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<東京怪談・PCゲームノベル>


みどりの黒髪



***

「初めまして、聡呼様。お手伝いに来ました、天薙・撫子と申します」

眼鏡の微笑は大和撫子そのものだった。


…聡呼は聞いていなかったらしい、まるで鳩が豆鉄砲でも食らったように、切れ長の目を真ん丸く見開いている。
目の前にいる己と同じ艶やかな黒髪を持つ美少女、撫子を食い入るように見つめ、暫くの内は放心状態にあった…が、すぐに退魔時の威勢は、何とかして取り戻される。

「…はあ?!いや、うちは聞いとらんのじゃけど!」

独特の訛りが混じった喋り方、祖父の所へ出かけた時、撫子には聞き覚えがあった。その訛りを操っていたのは男性だったのだが。

「…私の祖父が、聡呼様のお父様に頼まれまして…。こうしてお手伝いに」

にこり、再度微笑を浮かべる撫子の表情は、思い切り退魔モードに移っていた聡呼を黙らせる効果があった。
…まさか、父親は何も言っていなかった筈…。まだまだ己は未熟者だと、内心叱咤しながらも、ぐっと撫子を見つめる目は強気なもの。深紅眩しい巫女装束に襷がけをした少女、雰囲気には凛としたものが漂い、…只者ではないのだろう事は良くわかった。
聡呼のきつい目線にも怯んだ風はない撫子は、何だか聡呼よりも若いというのに強い風格を見せた。そうしてまたにこりと笑う。宵の闇にも紛れる事の無い笑顔に、聡呼は何だか萎縮してしまいそうにもなるが…。

「さ、お仕事しませんか?聡呼様」

促すようにか細い腕を振って、指差すは強大な影。…そう、今宵の敵は、どうにも聡呼一人では、手に負えるか否か…。父親が不安になるのも判る筈、結構な大物相手の仕事。
聡呼も内心、どう戦おうかと苦悩している最中に現われたる撫子は、救いの一手だったろう。…天薙、其の名は聞いた事があった。退魔の名門だろう、この仕事を副業とはいえ…こなしている身、聡呼としても、一度は聞いた事がある名前だった。

「父さん…そんな凄い人と知り合いなら、早う教えてくれ…」

すれば、今の自分はもう少し力がついていたのではなかろうか…と、打ちひしがれてしまっている聡子の背中をぽんと叩く白い手。撫子の目線は魔へと一直線に向いている。襷が軽く風に揺れた、月光が巫女装束の白を更に浮き立たせている。
一応は、人型をしている妖魔…足音はしない、まるで地を滑るかのようにスーッと移動をしている。…危ない、もうすぐ傍には町がある、このまま行けば、すぐに大通りへと妖魔は出てしまうだろう。退魔の所業は人知れず行うもの、人目に付く前に、何とかせねば…。

「聡呼様は弓をお使いになるのですよね、わたくしは援護を行います。さあ、早くしなければ、妖魔が町に出てしまいます」

「あ、ああ、そうだな…」

とにかくは、そう、撫子の言うとおり目の前の敵を倒す…。何とか姿勢をぐっと引き伸ばし、足を大きく広げ妖魔へと走り出した、其の後に撫子も続く。…まずは、妖魔の軌道を修正しなければいけないだろう。聡呼は万年筆の蓋を口で開け、出てくるは青白い光を放つ管狐。
聡呼はぐっと弓の弦を引く……ヒュン!風を裂いて光の矢が飛んでいく、それは妖魔には当たる事は無く、弧を描いて妖魔の足元近くへと突き刺さった。

「お上手、流石ですね!」

そう言いながらも、撫子も其れに参加する。霊符を投じ、妖魔の足元を揺るがした。…足元、進む方向に攻撃を受ければ、妖魔も自然と後ろへと戻る他は無い。妖魔が振り返り、段々と撫子と聡呼の方へ移動してくれば、そのまま追い込むべく聡呼は素早い動作で妖魔の背後へと回る。
撫子は妖魔の道筋を操るべく、妖斬鋼糸を張り巡らせた。結界のお陰で、妖魔の歩く前にはレールが出来る、それを妖魔はいとも簡単に…まるで引っかかったかのように、其れに沿って歩みを進めて行く。

「…聡呼様、少し、厄介かもしれません」

「……何がじゃ、上手くいっとるのぅ!このまま行けば早くに終わる!」

聡呼は順調にことが運ぶのが嬉しいらしい、そのまま妖魔の背後、当たるか当たらないか、寸での所に矢を飛ばし追い詰めて行く。…さあ、この行動は、吉と出るか、凶と出るか。

「聡呼様ったら…、危なっかしい…」

嬉々として妖魔の背を追いかける聡呼の姿、一つ息を吐けば、聡呼の父が援護を頼むわけに気付いたような気がする…。撫子は困ったような笑みを作って、聡呼の後姿を追いかけた。


…所変わって、追い詰めて行く聡呼は事が順調に運び行くのに機嫌を良くしていた。ひゅんひゅんと当たるか、当たらないか、寸での所へと矢を飛ばす。…そうしていれば、追い込めよう聖域である神社へ、思いの他容易に妖魔は追い詰められた。
ただ、あまり妖魔としても追い詰められたような感覚などは感じられない。聡呼は意気揚々と弓の弦を引く、…今度は、当てに行く積もりらしい、ひゅん!と弧を描いた矢は妖魔の首、喉元へと一直線に―――……

「っな!」

『…コレシキ掴メヌト、思ッテカ』

確り、妖魔の手には光る矢が…今となっては、それは鋭利さの全くない管狐に成っている。聡呼は思わず怯んでしまう、なぜなら、妖魔との間合いは近い、相手の腕ならば簡単に聡呼を管狐のように掴めてしまう。
背には逃げ道はあるものの、少しばかり出口までは遠い…聡呼の頬に一筋、冷たいものが流れ落ち、己の浅はかさを呪った時。伸ばされる妖魔の腕、我に返ったときは聡呼の胴をわしづかみに線と大きく広げられていた。
…管狐は戻っては来れない、浮遊霊を捕まえようにもすぐに屈服できるわけもない……これまでか。

「…ですから、厄介と申し上げましたでしょう?」

もう、命はなかろう、ぐっと瞳を瞑った聡呼に聞こえてきたのは、己の断末魔ではない。花の花弁のようにやんわりとした少女の声だ。目を見開き、ぱちぱちと数度瞬きを繰り返した、目の前には巫女姿の撫子が。
勇壮にも御神刀『神斬』を盾に聡呼を守る姿だ。聡呼は慌てて体勢を持ち直す、撫子はか細い腕を振るい妖魔の腕を振り落とした。妖魔は助っ人が現れたのを見て一歩引く、警戒してか此方をぐっと見据える瞳は月の様に白い。
振り払われた手を気にしてか、掴まれていた管狐は何時の間にやら抜け出し、聡呼の傍に浮遊している。しかし、聡呼の表情は浮かばないもので、俯き加減の顔は悔しそうにも取れた。

「…すまん」

己の不甲斐なさも、年下である撫子に助けられたのも、気難しい性分をしているのか、許せないらしい。聡呼はぐっと唇を噛み締め、頭を下げる。

「いいえ、お手伝いですもの。これしきは当然です…さぁ、聡呼様。お手並み、拝見させてはくれませんか?」

「…天薙さん…、この借りは、必ず」

撫子の言葉は優しく、また賢かった。聡呼の気は、確実に申し訳なさから退魔の仕事へと向かいだす。ぐっと少しばかり釣り目の目に光が強く瞬いた。
撫子は少し微笑み、今度は妖魔へと目を向ける。さて、彼はどうやら思ったよりも賢いらしい…どう対処すべきか?撫子は眼鏡の奥で、眸を軽く伏せて考えた。聡呼の武器は弓、後方よりの攻撃の方が適い易いだろう。

「聡呼様!少し離れましょう、聡呼様は間合いを空けて!矢が十分な威力を発揮できる程度までお下がりに!」

「判った!」

聡呼よりははるかに実戦経験も多いだろう撫子の言葉、それは聡呼には十分に信用できる。撫子のいうとおりに少しほど離れた場所へと…妖魔の右斜向かいへと駆けた。
撫子は妖魔と退治する形となっている、白い袖が揺れたのは風の悪戯か。『神斬』の白刃が月光に煌いた、妖魔は斬られると感じ取ってかぐんと跳躍し身を翻らせた…が、月光に光る幾本もの筋。それは妖魔の身体にも見受けられ、その筋は肉へとめり込んでいる。

『ッグゥ?!』

「聡呼様!さ、お早く!」

撫子がぐんと腕を引っ張れば、妖魔の巨大な図体は地へと真っ逆さまに。どうやら、とどめは聡呼の腕に任せられたらしい、聡呼は少し笑みを浮かべるもすぐにきっと強気な目線を妖魔へ向ける。撫子と聡呼の黒髪がふわりと揺れた。
弦が引かれ、弓はしなり、光る矢を載せた弓は妖魔の落ちる場所を的確に予言し、向けられている…弦を引く手が放たれた、撫子も十分に警戒してか妖斬鋼糸を引く手を強くした。妖魔は着地点を変えようとも、肉団子のように丸められては上手いようには体が動かない。目の端には、迫り来る矢。
光の軌跡が描かれた、それは妖魔の首元へと。一撃で終わらせるためには其処しかないだろう、弦を引く手が放たれた一瞬の後の事だ、光がぶつかり、妖魔は首元から砕け散る。その際の断末魔は叫ぶ暇もなかったのだろうか、短いものだった。


「…ふう、お疲れ様でした」

撫子がやんわりと笑う、其の笑顔に聡呼の肩の力も抜けるのは簡単だ。聡呼は釣り目を軽く伏せ、撫子へと会釈をして後、分厚い眼鏡を装着する。

「お、おお、お疲れ様でした…」

「お手伝いが必要でしたらいつでも、お声をおかけくださいね。ああ、それに、宜しければ神社にもお越しください」

聡呼の先ほどまでとは打って変わった様な弱気な態度に、撫子は軽く笑いながら礼をする。微笑は変わらず優しいもので。

「いつでも、お持て成しをさせて頂きます」

「あ、有難う御座います…本当に、助かりました…」

そうして、聡呼はもう一度深く礼をする。撫子は其れを制するように聡呼の肩へと、優しく手を添えた。相してもう一度微笑する。

「いいえ、格好宜しかったですよ、聡呼様。では、そろそろ行きましょう、夜明けも近いですもの…」



天を仰いだ撫子の黒眸に、映るは白みかけた空。何とも言いがたい色合いは美しく、朱に路面を照らし行く朝日は、眩しかった。
白い月が浮かぶ…今日は、気持ちよく晴れそうだ。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 0328 / PC名 天薙・撫子 / 性別 女性 / 年齢 18歳 / 職業 大学生(巫女):天位覚醒者】

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■         ライター通信          ■
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■天薙・撫子 様

初めまして、発注有難う御座います!ライターのひだりのです。
撫子さんの確り者な雰囲気を出そうと頑張ってみましたが如何でしょうか?出せていると嬉しいです。
こう、気分を乗せるのも上手と言う感じにして見ました。凄く、聡呼が単純に見えますが(笑)
援護の面が強く出てしまいましたが、多種多様な武器に描写がとても楽しかったです!

では、此れからも精進しますので、機会がありましたら是非、宜しくお願いいたします!

ひだりの