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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


自分が殺人を犯したのか 真相篇

●オープニング
 一ヶ月前から、真夜中に女性ばかりが狙われる奇妙な殺人事件。
 犯人は夢の中に出てくる自分自身では無いかと不安になり一介の高校生、甫坂昴は青褪めていた顔で草間興信所を訪れた。

 前回の調査、昴本人の供述で事の発端が判明。

・事件が起こる六日前、クラスメートの柏木静が飛び降り自殺。
・目の当たりにした昴は、その夜から檻に入れられている獣人と化した自分自身が出てくる悪夢を見る。
・その翌日の金曜日、事件が起こっている。
・被害者達の共通点は血液型がA型。
・事件現場は甫坂家に比較的近い場所。

 その情報を元に、調査員達は甫坂家に張り込んだ。
 張り込みの甲斐あり、犯人と思われる獣人を目撃。目印になるようにと、蛍光塗料入りのボールを獣人の肩に投げた。

 報告を聞き、事件を食い止めることができたことを知る草間。
 翌日(土曜日)の朝、朝刊を読み、ニュース番組を念入りにチェックし、報道されていないことに安堵。
 だが、それも束の間だった。
 興信所のドアが乱暴に開くと同時に、昴が飛び込んできた。
「朝早くにすみません! け、今朝起きたらTシャツにこんなものが!」
 草間が昴が差し出した黒のTシャツを見ると、昨夜調査員の一人が投げつけた蛍光塗料付きボールが付着していた。
「そ、そんな馬鹿な! これは調査員が獣人に投げつけたものだぞ。それが何故…!?」
 困惑する草間と昴。

 ――俺が…俺が犯人だったのか!

 身体を抱え、恐怖に怯えている昴を目にしても、草間は何ひとつできなかった。

 同時刻、別所。ここにも昴と同じように身体を抱え、怯えている人物が居た。
 一糸纏うことなく、フローリングの床に座り込み膝を抱えて座り込んでいる。
 震えを抑えるためか、二の腕は食い込ませた爪でかなり傷つき、血が流れ出ている。

『出ルナ…モウ…出ルナ…』

 しゃがれた声で、何かを必死に表に出させまいとしている。 
 床には、壊れたガラスのフォトフレームが放置されていた。そこに映っていた少女は、自殺した静だった。
『シ…ズカ…』 

 静の名を呟く謎の人物と彼女の関係は何なのか。そして昴が本当に犯人なのか。

 連続殺人犯の正体は…?

●集合
 自分が犯人だと思い込み、床にへたりこんだ昴を目にしても何もできない草間に対し、アルバイト事務員のシュライン・エマはそんな彼を労うように背中をポンと叩いたが、何の言葉をかけることもできなかった。
「ノックをしたが、誰も来ないから勝手に入るぞ」
 ドアを開けると同時に声をかけ、黒冥月(ヘイ・ミンユェ)は興信所内に入った。
「昴が来ていたのか。何故、怯えている?」
「実はな…」
 冥月の疑問に草間が途切れ途切れながらも事のあらましを話す。
「成る程。だが、獣人が現れた時、昴は確かに寝ていた。それは私が保証する」
 獣と昴は同一人物であるとは考え難い、というのが冥月の意見だった。
「でも、その獣人が昴君という意見は捨て難いわ。蛍光塗料が付着したなら、殺害時に返り血を浴びているはず。昴君、そういうことはなかった?」
 シュラインの質問に昴はゆっくりと首を横に振る。
「それは考えられるな。昴が犯人だったら、汚れたら着替えをするか、処分するだろう。だが、昴はそれをしなかった」
「でも武彦さん、彼が犯人かもという説は考えられるわ」

 コンコンとドアノック音がした。
「邪魔するよ」
 入って来たのは昨夜の様子が気になり、興信所を訪れた雑誌記者の来生十四郎(きすぎ・としろう)だった。
「昴が来ているということは、何かあったんだな? 何があったのか説明してもらおうか」
「昴のTシャツを見ればわかる」
 冥月がそう言い、視線で昴の肩を指す。
「これは、昨夜俺が投げた蛍光塗料じゃないか。何故、昴に…」
 来生は一瞬戸惑いの表情を見せたが、塗料が必ず確証があると言えないと考えを改めた。
 考えていても埒があかない。行動を開始するしかないというのが草間の決断だった。
 そうと決まれば行動開始だ。草間が事務所の電話を取ると、ある場所にかけた。
「武彦さん、どこに電話を?」
「助っ人にだ。昴の力になるかもしれん」
 昨日の調査の時点で心の専門家がいないことを思い出し、心当たりのある人物に連絡を取ることにした。

 そんなことを知らない『門屋心理相談所』の所長で、臨床心理士である門屋将太郎(かどや・しょうたろう)はいびきをかいて寝て
いた。枕元に置いてある携帯がコール音を鳴らす。アラームが鳴るには早すぎる。身を起すと、渋々携帯を取った。
「…ふぁい、門屋です…って、誰かと思えば草間さんか。何? 俺向きの仕事があるからすぐ興信所に来いだぁ? 事情を話せ、事情を」
 草間は手っ取り早く門屋に事のあらましを伝えた。
「成る程…それで俺が必要なワケね。わかった、今行く」
 門屋は手早く身支度を整えると、眠い目を擦って朝食も摂らずに走って興信所に向った。

 その頃、溜息坂神社では、空木崎辰一(うつぎざき・しんいち)の式神である二匹の猫がにゃあにゃあ鳴いていた。
「どうしたんだい、甚五郎、定吉。何かあったのかい?」
 白黒ブチ猫の甚五郎はそれを無視して鳴き続け、茶虎仔猫の定吉は空木崎の足元に擦り寄りみゅ〜と一鳴き。
「草間さんのところで大変なことが起きている、だって?」
 二匹の猫の言葉は、主人である空木崎にしか理解できない。
「二匹が向いている方角は、草間興信所がある所だ。様子が気になるな…行ってみようか」
 神主装束から余所行きの服に着替え、空木崎は草間興信所へと向った。その後に続いてとことこと歩き出す二匹。

 三十分後、門屋と空木崎は、偶然興信所の前であった。
「将ちゃん、どうしてここに?」
「どうしてって、草間さんに呼ばれたんだよ。俺向きの仕事だからって。お前も呼ばれたのか?」
「僕はこの子達に導かれて来たんだ」
 足元の甚五郎、空木崎の肩に乗っている定吉が同時に鳴いた。

 こうして、先日の調査に関わったシュライン、冥月、来生。
 草間に呼ばれた門屋、偶然一件に関わることになった空木崎が興信所に揃った。

●談合
「草間さんから大まかに話は聞いたが、細かいことをもうちょい聞かせてくれないか? でないと、動きようが無い」
 門屋がそう言うので、調査に関わった三人が代わる代わる説明をする。
 毎週金曜日に無差別女性殺人事件。その曜日は昴のクラスメート、静が自殺した日。
 被害者達の共通点は、血液型は静と同じA型。
 事件現場は昴の家に比較的近い場所。
 それらのことを全て今回から調査に加わる門屋と空木崎に伝えられた。
「そういうことがあったんですか…。その事件のことは存じていますが、そのような裏事情があったとは知りませんでした」
「俺もだ」
 そういうことだからお前らも手伝えと、草間は話を進めようとする。
「冥月、獣人が出現した時、昴の様子はどうだったんだ?」
 来生が昴を見張っていた冥月に問う。
「さっきも言ったが、寝ていた。少し寝苦しそうな表情だったが」
 寝苦しい、ということは、あの悪夢を見ていたのだろうか。
「これは私の意見だが、昴は無意識のうちに内にいる獣が投影し、実体化した可能性も捨て切れないと思う」
「私も同意見ね」
 冥月の言葉に、シュラインが頷く。
「昴が何かに操られたか、乗っ取られた可能性も考えられるがな」
 二人の意見に、来生はこう付け加える。

「あんたらがどうこう言ってても埒が明かねぇだけだ。本人の口から直接聞いたらどうだ?」
 何を考えているのか、門屋は唐突にそう言った。
「何言ってるんだ、眼鏡。そんなことできれば苦労はしねぇだろうが」
 来生が吐き捨てるようにそう言うと、草間が間に入り「こいつならできる」と返答。
「臨床心理士で、スクールカウンセラーでもある門屋さんならできるかもしれないわね。頼んでもいいかしら?」
「ああ、任せな」
 シュラインの頼みに、大船に乗ったつもりでいなとニッと笑う門屋。
「お前さんが昴かい? 話…できるか?」
 門屋がそっと昴の肩に手を置くと同時に変化が起こった。昴の身体の震えが治まり、顔色が少しずつ良くなっている。
 昴は首を縦に振ると、ゆっくり立ち上がった。これなら、少しずつではあるが話が聞けるだろう。
「んじゃ、早速始めるか。辛いだろうが我慢してくれよ」
 昴を興信所のソファに腰掛けさせ、門屋はリラックスさせる。すると、ゆっくりと昴の瞼は閉じられた。
「催眠術で話を聞こうってのか?」
「そのようだな」
 同意見を口にする来生と冥月に対し、シュラインはその様子をじっと見守っていた。
 空木崎は幼馴染みということもあり、門屋のことを信頼している。

「まず、お前はクラスメートの静ちゃんが自殺したところを見たんだよな? その時の感覚はどうだった?」
「その質問なら、先日私がして、彼は答えたのだけど」
 門屋の質問にシュラインが口を挟むが、草間に「門屋なりの考えがあるんだ」と窘められる。
 その間、昴は重い口を開け、少しずつ話し始める。
「昨日も話しましたが…自殺した柏木さんの死体を見ていました…。その周りに散らばっていた鬼のような獣が描かれた絵も…。感覚は…自分が自分で無くなるような…そんな感じでした…。自分がその獣になったかのように…」
 疲れを見せ始めた昴を宥めるかのように、門屋は彼の肩を摩る。
「昨日言ってたことと違わねぇか? 自分が自分で無くなるなんてこと、言ってなかったぜ」
「昴が催眠状態にかかっているからだろう。それにより、昨日より明確なことが聞けるはずだ」
「そう思わせるくらい、静さんの絵はそれほどまでに素晴らしかったのでしょうね」
 空木崎を除く三人が思い思いの意見を述べるが、門屋はそれを無視し、話を再開した。
「次の質問だ。お前と静ちゃんの関係は」
「ただの…クラスメートですが…本当のことを言うと…彼女が好きでした…。でも…思いを告げる前に…彼女は…」
「そいつは辛かっただろうな。最後の質問だ。現場にいた時、様子がおかしい奴はいたか? これは重要なことだ。答えてくれ」
 だいぶ間を置き、昴はこう答えた。
「俺の担任で…美術部顧問の柳井先生…。先生は…彼女を見る目つきがおかしかったです…。好きな人をつけまわす…ような感じで…」
 昴と同じような感情を抱いていた、ということは…何らかの関わりがあるのかもしれない。これは思わぬ収穫であった。

●行動
「少しずつだけど、糸口が見えてきたわね。静さんの調査、二人の担任という柳井先生の調査、これが今日の仕事ね」
 シュラインの言うとおりだ。
「私は学校に行って情報収集をするわ。昴君も手伝って」
「ちょっと待て」
 昴を連れ出そうとする門屋が止める。
「その前にこいつと二人きりで話をしたいんだ。少し時間をくれ」
「わかったわ」
 門屋なりの考えがあるのだろうと思い、シュラインは反対しなかった。

「来生さん、お願いがあるのですが宜しいでしょうか?」
「何だい? 姉ちゃん」
「僕は男ですよ」
 初対面の人間には必ずと言っていいほど女性に間違えられる空木崎。大抵はへこむのだが、今はそういう場合ではない。
「冗談はそのくらいにしてください。あなたの手の臭いを嗅がせてはいただけないでしょうか? 蛍光塗料のボールを投げたのがあなたなら、あなたの臭いもするはずですよ」
 そういやそうだっけ? と、とぼける来生。
「いいぜ。って、お前が嗅ぐのか?」
「僕ではなく、この子達です」
 頼んだよと声をかけると、二匹は同時に臭いを嗅ぎ始めた。
「こいつらに臭い嗅がせて何がわかるってんだ? 警察犬代わりにすんじゃねぇだろうな」
 それに対し「その通りですよ」とニッコリ微笑む空木崎。
 二匹が臭いを嗅ぎ終えるのと同時に、外に出ていた昴と門屋が戻ってきた。

「皆さん、ご心配おかけしました。俺、一緒に調査します。このまま逃げていてはいけないと門屋さんに言われましたから」
 門屋の『癒しの手』のおかげで落ち着きとやる気を取り戻した昴が、調査の同行を自分から申し出るだけでも事件の解決になる。
「私は静の調査をしてみる。まだ私達の知らないピースがあるようだからな。来生はどうするんだ?」
「俺はシュラインと共に学校に行く。土曜で学校は休みだが、生徒や教師が何人かいるだろう。そこから何か聞き出せるかもしれねぇしな」
「そうか。では、私は先に調査に行く」
 冥月は単独で静の調査を行うことにした。
「空木崎さんはどうするの?」
「僕はこの子達と一緒に、臭いがする方向に行きます。わずかでも手がかりが掴めると思いますので。将ちゃんはどうする?」
「俺は昴について行く。パニック状態に陥ったら、落ち着かせることができるのは俺しかいないだろ」
「じゃ、私と来生さんと門屋さんと昴君は学校へ行くこと、に決まりね。空木崎さん、気をつけてね」
 お気遣いありがとうございます、とシュラインに礼を述べた後、空木崎は猫二匹と共に調査に向かった。

●聴取
 昴、シュライン、来生、門屋の四人は昴が通っている高校で調査を行うことにした。
「獣で想像するのは静さんの絵ね。学校にも同じ絵が描いてあるものがあれば良いんだけど。昴君は自殺時以外で見たことはあるの?」
「いえ、あれが初めてです。まるで本物のように、素晴らしい絵でした」
 本物のような絵、ということは、静にはそれだけ絵の才能があるのだろう。
「学校に行ったって大した収穫にはならないんじゃねぇか?」
 門屋はそう言うが、来生が言うように休みとはいえ部活をしている生徒もいて、職員室にも何人かの教師がいるだろう。
「まず調査するのは静さんに親密な人探しね。クラスにいなくても、美術部員で誰かいるかもしれないでしょう」
「それは俺も同感だ。けど、どうやって聞き込みするんだ? 個人的な調査ってワケにはいかんだろうし」
 う〜んと悩む二人。
「おい、俺の存在を忘れちゃいないか?」
 悩む二人の肩に手を置き突っ込む来生。
「ただ単に調査したら怪しまれるが、『子供の自殺についての取材』と称すりゃあ大抵のことは教えてくれると俺は思うが」
 雑誌記者の来生の意見は尤もであると判断した二人は、その案で調査を行うことにした。
 重い足取りで学校へ向う昴を力づけるシュラインと門屋の後に続いて歩いている来生は、どこかと連絡を取り合っていた。

「ここが、俺が通っている高校です」
 昴が通っている私立高校は、学問と芸術の二点では都内五指と言われているほどの学校である。
「この学校、毎年高校美術コンクールで賞を総なめにしてる芸術名門校じゃねぇか。これなら、静の絵の才能は納得できるぜ。ぼけっとしてねぇで、さっさと行くぞ。日が暮れちまう」
 来生に先導され、調査に取り掛かる。
「昴君、まずは美術室に行きたいんだけど。美術部の部室になっているのなら、作品は置いてあるはず」
「わかりました、案内します」
 昴の案内で校舎二階にある美術室へ向う。その途中、廊下で一人の教師とすれ違った。その教師は長身、眼鏡をかけた真面目な優等生とも思える雰囲気の男性だった。
 その時だった。

 ドクン!

 昴の心臓が高鳴った。
「大丈夫か? 何か息苦しそうだが」
 門屋が心配するが、昴は何でもないですと首を横に振る。
『まただ。また、柳井先生とすれ違うとこんなことに…』
 昴の目を見た門屋の頭にその声が聞こえた。彼は対象の瞳を見ることで他人の心が読める能力を持っている。
「門屋さん、ちょっと」
 シュラインが門屋の腕を引っ張る。
「昴に何か異変があった、って言うんじゃないだろうな」
「そのまさかよ。彼、さっきの教師とすれ違った時、普段より心音が大きくなっていたの」
 聴力が特に優れている彼女ならではの異変の気づき方であった。門屋も自分が聞こえた声のことをシュラインに話した。
「あの二人、何か繋がりがあるのかもしれないけど、それが何だかわからないのが口惜しいわ」
「それを今から調査するんだろうが」
 いつの間にか昴の横に立っていた門屋が「早く行こうぜ」と促す。
「ここが美術室か」
 来生がドアを開けると、美術室には何人かの生徒がいて、石膏像のデッサンをしていた。美術部の活動中らしい。
 こいつはラッキーだぜ、と思い、来生は早速一人の女子生徒に「取材で聞きたいことがある」と断ってから話を聞きだすことに。

「自殺した柏木さん? そうねぇ…美術部の中でも目立たない存在の子だったわ」

「あいつ、大人しいからあまり喋らないんだよ。でも、絵はものすごい個性的なんだ」

「自殺した時の絵、あたしも見たかったなぁ…」
 
 その場にいる美術部員に取材と称して聞き込みをしたが、似たり寄ったりな発言だった。
「静さんのスケッチブックとか作品は美術室に置いてあるのかしら?」
「美術準備室に美術部員のスケッチブックとかがありますから。そこに彼女のもありますよ」
 美術部員に礼を述べ、シュラインは美術部員の一人に案内されそこへと向った。
「どーよ、雑誌記者さん。何か収穫あったか?」
「うるせぇ、ほっ…」
 来生が全部言い終えないうちに、彼の携帯が鳴った。
「はい、来生」
「来生か? 草間だ。今、お前宛のFAXがうちに届いた。こりゃなんだ?」
「おっ、来たか。そいつのことは後で話す。破損させるなよ」
 ニッと笑いながら携帯を切った来生は何か手ごたえを感じたようだ。その様子を見て、門屋は収穫アリのようだなと思った。
 その二人に、スケッチブックを抱えているシュラインが駆け寄った。
「これが静さんが描いたラフよ」
 スケッチブックをペラペラと捲ると、そこには人物や風景画が描かれていた。どれもものすごく上手く、人物に至っては生き生きとしている。
「普通だな。これじゃ、何の手がかりにも…」
 門屋がそう言いかけた時、最後のページになった。
 そこに描かれたいたものは…角が生え、牙から血を垂れ流している体毛の長い獣人のような化け物だった。
「これが静さんが自殺した時に散らばっていたという絵…?」
「そのようだな。すげぇリアル…」
「呑気に感心してんじゃねぇよ、眼鏡。証拠としてこのページをお持ち帰りするぞ。一枚くらい無くてもばれやしねぇよ」
 来生はやや乱暴にそのページだけを取った。
「絵のほうは収穫アリだが、柳井って教師のことをまだ調べてなかったな」
「そうだったわ。昴君、職員室に案内して」
 一行は美術室から職員室へと移動した。

●疑問
「ここです」
 自分はここで待っているから情報を聞いてくださいと昴は職員室前で待つことに。昴一人では危ないと、門屋も残ることにした。
「それじゃ、私達で行くから。大人しくそこで待っていて頂戴」
「わかった」
 シュラインは「失礼します」と断ってから職員室のドアを開け、来生と共に中に入った。

「柳井先生ですか? 気分が優れないと今日はもう帰られましたが」
 教師の一人にそう言われ、一足遅かったかと思った二人。
「本人がいないんならかえって好都合だな」
「好都合って、どういうことよ?」
「それだけ、柳井の話が聞けるってもんだ」
 成る程、とシュラインは納得すると、その教師に柳井のことについて聞いてみた。
「柳井先生? あの先生は去年赴任して、今は二年A組の担任だ。といっても、産休代理でだけど。え? 生徒のひとりに特別な感情を抱いていないか? そう言われてもねぇ。あの人、女子生徒に大モテだからその中に誰かいるんじゃないかな」
 大人しい性格の静には、積極的に近づくのは無理だ。
「柳井は美術部顧問だが、美術教師なのか?」
 来生は教師に徐々に顔を近づけながら質問する。
「いや、国語教師だよ。美術部顧問は彼が自分からやりたいと言い出したって聞いたけど。趣味で絵画をやっているから大丈夫とか」

 ――美術部顧問を志願したのは、静に近づきたかったからか? 静が他の学校へ入学したらどうするつもり…。
    待てよ。あいつが静がこの学校へ入学することを知っていたら…。
   
「来生さん?」
 シュラインに揺すられ、来生はハッとなった。
「俺が考え事しているのがそんなに珍しいのかよ」
 まぁね、と答えるシュライン。彼女も同じ事を考えていたのかもしれない。
「帰るぞ。だいたいのことはわかっただろう」
「え? まだ…」
 まだ終わってないと言いかけているシュラインの手を強引に取り、来生は黙って職員室を出て行った。
「よっ、何かわかったか?」
 門屋に応えようともしない来生の表情は険しかった。
「興信所に戻るぞ。眼鏡、お前の連れの美人の兄ちゃんと冥月にすぐ興信所に戻れと伝えな」
 何がどうなっているのか理解できなかったが、門屋はすぐ空木崎と冥月に連絡することにした。
「あの…何かわかったんですか?」
「何が何だか私もさっぱり」
 首を傾げるシュラインと昴。

●検証
「おかえり、ご苦労だった。昴はどうした?」
「昴君は相当疲れていたようだったから、家に帰したわ。今日は事件が起こらない日だから大丈夫でしょう」
 そう答えるシュラインを目にし、草間は来生に彼宛にと送信されたFAX用紙を手渡した。
「それは何?」
「こいつについては後回しだ。んじゃ、調査の報告をしようぜ。まずはシュラインからな」
「仕方無いわね。それじゃ…」
 シュラインの報告は、静の絵を見た感想、柳井が自ら望んで美術部顧問になったこと、昴と柳井が同調したことの詳細だった。
「あの絵…凄まじいまでの気迫だったわ。今にも飛び出してきそうなくらいに。これがその絵よ」
「俺も見たが、本物かと思ったぜ」
 シュラインと門屋の絵に関する意見は同じだった。
「これはまた…迫力有りますね」
 覗きこむ空木崎が感心する。
「んじゃ、次は俺な。昴の話だと、担任の柳井って奴は、静ちゃんに恋心に近い感情を抱いていたようだ。調査に行く前に催眠療法で言っていた「好きな人をつけまわす」ってことは間違いない」
 門屋の証言も納得できる。
「僕の調査では、柳井先生が住んでいるアパートがわかりました。それと、静さんらしい制服姿の女の子が彼のところに訪ねていたという情報を隣の住人から聞きました。静さんらしい、というのが僕の推測ですが。事件が起きてから顔色が優れない、ゴミの量が増えたそうです」
 空木崎は静の外見を知らないので仕方が無い。
「ゴミが増えたということは、柳井が血のついた衣服を処分したということも考えられるな」
 草間の言葉を誰も聞いてはいなかった。それを無視し、冥月が報告をする。
「最後は私だな。静の日記に、鬼に襲われたとあったが、それは今回の事件の犯人ではないかと睨んでいる」
「鬼に襲われた?」
 草間、シュライン、門屋、空木崎の声が綺麗に重なった。
「嘘だと思うならこれを見ろ。静の日記だ」
 冥月を中心にし、皆で日記帳に書かれている内容と絵を見る。
「この『鬼』っつーのが静ちゃんを襲い、連続殺人を犯した奴だと言うのかよ?」
「ああ」
「それが今回の事件の犯人なのかしら?」
「そこまではわからんが、静が鬼に襲われたのは確かのようだ」
 冥月の言葉が元で、興信所は暫く静まった。
 連続殺人の犯人、昴の夢に出てくる獣、静を襲ったという鬼。皆、これらの関連性を推理しているのだろう。

「こいつで少し謎が解けねぇか?」
 沈黙を破るかのように、一服終えた来生が言った。彼が調査員達に見せたのは一枚のFAX用紙だった。
「これ、戸籍謄本のコピーじゃない。しかも柏木家の。どうしたのよ!」
「俺の仕事にも守秘義務ってヤツがあるから詳しいことは言えねぇが、柏木家の戸籍謄本を役所で知り合いに調べて来てもらったんだよ。今日は土曜で役所は閉まっているからな」
 そのことで電話してたのか、こいつ、と門屋は納得していた。
「それがどうしたというんですか?」
「良く見ろ。何か気づかないか?」
 空木崎が目を凝らして良く見ると、戸籍には離婚したことも記されていた。
「静さんのご両親は離婚されていたんですね」
「ああ、そうだ」
 冥月は一呼吸し終えると、皆に伝えた。
「柏木静、両親が離婚する前の名は…柳井静」
 その一言で明らかにされたのは…柳井と静は血の繋がった兄妹であるという事実だった。
「柳井って、担任の柳井先生のことですか?」
 空木崎の問いに頷く冥月。
「静ちゃんと柳井の関係はわかったが、昴は関係ねぇんじゃないのか? 親戚ってのなら話は別だが」
「静の母親の戸籍を良く見な、眼鏡」
 来生が門屋の目の前にFAX用紙を突き出す。目を凝らして良く見ると…。
「静ちゃんの母親と柳井は姉弟だったのかよ!?」
「そういうこった。年齢はかなり離れているがな」

 これで、謎が一本の線に繋がった。
「次の金曜日で決着をつけよう。昴のためにも」
 草間の宣言に力強く頷く五人と二匹。

 後は、連続殺人事件に終止符を打ち、事件を解決させるだけとなった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
2778 / 黒・冥月 / 女性 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒
0883 / 来生・十四郎 / 男性 / 28歳 / 五流雑誌「週刊民衆」記者
1522 / 門屋・将太郎 / 男性 / 28歳 / 臨床心理士 
2029 / 空木崎・辰一 / 男性 / 28歳 / 溜息坂神社宮司

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■         ライター通信          ■
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ライターの火村です。
『自分が殺人を犯したのか 真相篇』のご参加、ありがとうございます。
門屋様、空木崎様、シリーズ初ご参加、ありがとうございます。

真相篇では、皆様、独自の調査を行うという方針でしたので調査が捗りました。
前作の調査篇で明らかになっていない謎が、今回で解けました。
今回は一部個別になっていますので、他の方の作品を読まれると話が繋がります。

>シュライン・エマ様
前回に引き続きのご参加、ありがとうございます。
今回は能力について触れてみましたが、いかがでしょうか?
姉のような心情で昴と接しさせてみました。

次回でも皆様に会えることを楽しみにしております。