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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


蒼天恋歌 3 穏やかなる幕間

 レノアがあなたの家に匿われてからしばらくたった。これといって大きな事件もなく平和に過ぎ去る日々。
 彼女は徐々に明るくなる。元からの性格がそうだったのだろうか。
 美しい顔立ちが、明るくなった性格に相まってきて、どきりとする時がある。
 其れだけに美しい女性である。
 ある日のことだ。彼女は歌を歌っていた。ハミングを口ずさむ。
 名前以外知らなかったはずなのだが、調べていくと、歌が好きだと言うことを思い出したという。気持ちよい歌。しかし、其れだけでは手がかりにならない。
 また、ある日のこと。
「いつも、いつも、あなたにお世話になりっぱなしです。出来れば恩返しをさせてください」
 と、申し出るレノア。
 あなたは、申し出を断るかどうか?
「たまには外に出かけてみようか?」
 と、あなたは言う。
 うち解けてきた彼女は、にこりと笑って付いていく。まるで子犬のように。

 色々探さなければならないことはある。しかし早急にするべきではなく、非日常から日常へ少し戻ることも……必要なのであった。

 様々な彼女とのふれあいで、心惹かれ合い、そしてその日々を楽しいと感じることになるだろう。



〈さて、でかけましょう〉
「御恩返しさせてください」
「えっと……其れは気持ちだけでいいから……あなたはいま狙われているし、すべてが終わってからで良いですよ」
 私、静修院樟葉はレノアの言葉に苦笑した。
 ずっと、守って貰っているからとか、色々お世話になったからということで、何か役に立ちたいとか思っていたのだろう。しかし、彼女の特性といいますか特徴は分かっているので、下手にがんばって貰うとトンでもないことが起こりそうです、はい。
 つまり、彼女はとてもドジ……。出かけることをしばらくとまどっていたのは、まあ、あの敵がいつ現れるか分からないこともありますが、彼女が極度の方向音痴かとおもったからでして、しかし、こうも家に閉じこもっていると、ストレスになるのは確か。私も仕事の方が気になります。祐子だけで大丈夫かどうかも心配です。あの子は結構人見知りが激しいから。
 彼女は、あの事件からしばらくあって明るくなった。ドジはかなりモノだけど。電子機器は極力触らせないようにしているけど……。ああ、お気に入りのパソ子さん2号機が大破したのは涙を誘ったわ……。どうして、漫画みたいに壊れちゃったのかしら? そう、ボム! っと……。
 気が付けば気持ちよい晴れ空。紫外線など気にする達じゃないから良いけど。私は妖魔だし。
「でも、気持ちよい晴れ空だとお出かけした方が良いですね」
「?」
 レノアは首をかしげている。
「おでかけですか?」
「そうです。お出かけです」
 にっこり微笑むと、レノアはにこやかに笑った。
「おでかけですか〜♪ いきたいです」
「きまりですね。あ、これとこれを着てね。日差しはきついから」
「はい!」
 彼女の頭の中はさっぱりと、恩返しが消えていた。
 ああ、単純出よかったと思う。
「どこか行きたいところはあります?」
「えーっと、私はこの辺分からないですから、樟葉さんにお任せします」
「んじゃ、一寸先に仕事場よってもいいかしら?」
「はい」
 考えてみれば、数日後、棚卸しじゃなかったかしら? まあ、ちょうど良いから簡単にやっておこう。
 と、私はレノアの手を引いて、〈めいどあいらんど〉2号店にむかったのでした。


〈めいどのあくまと初代メイド魔神の暴走〉
 私は内藤祐子です。
 えっと、樟葉産がいないので今の〈メイドアイランド〉2号店を任されています。本店には色々なお客さんがいましたけど、いまはこれといって少ないです。確か色々なお客といっても、ここの可愛いメイド服を着られる方もいましたが、謎の生き物が多かったきがします。縁のある剣は、倉庫の中でお休み中にしたかったのですが、今ではショウウィンドウの女戦士コスプレのギミックとしてたまに使われています。誰がそんな発案をしたか覚えていません。本当は、良く斬れるんだけどなぁ……(まあ、魔導書で、刃を一時的になくしているとすればいいのですが)。
 掃除と、前もって連絡が入っていた服のチェック等々をしていると……。ドアが開きました。
「いらっしゃいませ〜。めいどあいらんど2号店にようこそ!」
 と、いつもの元気な挨拶♪
 でも、お客さんというより、見知った人でした。
 樟葉さんとレノアちゃんなのです。
「レノアちゃん。来てくれたのですね〜♪」
 私はレノアちゃんに抱きつきます。
「お久しぶりです。祐子さん」
 レノアちゃんもそれに答えてくれるように抱き返してくれました。
 うれしいなぁ♪
 でも、いきなり樟葉さんが私の首根っこを掴みます。
「こらこら、抱き癖は良くないですよ」
「うにゃー」
 猫になってみました。
「くすくす、祐子さんらしいですね」
 あ、レノアちゃんが笑っています。
 彼女の笑いはとても和むのです。
「ごろごろ〜」
「はい、猫化するのはそれぐらいにして……私は在庫確認するので、あなたはレノアさんを上に案内してくださいね」
「は〜い」
 やる気いっぱいの返事ですが、他の人からはやる気なしと思う返事をしてみます。
 
 ちなみに本店より、この2号店はサロン的にゆったり出来る店です。可愛いメイド服がいっぱいある1階に、2階に女性用の服と下着、3階が正式な事務所になっているのです。本店は、もう社長の趣味炸裂といった、ある意味重く苦しい閉塞感のあるところなのですが(私にとって天国で、パラダイス〜ですが)。閑話休題。

「レノアちゃんこっち、こっち」
「は、はい? 樟葉さんは?」
「おしごとなのです。しばらく上でのんびりしましょう」
「はい」
 レノアちゃんは樟葉さんが向かった先を気にしながら、私の後を着いていきます。
 猫じゃなく、犬?

「わあ、すごいかわいいのがありますね」
 と、レノアちゃんはびっくりしています。
 記憶があやふやと言うのか、無いモノなのか分かりませんが、私にとってレノアちゃんは似ているのかなと思います。でも、メイド服が好きというわけでもない(多分メイド服の現在の使い道が分かっていないかも、其れは其れで好機?)ので、色々説明できるのがうれしい。記憶の故障と意味で、お互い何か通じるモノがあればいいかなぁと仲良くなりたいなぁとずっと思っているのです。
「でね、この服のデザイナーさんは、こういう事には大変詳しいそうですよ」
「へぇ〜」
「たとえばこれと、これを合わせると、なかなか格好いいかも? こういうサンプルも飾っているのです」
「うんうん」
 と、色々服について話や、お店の案内をしています。
 一通り、案内を終えたところで、
「試着してみます?」
「え? いいのですか?」
「気に入ったモノとか、似合うモノを着るのは普通なの♪」
「ぜ、ぜひ!」
 レノアちゃんがうんうん頷いている。
「レノアちゃんが似合う服はぁ〜なにかなぁ」
 と、私は早速、可愛いメイド服を持ってきました。
 メイド服の形の性質上、現代の肌着より、コルセットなどが良いかもと思う。今ではその辺も考慮しているかもしれないけどね。
「え? え? 私が何かメイドの仕事をしなきゃ? あ、でも恩返しするには……」
「何を言っているかわかんないけど、着る?」
「はい!」
 と、いうわけで、彼女の着替えを手伝って、10分。
 メイドレノアちゃんのできあがり!
「かわいい〜!」
 ごめんなさい。このまま天国に逝きそうです。
 夢にまで見た、金髪メイド! これぞ、極み? 余り見かけたこと無いのですよ! ……多分。
「なんか、そう言われると恥ずかしいです」
 照れているところが可愛いですぅ。
 ああ、鼻血が出そう。
「ああ、では、このゴシックロリータはどうかしら〜」
 と、もう、私が妄想、否、想像するレノアちゃん像を実物で見られるなんて、幸せです。
「なにしているの? 祐子?」
 と、在庫確認が終わって戻ってきた樟葉さん。
 目の前には、いつもメイド服を着ている私がいるけど、其れを通り越して……メイドレノアちゃんを見ています。
「れ、レノアちゃん! こ、この新作も着て! この質素な紺のメイド服を!」
 あ、初代・メイド魔神覚醒♪
 あたふたしている、レノアちゃんを無視するかのごとく私と樟葉さんは、レノアちゃんで着せ替え人形ごっこするのでした。たのしいぃ。
 でも、
「あ、しまったー! いつものくせが!」
 と、3回ほどレノアちゃんを着せ替えしてから、我に返る初代・メイド魔神。
「レノアちゃんごめんね……。もうお仕事の方終わったから、公園に行きましょう?」
「あ、はい」
 夏物のキャミソールとそれに似合うスカートでかなり“夏”な感じのレノアちゃんが返事をする。
「これはサービスで上げるわ」
「あ、ありがとうございます」
「でも、何故私が叩かれるのでしょう?」
 頭に大きなたんこぶを作っている私。どうしてでしょう? 教えて、ディスロートって答えてくれないか。
「わたしもいきたいですー」
「あなたは店番」
「ふえーん」
 と、泣いてみたモノのお仕事をさぼるわけにもいかず、私は樟葉さんとレノアちゃんを見送ったのでした。

〈公園にて〉
 私は樟葉さんと、公園でアイスクリームを食べている。
 樟葉さんは、とある別世界の存在と融合しているので実際別の養分がひるという。しかし、今の私は記憶がないので、其れがどんなものなのかよく分からない。
 ただ、あの謎の男から守ってくれた。それが事実であり、そこに善悪はないと思う。悪とすれば、それはあの闇を覆った男だ。
「あついね〜。でも夏って感じがして良いわ」
 と、樟葉さんは言う。
 私も汗をかいて、アイスをなめる。その冷たさが気持ちいい。
「蝉が鳴いていますね」
「ねぇ」
 と、先ほどお店の事があわただしかったので、いまの時間がとてもゆっくり感じられる。今までこんなにゆったりした気分はない。
「どうして、外に?」
「? ん〜 ずっと家の中ではストレスたまるでしょ? それに」
「?」
「あなたずっと窓から外を見ているから」
「……」
 そうだった、何故か私は空を見上げる為に窓を見ているのだった。それだと、外に出たいんだろうと、思われても仕方ない。多分、其れは何かの……。
 あたまが、われ……
「頭痛いの? 大丈夫? 大丈夫?」
 樟葉さんが慌てている。
 私の意識はそこでとぎれた。

「熱射病じゃなかったわね……良かった」
「すみません……ご迷惑かけて」
 と、気が付くと、樟葉さんが膝枕してくれている。あのまま倒れたのだろう。
 大きな木の下にあるベンチはとても涼しい。
「無理に、記憶を思い出さなくて良いから……ね?」
「はい」
 そよ風が、涼しく私と彼女の髪を撫でる。

 熱い日差しはもう無くなり、明日も晴れだろうという夕日が眩しい。
 どこかの風に乗って、音楽が聞こえている。
 それに合わせてか、樟葉さんは歌い出した。
 私が覚えていないが良く聴く歌。多分ポップスかなにかだろうか? しかし、其れは心地良かった。
「いつもあなたが鼻歌で歌手散るモノは歌えなかったけど、これは歌えるの。ねえ、レノア、あの歌教えてくれるかしら?」
「良いですけど、発音難しいですよ?」
「其れはがんばってみる」
 と、樟葉さんは笑った。
 私も笑う。
 明日もまた何かあるだろうという希望が私の中に芽生えた。





 今日は目まぐるしい一日だったような気がする。
 今日、レノアは楽しんでくれたかしら?
 今日は本当に楽しかった。

 3人はそれぞれの思いを胸に、明日に向かっていた。
 しかし、今は幕間。
 いずれ知る。危機がそこまで迫っていることを……。

4話に続く

■登場人物紹介
【6040 静修院・樟葉 19 女 妖魔(上級妖魔合身)】
【3670 内藤・祐子 22 女 迷子の予言者】

■ライター通信
滝照直樹です
「蒼天恋歌 3 穏やかなる幕間」に参加して頂きありがとうございます。
3話は、思いっきり煩悩のまま平凡な日々を描く感じになるはずです。
煩悩炸裂。初代メイド魔神とめいどのあくまの暴走を書いてみました。
さらに彼女たちの心情を書いていきましたが、いかがでしょうか?
4話は一気にシリアスで、ジョークは多分少なめです。かなりシリアスになる内容のはずです。
では、次回にお会いしましょう。

滝照直樹
20060726