コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


過去ノ爪痕



◆□◆


 吹き飛ばされる小さな身体。
 舞い散った赫い雫。

 振り払った手に走った痛みは、今もまだ・・・残っている・・・

 ねぇ、貴方はあの時、どんな気持ちだったの?
 その小さな身体で

 必死に、私に助けを求めていたのかな・・・・・・・??


◇■◇


 夢幻館へと向かう道すがら、上空を見上げれば厚い雲が覆っている。
 なんだか寂しい空模様に、樋口 真帆は歩く速度を速めた。
 早く、あの人達に会いたい・・・。
 あの不思議な雰囲気の中、華のように微笑む少女に会いたい。
 会って、取りとめもないお喋りをして・・・こんな憂鬱な天気だからこそ、いつだって季節に関係なく花開くあの場所が恋しいんだ。
 十字路を曲がり、数件の民家の前を通り過ぎる。
 段々と濃くなっていく不思議な雰囲気は柔らかく、包み込んでくれるような温かさがあった。
 暫く歩けば目の前に巨大なお屋敷が姿を現し、門から中を見れば玄関まで真っ直ぐに1本の白い道が通っている。
 道の両脇に咲く花々は今日も狂い咲いており、季節を違えて咲くからこそ、色鮮やかだ。
 ふわりと百合の匂いが香り、辺りを見渡せども百合の花は見つからない。
 蒲公英にチューリップ、薔薇が毒々しいまでの赤い色を発している。
 けれど、百合の香りが広がるばかりで薔薇は一向に香ってこない。
 真帆は暫く薔薇の前で立ち止まった後で、真っ白な道を進んだ。
 そう言うものなのだと、どこか妙に納得したまま両開きの扉を押し開ける。
 キィっと言う甲高い蝶番の悲鳴が耳に突き刺さり、ほんの少しだけ眉を顰めるとするりと中に入り込む。
 右手にはホールへと続く扉、目の前には階上へと続く階段。
 左手には奥へ長く続く廊下が見え、ズラリと並んだ扉はどれも同じ姿・・・。
 足元に敷かれた絨毯は、先ほど見た薔薇と同じような色をしており、血を吸い込んだように赤い。
「すみませーん」
 真帆は遠慮がちに奥に声をかけた。
 けれどそれは、シンと静まり返った屋敷の中に広く響き、やがて壁に吸い込まれた。
 ・・・誰も居ないのだろうか?
 思わず首を傾げて誰か出てこないか待ってみる。
 この館が無人だなんて、珍しい。いつもは誰かしらがいて、明るい声が響いているのに・・・。
 左手からも階上からも、誰かがやってくる気配はなかった。
 真帆は少しだけ悩んだ後で、左手の扉を押し開けた。
 きっと、直ぐに誰かしら帰ってくるだろう。
 それまでホールでゆっくりしていて・・・そうだ、帰って来た人のためにお茶を用意しておいたほうが良いかも知れない。
 ドアノブを右に回し、押し開ける。
 ガランとしたホールの中にはやはり誰も居なく、無人のソファーがだらけた様子で横たわっている。
 キッチンの方にも人の気配がなく・・・・・・・・
「あれ?」
 見慣れたホール。その中に、1つだけ見慣れないモノがあった。
 丁度今入ってきた扉の真正面、夢幻館に数多にある扉と微塵も変わらない扉・・・。
 しかし、その雰囲気は異質と言っても過言ではなかった。
 きっと、全て知っている見慣れたものの中で・・・1つだけ、毒が入っているからなのだろう。
 真帆はツっとその扉の前まで歩くと、金色に光るノブに触れた―――――
 その瞬間、パチっと何かが真帆の手に流れた。
 静電気だろうか・・・?
 あまり深くは考えずに、真帆はノブをゆっくりと押し下げ、扉を押した。

  その扉は夢幻館にある数多の扉と同じような扉だけれども・・・
  違う部分が1つだけあった
  それは言われて初めて気付くもので
  あまりにも小さなその“印”は見え難く―――

    鍵穴の部分に悪魔の羽のマーク

  夢幻館にとって“悪魔の羽”が示すのは・・・・・・・・・


◆□◆


 部屋の中に入った瞬間、扉が閉まった。
 パタンと微かな音を立てて閉まる扉に一抹の不安を覚えた真帆は、慌ててノブに手をかけ―――


   巨大な爆発音、断末魔のような・・・仔猫の悲鳴・・・


 あの時の真帆はまだ小さかった。
 小学校に上がる前、河川敷で見つけた捨て猫はまだ仔猫で、真帆はその仔を内緒で飼うことにした。
 初めて手にする弱者の温もり。
 甘えるように擦り寄ってくる、愛らしい仔猫・・・。
 けれど、仔猫の世話なんてきちんと知っていたわけもなく、日に日に仔猫は弱っていった。
 哀しみと、切なさと、自分の無力さに対する憤り。
 ・・・仔猫が起き上がれなくなった日、真帆は家から魔法のカードを持ち出した。
 これがあれば助けられるはず・・・それは、一筋の希望だった。
 ・・・しかし・・・希望はすぐに打ち砕かれた。
 魔力を身に宿した仔猫は、真帆に襲い掛かった。
 低い唸り声をあげ、元の体よりも何倍も巨大になって・・・
 ―――それは、自分を捨てた人間への憎しみだったのかも知れない。
 けれど、もしかしたら・・・・・・・・
 本当は、苦しくて辛くて・・・助けて欲しかったのかも知れない。
 走ってくる仔猫の顔は今では狂気を含み、幼心に真帆は恐怖を感じた。
 怖い・・・怖い、怖い・・・!!
 目を閉じ、祈るように心の中で言葉を紡ぐ。
 恐怖で暴走した魔法は爆発し、小さな命を奪うには十分だった。

 スローモーションで、まるでコマ送りのように流れていく映像。
 吹き飛ばされる小さな身体、舞い散った赫い雫。
 振り払った手に走った痛みは、今もまだ残っている・・・。

 切ないまでに必死に伸ばした手を、真帆は振り払ってしまった。
 だからこそ、これは・・・決して消えない傷。
 真帆は無意識のうちにぎゅっと両手を握り締め、目の前で繰り広げられた幼い日の記憶の映像に・・・ただただ、見入っていた・・・。


◇■◇


 パチンと軽い音がして、映像が掻き消えた。
 目を閉じて、思い出すのは・・・柔らかい毛並み、温もり、甘えるように発せられた声・・・。
 心の中では幸せなあの日のまま、あの仔は今もなお、真帆の心で生き続けている。
「誰かと思えば、泥棒じゃないだけマシ・・・かな」
 カタンと言う音と共に、暗がりの中から1人の少年が姿を現した。
 酷く整った顔立ち、冷たい瞳―――――
 この館で、現の世界を司る1人の少年だった。
「あんた、ここに何度か来てたよね?もなと、仲が良かった覚えがあるんだけど?」
「はい・・・」
 初めて見る、夢宮 麗夜の姿に、真帆は驚いた表情で立ち尽くしていた。
 あまり表に出ない人だと聞いていたのだが・・・・・・・
「よくもまぁ、こんなクソつまんない部屋に入ったもんだね。すっげー物好き」
「あの、好きで入ったわけじゃ・・・」
 外見と中身のギャップに、真帆は思わず面食らう。
 繊細そうな美少年風の外見と違い、中身はとんだ俺様だ。
 本来ならば彼は丁寧な言葉遣いで、挙句人には『様』をつけて話すのだが・・・
 出会いが出会いなだけに、麗夜の気分がそがれてしまったらしい。
「あんた、名前は?」
「樋口 真帆って言います」
「あ、そ」
 自分から聞いたくせに、まったく相手にしていないような返事をすると、クルリと真帆に背を向けた。
 何時の間にか開いていた扉から外に出て・・・
「まだそん中にいる気?」
「いえ・・・」
 真帆は一度だけ消えたスクリーンを見た後で、扉の方へと走って行った。
 バタンと言う音と共に、扉はまるで壁に吸い込まれるように消えてしまった。
「ま、知っちゃったもんは知っちゃったもんだからさ」
「はい」
「別に誰に言う気もないし。あんたも、今日あったことは忘れれば・・・」
「いいえ、忘れません」
 キッパリと言い切った真帆の言葉には、迷いと言うものが窺い知れなかった。
 麗夜が不思議そうな表情で真帆の顔を覗き込む。
「・・・もう、後悔はしたくないから・・・」
 淋しげに笑う。
 麗夜の表情は変わらない・・・ただ、真帆の思い違いでなければ、冷たく光る両の瞳がほんの少しだけ・・・優しくなったように思う。
「あの、お茶でも・・・一緒にいかがですか?」
「お茶ねぇ、いーんじゃん?丁度新しい葉を入れたらしいし」
「本当ですか?」
「あぁ。つか、そんなことで嘘ついたって仕方ないし」
 麗夜はそう言って真帆の手を引き、トンと椅子の上に座らせるとキッチンへと入って行った。
「あの・・・?」
「俺がお茶の用意するから、あんたはそこで待ってろよ」
 カチャカチャと、ガラスがぶつかる繊細な音が響く。
「まぁ、あんたが・・・真帆が忘れない限り、あの猫はずっと生きれるだろ?」
 お湯が沸く音に隠れるように、小さな麗夜の声は、それでもしっかりと・・・真帆の耳まで届いた―――




   夢幻館にとって、悪魔の羽が示す意味は

         『戒め』

   この部屋を創った人が、他の住人に送るメッセージ



   この部屋を創ったのは

            ダレ・・・・・・・・???



               ≪ E N D ≫



 ◇★◇★◇★  登場人物  ★◇★◇★◇

 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


  6458 / 樋口 真帆 / 女性 / 17歳 / 高校生 / 見習い魔女


  NPC / 夢宮 麗夜


 ◆☆◆☆◆☆  ライター通信  ☆◆☆◆☆◆

 この度は『過去ノ爪痕』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
 そして、いつもいつもお世話になっております。(ペコリ)
 お相手が麗夜で、普段の口調にしようか“こちら”の口調にしようか散々悩みました。
 ただ、普段の口調はどこかうそ臭いので、あえてこの口調で執筆させていただきました。
 過去を自分の一部として大切に持って未来へと向かおうとしている真帆様。
 素敵だなぁと思いました。
 そんな素敵な真帆様と反比例するかのように、麗夜の慰めは微妙でした(苦笑


  それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。