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<東京怪談・PCゲームノベル>


【SMN】Mission MO-1「Time to have some fun」

依頼者:Judgement
依頼内容:破壊活動の阻止
タイプ:オープン

依頼詳細:
「Void」がテロ活動を計画していることはすでに知っていると思う。
 ついては、その阻止、もしくは鎮圧に協力してもらいたい。

「Leaders」と「Peacemaker」が無益な権力闘争に明け暮れている今、
 我々「Judgement」が中心となってこの世界の秩序を守っていくしかない。
 どうか、我々に力を貸してほしい。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 火宮翔子(ひのみや・しょうこ)を待っていたのは、十五、六歳ほどと思われる赤い髪の少年だった。
「火宮翔子よ、よろしく」
「IO2、『Judgement』の『ヤシキ』だ。こちらこそよろしく頼む」
 まだかすかに幼さの残る風貌ながら、その物言いや動作はむしろ中年以上の人物のそれに近い。
 どうやら見た目通りの人物ではなさそうだが、味方である以上特に問題はないだろう。
 それよりも、むしろこの場に彼女とヤシキ以外の人物の姿のないことの方が、問題と言えば問題だった。
「まさか、私たちだけなの?」
「いや、目立たぬように細心の注意を払いつつ、あちこちに部隊を潜ませてある」
 翔子の問いにそう答えると、ヤシキは手元の端末でこの周辺の地図を呼び出し、そのあちこちを指して部隊の配置を説明し始めた。
 それによれば、この地域に配備された人数は約二十人。
 ヤシキを含むエージェント二人と、残りはほぼ全員がバスターズであるという。
「本当ならば、もう少し人数を割いて欲しかったのだが。
 襲撃が予想されるポイントはここだけではないので、これだけ連れてくるのが精一杯だった」
 彼の顔に、苦悩の色が浮かぶ。
 本来のIO2の職務に最も近い活動をしている「Judgement」であるが、彼らの勢力は旧IO2の三割程度しかなく、なかなか思うように動けていないのが現状らしい。
「『Leaders』や『Peacemaker』にも困ったものね。
 内部抗争に現を抜かして、肝心要の治安維持がおろそかになるなんて」
「同感だ。
 今回も、彼らは自分たちの勢力圏を守ることはしているが、それ以上のことにはきわめて消極的だ。
 特に『Peacemaker』の側は、『Leaders』がこの隙をついて急襲してくるのでは、と疑心暗鬼に陥っているとも聞く」
「……処置なしね」
 IO2派生勢力のうち、最大の「Leaders」の戦力は、最小の「Peacemaker」の三倍程度はあるものと考えられている。
 事実、先日も「Leaders」は「Peacemaker」の拠点の一つを奇襲によって攻略しており、「Peacemaker」側が神経質になるのも全く理解できないわけではない。
 しかしながら、そうして自分たちの身を守ることにのみ汲々とし、虚無の境界の――「Void」であろうと、「New Order」であろうと、どちらも世の治安を乱す組織であることに変わりはない――テロ活動から一般市民を守ることすらできないとあっては、組織の存在意義そのものが問われるのではないだろうか。

 とはいえ、そんなことを彼に愚痴っても仕方がない。
 そう考えて、翔子は次の質問に移った。
「それにしても、どうしてこのポイントなの?」
 指定されたのは、東京の中心部からは少し外れたところにある駅の一つ。
 一応ターミナル駅と言えばターミナル駅ではあるが、駅自体はそこまで大きくはなく、また、駅の周辺に高層ビルが建ち並んでいる、と言う感じでもない。
 言ってしまえば、乗り換えのためだけに使われることが多い駅、というところであり、テロの標的として選ばれるには、正直やや地味な気がしないこともない。
 その辺りがやや疑問だったのだが、ヤシキの返事はそれなりに筋が通っていた。
「理由はいくつもある。
『Leaders』や『Peacemaker』の勢力範囲ではないこと。
 普段はさほど警戒の厳重な場所ではないこと。
 そして、いくつかある東京の主要な入り口の一つであること」
 なるほど、この駅自体を利用する人はそう多くないとはいえ、「この駅を通る路線を使っている」人となると、その数は一気に膨れあがる。
 この駅を抑えることで、それらの人々全員に影響を及ぼせれば――と、そんなところなのだろう。
「とにかく、駅に大きな被害を出さないことと、可能な限り事件を大きくしないこと。この二つが最重要事項になる」
 その言葉に、翔子はかすかな引っかかりを感じた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 一方その頃。
 統堂元(とうどう・はじめ)は、ちょうどその駅の側を通っていた。

 行き交う人も、街並みも、特にいつもと変わらず。
 彼にとっても、そしてその場に居合わせたほとんどの人々にとっても、特に何の変哲もない「普通な一日」になるはずだった。





 ところが。
 その平穏は、複数の銃声によって打ち砕かれた。

「何だ?」
 人々が、一斉に銃声の聞こえた方を見る。
 彼らの目に映ったのは、傷ついて倒れる犠牲者たちと、小型の銃器で武装した何人ものテロリストだった。

 たちまち、辺りが混乱のるつぼと化す。
 大慌てで逃げようとする人々に向かって、テロリストたちは不気味な笑みを浮かべてさらなる銃撃を行った。

(逃げなければ)
 元の頭に浮かんだ思考は、恐らくその場にいた多くの人々と大差のないものだった。
 楽しんで、とまではいかないかもしれないが、ともかくも、何のためらいも見せずに人を殺そうとするような連中とは、金輪際関わりを持ちたくないし、一秒でも早くこの場を離れたい。
 それが、彼の正直な気持ちだった。

 しかし。
 逃げまどう人々に向かい、銃を構える連中がいる。
 放っておけば、さらに多くの犠牲が出ることだろう。

 それを見過ごしておけるのか?
 自分には――恐らく、彼らを止める力があるというのに。

(逃げなければ)
 そう思う。
 あえて戦う道を選べるほど、自分は強くない。

 でも。
 誰が死のうと関係ない。
 そう言いきれるほど、自分は強くない。

 気がついた時には、身体が自然に動いていた。





 今まさに引き金を引こうとしていた男の銃を蹴り飛ばし、すかさずみぞおちに拳を叩き込む。
 襲撃者たちは仲間を倒されたことに軽く動揺しつつ、一斉に元に銃を向けようとしてきた。

 銃弾というものは、非常に速い速度で飛ぶ小さな物体であるから、それを見て避けるというのは決して容易なことではない。
 だが、当然のことではあるが、銃弾は銃口の向いている方向にしか発射されない。
 つまり、銃口を向けられることさえなければ、銃弾を受ける危険はほとんどないのである。
 もちろん、それは決して簡単なことではない。
 けれども、統堂宗家に生まれ、千年に渡り練磨されてきた武術を継承している元にとっては、少なくとも不可能なことではなかった。

 複数の敵を同時に視認し、銃口を向けられぬように紙一重でその狙いを外す。
 そして、相手が見当違いの方向に向かって引き金を引いた隙を見計らって懐に飛び込み、確実に一撃で戦闘能力を奪う。





 戦いが終わるまでに、そう長くはかからなかった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 ほとんど同じタイミングで、駅の周辺の各所で発生したテロ事件。
「通常兵器によるテロ」という想定外の襲撃に一瞬対応が遅れたものの、襲撃者内に一人の超常能力者もいなかったこともあって、鎮圧にはさほどの時間はかからなかった。

 そして、それは翔子とヤシキのいた駅前でも同じだった。

「片づいたか」
「ええ」
 事態が沈静化したことを受けて、ヤシキが通信であちこちに指示を出す。
 ひとまず襲撃そのものは防ぎ止められたが、第二波がないとも限らず、また、それとは別に彼らには事後処理という大事な任務もある。
 それを考えて、翔子は彼の通信が一段落するまで待った。

「言いたいことがあるなら聞こう」
 ヤシキが通信機を懐に戻したのは、それから数分後のことだった。
 その言葉が終わるやいなや、翔子はさっそくこう訊いた。
「何故、一般人の避難を妨害したの?」

 そう。
 襲撃のあった直後、翔子がまず一般人を避難させようとしたのに対し、ヤシキは居合わせた一般人ごとこの区域を結界で封鎖したのである。 

「逃げられては困るからだ」
 そんなことか、とでも言うように、ヤシキが淡々と答える。
「彼らは逃げれば一体何があったのかを話す。それではまずい。
 我々が欲しい結果は一つ……『ここでテロなどなかった』ということなのだから」

 なるほど、これで全て合点がいった。

 新聞の片隅に載るような小さな事故。
 そのうちの一部は、怪奇事件の発生をIO2が隠蔽するためにでっち上げたものである。
 そのような噂は、実は以前からあった。
 とはいえ、その信憑性は決して高くはなく、だいたいは巷に溢れる陰謀論と同レベルの与太話とされていた。
 そして実際、翔子もその手の話をそれほど信用してはいなかった。

 しかし、それらの全てとは言わずとも、少なくとも一部は真実だったのだ。

「幸い、こちらには回復能力のある者も、同時に多数の人物に対する記憶操作の行える者もいる。
 死んでしまった人間に関してはいかんともしがたい故、小さな事故をでっち上げる必要はあるだろうが、その程度なら社会の混乱には繋がるまい」

 確かに、情報操作もひとつの正義なのかもしれない。
 真実が知られることで、社会の治安に悪影響が出ることが懸念されるのならば、嘘を突き通すのも理屈としてはわからなくもない。
 けれども、そうして結界内部に「閉じこめられた」結果、本来ならば逃げられたはずの人が犠牲になっている可能性は決して少なくない。

「小の虫を殺して大の虫を生かす」。
 それが彼らの正義なのだろうが――やはり、感情的には受け入れがたいものがある。

「あなたの言うことも、わからなくはないけど」
 そう、翔子が反論しようとした時。

 いきなり、ヤシキが翔子を突き飛ばした。
 不意を突かれて、思い切りその場に尻餅をつく。

 突然のことに抗議しようと、翔子が顔を上げた、その瞬間。

 どこからともなく飛んできた槍が、ヤシキの胸を貫いた。

「!?」
 驚く翔子に、ヤシキはかすかに笑って見せた。
「俺は、いつだって、最善を考えて……行動、している」
 そして、それだけ言い終わると、彼はがくりと膝をつき……そのまま、その場に倒れた。
 一拍おいて、彼の身体を炎が包む。
 翔子とはややタイプが違うとはいえ、炎の能力を持つ彼が、はたして最後に何をしようとしているのか。
 それはわからなかったが、いずれにせよ、彼女にできることはもはや何もなかった。





「あーあ、レディーファーストで殺ってやろうと思ったのによ。
 ガキが余計なことしてくれやがったせいで、俺様の美学に反する結果になったじゃねぇか」

 その声に翔子が振り返ってみると、そこには先ほどの槍の主と思しき黒いジャケットに身を包んだ青年が立っていた。

「女を殺す時はあんまり苦しまなくてすむよう一発で、ってのが俺様の理想なんだ。
 無駄な抵抗しないでくれれば、一発で確実にあの世に送ってやるけど……どうするよ?」
 薄笑いを浮かべたまま、人を食った様子で話す男を、翔子は静かに睨み返す。
「私がはいそうですかと殺される女に見える?」
「いや、だからこそさっきの一発で、って思ったんだけど……ツイてねぇな、お互いによ」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 男の指先から放たれたビー玉ほどの鉄球が、見る間に直径数メートルにまで巨大化する。
 それをどうにか符術で生み出した『実体のある炎』を使って受け流して、翔子は一つ息をついた。

 ここまでの戦いでわかった敵の能力は、物体の拡大及び縮小能力。
 ただの指弾程度ならあくまで牽制程度の威力しか持たないが、同じ速度で巨大な鉄球が飛んでくるとなれば、当然話は違ってくる。
 先ほどの槍も、恐らく爪楊枝ほどの大きさにして隠し持っていたのだろう。

 とはいえ、その能力も万能ではないようだ。
 自分自身、もしくは翔子に能力を使用してこないところを見ると、恐らく生物相手には効果無し。
 鉄球のサイズもあれ以上大きくしようという様子がないことを考えれば、恐らくあの程度が精一杯なのだろう。

 また、彼自身の身体能力も、翔子のそれより大きく優れているとは考えにくい。
 せいぜい五分、もしくは接近戦に持ち込めればこちらの方が上だろう。

 と、なれば。
 どうにかして不意をつければ、勝機は十分にある。

「なんだよ、アンタ逃げてばかりかよ……つまんねぇな」
 翔子の思惑も知らず、男が小馬鹿にしたような表情を浮かべる。
「あんまりこういう手は使いたくなかったんだけどな。
 いい加減俺様も疲れてきたし、これで決めさせてもらうぜ」
 そう言いながら、男が取りだしたのは……小さな砂袋だった。

(まずい!)
 翔子が待避しようとするより早く、男が砂袋の中身をぶちまけ――その全てが、岩となって降り注いだ。





「よお、生きてるか? 生きてたら返事しろよ、楽にしてやるぜ」
 頭の上の方から、男の声が聞こえる。

 岩に潰されそうになった時、翔子はとっさに壁を作り、どうにか潰されることだけは免れた。
 とはいえ、生き埋めになったことに変わりはなく、加えて炎の壁が間近にあるため、熱による消耗も大きい。

 それでも――自分が勝てるかまではわからないが、少なくとも、この戦いにあの男が勝利を収めることだけは、ない。

「これだけ返事がないところを見ると、本気で潰れて死んだか?」

 すっかり油断しきっている上に、わざわざ大音声で自分の居場所まで知らせてくれているとは。

(その油断が、一番の弱点よ)

 内心で呆れかえりながら、表に配置したままの符のいくつかを発動させる。
 それと同時に、男の絶叫が聞こえ――何が起こっているかは、自分の目で確認するまでもなかった。

 あちこちに配置されたまま、発動しないまま残った符がいくつもあったことにも気づかず。
 せっかく相手から見えない状況になったのに、相手の生死も確認せぬまま、わざわざ自分の居場所を触れ回るような真似をする。
 これでは、どれだけの実力があったとしても、勝つことなどできなかっただろう。

 ほどなく、男が命を落としたことで彼の魔力の影響が解けたのか、翔子を閉じこめていた岩は砂へと戻った。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 戦いが終わり、翔子がヤシキのところへ戻った時には、すでに炎は消えていた。
 残っていたのは、灰の山と、耐熱素材で作られていたと思われる黒いマントのみ。

 このマントは、彼の形見としてしかるべき人に届けるべきだろう。
 そう考えて、翔子はマントに手を伸ばした。

 と。

 不意に、灰の中から現れた小さな手が、マントの端を掴んだ。
 少し遅れて、灰の山の片隅が崩れ、そこから五、六歳くらいの赤毛の子供が顔を出す。
 翔子が驚いていると、その子供は大人びた笑みを浮かべてこう言った。
「それを持っていかれてしまうと、俺は裸で帰らなければならなくなる」





「フェニックスのジーンキャリア?」
 ヤシキの言葉に、翔子は自分の耳を疑った。
「ああ。
 IO2が分裂する少し前に、調査隊がフェニックスの羽根を入手してきてな。
 そこから採取した遺伝子を使って作られたジーンキャリアで、最初に成功したのが俺だ。
 コードネームの『ヤシキ』は、実は『八式』のことでね」

 これで、彼の最期の言葉――と、翔子が勘違いしていた言葉の本当の意味もようやくわかった。
 そして、彼の立ち居振る舞いと見た目の年齢が全く一致していない原因も。

 だが、どうしてもわからないことが一つだけあった。
「個人的な質問なんだけど、いいかしら」
「何だ?」
「あなた、本当はいくつなの?」
 翔子がそう尋ねると、ヤシキは軽く苦笑した。
「歳か? 三十八だ。若く見えるとよく言われる」

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From: 「ヤシキ」
Subject: 協力に感謝する

 今回の騒ぎは、どうにか単なる「事故」として片づけることができた。
 これも、被害が比較的少なく済んだおかげだろう。

 また何かあったら、その時はよろしく頼む。

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結果:テロの鎮圧に成功→「New Order」の刺客の撃退に成功(目標達成)

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 3974 / 火宮・翔子 / 女性 / 23 / ハンター
 6191 / 統堂・元  / 男性 / 17 / 逃亡者/武人

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■         ライター通信          ■
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 撓場秀武です。
 この度は私のゲームノベルにご参加下さいましてありがとうございました。
 また、ノベルの方、大変遅くなってしまって申し訳ございませんでした。 

・このノベルの構成について
 このノベルは全部で七つのパートで構成されております。
 そのうち、後半のパートにつきましては、翔子さんと元さんで違ったものになっておりますので、もしよろしければもう一方に納品されている分のノベルにも目を通してみていただけると幸いです。

・個別通信(火宮翔子様)
 今回はご参加ありがとうございました。
「『Judgement』としては治安維持が第一目標」ということで、あえて翔子さんの「正義」とは少しぶつかる形にしてみましたが、いかがでしたでしょうか?
 ちなみに「Judgement」は行動の優先順位こそ違え、思想的にはどちらかといえば「Peacemaker」よりも「Leaders」に近い存在、という形になっています。
 ともあれ、もし何かございましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。