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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


蒼天恋歌 3 穏やかなる幕間

 レノアがあなたの家に匿われてからしばらくたった。これといって大きな事件もなく平和に過ぎ去る日々。
 彼女は徐々に明るくなる。元からの性格がそうだったのだろうか。
 美しい顔立ちが、明るくなった性格に相まってきて、どきりとする時がある。
 其れだけに美しい女性である。
 ある日のことだ。彼女は歌を歌っていた。ハミングを口ずさむ。
 名前以外知らなかったはずなのだが、調べていくと、歌が好きだと言うことを思い出したという。気持ちよい歌。しかし、其れだけでは手がかりにならない。
 また、ある日のこと。
「いつも、いつも、あなたにお世話になりっぱなしです。出来れば恩返しをさせてください」
 と、申し出るレノア。
 あなたは、申し出を断るかどうか?
「たまには外に出かけてみようか?」
 と、あなたは言う。
 うち解けてきた彼女は、にこりと笑って付いていく。まるで子犬のように。

 色々探さなければならないことはある。しかし早急にするべきではなく、非日常から日常へ少し戻ることも……必要なのであった。

 様々な彼女とのふれあいで、心惹かれ合い、そしてその日々を楽しいと感じることになるだろう。



〈公主の視点〉
 さて、私はこの先どうするべきか? レノアを匿い、今に至るのだが、とんと事件らしきことはない。些細な事で、笑い、私より文明の力を知らないレノアが愛おしく感じる。私は、元は一人っ子故か、妹という存在が欲しかったのかもしれない。
 今日は、レノアが私と未刀に何かお礼をしたいと、言ってきた。匿っているだけであるし、事件らしきこともないのだから、別に恩返しは後で良いのだが。どうも、何かしないと落ち着かないのだろう。
「ふん、ふん、ふん〜」
 鼻歌を歌いながら掃除をしているのだが、どんどん散らかるというのはなぞめいている。掃除機はホースのところで大きなゴミがつまり、洗濯機のコントロールパネルは……、放電して大破……私も過去にはこういうドジはしていたかもしれないが……いや、もっとましだった。
「レノア、レノア、もう良いから……」
 と、思わず怒りそうになる。
「……! あう、あう……!」
 私の言葉に気づき、惨状をみたレノアは驚いた。
「ごめんなさい。ごめんなさい……わたし、わたし、役立たず、です」
 レノアは、涙ぐんで私に謝った。
 彼女は怒られると、自分が役に立たないと思い、落ち込みやすい。
 なだめながら注意する。かなり苦労する。しかし、その苦労もまた、うれしい気分にさせるという、不思議な感じだった。
「いや、気持ちだけで十分だ。だからゆっくりしよう、な?」
 と、泣いているレノアの頭を優しく撫でる。
 暖かく、絹糸のような綺麗な金髪が、私の手の中にあった。

 ちなみに未刀はバイトでいない。必然的にレノアと二人と昼を取る。
「お肉食べられないのですか?」
 レノアは小首をかしげた。
「まあ、そう言う仕来り……制限がある。禁を破ると力がなくなるのでな」
「大変ですね。好き嫌いでなくそう言うことで……」
 むぅと唸っているレノアがいる。
「む? 私は別にお前もつきあって食べては行けないとは言っていない」
「でも、同じものが食べられないのは哀しいです……」
「ありがとうな」
 とても優しい心の持ち主と私は思う。
 わたしは、その日々を癒されていた。

 もちろん、未刀も彼女との関わり変わってきているようだが……。なんというか、その、私にとってはうれしく無いというか複雑な気持ちなのだ。
 レノアと未刀は大の甘党だ。なので、未刀が買ってくるケーキなどに目を光らせる。前に例の事件にてレノアが西洋の天使の翼を出した時を思い浮かべるが、今では幻影として、頭に犬耳、おしりに犬尻尾がでて、尻尾を振っている状態にしか見えない。
「ただいま〜。龍華、レノア」
「お帰り、未刀」
「衣蒼さん、お帰りなさい! おつかれさまです! 今日はどんなケーキなのですか?」
 子犬が未刀の所に向かう。尻尾を振って。
「ただいま。チーズケーキにモンブランだよ。夕ご飯が終わってしばらくして食べよう」
「はい!」
 甘味だけでこうも、元気になるというのは単純なのかそれとも……、と思いながら。未刀もレノアと楽しそうにケーキ談義に花を咲かせるというのが悔しかった。
 あまり、こんなに楽しく話している未刀の顔を見たことがないので、尚更だった。
「? どうした? 龍華? ……怖い顔して」
 と、未刀は私の顔を覗くのだが。
「な、何でもない……お湯を沸かしてくる」
 と、拗ねて席を外してしまう。
「どうしたのでしょう?」
 首をかしげるのはレノア、と未刀だった。
 ああ、天然というか鈍感というのが恐ろしい。レノアは気が付かなくても(いや、気が付いて距離を置いて欲しいが……いやいや)、未刀……。
 おそらく私の霊質は……嫉妬属性になっているだろう……むうう。
 
 そんな日々が続いて、夏が来た……のだ。
 これといった手がかりもなかったが、彼女が日に日に元気なることがとても良い。歌も上手く、良く鼻歌を歌っているのだ。
「さて、服も夏物にしなければいけないのう……」
 と、レノアと未刀がTVを見ているときに、洗濯を干している私が言った。
「ああ、夏物がいるかぁ……」
 未刀はうーんとうめいている。
 彼にとっては、何とも居づらい空間になるらしい。過去に何度かそう言う経験をしているので尚更なのだろう。また、レノアの方向音痴の激しさが、其れを物語っている。はぐれようモノなら二度と探し出せないほどの危険度も持つと、おもう。
 しかい、私のサイズも合わないし、彼女も好みがあるだろう。それに未刀の服も買い足さなければならないのだ。
「それに、海水浴の時期だから、私は新しい水着も買いたい」
「そ、其れは……まあ、いいけどさ。二人で行ってくればいい」
 よほど、行きたくないのか。
「私、お二人と一緒に行きたいです」
 レノアが言った。
「むむー」
 未刀がまた考え込んだ。
 結局、未刀はため息を吐きながらも、私とレノアを引っ張って、ショッピングモールとやらに連れて行ってくれるのだ。


〈未刀弄りとレノア〉
 シッピングモールを見て驚くレノア。彼女はそのまま走り出しそうだったので、私と未踏は彼女の手を掴んで話さなかった。
「あう、あう」
「私と未刀から離れては行けない。分かった?」
「は、はい」
 耳と尻尾を垂れて、しょんぼりするレノア。
 記憶を失っているためなのか、精神年齢が低くなっているのだろうか? それが保護欲をかき立てる。
「さて、服を見てみるかのう」
 私は未刀をみて、にやっと笑った。
 未刀はむぅと唸るだけ。
 レノアの方は、お洋服♪ お洋服♪ と楽しそうだ。
「レノアには露出の高いモノが良いだろう」
「龍華、それは、あんたの趣味だろう」
「え? そうなのか? 否違うぞ?」
「余り恥ずかしいお洋服は。でも、公主さんが言われればその試着はしてみます」
 レノアは真っ赤になって答えている。
 
 カジュアルの洋服店で、これかあれかと私は悩んでいる中、レノアも昔の記憶(自分が何者なのかではなく、生活習慣のもの)を思い出したのか、自分で好みのモノを探している。
「レノア。其れが好きなのか?」
「うーんと、これも良いなぁ。でもあれもいいなぁ。と公主さんはどう思います?」
 と、困った顔をしている。
 未刀の方は全く暇そうだ。其れもそうかもしれない。世俗の男性というモノは、女性の買い物を待たされるのは苦痛でしかないらしい。困ったモノだ。
「ふむ、試着をしてみるのが良さそうだのう」
「はい♪」
 と、早速試着してみる。
「未刀、未刀」
「なんだよ?」
「レノアの服に合うか見てくれぬか?」
「む」
「私のも、な? あとで、未刀の分も買うからがまんしてくれい」
「ああ」
 何か面白なさそうだ。
 まあ、存分にからかってやろう。
「どうじゃ、これは似合うか?」
「未刀さん……見てください」
「う、うう……」
 と、どんどん試着しては未刀に評価して貰う。
 未刀が困った顔になっていくのが楽しかった。
 レノアの方は本当に可愛いか綺麗かを悩んでいたようだがの……楽しそうだった。


 そうこうして、私とレノアと未刀は近くの喫茶店でケーキセットを頼んでいた。
「あの、わたし、ああいうのは行けないと思います」
「激しすぎ……」
「うう、二人に言われると、困ったのう」
 つまり、私の趣味というのは二人にとって露出が激しく、恥ずかしい部類にはいるらしい。私は青いもので、レノアには暖色系のビキニを買ってあげたのだ。試着をして、未刀の反応はもう茹で蛸の顔になったのは言うまでもない。
「二人きりなら良いけど……さ……」
 と、未刀のつぶやきが聞こえるわけだが、今はからかわずに……本当に二人きりの時に……。おっと、レノアの方は。
「未刀さん、あの、ありがとうございます」
「いや……本当に似合っている」
 し、しまったー!
 未刀とレノアに友好モードが! 
 レノアが尻尾を振っている!
 心の中で嫉妬が燃え上がる!
 いや、まて、今は我慢だ、むむむ。私はここまで嫉妬深かったのか? むぅ。
 レノアの心を凍り付かせることは行けないのだ。うん。
 ウェイトレスがケーキを持ってきたので、甘党は黙々食べ始めた。本当に幸せそうである。私は茶を飲んで、二人を見ていた。
「これ、レノア。口にクリームが付いている」
「あう、恥ずかしい」
 まったく、世話が焼けるというか。
 可愛い妹だのう。
 未刀は私とレノアのやりとりを優しそうに眺めていた。

「公主さん、ありがとうございます」
 レノアは本当に感謝の意を込めた礼を言ってくれた。
 何も出来ないでいる彼女は、何かをしたいと思っている。私はしなくて良い、と思っているが……。彼女が望むならまた何か一緒に出かけたいし、彼女が出来る範囲で恩返しをして貰おう。
 服をたくさん買い、甘味を食べ、私と2人はとても満足して歩いている。見た感じでは仲良し3人組なのか気になるが、かなり異色の取り合わせなのだろうか? 


 楽しい日々が、続いて欲しいと切に願う。

4話に続く

■登場人物
【1913 麗龍・公主 400 女 催命仙姑】

■ライター通信
 滝照直樹です。
 『蒼天恋歌 3 穏やかなる幕間』に参加してくださりありがとうございます。
 あと、一瞬の嫉妬が命取りですので、心の中で悶えている公主さんを描いてみました。基本シリア巣の世界では例の小麦色は出ないので、アレにからかわれず済んだのが幸いでしょう。仲良く買い物できて良かったのでした。
 4話は再びシリアスに! 行動によって戦闘、例の謎の男が出ます!
 又の機会にお会いしましょう♪

 滝照直樹
 20060725