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<東京怪談・PCゲームノベル>


今夏限定海の家、銀 〜浴衣を着て〜




 張り紙には扉を開けたら海。
 その言葉に首を傾げつつ、海原みなもはゆっくりと、その扉を開けた。
 そして視界に広がったのは眩しい日差し、白い砂浜。そして耳に響くのは波の音。
「……海、ですか」
 ぱちくり、と一度瞬いて、扉の向こうへとみなもは足を踏み入れる。
「あ、こんにちは、みなもさん」
 そんな海で、最初に出会ったのは雑貨屋の店主、奈津ノ介。
 何時もと変わらぬ笑顔を向けてくる。
「こんにちは。えーっと……蝶子さんいますか? この間のお礼にぜんざい作ってきたんです」
「はい、奥でごそごそしてますよ」
「そうですか……特別暇って訳でもありませんけど、お手伝いしましょうか? 色々とお世話になっていますし、これも何かの縁ですし」
 少し寂しそうな表情で、みなもは言った。
 何かしていれば、気がまぎれるだろうという思いもあった。
「本当ですか? それじゃあ……蝶子さんのお手伝いをお願いします」
「蝶子さんの……はい」
 ぺこっと頭を下げて向かう海の家の中。みなもの手には鍋がしっかりと。
 その中には、ぜんざい。
 海の家の奥に部屋は一つ、座敷があった。そこを覗き込むとなにやら浴衣が多々広がっていた。
 みなもは蝶子を、呼ぶ。
 その呼びかけにぱっと蝶子は顔を向けてにっこりと笑みを返した。
「あ、みなも君! いらっしゃいなのじゃ」
「何をなさってるんですか?」
「うん、浴衣の整理をしようと思って広げたのじゃ。で、広げているうちにどれが似合うかな、と考え始めてこのありさまなのじゃ」
 あがっておいで、と手招きをされみなもは畳の上へ。
 鍋は傍らに。
「浴衣……」
「そうだ、折角だからみなも君も着るといいのじゃ!」
「着て、いいんですか?」
「良いのじゃ、服が海くさくなるのはいやじゃし」
「確かに塩がふいてしまって、洗濯が大変になってしまいますよね。できれば蝶子さんに見立ててもらえると嬉しいですけど……」
 広がった浴衣を見回しながらみなもは言う。すると蝶子は嬉しそうに、みなもにあう浴衣をとっかえひっかえ、探し始める。
「うーん、折角じゃから、髪の色が映える浴衣にするのじゃ。んー白地に青……みなも君、好きな柄とかあるじゃろうか?」
「え……っと、それと……こういうのも……」
 問われて、広げられた浴衣を数枚指差しながらみなもは答えた。
「なるほど……ありがとうなのじゃ」
 みなもの示した浴衣を参考に、コレは違うアレは違う、と蝶子は浴衣をより分けていく。
 てきぱきとしていく蝶子をじーっと、みなもは見つめる。
 どうも自分は、年上の、しっかり落ち着いた、それか意志の強い女性を好む傾向があるな、とぼんやり感じた。
 みなもの視線に気がついて、彼女はどうしたのじゃ、と優しく問う。
「え」
 その問いにきょとん、とするみなもに蝶子は笑いかけた。
「私をぼーっとじーっと見てたじゃろ? だからどうしたのかなーと……あ、もしかしてこの浴衣は駄目!?」
「あ、そうじゃなくて……」
 少し不安、という視線を向ける蝶子に、みなもは思っていたことを話す。
「あ、好むって言っても百合じゃあありませんよ。なんとなく……甘えやすいといいますか」
 少し困りつつ、言葉を捜しつつみなもは言った。
 その言葉を真っ直ぐに受け止めて、蝶子は理解する。
「恋愛感情じゃなくて、でも好き。甘えやすい……おねーさん、みたいな感じじゃろうか?」
「うーん、近いといえば、それかもしれません」
 その言葉に蝶子は嬉しそうに頷いた。
「うん、何かあると私を頼るとよいのじゃ。私もそれが嬉しいのじゃ」
 その言葉にみなもは、少しはにかんで頷く。
「ということで、みなも君はこれを着るのじゃ!」
 じゃーんと広げられた浴衣は白地で、裾は薄藍に染まっていた。そしてそこにさらに濃い藍で縦にすっと、模様が入っている。それは菖蒲柄。
「髪の色と合わせて……いっぱい模様があるよりもこっちの方が似合うと思うのじゃ。帯は……これ、へこ帯!」
 差し出された帯は臙脂色。
「今男どもはおらぬのじゃし、ぱぱーと着てしまうのじゃ、ほらほら」
 周りを確認して、蝶子はみなも制服を急かすように脱がす。
 そしてあっという間に浴衣の着付けは完了。
「似合っているのじゃ、大満足」
「そうですか?」
「うん」
 自信満々に蝶子は頷く。そして自分も手早く浴衣を着る。
 彼女は黒地に主に黄色で、水の波紋を模したような柄に、その黄色より濃い黄色の帯を結んで。
「さて、あとは浴衣を片付けて」
「お手伝いしますね」
 浴衣を二人できちんと片付けて、二人の周りはすっきり。
 と、蝶子の目にみなもがもってきた鍋が映る。
「みなも君、お鍋の中は何がはいってるのじゃ?」
「中はぜんざいが。ちゃんと切り餅もあります」
「ぜんざい……お仕事終ったら食べるのじゃ」
「お仕事、ですか?」
 蝶子は頷き言葉を続ける。
「浮き輪にしゅこしゅこ空気を入れるのとちょっとお皿を洗うだけなのじゃ」
「それなら、私もできる範囲でお手伝いします」
「それは助かるのじゃ!」
 そして二人はまず最初にしゅこしゅこと空気入れを使って浮き輪を膨らます。途中まで他のものがやっていたらしく個数はそんなになく、すぐに終った。
 そして皿洗い。
 洗うといっても、山のようにあるわけではなく。
 洗って、すすいで、と分担をして進めると速い。
「みなも君がいてくれて助かったのじゃ」
「そうですか? それなら良かったです」
「うん、ありがとうなのじゃ」
 洗う手は止めず、みなもに笑いかける。
 みなももそれに、笑い返す。
「最後の一枚なのじゃ」
「はい」
 きっちり最後までやり遂げて、そして蝶子は言う。
「さー、みなも君が作ってきてくれたぜんざいを食べるのじゃ」
「じゃあ切り餅焼いて……」
「今度は私がみなも君を手伝う番じゃな」
 そうして、海の家の厨房で、みなもの持ってきた鍋を火にかけ、その隣では網を出して餅を焼いて。
 餅の焼ける匂いと甘い匂いに誘われて、他の面々も集まってくるのは、この少し後。



<END>




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【1252/海原・みなも/女性/13歳/中学生】


【NPC/蝶子/女性/461/暇つぶしが本業の情報屋】

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■         ライター通信          ■
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 海原・みなもさま

 お久しぶりでございます、ライターの志摩です。
 ぜんざい所持でいらっしゃいませ! お手伝いも有難うございました!
 のんびりだらだら開店中の海の家は……これからものんびりだらだらです(ぇー!)また遊びに来て、浴衣をきてぶらぶら散策、なども楽しいかもしれません。
 ではではまたどこかでお会いできれば嬉しく思います!