠が嘆息しつつ頷いた。シュラインてば、そんなことまで考えていたんだ、とみあおは彼女の顔を改めて見つめ直した。
「まあ、どちらにせよ行ってみないと、ですね。霊が憑いているなら対話する手段はありますし」
 翠が言って、軽くため息をついた。

 数十分後。みあおたちは依頼人の少女たちと共にミカの家にいた。少女たちと共に訪れたみあおたちを、ミカの母親は少々の驚きを見せながらも、快く迎えてくれた。「かっこいい」雰囲気を感じる女性だが、今はさすがに疲れたような顔をしていた。
 母親は、少女たちから話を聞くと、みあおたちに頭を下げて、ミカの部屋の前まで案内してくれた。
「ミカ? 入るわよ」
 母親が優しく呼びかけて、ドアをノックする。
 そっとドアが開くと、ベッドの上で丸まっていた少女がゆっくりと顔を上げた。母親の顔を認めると、ぱっと顔を輝かせ、両手を床について――ちょうど犬や猫がそうするように――ベッドを降り、母親に自分の顔をすり寄せた。
 母親はそんなミカを優しく抱きとめると、そっとその髪をなでてやった。
 ――わあ、可愛い。
 おもわずみあおが心中で呟いたほど――それを口に出さずに済んだのは幸運だったのかもしれないが――、ミカの所作は可愛らしかった。興信所でのマユリたちの話から、凶暴なものが取り憑いていたり、暴走したりしているわけではないと感じていたが、現物を見てみるとそれ以上に「可愛い」というのが一番しっくりくるように思えた。
 心地よさそうに母親にすりよっていたミカは、ふと気づいたように顔をあげた。みあおたちに視線を向けると、きょとんとした顔をする。が、ふいにその顔に怯えのような色が差した。けれど、だからといって、みあおたちを敵視しているような感じではない。純粋に、「自分より力ある者」を畏れているような様子だった。
 ミカはしばらく視線を後ろの焔麒に据えた後で、1つ2つ瞬きをし、そして改まったように座り直した。
「敵意や悪意はないようですね。少し話を聞いてみましょう」
 翠の言葉に、母親は怪訝そうに目を見開いた。
「わあ、翠、この子と話せるんだ」
 みあおは思わず声を上げた。みあおとしては、こっくりさんの文字盤を使って話ができるかもしれないと少しわくわくしていたのだが、直接話ができる人がいるのなら、そちらに譲るのに他意はない。面白そうな試みができなくなってしまうのは、少し残念ではあったけれど。
「私が会話できるわけではないのですが……、話をする手段ならあります」
 翠は軽く苦笑を浮かべた。
「よろしく……、お願いします」
 それがかえって信憑性を感じさせたのか、母親が深々と頭を下げた。
 しばしの間、張りつめた沈黙が部屋の中を支配した。
「狐の……、子どもの霊のようですね。呼ばれて……、ってこっくりさんのことでしょうが……、来てみたら、このミカ殿に吸い寄せられるように同調してしまったのだそうです」
 翠の報告に、母親が息を呑む。
「どうやったら、ミカは……」
「離れてくれるように頼んでいるのですが……」
 翠は言葉を濁した。
「どうも『向こう』でも人間の呼びかけに応えるのは禁止されているそうで、戻ったら叱られると……」
「やれやれ、ですね」
 焔麒が溜息をついた。
「それに……、どうやら、周りの人が優しくしてくれるし、何と申しましょうか……、相性が良いのか居心地が良いようで……」
 翠も困ったように息をついた。
「そんな……」
 母親が口元を歪め、顔を覆った。
「でもさ、それならやっぱり離れた方がいいよ」
 みあおは軽く目を瞬きながら口を開いた。
「だってさ、お母さんもお友達も、ミカに優しいんだよ? 狐さんに優しいんじゃないんだよ?」
 このままここにいれば、優しいどころか憎まれることにしかならないのに。それに、今ここには、いくら「本人」が抵抗しても、問答無用で除霊できる人だっている。わがままを言うよりも、自分から出て行った方がよっぽど得だ。
「一緒にいたいならお人形とかでもいいじゃない」 
 みあおの言葉に、ミカの中の子ぎつねは黙り込んだ。
「ええ、きっと人形の中でも皆さん、親切にしてくれますよ」
 焔麒が穏やかな口調で後を押す。
 どうやら、子ぎつねもそれで了解したらしい。
「けれど、どうやって出たら良いかわからないそうです」
「では、香を調合しましょう。香りで誘導します」
 焔麒は穏やかに言って、どこからともなく道具を取り出した。
「んじゃ、狐さん入れるお人形は……」
「ミカ殿のお気に入りのがあればそれが良いですね」
 翠の言葉に母親は頷いて、戸棚の中から大きめの女の子の人形を取り出した。ミカが小さい頃から遊んでいたのだろう、柔らかな布でできたそれは、少し古ぼけているが、その分、暖かみを感じさせた。
「さて、香の準備ができました。それでは誘導しますかね」
 焔麒が静かに言って香を焚く。何とも言えない、心が安らぐような香りが部屋に満ちていく。すっと立ち上った香りが一筋の道となって、ミカと人形の間に架け橋を作っていくのが見えるような気がした。
やがて、ミカがぐったりとその身を床に沈めた。そして、今度はゆっくりと身体を起こす。片手を額に当て、上体を起こすその所作は、まぎれもなく人のものだった。
「……お母さん」
 ミカはまだぼうっとした様子ながら、母親の顔を認めて小さい声で呼んだ。
「ミカっ」
 母親はひしと娘を抱きしめた。
「ミカ!?」
 ドアの前で聞き耳を立てていたのだろう、依頼人の少女たちがどやどやと中に入り込んでくる。
「ミカ、よかった……」
「ごめんね、ごめんね、ミカ」
 一気になだれ込んできた彼女たちは押しつぶさんばかりの勢いでミカを取り囲んだ。
「この子も忘れないで下さいね」
 そんな彼女たちに、翠が子ぎつねの入った人形を差し出した。
「ええ、皆さんでたくさんかわいがってやって下さい。そうすればもう悪さはしないでしょうから」
「は、はい……」
 ミカは神妙な顔をしてそれを受け取った。
「あと、ミカちゃんも、あまり我慢しすぎちゃダメよ」
 シュラインがそっと頭をなでると、ミカは照れくさそうな顔をして頷く。
「はい、じゃあ記念写真撮ろう! 狐さんも入れてね」
 みあおはいつものように、荷物の中からそそくさとデジカメを取り出した。霊羽付与済みで、幽霊も撮れるという優れものだ。これなら、人形に入った狐も撮れるはずだ。
「ああ、翠もうちょっと右に酔って、焔麒はもうちょっとかがんで……、はい、ミサキはこっち向いて……、じゃ、タイマーセットしたから動かないでね!」
 しっかりと全員が入ることを確認し、みあおも列に加わった。
 数秒後、電子的なシャッター音が響いて、またみあおのコレクションに1枚の写真が加わった。

<了>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1415/海原・みあお/女性/13歳/小学生】
【6118/陸玖・翠/女性/23歳/(表)ゲームセンター店員(裏)陰陽師】
【6169/玲・焔麒/男性/999歳/薬剤師】

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■         ライター通信          ■
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こんにちは。ライターの沙月亜衣と申します。
この度は、『ちびっここっくりさん』へのご参加、まことにありがとうございました。納品がぎりぎりになってしまい、誠に申し訳ございません。
今回は人間の子どもと狐の子ども(の霊)の引き起こしたお騒がせ事件でしたが、皆様のおかげで無事解決に至りました。本当にありがとうございます。
なお、例によって(?)おまけ程度ですが、皆様にほんの少し違うものをお届けしています。お暇でお暇で仕方ないときにでも、間違い探し気分で読み比べていただければ幸いです。

海原みあおさま

またお会いできて非常に嬉しいです。
文字盤を使って会話、という部分は反映できなかったのですが、みあおさんの良い意味での遠慮のなさ、はきはきとした性格が、ここぞというところで大きな力となりました。今回は事件を起こしたのが、どちらも「子ども」だったため、特にみあおさんの言葉が響いたようです。
いつものデジカメ、レベルアップしていたのには思わず唸らされました。良い写真が撮れていると良いですね。

ご意見等ありましたら、遠慮なくお申し付け下さい。できるだけ真摯に受け止め、次回からの参考にさせて頂きたいと思います。

それでは、またどこかでお会いできることを祈りつつ、失礼致します。本当にありがとうございました。