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草間即席無料相談会
「俺は久し振りに暇だ。よって、何でも相談を聞いてやろうと思う」
久しく訪れた平穏な日、或いは仕事がなく手持ち無沙汰な日、或いは気紛れ。そう遜色しても全く違わない日。草間武彦の言葉に零は手にしていた年代物のルービックキューブを弄るのを止め、
「特に相談したいこともないです」
再び手元の遊戯に夢中になる。
これも一種の暇潰しなんだろうな、と思ってはいるものの、武彦の気紛れによって腹の内を曝すのも笑顔一つの拒否で済むなら安いものだ。悩みはある。だからと言って、暇潰しの材料にされるのも困り者だ。
最近の不可解且つ厄介な依頼と事件に比べれば、それは大したことでもないのは事実。でも暇過ぎる、というのも問題だ。
「なら折角ですし、今日は無料相談会にしたらどうです? そうすれば、少しは人も来ますし、暇も潰せると思いますし」
「名案だ。よし、零。宣伝してこい」
……前言撤回。暇に越したことはない。
零は渋々と初期状態になりかけの遊具をソファの端に置き、近くにあったチラシの裏にマジックで<本日無料相談会〜お気軽にどうぞ〜>と書く。興信所の入り口にテープで貼り、良しと小さく頷く。
この程度なら暇さ加減が変わることも然してないだろう。
知り合いでも構わないが、このノリに付き合ってくれるオトナが来ればいいな、と。零は自分のお人好しさを少しだけ呪って、部屋の中に戻っていった。
梅雨入りしたのか疑わしい空と、そこから生じた湿度を多分に含んだ気候に辟易しながら、零は冷蔵庫の中から出した麦茶に氷を落とした。飛び散る水滴に淡い気持ち良さを感じるも、ずっとこうやって遊んでいる訳にもいかない。融けきった氷ではお茶も薄くなって美味しくなくなるんだからと自分を納得させ、数分前に訪れた相手へと差し出した。反応の薄い顔に何となく手応えを感じつつ、零は武彦の邪魔にならないような位置へと退避した。
相談内容は既に話したのだろうか。疑問に思いつつも耳を傾けていると、大体の内容は推測が可能でありそうである。
「……お前、本当に『桜井瀬戸』か」
武彦のその言葉は、決して間違いではなかったようにも思える。どんな形容詞を羅列しても構わないが、この場では『桜井瀬戸』らしからぬ、というものが一番適している。
相談内容は現在使役している鬼神とは逆の性質――早い話が女の子の霊か妖怪を傍に置きたいというものだった。
瀬戸は武彦の言葉に思わず素っ頓狂な声を返すも、それはあまりにも言語としては成り立ってない。取り繕うかのように出した声は、「何が悪いんですか」と不満のこもった口調になってしまう。
「いや、さ。らしくないというか、何かに実は憑かれていたと言われても全くもって不可思議奇異でも何でもないことだし、何の心境の変化かなって思って」
「これでも俺も一成人……はしてませんけど、一健康的な男子です。多少なりとも、女の子には興味を持ちます」
「女の子っつっても、生きてるフツーの女の子じゃないって辺りが、らしいっちゃらしいけどな」
この手の話は零に指南を仰ぐべきかとちらりと見やるも、完璧にノリノリな様子が躊躇わせる。女の子らしい一面もあったのだな、としみじみと思い始めるも、今回とは関係ない思考なので一時保存。
「フツーのナンパ指南だったらその容姿も相成ってある程度は簡単だとは思うんだが、幽霊や妖怪ってなると話は別だな。それも単なる女の子ってだけなのも、満足いかないだろ?」
「ええまあ」
「それなりに戦力として使える――言い方悪くて悪いな、強い霊、或いは妖怪がお望み、と。だがあまりにも能力が高いと使役する方とて負荷は甚大とも言える。契約だとそれなりの代償を払うが故に、対等な関係は望めないのが普通だ。それは嫌、だよな……男として」
別に恋人云々の話じゃないと口を出そうとしたが、主従関係等変な話にもつれ込みそうなので、瀬戸は返答を首肯で返すことを選択。
「なら、繋がりは契約でなく信頼。俺は運命は使役出来ないし、それだと手伝いは出来そうもないな。あるとすれば、その手の腐れ縁の伝を頼ってタッグを組ませてもらう、とか。仕事を与えるのに種族は問わないって情報屋なんて腐る程いるから、そっちの縁から求める流れを掴む、と」
言葉にして思考をまとめている武彦には、外部の言葉は頭には入らない。黙って仮定と結論を待つのが常だった。
「そっからは、本人次第だ。俺の知り得る限りの話だが、契約にしろ何にせよ、信頼を勝ち得るのは難儀で、裏切るのは容易だ。それを越えれば、種族も何も関係ないものになる」
そこまで自分自身の考えをまとめるように言っていた武彦は、ふいに一つの結論に至る。言うのも憚れたので脳内でまとめようとするも上手く行かず、仕方なしに口に出すことにした。
「……種族は問題ではない。即ち、生まれ、或いは歴史は問題ではない。つーことはさ……性別も関係ないんじゃないか」
その結論に瀬戸は軽く頬を引きつらせたが、悪態一つつくことなく無言で立ち上がった。
「そろそろ帰ります。これから少し、人と会う用事があるし」
そう言えば、興信所に来た早々に時間制限があるとのことを口走っていたが、すっかりと失念していた。土産とばかりに温い缶ジュースを瀬戸へと手渡す。
「で、俺のアドバイスは役に立ちそうか?」
「そこそこに。縁が全てってことで」
「ナンパしてその相手が妖怪だったって嘘くさい話も実際にはあるから、最悪はこれで」
それもそれで嫌だなと思いながら、瀬戸は一つだけと質問を武彦に向けた。
「気になったんですけど、妖怪に性別ってあります?」
「そりゃまあ、一応は。でも人間の形態をしている妖怪はまだしも、人間に化ける種類の妖怪も含めるとそれも曖昧だな。容姿もあちらさんの完璧な趣味によるし、それよりも両性を保有する妖怪もいる場合もあるから、一概に外見と本質が同一である場合は少ない。同様に、年齢も見た目通りにはいかないな」
「それなら、人型の妖怪とそうでない妖怪の違いって何です?」
「うーん、基本的に妖怪には原型があるからな。それが人間に近いか遠いかどうかって差だろうな、きっと」
それが何か、と首を捻る武彦に、瀬戸は別に何もと首を横に振った。
少しだけ失望したような感も否めないまま、瀬戸の背を見送る。
「分かりにくいけど、結構感情が顕著に表れる奴だな、アイツ」
「……そんなにはっきりとしてました?」
「そりゃもうばっちり。付き合い長いからな、俺ら」
結局は相性の問題だと締める武彦に、
「相性が良い男性の依頼人と、相性の悪い女性の依頼人。依頼人にするならどっち」
という問いを零はするも後者を即答で選択され、何とも言えずに苦笑を返すことになってしまった。
【END】
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【6531/桜井瀬戸/男性/18歳/学生】
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■ ライター通信 ■
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初めまして、千秋志庵と申します。
依頼、有難うございます。
学生らしいのか、らしからぬのか。
外見とのギャップに愉しみながら書かせていただきました。
妖怪の性別や年齢を外見でどう判断するのか、その点も非常に気になる点ではありますが。
兎にも角にも、少しでも愉しんでいただけたら幸いです。
それでは、またどこかで会えることを祈りつつ。
千秋志庵 拝
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