コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


赤い睡蓮の咲く場所 + 上條 更紗編 +



◆ Opning ◆



 その日、草間興信所に訪れた少女はいつになくいたってまともな依頼を武彦に持ちかけた。
「兄の行方を追って欲しいんです」
「・・・それは、なにか霊的な事が関わっているのか?」
 そう訊いたのは、もはや反射の域に達していた。
 怪奇探偵の異名を持つ武彦は、望む望まざるに関わらずそのような類の依頼がほぼ大半を占めていたのだ。
 勿論、残りの大部分は浮気調査や猫探しだ。
「霊?・・・え??関わっているんですか??」
 少女は黒目がちの瞳を丸くさせて、逆に武彦に問い返してきた。
「すまない・・・続けてくれ・・・」
 どうやらそう言う類の話ではないらしいと、武彦はほんの少しだけ安堵すると話しの先を促した。


 少女の名前は上條 更紗(かみじょう・さらさ)神聖都学園の1年生だと言う。
 捜して欲しいと言う兄の名は上條 隆志(かみじょう・たかし)更紗とは3つ違う。
「お兄さんが失踪するにあたって、何か・・・前触れのようなものはなかったか?」
「いいえ。何も。その日も、普通に大学から帰って来て・・・友人の家に遊びに行くからと言って、それっきり・・・」
 聞けば、更紗と隆志は随分と長い間離れて暮らしていたのだと言う。
 更紗は父の仕事の都合で3歳から13歳までの間、アメリカに住んでいたのだそうだ。
「兄は、母親の実家で過ごしたんです。母も兄も、父のアメリカ行きに凄く反発していたのを覚えてます」
 育った場所を離れるのがイヤだったんですかね?私は小さくて覚えていないんですけど・・・
 そう言って、更紗は視線を落とした。
「それで、その・・・遊びに行くと言っていた友人って言うのは・・・?」
「あ、はい。何度かお会いした事があって・・・北浦 浩志(きたうら・こうじ)さんって言うんです」
 それじゃぁ、その北浦 浩志とやらをあたれば何か分かるかもしれないな。
 そう思っていた武彦の考えは、無残にも砕かれた。

  何故ならその日、北浦 浩志も上條 隆志と同様に姿を消していたのだ―――



◇ Refusal ◇


 ササキビ クミノはテレビ電話越しに武彦から大まかな依頼の内容を聞いていた。
 その隣には更紗と思われる影が映っているが、彼女は電話の内容には興味がないのか、武彦が淹れたらしいお茶を飲んではテーブルの上に乗っている缶の中からお菓子を取り出している。
「客人に菓子を出すと言うキメ細やかな心配りが草間にあるとは思わなかった」
「半小姑と住んでいればおのずとこうならざるを得ないさ」
 武彦の言う、半小姑とは零のことだろう。
 彼女の丁寧な心遣いのほんの一握りだけでも、この男に伝染して来ているのかと思うとなんだかおかしな話だった。
 足して2で割れば丁度良いとは、こういうことを言うのだろうか?
「それで、依頼の内容だが・・・」
「あぁ。電話番ぐらいにならなれるだろう」
「・・・引き受けてくれるか?」
 武彦の問いかけに、クミノはあえて口を閉ざした。
 引き受けるのではなく、ただ手伝うだけ。
 クミノは探偵ではないのだから・・・。
「とりあえず、地球上ならここの装備でリンクや連絡は可能だ」
「あぁ、分かってる」
「ここに電話をすればおよそ圏外と言う事は有り得ない」
「便利だよな」
 頭の悪い受け答えしかしない武彦に微かな頭痛を感じつつ、クミノは考え込むように視線を落とした。
「まずは大学・交友関係、親族への聞き込みだな。依頼人である上條氏に繋ぎを・・・って、何故私がこんな事を言う必要がある?」
「は?」
 ポカンと間の抜けた顔をする武彦。
 クミノは盛大な溜息をつくと、ビシっと武彦の顔に人差し指を突きつけた。
 ・・・最も、本当に突きつけたわけではなく、画面越しに・・・ではあったのだが。
「草間は探偵、やる事は判っているだろう?」
「まぁな。ただ、今回の依頼は迷い猫や迷い犬、浮気調査なんかとは格段にレベルが違う」
「それはそうだろう」
「失踪・・・。しかも、その素振りはまったくなかった・・・」
 本来、失踪する人ならばその前後に何かしらの変化があっても良い様なものである。
「まぁ、依頼人と親族の動向は注視しておく方が良い」
「あぁ・・・」
 クミノの言葉を受けて、武彦が困ったような表情で俯く。
「どうした?」
「・・・どうも妙な話なんだが・・・」
「妙?」
「上條に話を聞いても、なんら的を得ないんだよ」
「・・・何の話だ?」
「母親の事を聞くと、途端に雰囲気が一変するんだ」
「どう言う事だ?」
「母親と隆志と、3人で住んでいたのかと・・・聞いたんだ。もしそうならば、母親の話しも聞いておいたほうが良いからな」
「あぁ」
「そしたら・・・。知りません、母親は一緒じゃありませんって、言うんだよ」
「別に、一緒に住んでいないのならばそのような反応でもなんらおかしくはあるまい?」
「言い方に問題があるんだよ。なんつーか・・・こう、全身で拒絶しているかのような、そんな・・・」
 母親の話になると途端に拒絶反応を示すと言う更紗。
 ・・・一体どうしてなのだろうか・・・?
「小さい時から会ってないから、よくわからないって言ってな」
「父親は今どうしている?」
「アメリカに行ってるそうだ。父親の親戚に当たる人も、日本にはいないらしく・・・」
「父親に関して、上條氏は何かおかしな反応をしたか?」
「いや。父親の話になると普通に笑ってたよ」
「とすると、拒絶反応は母親のみか?」
「そのようだ。母親だけでなく、母親の親戚の話しもダメだ。・・・あのな、ササキビ。本当に真面目な話、あの拒絶の仕方はおかしいぞ。その話をそれ以上聞けないほどに、冷たい目をするんだ」
 武彦の表情や口調だけで、それがどれほどまでの壮絶な拒絶の仕方なのかが分かる。
 ・・・何かある。けれど、それ以上を詮索させないほどの強い意志がある・・・。
「そうすると、母親の生まれも不明か?」
「あぁ。どこかの島にいたような話はきけたんだが、それ以上はなにも・・・」
「そうか」
「どうやら上條は、その島のことも良く思ってないみたいだ」
 ―――島が更紗にとって拒絶を示す1つの鍵なのだろうか?
 いや、そうだとしたならば、更紗が隆志を拒絶しないのはおかしい。
 母親と島・・・そして、そこに残った隆志。
 なにがあると言うのだろうか・・・・・・・・??
「とりあえず、北浦 浩志氏に接触するのが一番の近道だろう」
「あぁ、俺もそれはわかっている。これから上條の家にいくつもりだ。失踪前まで上條隆志が使っていた部屋を見せてくれるらしい」
「わかった」
「また電話を入れる」
 武彦はそう言うと、回線を切ったらしい。
 暗くなった画面には、クミノの顔が映っていた―――――


◆ Photograph ◆


 隆志が失踪前に最後に姿を見せたのは、更紗が興信所を訪れる前日の夕方5時過ぎだった。
 既に帰宅していた更紗に、友達の家に行って来るとだけ言い残し、そのまま夜遅くまで帰って来なかったのだ。
 電話の1本も寄越さない隆志に妙な不安を覚えた更紗は、浩志の家に電話をかけたのだが・・・。
 浩志は驚いたような声で、今日は隆志は来ていないし、来るような予定もなかったと告げた。
 隆志は更紗に嘘をついていたのだろうか・・・??
 浩志の家に行くと言うのは家を出るための口実だったのだろうか?
 いや、もしかしたら、浩志の家にたどり着く前に何かの事件や事故に巻き込まれてしまったのかも知れない。
 けれど、事故ならば警察から電話が来てもおかしくない。
 隆志は確かに財布を持っていたし、その中には運転免許証も入っていたはずだ。
 それならば、事件に巻き込まれたのだろうか・・・??
 けれど・・・・・・・
 一晩考えた結果、更紗が出した答えは1つだった。
 隆志は、自らの意志で行方をくらました。
 そう・・・考えるしか出来なかった・・・。


 以上が上條更紗の考えた事らしい。
 画面の向こうにいる武彦がつっかえつっかえ話した内容はそんなようなモノだった。
「それで、上條隆志氏の部屋の様子は?」
「小奇麗に片付いていたよ。ベッドも綺麗だし、机の上もきちんと整理されていた」
「ふむ、それは興信所の雑用係として雇っておいた方が良いだろう」
「・・・あのなぁ・・・」
 クミノの冗談なのか本気なのかよくわからない言葉を前に、武彦が額に手を当てる。
「何か手がかりになりそうなものは?」
「何も見つからなかったな。とにかく、モデルルームみたいに綺麗に片付いていた。上手く言えないが、到底人が住んでいるようには思えなかった」
「それは草間が掃除の行き届いていない部屋に住んでいるから、片付いている部屋を見ると知らずのうちに拒否反応が出てそんな事を思うと、そう言う事ではないんだな?」
「ササキビ・・・」
 武彦が頭に手を当てながら首を振る。
 勿論、クミノだって本気でそう思っているわけではなかった。
 ・・・まぁ、1%くらいは本気だったかもしれないけれども・・・。
「本棚に並んでいたのは専ら専門書だったな。大学で使っているらしい」
「そうか」
「あと、こんなものを見つけた」
 武彦がそう言って、画面に1枚の写真を近づける。
 背景はどこかの部屋で・・・随分と綺麗に整理されている。恐らく、隆志の部屋だろう。
 3人の男性が並んで映っていた。
 一番左端、机の前の椅子に腰掛けて小さく笑顔を浮かべている男性・・・
「これが上條隆志だ」
 そう言って、雰囲気が更紗と似ていると言う。
 兄妹なんだから似ているのも無理はないだろう。
 真ん中には、俯いた1人の男性。
 前髪が長く、その顔は良く分からない。
「これが下野 玲人(しもつけ・れいと)隆志の友人だそうだ」
 武彦の指が玲人から一番右端に移っている人物へと移動する。
 明るい茶色の髪をした、今時っぽい男性が1人、満面の笑顔でピースサインを突き出している。
 左耳にした真っ赤なピアスに目が行く・・・・・・
「これが北浦 浩志だそうだ。ちなみに、これは上條更紗が撮ったものだそうだ」
「そうか」
 3人とも似通ったような身体つきをしており、背中を向けられたら誰が誰だか分かりそうもなかった。
 もっとも、浩志は髪の色がやたら明るく、赤いピアスをつけているので一発で分かってしまいそうだが・・・。
「そう言えば草間。上條氏は警察に届けているのか?」
「この事をか?」
「それ以外に何がある」
「いや、そんな話は聞いていないが・・・?」
「・・・その理由は聞いたか?」
「いや」
「それならば“怪奇探偵草間興信所”に来た理由を上條氏に聴取すべきだと思うんだが」
「おい。誰が怪奇探偵だ!」
「事実だろう?」
「あのなぁ・・・」
「聞くところによると、どうも“怪異”などは関係ない、普通の失踪事件のように思うのだが?」
「そうだな」
「それならば何故警察を頼らない?一般的感覚から言って、怪奇探偵よりは警察のほうが頼りになる」
「だから、怪奇探偵じゃねぇっつの!」
「まだ否定するのか」
「事実無根だ!それより、これから隆志が通っていた大学に行く。北浦浩志も下野玲人も同じ大学なんだが・・・」
「どうした?」
「上條が北浦隆志の携帯に電話を入れたんだが、どうも電源が切られているらしい」
「講義中ならばそれも問題あるまい?」
「いや・・・上條がソレを否定しているんだ。電源が切れているなんて有り得ない・・・ってな」
「・・・それは妙だな」
「まぁ、何かあったらまた電話する」
「あぁ・・・」


◇ Disappearance ◇


 少し慌てた様子の武彦から電話がかかってきたのは、先ほどの電話からそれほど時が経っていない頃だった。
 携帯特有の画質の粗い、すりガラスを通して見たかのような武彦の向こう、見知らぬ部屋が広がっている。
「下野玲人と会って、北浦浩志の家まで来たんだが、もぬけの殻だ」
「・・・北浦氏まで失踪を?」
「それは分からない」
「大学には来ていなかったのか?」
「そのようだ。下野も上條も、電話が繋がらないって言っている」
「電源が切られているのか」
「あぁ」
「部屋の中に携帯は?」
「いや・・・見つからない」
「そうか・・・」
「一応付近に聞き込みをしてみようと思う。いつ頃家を出たのかが分かればそれなりに参考にはなるしな」
「そうだな」
「・・・あ、そうだ・・・」
「どうした?」
「上條に聞いたぞ。例の事」
「例の事?」
「何故警察に届けないのか」
「あぁ。なんて言っていたんだ?」
「・・・なんて言ったと思う?」
 質問をしているのはこちらなのに、武彦はあえてこちらに問い直してきた。
 そうは言われても、どうにも推理の巡らせようがない。
「母親の時と一緒だ」
「なんだって?」
「ソレが、兄の失踪と何か関係があるんですか?まだ警察に届けるべきではない。それほど事を大げさにすべきではない。そう思っているから、私は貴方のところを訪れたんです」
「それは妙な話だな」
「妙?」
「事を大げさにしたくないからこそ、警察を頼るべきなんじゃないのか?一刻も早く見つけなければ、逆に事が大きくなる危険性がある気がするのだが」
 クミノはそう言うと、不鮮明な武彦の目をジっと見詰めた。
 その奥には、こちらも不鮮明ながらも、人影が2つ揺れている。
 更紗と玲人のものだろうか・・・?
「とりあえず、上條隆志の生活帯から失踪理由が掴めぬ以上、周囲情報・・・特に親族や少し特殊な成育環境を掘り下げる以外無いだろうな」
「島・・・か」
「その動静に疑義のあるなら尚の事な」
「って言ってもな・・・」
「話を聞くのは無理そうなのだろう?しかし、上條更紗は何かしら・・・知っていることがある」
「十中八九な。それが上條隆志の失踪とどれほど関係しているのかは分からないが、恐らく無関係ではないだろう」
「同感だな。とりあえず、半自律式移動監視装置を貸与しよう」
「随分ものものしい名前だな」
「別に言いにくければ好きに呼んでもらって構わない」
 クミノはそう言うと、画面向こうの武彦に向かってふっと息を吐きかけた・・・。


◆ Police ◆


「上條隆志の遺体が発見された!」
 慌てたような武彦からの電話はすぐに切れ、暫く静寂がクミノを包み込んだ。
 最悪の結末は、ほんの少しだけ・・・予期していたものだった。
 もしかしたらそうなっているのかも知れないと、それはある種の予感だったのかも知れないが・・・。
 自殺か他殺か、それとも事故か・・・。
 事故の場合、隆志は何故失踪したのか・・・。
 浩志の家へ行く途中で何かしらのトラブルに巻き込まれてしまったのだろうか・・・?
 考え込むクミノの前で、画面がどこかの場所を映し出した。
 流れ落ちる水の音、騒がしい雑音・・・。
 目の前には1人の刑事が立っており、瀬田 聡と名乗ると大まかに説明をし始めた。
 隆志の遺体は損傷が激しく、ズボンのポケットに入っていた財布の中の免許証から身元がわかったのだが・・・
「一応確認して欲しいんだ」
「ぼ・・・僕が・・・ですか??」
 戸惑ったような声は、恐らく下野玲人のものだろう。
「本来なら妹さんに頼むべきなんだろうがなぁ、流石に・・・ま、お前がやってくれや」
「・・・はい・・・」
 気乗りないような面持ちのまま、玲人が瀬田に連れられてブルーシートの張られてある奥へと行ってしまう。
 武彦が画面に現れ、続いて流れ落ちる滝の上部を映し出す。
 あの上から飛び降り、そして・・・こちらの岸に流れ着いていたところを散歩中の男性が発見したそうだ。
 それにしても、遺体が見つかったのは幸運・・・と、言うのかも知れない。
 流れ落ちる水圧に負けて、浮上できないことが多々あるのだ。
 暫くした後で、ブルーシートの向こうから顔色の悪い玲人が出てきた。
 どうやらその遺体は隆志本人のものに間違いはなく・・・更紗が真っ青な顔をして画面からいなくなる。
 恐らく、倒れこんでしまったのだろう。
「そうだ・・・刑事さん・・・あの、1つ聞きたい事があるんですけど・・・」
「あん?」
 更紗同様に真っ青な顔をした玲人がおずおずと瀬田を見上げ、ゆっくりと・・・言葉を紡ぐ。
「隆志の友人の、北浦 浩志も行方が分からなくなっていて・・・」
「はぁ!?そりゃ、どう言う事だよ!?」
「・・・分からないんです・・・ただ、刑事さんが電話を下さった時、僕たち・・・浩志を捜しに来ていて・・・」
「おいおい、まさかその・・・北浦浩志も上條隆志と同様自殺したなんてことはねぇよな」
「上條隆志は自殺なのか?」
 武彦がすかさず口を挟むと、瀬田が妙な視線をこちらに向けた。
 その視線に気付いた玲人がすかさずフォローをいれ・・・
「遺書の類は見つかってねぇが、滝の上んとこに靴が脱がれてた。キチンとそろえてな。自殺としか思えねぇ」
「だが、上條隆志には自殺をする理由がない・・・」
「・・・それはどうだかなぁ・・・っつか、まぁ・・・後々調べれば分かる。今は北浦浩志を・・・」
「あれ?瀬田さん、どうして北浦浩志を知っているんです?」
 不意にそう言って、瀬田の背後から1人の若い刑事が顔を覗かせた。
「なんだ?北浦浩志になにかあるのか?」
「今、遺体を探しているじゃないですか。あの、波の高い自殺の名所の崖の上で・・・靴とバッグが見つかったとか言って」
「・・・は?」
「は?じゃないですよー!あそこって、滅多に遺体があがらないことで有名なんですよねー」
 非常に困ったと言う風な顔をして、刑事はそう言った。
「うそ・・・浩志さんまで・・・!?」
 更紗の震える声をマイクがキャッチする・・・。
 その瞬間、玲人がフラリとよろけたと思うと・・・そのまま画面から姿を消し、直後にバタリと音がした。
「下野!?」
「うわ・・・!!大丈夫か!?おい、おい!!??」


◇ Who died? ◇


 瀬田の運転するパトカーで、玲人は近くの病院に担ぎ込まれた。
 どうやら疲労と睡眠不足がたたったらしく、玲人はその病院に緊急入院をする事になった。
 更紗も貧血の気があったらしく、病院で増血剤を貰うと紙コップにミネラルウォーターを注いでカプセルを流し込んだ。
「それにしても、こんなに自殺者が続くとはなぁ・・・」
 頭を掻きながら、上條更紗に色々と聞きたいことはあるんだが・・・と呟く瀬田。
 勿論、現在の更紗はとても話を出来るような精神状態ではない。
 また後日うかがうからと言い残し、瀬田は病院を後にした。
 おそらく、まだ捜査の続きがあるのだろう。
 武彦が病院の前まで瀬田を送り、2,3言葉を交わしてから別れる。
「随分と大変な事になったな」
「そうだな・・・」
 クミノは頷くと、画面の向こうに映っている更紗に視線を向けた。
 落ち込んでいるらしく、ボーっと手に持ったコップを見詰めている。
「まぁ、これで依頼も終わり・・・だな」
 武彦がそう言い、更紗の元へと戻ろうと踵を返して・・・ふっと、目の前に誰かが立った。
 真っ白な白衣に、石膏のように真っ白な肌・・・美しいその女性は、とても血が通っているとは思えなかった。
 思わず閉口してしもうほどの美人だった。
「時に、嘘に惑わされることがある」
 形の良い唇を薄く開くと、外見同様美しい声で彼女はそう言った。
「え・・・?」
「見たこと、聞いたことでも、その全てが真実だと言う確証はない」
「誰だ・・・?」
「私は椚 華乃(くぬぎ・かの)」
 華乃はそう言うと、すっと椅子に座る更紗を指差した。
「あの子のお兄さんを知っている。そのお友達も・・・」
「上條隆志の知り合いか?」
「えぇ、昔からの・・・知り合い・・・」
 昔からの知り合い・・・!?それはつまり、更紗がアメリカに行っている間の隆志を知っていると言う事なのだろうか?
 それならば、隆志がアメリカ行きを嫌がった理由や更紗が頑なに母親の事を話さない理由を知っているかもしれない。
 武彦が何かを言おうと口を開き・・・華乃が不思議な笑顔を浮かべながら意味深な一言を呟いた。


「誰が、死んだ・・・の?」


「は?」
「誰が・・・死んだ、の?」
 ニッコリ――――
 それは、全てを見透かしているような笑顔だった。
「上條隆志の遺体が確認されて、あと・・・北浦浩志も・・・」


   「誰が、死んだ、の?」


 華乃はからかうように再びそう言うと、武彦の言葉を聞かずにふいと踵を返して病院の奥へと歩いて行ってしまった。
「誰が死んだの・・・?」
 クミノは口の中でその言葉を繰り返した。
 ・・・どこかざわめく心の中、どうしても・・・華乃の言葉が胸の中で引っかかった。


―――誰が、死んだ、の?





              ≪ E N D ≫


 
 ◇★◇★◇★  登場人物  ★◇★◇★◇

 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


  1166 / ササキビ クミノ / 女性 / 13歳 / 殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない。


 ◆☆◆☆◆☆  ライター通信  ☆◆☆◆☆◆

 この度は『赤い睡蓮の咲く場所 + 上條 更紗編 +』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
 そして、初めましてのご参加まことに有難う御座いました。(ペコリ)
 失踪中の兄の行方探しですが、残念ながら隆志の遺体が発見されたそうです。
 さらには、北浦浩志まで・・・。そしてそして、椚華乃なる人物の不思議な台詞・・・。
 誰の言葉を信じ、誰の言葉を疑うかはクミノ様の自由です。
 今回登場したのは『上條更紗』『上條隆志』『北浦浩志』『下野玲人』『瀬田聡』『椚華乃』の6人です。


  それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。