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<東京怪談・PCゲームノベル>


Crossing ―カラスに嫁入り!?―



 花壇に少し水をやっていた神崎美桜は穏やかな空を見上げて微笑む。
 夕暮れのこの独特の空気がなんとも心地良い。
(気持ちいいです……)
 上機嫌の美桜は再び花たちに視線を戻した。
 ぴく、とその手を止める。
「……?」
 何か聞こえたような……。
 温室の外にカラスが居るのが見える。ケガをしているようだ。
 ぐったりと倒れているカラスに美桜は慌てて温室の外に出た。
「だ、大丈夫ですか?」
 カラスに駆け寄って、ケガの具合を確かめる。かなり酷い状態だ。
 美桜は手をかざしてカラスのケガを治癒していった。傷ついた翼が治り、美桜はほっと安堵する。
「良かった……。これでもう大丈夫ですよ」
 にっこり微笑むと、カラスがこちらをじっと見上げてくる。
 あまりじっと見られて美桜は怪訝そうにした。
「あ、あの……?」
 カラスは美桜の手から離れると、すぐさま地面に降り立つ。風がごうっ、と吹いて美桜は瞼を閉じた。
 風がやんで瞼を開けると、目の前に見知らぬ男がいる。着物姿で、背中に羽があった。しかも高下駄。
(え……? 誰ですか、この人……)
 疑問符を幾つも頭の上に浮かべていた美桜に彼は近づく。すらっとした若者だが、見覚えはない。
「なんと優しい娘さんだぁ」
 なまった喋りでにっこり笑った男に、美桜は「はぁ」と曖昧に返事をする。
「不吉と言われるカラスにまで優しくできるなんて、さすがだ!」
「……い、いえ……ケガをしていたら普通は助けますけど……」
「んだ! だども、その当たり前ができるもんは最近おらん!」
「……はぁ」
 彼は美桜に近づいてくる。美桜は屈んでいた姿勢のままではまずいと立ち上がった。
「さっきのカラスはオラだ」
「あっ、そうなんですか」
「オラ、カラス天狗なんだが、ちぃっと用事でカラスの姿になっとったんだ」
「あの、おケガは大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。おめぇさんのおかげだべ」
「いえ、そんなこと」
 微笑む美桜を彼はじっと見ている。なんでそんなにじっと見るのか、美桜は引きつった笑みを浮かべた。
「あ、あの……どうしてそんなにじろじろ私を見られるんですか……?」
「! すまねぇ……嫌だったべか」
「え……あ、いえ……」
「おめぇさんみたいな綺麗で優しい娘をオラは探しとった! オラの嫁になって、オラの子供さ産んでけれ!」
「はあっ!?」
 仰天する美桜の両手首を掴み、そのまま押し倒す。
 あまりのことに美桜は反応できなかった。
(え? なに? 何が起こってるの?)
 ぱちぱちと瞬きしていると、彼は美桜の衣服を脱がそうとしていた。ボタンが外されていくのを見てさすがに美桜が事態を理解する。
「う……」



 屋敷を囲む塀の内回りを赤いラインの入った黒いジャージ姿でジョギングしているのは和彦だ。
「はっ、はっ」
 軽く息を吐き出して走る和彦は先ほどの気配を少し気にしていた。
(変な気配がしていたが……まぁ、悪い気配ではないから放っておいても害はないだろう)
 なにより美桜の義理の兄の張った結界があるので、人外のものは美桜の居る温室には入れない。
 その時だ。
<い、いやああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!>
 美桜の絶叫がテレパスによって響いた。衝撃の強さに和彦が「うわっ」と声をあげて倒れる。
 ぶつけた頭を押さえて起き上がり、彼は不審そうにしたがすぐに血相を変えて走り出す。
 その速度は、まさに目で追えるものではなかった。



「や、やめて……! やめてくださいぃ……っ!」
 キスをしてこようとする顔を必死に押し退ける美桜。
 衣服を脱がせまいと抵抗もしていたが、そもそも美桜は腕力や体力がまったくない。力で敵うわけがないのだ。
「嫌よ嫌よも好きのうち……! めんこい娘だのぅ」
「ちっ、違います……! 本気で嫌がって……!」
 どかっ、と男が蹴飛ばされる。駆けつけてくれた牧場の馬の仕業だった。
 荒い息を吐く美桜は馬に礼を言う。
「あ、ありがとうっ」
 乱れた衣服のままで慌てて和彦の元に逃げようとするが、彼がどこに居るのかわからない。美桜はとりあえず温室に逃げ込んだ。
 温室には兄の結界があるため、あの男は入ってこれないだろう。
 座り込んだ美桜は息を吐き出すと涙を浮かべた。
(どうしよう……連れて行かれたら……)
 鳥肌が立った。
「おおーい! 娘っコ、出てくるだよ。ぼこぼこ子供作るべー!」
 明るい声が響く。美桜は「ひっ」と青ざめた。
(う、う……か、和彦さん……)
 温室の外で騒ぐカラス天狗の頭を、どこ、と黒い棍が叩いた。しかも容赦なく。
 痛みに頭を押さえるカラス天狗が振り向く。
「なにすっだ!
 って、誰だべ、おめぇ」
「おまえこそ誰だ」
 棍から手を放した和彦。
 和彦が温室のすぐ外に現れたのを見て美桜は顔を輝かせる。
「和彦さん!」
 温室の中の美桜のほうに彼は視線を向けた。美桜の姿に彼は目を丸くする。
 視線に気づいて美桜は慌てて衣服を直した。
「………………」
 和彦が目を細めた。ぞっ、とするほど冷たい眼差しである。
 しかしそのことに気づかないカラス天狗は自分を親指で示す。
「オラぁ、カラス天狗だべ」
「そんなの知ってる。なんの用だ。美桜に何をした?」
 彼は微笑むが目が笑っていない。
 カラス天狗は胸を張る。
「あのめんこい娘はオラの嫁だべ」
「………………嫁?」
 だれの?
 ふふふと笑う和彦の様子に、あわわと美桜が青ざめた。あんな和彦を見るのは初めてだ。
「そーだ! オラの嫁になって、子供をぼこぼこ産んでもらうだよ!」
「…………子供? ぼこぼこ?」
 和彦の周囲の温度がぐっと下がった気がする。
 危険度を知らせるアラームでもあれば、きっと今頃木っ端微塵に破壊されているだろう。もう危険は最高度を超えているに違いない。
 和彦は掌を天狗に向けた。
「ちょっと待て」
「?」
 天狗の横を通り抜け、温室に和彦は入る。ジャージの上着を脱いで美桜に着せた。
「か、和彦さん……?」
「大丈夫だ」
 にっこり笑う彼だったが、なんだかぞくっ、としてしまった。
 温室を出て行った和彦が結界に向けて剣指を向ける。すると外部の音が全く温室内に聞こえなくなった。
 きょとんとする美桜だったが、外に出ようとは思わないので動けないでいる。
 温室の外では和彦が腰に両手を当て、天狗に向けて何か言っていた。
 和彦の言葉に天狗がガーンとショックを受けている。さらに何か言われるたびに衝撃を受けてのけぞっていた。
 天狗は負けじと言い返していたが、なんだか涙目になっている。人差し指を和彦に向けて喚いていたが、和彦は平然とした顔のままで腕組みしていた。
(せ、説得……しているのでしょうか?)
 とてもそうは見えない。
 不思議そうにする美桜はどうも気になってしまう。



「お、おめ……っ、綺麗な顔してえげつねぇこと言う男だべな……」
 衝撃を受けている天狗を前に、和彦は平然としたままだ。
「さっさと帰れ。強姦魔」
「なっ……なんてこと言うだよ!」
「痴漢とでも言うべきか? それとも変態? いや、犯罪者だな」
「失礼な人間だべ!」
「失礼なのはおまえだ。二度と子供を産ませようなどと考えること自体、できなくさせてやろうか?」
 薄く笑う和彦の、先ほどのえげつない発言を聞いているだけに……カラス天狗はぐっ、と言葉に詰まる。
「べつに娘っコの一人や二人、いいでねぇか! 昔は供物としてよく……」
「他の女なら構わないが…………俺の女に手を出したんだ。加減はできない」
 素早く印を組み上げる和彦。カラス天狗はぎくっとして身を引いた。
「お、おめ……退魔士!?」
 早口に何か唱えていた和彦は詠唱を終えてから指先を天狗に向けた。
「正解。まぁ……相手が悪かったと思うんだな」
 にこ、と彼は微笑む。
 天狗は青ざめて「ひぃ」と悲鳴をあげた。



 結界の外が全く見えなくなってしまった。どうやら和彦がさらに何かしたらしい。
 温室の中でそわそわする美桜。
 しばらくしてから結界が元の透明に戻った。
 和彦が温室に入ってくる。
「あ、和彦さん……だ、大丈夫でしたか?」
「…………」
 無言でにっこり微笑む和彦。
 彼は美桜の手を掴んで立たせた。
「美桜こそ、大丈夫か?」
「え……、あ、はい」
 なんだか夢に見そうだ。男の人に襲われることが、あれほど怖いとは。
(だってあれは……和彦さんじゃないですもん)
 彼以外の手に触れられるのがあれほど恐ろしいこととは思わなかった。
 ふと気づくと和彦がじっと見つめていた。
「? ……あ、あの……?」
「…………美桜」
「はい?」
「風呂に入らないか?」
「は?」
 唐突の彼の言葉に美桜は目を点にする。
 なぜに風呂?
「さっきのクソ野郎に触られたところを洗ったほうがいいと思うんだが」
「…………和彦さん、く、口調が変わってます……けど……」
 青ざめる美桜を彼はぐいぐいと引っ張って家のほうへ導く。
 彼に引っ張られてよたよた歩きながら、握られている手を見下ろしてちょっと嬉しそうにした。
 美桜の家のほうへ来ると、和彦はそのままあがって風呂場まで一直線に歩く。
(え、ええっと……もしかして脱衣所まで来る気でしょうか……)
 がらっと脱衣所のドアを開けて彼は美桜を引っ張り込んだ。
 そのままぴしゃんとドアが音をたてて――――閉まる。



 ウゴカナイ。
 体が。
(あ、あれ……?)
 ふらふらと歩く美桜は、温室の外に出た。
 そこには、手を広げて待つカラス天狗の青年。
(え? 何してるの私……)
 そのまま美桜は青年の腕の中に抱きとめられた。
 イヤ。
(違う……貴方じゃない……)

 ハッとして瞼を開けた美桜は恐怖に汗を流した。
 周囲を見回すとそこは自分の寝室だった。薄暗い部屋の中で美桜はほっと息を吐き出す。夢だったようだ。
 そして目の前の和彦の顔にきょとんとした。
「………………」
 しばし瞬きをして呆然としていたが、握られた自分の手に気づいて頬を赤らめる。
 ずっと握っていてくれたのだ……彼は。
(和彦さんの寝顔って……可愛いですよね)
 しみじみそう思った。
 無防備というか。
(うーん……でも、もしかして、嫉妬してくれたのでしょうか?)
 美桜は彼に擦り寄る。
 これならきっと、悪夢はみないだろう。彼が傍に居てくれるのだから――。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【0413/神崎・美桜(かんざき・みお)/女/17/高校生】

NPC
【遠逆・和彦(とおさか・かずひこ)/男/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、神崎様。ライターのともやいずみです。
 和彦の暗黒面がちらり、な感じでしたが、いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!