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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


学園七不思議―01もういいかい?もういいよ。

 もういいよー。
 もういいよー。

 どこからともなく声がする。
 どこからともなく聞えてくる。
 風に乗って、声はしっかり耳に届く。
 その声を聞いて辿っていった先にはなにがある。

 大きな鍵がかかった扉がひとつ。

 もういいよー。

 声はまだ扉の向こう側から聞えてくる。





 さてその噂は本物か。
 何せニセモノの類が多すぎる。
 本物の噂ならめっけモノ。
 学園の七不思議。
 見えない噂が数多く飛び交う神聖都学園にふらりとやってきたのは屍月・鎖姫。
 暇つぶしになるような本物がなかろうかと、ふらりふらり学園の中を歩いていた。
 時は夕刻。
 部活をする生徒と帰って行く生徒でまだ学園内には生徒が残っている状態。
「んー。ここで本物にはであえるかな?」
 唇に小さな笑いを携えて、両手をパンツのポケットに突っ込んで歩いてく。
 その姿はすこしのやる気も見えずにだらだらと、見る限り今時の青年。
 広大な学園の中、のんびりと歩いていれば風もないのにゆらゆら揺れるメモをひとつ見つけた。
 校内掲示板のうちのひとつ。
 メモに誘われるように鎖姫は掲示板に近づいて行く。
 見つけたメモ用紙。

『体育館の使われてない
 倉庫の扉を2回ノックして』

 と、書かれていた。
 なんの要領も得ないそのメモ用紙を鎖姫は内容を読んだだけでまた、長い廊下を歩き出す。
 しばらく行けばまたメモ用紙がひらひらしてる掲示板を見つける。
 何気なくそのメモを見てみる。
 書かれている内容は同じもの。
 鎖姫はなんとなしに振り返る。
 少し離れた掲示板ではやっぱりさっきみたメモ用紙がひらひらしていた。
 ただの悪戯だろうと、鎖姫は首をかしげた。
 長い廊下。
 向こう側の行き止まりが小さく見えるほど。
 掲示板はその廊下の端から端まで、等間隔に並んでいる。
 その全ての掲示板に風もないのにヒラヒラと靡いているのが見える。
 鎖姫は咄嗟に後ろを振り返った。
 今まで歩いてきた廊下にある掲示板でもメモがヒラヒラしている。
 何事?
 風もないのにメモはヒラヒラ靡いている。
 手の込んだ悪戯。か、とも思った。後ろを向いていた顔をまた前へと戻した。
 視線は掲示板。
 アレ?
 視線が泳ぐ、今此処に。掲示板に貼ってあったメモ用紙がなくなっている。
 また後ろを振り返る。
 靡いていたメモ用紙はない。
 今来た道を駆け戻る。
 一つ前の掲示板の前に立つ。
 あった場所にはなかった。
 掲示板に片手をつく。
「本物の噂だなんてね、ちょっとした暇つぶしに……扉を叩きに行こうかな」
 呟く独り言。
 口端の薄い笑みが少しだけ深くなる。
 本物の噂が目の前にある、ちょっとした好奇心が芽生える。
 掲示板から掌をどければ、また同じように歩き出す。
―――――――――もういいよー。
 歩き出した鎖姫の耳に聞える声。
 どこからともなく聞こえ出して、風にのって届くようにゆらゆら聞えては消えて行く。
 その声は自分を呼んでいるように聞える。
 待っている。
 鎖姫はその声にそう確信した。


 知らない学園内の体育館の場所などわからないから、部活中の生徒を呼び止めて聞き出した。
 使われていない体育倉庫。
 それは使われていないだけあって、すこし外れた場所にあった。
 体育館の中は少し埃ぽかった。
 使われて居ない場所はひっそりと、体育館の中をあるく自分の足音だけが静かに響いている。
 大きな鍵がかかっている扉を見つけた。
 開かずの扉なんて……僕への挑戦だろうか。
 そんなことを考えながら鎖姫はそちらに歩み寄り、扉の前に立つ。
 鎖につながれた大きな南京錠がぶら下がっている。
 相変わらずパンツのポケットに両手を突っ込んだままの鎖姫、ゆっくりと扉の上を見る。
 消えかかった文字で『体育倉庫』と、書かれているのが分かった。
「ビンゴ」
 楽しそうな笑みを浮かべて、さてどうしたものか。
 メモ用紙には2回ノックしてと書かれていた。
 それじゃぁ、まず叩いてみようか。
 ポケットに入れていた両手のうち、片手だけを抜き取れば扉をかるく2回ノックする。
――――――――――コンコン。
「もう、いいかい?」
 もういいよ。なんて聞えたのから、ここはちゃんと尋ねてあげないといけないだろうと。
 扉をノックした手をゆっくりと、扉から離してく。
 体育館の中に響いた音は一瞬。
 自分の声と、ノックした音が二つだけ。
 何も返答はない。
 やっぱりガセだったのだろうか、と、思ったときだった。
 体育館の窓は全て閉まっている。
 それなのに、体育館の中に一陣の風が吹きぬけた。
 突風のような風は、鎖姫の髪の毛を着ている衣服の裾を靡かせる。舞い上がる髪の毛を鬱陶しそうにかき上げる。
 風は一瞬で止んだ。
 カチャン。
 風に乱れた髪の毛を整えていた鎖姫の手の動きが止まる。ゆっくりと視線は落ちる、微かな金属音を聞き逃すはずもない、風が止んでしまえばここはあまりにも静か過ぎる。
 落ちた視線の先は、大きな南京錠。
 しっかりと鍵が閉まっていたはずのそれは、外れて鎖に引っかかるようにぶら下がっていた。
「じゃぁー。お邪魔しますよ」
 鎖姫は悪びれる様子も、驚いた様子もなく。それが自然なことだというように、軽く鼻歌なんかうたいながら南京錠を手に取り鎖から取り外す。
 ジャラジャラと音がするのは、南京錠から鎖を引き抜く音。
 鎖と南京錠をばらばらにすれば、それを床に落す。
 なんともいえない大きな音が体育館の中に響き渡った。
 軽い口調の独り言。
 鎖姫は扉に手をかけゆっくりと扉を開けた。
 簡単に扉は開いた。
 軋む音さえしなかった。
 両手で扉を開ききったとき、倉庫の中から勢い良く風が吹き荒れくる。それは真っ直ぐに鎖姫に向かって。
突然の出来事に鎖姫は両腕で自分の顔の辺りを咄嗟にかばった。
 髪の毛も着てる服も勢い良く靡く。舞い上がる。
 まるで台風でも仕舞いこんでいたかのように、行き場を得た風は扉から物凄い勢いで吹きぬけて行く。それはずっと続いてる。何時終わるのだろうかと思うほどに。
 どれほど真正面からその突風を受け止めていただろう。
 突風はようやく納まった。
 乱れた服と髪のまま、鎖姫は顔の前から覆っていた両腕を下ろし、向こう側を見た。
 そこには何もなかった…………。
 あれほど突風が吹き荒れた後なのに、向こう側に広がる光景は埃っぽい見るからに体育倉庫だとわかる薄暗い部屋だけ。
 なにか特別変わったところもない。
 跳び箱や、マット。平均台などが置かれていた。
 鎖姫は一息つくと、中へと歩みだす。
「さてさて、どこに隠れたのか」
 一歩一歩確実に中へと入り、あたりの様子を伺う。
 埃っぽいだけの倉庫内。
 長い間使われていなかったことが良く分かる。一歩歩けば軽く埃が舞い上がるのだから。
 鎖姫は何気なくぽんと、使われて居ない跳び箱の一番上に片手を置いてみた。
 軽く置いただけなのに、ふわっと埃が舞い上がった。
「誰かいるか、何かあるかと思ったのだけれども………結局なーんもないのかねぇ」
 あぁ、残念残念。とか独り言を呟きながら、ぽんぽん跳び箱の上を数度軽く叩く。上がるのは白い埃ばかり。
 視線はそのままぐるりと倉庫の中を何週もする。
 じっとしていても始まらない。
 ぽん。と、最後に一度大きく叩けば身体を動かす。
「さぁて、何もないのなら宝探しでもしようかぁ」
 そんな独り言の後に、何気なしに覗き込んだ跳び箱。
 重なった跳び箱の隙間。
 何気なしに覗いただけだった。
 それは偶然だとおもったが、偶然じゃなかったのかもしれない。
 偶然にみせかけた必然。
 こちらを見てる何かがあった。
 鎖姫はその視線らしきものに釘付けになる。
―――――――何かがいる。誰かがいる。
 そう思えば、動きは早かった。
 一段目を両手でどける。その動きは放り投げるという動きに良く似てて、大きな音を立てて跳び箱の一段目は床へと落ち、埃を舞い上げる。
 鎖姫は中を覗き込む。
 そこには何もなかった。
 ぴたりと一瞬鎖姫の動きが止まった。
 跳び箱の2段目に両手をつき、少し状態を浮き上がらせて中を覗き込む。だからと言ってなにかでてくるはずもなく、なにもない忙しなく瞳を動かしてもそれは変わらない。
「………いや」
 見間違いか?
 いや、そんなはずはない。そんな言葉が自然と言葉となる。
 どうやらまだ少し遊び足りないらしい、そう感じた鎖姫はまた両手をパンツのポケットに突っ込み、倉庫の中を徘徊。
「さぁて、どこにいても見つけるよ。」
 まだ遊び足りなのなら、少しの時間の間でも一緒に飽きるまで遊ぼう。
 自分もまた時間の中に囚われてしまっている存在なのだから。
「まぁ、何が要望かしらないけどさぁ、何かあるなら言ってみなよ。付き合えることなら付き合ってやれるから」
 ゆっくりと歩く。
 発する言葉に返って来る何かはない。
 ただゆっくりと歩くだけ。
 横たわったままのマットを広げる。大きく広げられていくたびに、白い埃をそこらに舞い上げて行く。確かにここでも視線を感じた。けれども蓋を開ければ何もない。
 そんなことをどれくらい繰り返しただろうか。
 おかげで倉庫の中はぐちゃぐちゃ。なにがどこにあったかなどわからない有様。
 体育に使う用具は大きくそうして重い。
 それを倒したりどかしたりを続けていれば、次第に息があがってくる。
 両手を膝に付き、軽く身を屈めて上下に激しく動くのは両肩。
「あぁー。マジつれー」
 さて、残るのはひとつ。
 重なったカラーコーン。
 どうして見つからないのだろう。
 確かに何かの存在は感じる。
 それが人なのかなんなのかは今だわからないが。
 それでも絶対にいる確証。
「よしっ。もういいかーい?」
―――――――――――――もういいよ。
 聞えた。
 答える声が響いた。
 もしかしたらそれは幻聴だったかもしれないが、鎖姫の耳にはしかりと届いていた。
 目指すは高く積み上げられたカラーコーン。
 一つずつ取り外して裏をも見ては放り投げる。
 カ、コーン。床に落ちたカラーコーンの音が大きく響いた。
 カラーコーンが床に落ちて行く音ばかりが響き渡って行く。一つずつ見ていてもまだ何もない。あと、半分。最後まで見たらなにかいいことあるといいなぁ。なんて手を休めて天井を見上げてしまう。
 残り半分ぐらいをまた同じ作業を繰り返す。響くのは乾いた音ばかり。
 背の丈ほど積まれていたカラーコーンは次第に低くなってくる。その高さにあわせて鎖姫は身を屈め、最後にはしゃがみ込んでいた。
 残るのはあと数個。
「…………はぁ」
 何気なしにため息をついてしまう。
 また一個手にとって中を見る。
 何もない。
 手ごたえがまるで感じられなくなってくる。
 またひとつ、カラーコーンが放り投げられる。
 甲高い乾いた音が響いただけで何もない。
 とうとうジャラーコーンは最後の一個となった。
 あれほど高く積み上げられてしまったものは全て鎖姫の背後に無残に散らばっている。
 同じように鎖姫は手に取り持ち上げた。
 持ち上げて一瞬息を呑んだ。
 ぎょろりとこちらを見ているものがある、なにか分からない視線と自分の視線が絡み合う。

―――――――見つかっちゃった
  
 聞えた声は背後から。
 咄嗟に振り返る。
 そこには何もない。
 また慌てて前方を見る。
 低かった視線が高くなってこちらを見下ろしている。
 実態も何もないのに、何故かこちらを見下ろしていることが分かる。

―――――――一緒に遊んでくれてありがとう

 同じ声が響く。
 それは背後から、前方見下ろさせれているところから、どこから。あそこから、ここから。
 声は一定方向ではなくこだましあうように聞えてくる。
 鎖姫は前を見たまま、見下ろされている方向に視線をあげたまま、黙ってその声を聞いていた。

――――――――誘ってもだれも来ないんだもの。オニーチャンがはじめて一緒に遊んでくれた

 声は酷く満足そうに体育館中に響く。
 見下ろす視線は細められて笑っているように感じた。

――――――――だけど、もう行かなくちゃ

 そんな声の後。また突然、突風が吹き荒れる。
 目を閉じて風が止むのを待っていた。
 最後にふわっと柔らかい風が髪の毛を撫でていった。
 どうしてだか、それが最後だとわかった。
 閉じていた目を開ける、ゆっくりと。そうして見上げた先はそこにあった存在。
 確かめるように、見上げた。
 もうそこに視線を感じることはない。何かの存在をも感じることはできない。
 何もなくなっていた。
 なにかある気配があった体育倉庫はただの普通の使われて居ない体育倉庫へと戻ってた。
「あぁ。なんだったんだろうねぇ」
 噂は本当だった。
 なにか正体は詳しくわからなかったけれども、ここで遊び相手を待っていた何かの存在は確かにあった。
 その気配が全く感じられず、その何かが此処から開放されてどこかへと帰っていったことがわかる。
 しゃがみ込んだままの鎖姫はゆっくりと立ち上がろうと、片手を地面に付き立ち上がろうと何気なく視線を床へと落したとき、なにか光るものを見つけた。床についていた手をそれへとのばし拾い上げた。
 それは翡翠色のビー玉。
 中を覗き込んで見る、くるくると中く渦巻くものがあった。
 まるで硝子の中で旋風をまいているような、それはゆらゆら蠢いている。
「お宝発見」
 それがなにかわからないけれども、鎖姫はにんまり笑うと服のポケットに仕舞いこみ立ち上がる。
 散らかした体育倉庫はそのままに、壊れてしまってる大きな南京錠もそのままに。
 何もなかったかのように歩き出す。
 ただ変わらないのは、歩くたびに舞い上がる積もった埃。
 

 それからしばらくして、また妙な噂が流れ始めた。
 使われなかった体育倉庫の鍵が壊されて何者かが侵入して、何故か中の道具は散乱して酷い有様。
 どうやら、ところどころに血痕が落ちていたらしい。
 どうやら、腐乱した死体が見つかったらしい。
 どうやら、何かワケの変わらないものが逃げたらしい。
 噂が噂を呼びまた、新しい噂が生まれる。
 学園内に季節に似合った噂が流れることなど、その噂の張本人の鎖姫はしらないこと。
 拾ったビー玉を空に掲げて覗き込む。
 ゆらゆら動く旋風を覗き込む。
 体育倉庫から出られた旋風はどこで何をしてるのだろう。
 

――――――――――fin



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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2562/屍月・鎖姫 (しづき・さき) /男性/920歳 /鍵師

 



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■         ライター通信          ■
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屍月・鎖姫様

この度は【学園七不思議―01もういいかい?もういいよ。】に
ご参加下さりありがとうございました。
初めてのご参加うれしい限りでございます。

はじめまして。櫻正宗と申します。
鍵師という職業を生かすつもりだったのに、あんまり生かすことができませんでした。
それよりも体育倉庫の中をくまなく宝探すするほうに熱が入った模様です。
素敵なプレイングを頂いたのに、なかなか生かせずに申し訳ないような気がします。
それでもちょっとニヒルで口説かれたらきっといちころでついていってしまいそうな、鎖姫さんを
書くのは楽しくて仕方なかったです。
最後には鎖姫さんの引き起こした結果が新しい噂になってしまいましたが。
まだもう少しこのシリーズは続きます。次のネタはナンジャラほい。な状態ですが、またご興味が
あれば参加していただければ嬉しいです。

それでは最後に
重ね重ねになりますがご参加ありがとうございました。
またどこかで出会うようなことがあればよろしくお願いいたします。

櫻正宗 拝