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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


夢の中の王子様 第三話

 少年は夜の帳の中をひた走る。
「……守れなかった! くそっ!!」
 不甲斐無い自分に腹が立つ。
 唐突な敵の出現に驚くばかりで、何も出来やしなかった。
「こんなだから、俺はガキ扱いされる!!」
 力が無い事が、これほどやるせない事だとは。
「俺は、……俺は、絶対にユリを助けてみせる!!」
 だが諦めるには至らない。
 少年、小太郎の瞳には光が宿っている。

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「さぁ、着いたな」
 武彦は小太郎よりも早くにオオタ製薬会社にたどり着いていた。
 魅月姫と冥月の能力を使って道程をかなりショートカットした為だが、これもあの少年を危険な目にあわせないため、そしてユリを素早く奪還するため。
「悪く思うなよ。お前の恋路の邪魔をしたいわけじゃないんだ」
 武彦はそう言って道路の方へ目を向ける。
 小太郎の姿はまだ見えない。
「……まぁ、そんなに足が速かったらビックリだがな」
 そう呟いて、再びオオタ製薬を見る。
 広い敷地をぐるりと囲む塀。
 その奥に会社の建物がある。そのまた向こうに見えるのは研究室か何かだろうか。
「さて、どう入るか、な」
 腕時計を見て呟きながら、武彦は敷地へ侵入出来そうな入り口を探した。
「入り口はあるんだが……やっぱり門は閉じてるよなぁ」
 塀にある門は格子で硬く閉じられている。
 機械仕掛けのようで、取っ手のようなものは何も無い。
 その高さは武彦の身長の二倍ほどだろうか。
 よじ登ろうとしても、敷地の中にチラリチラリと見えている見張りに捕まってしまうだろう。
 ほとんど普通の人間である武彦に強行突破は無理だろう。
 だが、今は頼もしい助っ人が居る。
 黒・冥月(ヘイ・ミンユェ)と黒榊・魅月姫(くろさかき・みづき)。
 この二人が居れば、物理的な障害はある程度超えられるはずだ。
 だとすれば、後は目的地の設定か。
「冥月、魅月姫。ユリがどの辺りにいるか、大体で良いから検討つかないか?」
 武彦は冥月と魅月姫に向き直って尋ねる。
「そうだな……ハッキリとは言えないが、地下が怪しいだろう」
「そうですね。ユリさんが居なくても、何かがあります」
「……なんだそりゃ?」
 二人の謎掛けの様な答えに、武彦は首をかしげた。
「多分、ユリさんの力を使って魔力を隠蔽しているのでしょうが、その隠蔽に使っている魔力が膨大すぎて逆に怪しいんです」
「大切なものを隠す風呂敷が派手すぎて逆効果という事だ。これじゃあ見つけてくれと言っているようなものだな」
 地下から感じられる魔力は確かにその奥にある何かを隠そうとしている。
 それがユリかどうかはわからないが、とにかく、その奥には何かがある。
「ちょっと待てよ……。そんなデカイ魔力で隠蔽しなきゃならないものって事は、その奥にあるのはそれと同等、若しくは更に大きい魔力のものって事か?」
「物体一つでこの魔力、と言うのは考えにくい。つい先程までこれほどの魔力は感じられなかったからな」
「黒服たちが集まってこれほど大きな魔力になった、と考えるのが妥当かもしれませんが……それにしても大きすぎますね」
 黒服たちだけの力ではない……という事は、例のユリの力の転用だろうか。
「こりゃあ、悪魔召喚の話も馬鹿には出来なくなってきたな」
 苦笑交じりに武彦が呟いた。

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「さて、これからどうするか、だが……」
 武彦がパッと思いついた作戦を口に出す。
「これまでの小競り合いで、お前ら二人で、黒服数十人分に値するのはよくわかった。そこでだ。今回は二手に分かれようと思うんだ」
 小太郎がここに向かっている中、今は時間との勝負でもある。
「役割はユリを探す役とその他の二つ。ユリを探す役はそれだけに徹し、その他の役はユリ捜索役の人間の邪魔になりそうな物を全て取っ払う」
「つまり、その他には黒服との戦闘の役割も含まれているわけですね?」
「そうだ。口惜しいが俺はあの黒服連中をどうこうするような力はない。よって、俺はユリを探す役に回る。二人は黒服たちをどうにかしてくれ」
「……それは構わんが、良いのか、草間?」
 冥月の言葉に武彦は首をかしげる。
「何か問題でも?」
「黒服たちにとってユリは何としても渡したくないだろう。そうなるとユリの手前にはあの佐田が待っているんじゃないか?」
「……そういわれればそうだな」
 先程、突如現れ、嵐のように去っていった男、佐田 征夫。
 ユリを狙う黒服連中の親玉である事は安易に予想がつく。
 その男が守りの要である事も同時に。
「草間にあの男を倒せるとは思えんのだがな」
「……っぐ、悔しいが確かに」
 武彦もケンカが弱いわけではないが、これはケンカのレベルの問題ではない。
 単に腕力だけの力押しでは負けてしまうだろう。
「それなら心配要りません」
 汗を垂らす武彦の横で魅月姫が言う。
「私がついていきます」
 その顔に浮かべた冷徹な笑みは誰にも気取られる事はなかった。

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 オオタ製薬敷地内。
 玄関前に広がるちょっとした広場では、夜の闇に紛れて一つの影が躍る。
「……おわ!?」
「……っあ!」
「……うぉ!?」
 短い悲鳴が断続的に聞こえてくる。
 そしてその悲鳴が聞こえるたび、懐中電灯の光が一つ、また一つと消えていく。
 そうしているうち、数分もしないで見張りの警備員が全員影の中に飲み込まれた。
「……これで良し」
 一仕事終えた冥月は門に向かって合図を送る。
 今から作戦開始だ。
「やられるんじゃないぞ、草間」
「そう簡単にゃくたばんねえよ」
 笑いながら、武彦と魅月姫は影の門を潜っていく。
「……さて、これからが私の仕事だ」
 冥月は深く深呼吸をして、意識を落ち着ける。
 重心を深く落とし、影に集中する。
「……始めようか」
 呟いた言葉と同時に、オオタ製薬の建物が悲鳴をあげる。
 一階部分のガラス窓が全て割れ、壁にひびが入り、非常ベルがけたたましく声を上げている。
「出て来い、黒服共。ちょっとした暇つぶしだ」
 程なくして、黒服の団体が姿を現す。

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「ふむ、今回は妖魔使役の札か。頭数で攻めようと言うわけだな」
 現れた黒服の周りに灰色の獣が黒服の倍ほどの数でたむろしている。
 最初に黒服と対峙した時と同じような装備のようだ。
「アンチスペルの符は地下のものを隠すために使っているのか……。それとも、数を増やせば私に勝てるとでも思っているのか」
 冥月は薄く笑んで、影の中から棍を取り出す。
「なんにしろ、舐められているようだ。面白い気はしない」
 冥月が構えると同時に、灰色の獣が飛び掛ってくる。
 距離は十メートルほどだろうか。
 棍の間合いではないので、とりあえず、獣を影で串刺しにする。
 地面から飛び出る黒い針に、獣は何の抵抗も出来ずに貫かれた。
「弱い。この程度で私と戦おうと言うのか」
 ため息を吐きながら次の行動へ。
 獣は粗方戦闘不能に陥ったので、次は黒服だ。
 冥月は串刺しになっている獣を飛び越え、黒服に近付く。
 そして手近に居た黒服の腹部目掛けて棍を突き出す。
 冥月のアジリティに驚いていた黒服は、その攻撃をモロに受けてしまうが、防具は装備していたようで、冥月の手に人を突いた感覚はなかった。
「……鉄板でも胴に仕込んでいたか。なるほど、一度使った武器を覚えていないほど馬鹿ではないか」
 興信所で一度、この棍は使っている。そしてそれは佐田に見られていた。
 となればそれなりに対応策は練っているという事だ。
「だがまぁ、まだ何とかなるだろう」
 黒服が冥月を囲むように動く中、冥月は一人、ふむと唸った。
 黒服たちは各々武器を取り出す。
 多対一の接近戦で銃は向かない、と思ったのか、その手に銃器は見当たらない。
 特殊警棒などが多いだろうか。中には刃物を持っている人間も居る。
「接近戦を挑んでくるか。面白い、相手をしてやろう」
 冥月は棍を振り回して構え、獣を貫いていた影を引っ込めた。
 獣は最早動けないようになっていたので問題ないが、これは影は使わないという意思表示だ。
「さぁ、来い」
 冥月の言葉を受け、黒服が一斉に間合いを詰める。

 一斉に間合いを詰めるといっても、やはり個々のスピードにバラつきがあり、そして一人に対して同時攻撃を行える数も決まってくる。
 手近で、攻撃をしてきそうな位置に居るモノを優先的にさばくことから始める。
 まずは正面に居る黒服。
 胴に防具を仕込んでいるのは検証済み。
 だが、露わになっている手や顔にはどう見ても防具はない。
 つまり、そこを叩けば有効打になる。
 冥月は棍をコンパクトに振り、黒服の側頭部を打つ。
 だが、黒服が咄嗟にそれを警棒で防ぐ。
 進行を止められた棍。攻撃は通らなかった。
 だが、それで冥月の行動は止まらない。
 一歩踏み出し、そのまま左手を黒服の顔面に打ち込む。
 軽く鼻を折るほどの攻撃を打ち出した冥月は、それで黒服が一瞬怯んだのを見て、その黒服に背を向ける。
 後ろから迫っている黒服に対応するためだ。
 影による防御は無意識の内に行われるものの、影は使わないことを決めた今、防御にも影を使うのは億劫だ。
 出来る限り、体術のみでこの場を凌ぐ。
 突然後ろを振り返られた黒服は驚き、足を止める。
 その隙を逃さず、冥月は棍の先を黒服の眉間に打ち込む。
 黒服は『がっ』と『ごっ』の間の音を発してその場に倒れる。
 その黒服を叩いた反動を生かして棍を引き、最初の黒服の胴に棍の石突をぶつける。
 だがやはり胴は防具で守られているらしく、手ごたえはない。
 そのため、それで終わらず、体を捻って黒服の頭を棍の薙ぎで払った。
 今度は防御する暇もなかったらしく、そのまま黒服は吹き飛ばされて倒れた。
 これで二人。残りは……数十人だろうか。
 正直、これだけの数を相手にするのは骨が折れるが、陽動としては成功しているだろう。
 これだけの数が外に出てきているとなると中の警備は手薄になっているはずだ。
 しかし、今は陽動の成功に浮かれている暇は無い。
 すぐに次の黒服に対応しなければ。
 左右から来る黒服。
 距離としてはほぼ同じぐらいだろうか。
 前後の心配は今のところないので、この二人に集中する。
 まず、右手に居る黒服を棍の石突で打ち、素早く棍を引いて打ち下ろし。その首の後ろに強かぶつける。
 それでうつぶせに倒れた黒服。多分数十分は起きないだろう。
 次に左手から来る黒服への対処。
 打ち下ろした事で良い感じに石突が黒服の顎に向いていたので、そのまま棍を引き、その顎を突く。
 そして下を向いていた棍の先を、黒服の顎目掛けて振り上げる。
 全てがクリーンヒットし、黒服はその場にのびてしまう。
 あっという間に四人。
「だが、先は長いな」
 冥月の戦闘能力にどよめきながら足を止める黒服たち。その数は四方八方を黒く染めるほど。
 たった四人を倒したところで、やはり先は長い。
「……まぁ、もう少しで援軍も来るだろう。それまでは私が相手をしてやるさ」
 出口に目を向けて、その援軍とやらを待つ。
 その影は今もここに向けて走ってきている、あの少年である。

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 冥月が十人目を倒した頃。
 突如、地下を覆っていたアンチスペルフィールドが無くなった。
「魅月姫と草間が上手くやった、か。後は小太郎を待つだけだな」
 と、他の事に気を取られながらも、十一人目を片手間に倒す。
「これでは小太郎が来る前に全滅してしまうな。……よし、少々手加減をしてやろう」
 そう言って冥月は棍を黒服に放る。
 それを受け取った黒服は慌ててそれを遠くへ放り投げた。
「ふむ、棍は使わない、か。なるほど利口な判断だ。心得の無いものが使っても無用の長物と言うやつだな」
 言いながら冥月は素手で構える。
「こちらは素手の女一人。男連中が寄って集って勝てない相手ではないと思うがな」
 挑発も交えて戦闘体勢を取るが、今までの強さに怖気づいて黒服たちは一歩も動かない。
「……少々やりすぎたか……? まぁ良い。時間が稼げればこちらに有利だ」
 小声で呟き、その均衡状態を保つ。

 そのまま十分ぐらいしてからだろうか。
 オオタ製薬の門の前に一人の少年が到着した。
「な、なんだこりゃぁ……」
 少年、小太郎の眼に映ったのは一人の女性を取り囲む大勢の黒服だった。
 それだけ聞けば、劣勢なのはどう見ても女性の方なのだが、女性は明らかに黒服を気圧している。
「ミ、冥月姉ちゃん!」
 声が聞こえて、囲まれている冥月も小太郎に目をやる。
「小太郎か。遅かったな」
「なにそんな涼しげな事言ってるのさ!? 大ピンチじゃん!?」
「この程度、ピンチとも言えん。少し待て。今そっちへ行く」
 そう言って冥月が小太郎の方へ一歩足を出すと、黒服たちはザッと音を立てて退く。
「こいつらも小心者極まりないな」
 冥月は苦笑を漏らして、小太郎に近付いていった。
「冥月姉ちゃん、大丈夫か!?」
「大丈夫も何も、怪我一つしてないさ。それより、お前はユリを助けに来たんだろう」
「あ、ああ、そうだ」
「だが、今のお前ではあの佐田と対峙した時に心許ない。そこでだ。ここでアイツらを相手にして少し戦い方を覚えていけ」
「え、ええ!?」
 冥月が事も無げに言った言葉は小太郎だけでなく、黒服たちも驚かせた。
「どういうことさ!?」
「今のお前はナイフが無ければ光の刀を具現できないのだろう? そうなるとそのナイフを押さえられたら戦えなくなるという事だ」
「……っう、まぁ確かに」
「だから、ここでそのナイフを持たずに光の刀を具現する術を身に付けろ。そうすればまだ安心できるからな」
「……な、何となくわかった。やってみるよ」
 そう言って小太郎はナイフの柄に伸ばしていた手を引き、素手で霊刀顕現を行使してみる。
「ぬぬぬぬ……」
 小太郎の右手に光が帯び始めるが、その光が刀の形を取る事はなかった。
「……良いか、小太郎。光を出して剣の形にするんじゃない、逆だ、剣の形をイメージし“そこ”を光で満たすんだ」
「剣のイメージ……そこに光……」
 助言を受けた小太郎は僅かに光の形を揺らがせて見せるが……
「っだぁーっ!! ダメ! 無理! 全っ然形になんねぇ!」
 どれだけ念じても、遂に刀の形を取る事はなかった。
「……まぁ、追々どうにかなるだろう。まずはユリの元へ向かおう。もうそろそろ向こうも終わるらしい」
 感じ取った影が魅月姫ともう一人、佐田 征夫を表したが、どう見ても佐田の劣勢。
 間もなく、勝負が決するだろう。
「ついて来い、小太郎。黒服たちを蹴散らすぞ」
「お、おう」
 冥月は素手で、小太郎はナイフを抜いて、黒服たちに走っていく。

 冥月は手近に居た一人の右肩目掛けて、人差し指を突き出す。
 するとその指は黒服の肩を貫いたではないか。
 なんともグロテスクな音がしたかと思うと、冥月はすぐにその指を抜く。
 綺麗な白い指が紅い血に濡れていた。
「……次」
 目の前の黒服は完全に利き手を殺されていた。
 戦闘力はガタ落ち。冥月は彼を後回しにしても良いと判断したのだろう。
 すぐに次のターゲットに向かう。
 次の黒服には顔面に一つ、パンチを与え、その後、両腿に指を刺し込む。
 今度は両人差し指が赤く染められた。
 次に目の前に現れた黒服には、胴に鉄板が仕込まれているにも拘らず、そこに向けて指を突き出す。
 今度は人差し指だけでなく、親指を抜いた四本指全て。
 単純計算して、人差し指だけの時よりも破壊力が四倍、という事だろうか。
 その手は鋭利な刃物のように鉄板を切り裂き、黒服の腹部に到達する。
 このまま腸を引きずり出すのもアリかと思ったが、中学生の前で人体解剖は流石にキツイか、と思いやめておいた。
 すぐに次に向かう。
 黒服が振りかぶっていた警棒を容易く押さえ、その手首をグルリと回す。
 そうして完全に腕を極め、その後に肩から腕を殺す。
 その際にも、肩に自分の指を埋めた。
 血が滴るほど纏わりついた自分の手を見て、冥月はそれを舐め上げた。
「ふふ、ゆっくりやるのも良いが、小太郎も来た事だし、ここはすぐに片付けてしまおうか」
 小太郎を見ると霊刀の刃を無くして、それでもって黒服たちを叩き伏している。
 異能者とは言え中学生である事を考えれば、大した身のこなしだ。
 大人を大勢相手にして全く劣勢を見せない。それどころか黒服たちを圧している。
「小太郎、離れろ。一網打尽にするぞ」
「わ、わかった」
 冥月は地面に手を当て、影を操る。
 そうすると黒服たちの影が全てその主を拘束した。
「これで良し。……さて、私達もユリのところへ向かおう。魅月姫と草間はもう移動を始めているようだ」
「わ、わかった」
 荒い息を抑えながら、小太郎が笑って答えた。

***********************************

 ユリの居る部屋に全員が集まったのはほぼ同時。
「お、お前、小太郎!? 何で居るんだ!?」
 現れた冥月は傍らに小太郎を連れていた。
「何でって、それはこっちが訊きたいよ! 何でアンタらが先に居るのか、俺の方が訊きたい!」
「そりゃお前、冥月と魅月姫の能力を使えばすぐだろ」
「……あ、ああ」
 武彦の言葉に妙に納得した小太郎。
「で、どうしてこいつがいるんだよ、冥月」
「多少手間取ってな。バッタリ入り口で会ってしまったので連れて来た。あそこに置いておくよりは安心だろう?」
「ま、まぁ、そりゃそうだが……」
 武彦も何も言えなくなった時点でこの話題は終了する。
「さぁ、お話はそこまでにして、ユリさんの所へ行きましょう。少し、気に掛かる事があります」
「……ん、ああ、そうだな」
 魅月姫に先導され、一行は奥の部屋に向かう。

 そこには全く飾り気の無いベッドに寝かされたユリがたった一人で居た。
「ゆ、ユリ!!」
 小太郎はユリの傍に駆け出し、その手を握る。
「ユリ、おい、ユリ!?」
 反応は無い、が息はあるようだ。
「……寝てるのか?」
「そうらしいな。こりゃ物理法則にしたがって運び出すにゃ骨が折れるぜ」
 寝ている人間とは重いものだ。冥月や魅月姫が居なかったら、武彦が背負ってここから出る事になっていただろう。
「と、とにかく、ユリをここから連れ出そう。何処か安全なところへ行かないと」
「ああ、そうだな。興信所が良いだろう。そこへ転移する」
「わかりました。門を開きます」
 こうして、ユリ奪還は成功した。
 後はIO2に通報して黒服連中と佐田 征夫を捕まえてもらえば万事解決。

 ……と、なるはずだったのだが。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / 女性 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】
【4682 / 黒榊・魅月姫 (くろさかき・みづき) / 女性 / 999歳 / 吸血鬼(真祖)/深淵の魔女】

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■         ライター通信          ■
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 黒 冥月姫様、シナリオに参加してくださってありがとうございます! 『こんな引き方は初めてで多少ドキドキ』ピコかめです。(何
 最終回に向けて、多少謎を残したまま第三話終了です。
 ラスト一話も気合入れてやるんで、よろしくお願いします。

 結局、小太郎くんは成長しませんでしたが、これは一種伏線だと思っていてください。
 きっと次には輝かしいばかりの成長を遂げるに違いありません。
 あ、あと、血をぺロリってとてもイイと思います。(何
 では、次回もよろしくお願いします!!