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<東京怪談・PCゲームノベル>


煉獄の向こう側 その1

「なんだと?」
 大久保にあるバー「トライアングル」のカウンターでグレイは驚きの声を上げて隣の席を見た。グレイの隣には仲介屋の迫水正がストゥールに腰かけてスコッチのロックをちびちびと舐めていた。店内にはスロージャズが流れているが、今ほどジャズが場違いに感じたことはないとグレイは思った。
 店には他の客はいない。グライらの他にはカウンターの内側で初老のマスターがグラスを磨いているだけだ。話を聞いていただろうに、マネキンのような無表情でマスターは作業を続けている。客の話は聞いていないというスタイルを通しているのだ。
「それは、本当か?」
「本当だ」
 グレイの問いに迫水はしかめっ面をしながら答えた。
「それが本当なら、あと4人は殺されるということになるぞ?」
「そうだな。だから、慌てているのだろう」
 苦々しく言いながら懐から煙草を取り出し、迫水は咥えて火をつけた。
 2週間前、関東を代表する広域指定暴力団、東和会系列の轟組という小さな組に所属する構成員の1人が何者かに殺害された。それも全身をバラバラに切り裂かれるという凄惨な方法で。組員を殺されて黙っていられるほど暴力団はおとなしいわけではない。ただちに組を上げて組員を殺した人間を探し始めた。
 だが、その1週間後。また1人、組員が殺害された。今度は喉まで大量の食い物を詰め込まれ、窒息死していた。轟組の組員を狙っていることは明らかであった。2人目が殺害されたことで、抗争のことを考慮した警視庁捜査4課が動き出した。捜査4課は犯罪組織に対する捜査を主にした部署だ。
 だが、轟組も警察だけに任せるわけはなく、犯人を見つけ出して血祭りに上げてやろうと、血眼になっていた。轟組をはじめ、東和会系列の組織が緊張に包まれていた。そして昨日、3人目の犠牲者が現れた。どうやら1週間に1度のペースで犯行を繰り返しているようだ。3人目の犠牲者も轟組の組員で、顔をズタズタに切り裂かれて絶命していた。
 ここに至り、東和会の人間から話を聞いていた迫水は、今回の犯行がキリスト教の「7つの大罪」を模していることに気がついた。最初が憤怒、次が大食、3つ目が高慢といったところだろうか。
 そして、事態を重く見た東和会は轟組の暴走を止めるため、迫水を介して始末屋に犯人の身柄を確保するように依頼した。犯人の生死は問わない。ただ、確実に次の犯行を止めて欲しいということであった。
「あと6日か」
「そうなるな」
 犯人がこれまでのペースを守るのなら、次の犯行は6日後ということになる。それまでに犯人を特定しなければならない。
 証拠はなにも残されていない。非常に困難な仕事になるだろうとグレイは思った。

「失礼します」
 いつものようにドアをノックし、真行寺恭介は部屋に入った。重役専用の見慣れた部屋だ。重厚な作りのデスクには初老の男性が座っている。恭介の直属の上司であり、この会社を動かしている役員の1人でもある。
「来たか」
 小さく言い捨て、男性は手元のリモコンを操作した。窓にブラインドが下りて部屋の電灯がついた。盗聴防止用の妨害電波が発生し、外部からも室内の様子が窺えないようになっている。この部屋で行われる会話の多くは絶対に外へは漏らせない内容だ。
「この記事を見たかね?」
 そう言って男性はデスクの上に新聞を放り投げた。そこには一面というわけではないが、かなり大きく暴力団の構成員が殺害された事件のことが載っていた。
 その事件を恭介も知っていた。報道管制が布かれているのか、詳しい事件の内容は報道されていないが、同じ組の構成員が3人も殺されていることなどから、多くのメディアでは暴力団同士の抗争事件ではないか、と報じていた。
「ええ、報道されている範囲でしたら知っています。これがなにか?」
「うむ。この殺人の標的となっている轟組とは直接、関係ないのだが、今、彼らに派手に動かれると困るところがあるのだ」
 決して名前を明かそうとはしない男性であったが、その動かれると困るところというのは、轟組の上部組織である東和会だろうと恭介は思った。
 警察庁指定の広域暴力団、東和会。現在、東和会内部がゴタゴタしているという噂を恭介はその筋にいる人間から聞いていた。20年以上、東和会を率いてきた現組長が危篤状態であり、その状態如何によっては跡目問題に発展する可能性があるからだ。
「それで、俺にどうしろと?」
「轟組が報復を行う前に、この一連の殺人を行った犯人を探し出してもらいたい」
「わかりました」
 なぜ自分が調べなければならないのか、という疑問は口にしなかった。非合法的な仕事を行っている企業である。関東屈指の巨大暴力団とつながりがあっても、なんらおかしな話ではない。
 正直、気乗りしない仕事ではあったが、断ることなどできるはずもなかった。現時点で集められている情報を受け取り、恭介は部屋を出た。

 殺害された3人が轟組の構成員であることから、まず恭介は轟組が過去に行ってきた業務について調べることから始めた。
 ヤクザのシノギといえば、縄張りである各店舗からのミカジメ料の徴収、違法薬物の売買、売春の斡旋や管理、暴力による民事介入などだ。どのみち、暴力や組織を背景にし、他人から金銭を搾取するという行為が暴力団のやり方である。
 馴染みの情報屋から得た情報では、轟組の事務所は歌舞伎町にある。10人程度の小さな組だが、「尖っている」ということで、それなりに名前は売れているようだった。
 尖っている――つまり武闘派ということだ。広域の傘下であろうと武闘派を名乗るところは決して珍しくない。だが、情報屋によると轟組はいわゆる一般的に武闘派と呼ばれる組織とは、一線を画すほど本当に「尖って」いたようだ。
(その辺りに原因がありそうだな)
 それだけ尖っていたということは、当然ながら恨みも買っていたということだろう、と恭介は考えていた。今回の事件は行きずりや突発的な犯行ではない。その手口からは何者かの強烈な遺恨を感じる。
 恭介は東和会系列の八十八組を訪ねた。轟組と同じく新宿を根城とする八十八組だが、その規模は桁違いだ。人数こそ200人程度と決して多くはないものの、本部へ納める上納金と歴史から、東和会でも中核を成す組織の1つであることは間違いない。
 通常、一般市民が訪ねても門前払いを食らうだけだが、東和会上層部から話が回っていたのか、恭介は事務所の奥にある応接室へ通された。
「お久しぶりです」
 応接室に入り、ソファーに腰かけていた人物が誰であるかを悟り、恭介は会釈した。
「そう畏まらなくていい」
 ソファーに腰かけたまま男が言った。年の頃は30代半ばといったところだろう。
 男の名前は咲島圭吾。八十八組の組長代行を務める人物だ。上部組織である東和会からの出向という外様の身分でありながら、その辣腕を買われて組長代行にまで上り詰めた男である。
 以前、別の仕事で恭介は咲島と知り合った。会社の命令で非合法な業務も行う恭介にとって、ヤクザは思いのほか身近な存在である。時として重要な情報源となり、場合によっては利用価値のある道具ともなる。
「それで、今日はどうした?」
 恭介を案内した若い組員が部屋から完全に立ち去ったことを確認して咲島が口を開いた。
「轟組の件で、少し話を伺いたくて」
「あの事件か……」
 咲島の口から深いため息が漏れた。微妙な時期に起きた轟組の組員を狙った殺人事件は、東和会系列の組織にとって頭痛の種であるとも言えた。
「轟組が、どんな商売をしているのか、ご存知ですか?」
「ああ。知っている。私も新宿事務局にいたからな」
 東和会新宿事務局。本部の次に東和会内部で影響力を持つ部署だ。新宿、渋谷、池袋などにある系列組織を纏め上げている。
「おたくに調査を頼んだのは、重松さんか?」
「わかりません。俺は上の命令で動いているだけですので」
 その答えに咲島は小さくうなずいただけだった。通過儀礼のようなものだ。咲島とて恭介から満足の行く答えが聞けるとは思っていない。
 重松という名前を恭介は知っていた。東和会新宿事務局長をしている男で、本家の組長がこのまま死ねば、次に東和会を束ねると目されている。
 恐らく上層部を介して恭介に調査を命じたのは、この重松だろうと咲島も恭介も考えていた。重要な時期であるだけに、傘下団体である轟組に動かれて警察に痛くもない腹を探られるよりは、調査を外注に出してしまおうと考えたのかもしれない。
「適切な表現ではないかもしれんが、轟組というのは昔ながらの極道だ」
「というと?」
「暴力ですべてが片付くと思っている手合いが集まった組織だ。東和会系列の傘下団体にいる厄介者が集められている」
 普通、ヤクザというのは一般社会に馴染めない人間がなるものだ。しかし、時勢ということもあり、ヤクザにも組織内部における協調性というものが求められるようになった。
 だが、ヤクザ者の中でも特に「跳ねっ返り」というものが存在する。そんな人間を纏めた組織が存在するということを恭介も聞いたことがあったが、それが今回の轟組とは思いもしなかった。
「それで、轟組の業務内容は?」
「シノギに関しては、あまり部外者に話したくないのだがな」
 そうした咲島の意見はわからないでもなかった。暴力団のシノギとは、いわば大半が違法行為によるものだ。外部の人間に明かせば、どこから警察の耳に入らないとも限らない。
「轟組は、数年前から新宿界隈の地上げを行っている」
「地上げ?」
「そうだ」
 地上げはバブル景気が最高潮で、今では地上げを行えるほどヤクザに勢いも資金もないはずだ、と恭介は思った。
 景気回復の兆しが見え始めたとはいえ、以前のように大規模な再開発を行うような企業もなく、地上げをしたところで不良債権を抱え込むも同然となり、自分の首を絞めることにもなりかけない。
「この時代に地上げですか?」
「そうだ。だが、地上げといっても旧来のように土地やビルごとどうにかするのではない。大規模商業施設に入っているテナントを立ち退かせるのだ」
 それならば理解することができる。以前のように土地やビルを暴力団が確保し、その売買や賃貸によって利益を得るのではなく、いわゆる暴力による民事介入で商店を立ち退かせ、依頼主に空店舗を渡すということなのだろう。
「地上げということは、当然、トラブルもあったということですよね?」
「そうだな。なにか揉め事が起きてもおかしくはないな」
 言及は避けたが、それは肯定しているも同然であった。
「轟組が、深刻なトラブルを抱えた団体や人物などはご存知ですか?」
「いや、さすがにそこまでは知らないな。いくつか、そうした団体があったという話を耳にしたことはあるが」
 やはり今回の事件の根はその辺りにありそうだ、と恭介は思った。
 バブル期ほどではないにしろ、ヤクザの地上げはキツイものが多い。バブル期、時流に乗って「イケイケ」だったヤクザの地上げで、自殺に追い込まれた人間も少なくない。
 轟組が古い気質のヤクザというのなら、組織犯罪対策法が施行された今でも、暴力によって地上げを行い、一般市民を自殺に追い込んでいたということも充分に考えられた。

 八十八組の事務所を後にした恭介は、轟組の構成員が殺害された現場の1つへ向かうことにした。どのような状況で殺害されたのか、それを自分の目で確認しておこうと考えてのことだった。
 情報屋と知り合いの記者から得た情報では、轟組の組員たちは3人とも自宅で殺されていた。警察関係者の見解では、被害者が自宅へいたところを犯人が押し入ってきたか、帰宅するところを待ち伏せされていたかのどちらかだろう、というものであった。
 3人目の被害者の自宅は、まだ事件が発生して間もないということもあり、警察が現場検証を続けている公算は高かった。警察に目をつけられても特に問題があるわけではないが、余計なトラブルを招くことを嫌った恭介は、1人目の被害者の自宅から調べることにした。
 組員の自宅は大久保のイラン人やコロンビア人が多く住んでいる一画にあった。曲がりなりにも組から正式に盃を受けた構成員が住むとは思えない安アパートだ。
 だが、納得できる部分もあった。こうしたアパートの大半は不法就労の外国人が住んでいる。彼らは主に夜間の仕事をし、売春や違法薬物の売買などで生計を立てているため、アパートには昼間の短い時間、それこそ寝る程度にしか寄りつかない。目撃者がいないという話も、あながち嘘ではないのかもしれないと恭介は思った。
 歌舞伎町の事務所へ通うにしても、歌舞伎町でシノぐにしても、大久保に住居を構えるのは決して不自然なことではない。
 今にも崩れ落ちそうな錆びた階段を上がった恭介は、「立入禁止」と書かれた黄色いテープの貼られたドアの前で立ち止まった。
 恭介は素早く周囲を見回して誰もいないことを確認すると、懐から開錠用の工具とラテックスの手袋を取り出した。両手にゴム手袋をはめ、工具を鍵穴に突っ込んで手首を動かすと、ものの十数秒で小さな音を響かせて鍵が開いた。
 静かにドアを開けて室内に踏み込むと、最初の犯行から2週間以上が経過しているにも関わらず、濃い血の臭いが鼻を突いた。現場検証が終わった際、警察がそれなりに清掃をしたはずだが、畳には大量の血痕が黒く広がり、壁や天井にも黒い染みが残っていた。
 最初の被害者は全身を切り刻まれた状態で発見されたということだった。それならば、これだけ血が散乱していることも納得できる。
 現場検証は終了しているが、再び警察官が訪れない保障はどこにもない。恭介は自分がいたという痕跡を残さないように注意を払いながらも、犯人に関する手がかりが残されていないかを探した。
 証拠品の大半は警察が持ち去ってしまっただろうが、それでもなにかを見逃している可能性は否定できない。
 家捜しをしていた恭介がまず気づいたのは、室内に飛び散った大量の血液の不自然さであった。こうも派手に血が散乱しているということは、犯人は殺す前に被害者の全身を切り刻んだということが考えられた。心臓が停止し、血液が流れなくなってからでは、こうも大量の血液が飛び散るわけはない。
 周囲の住人がいない時間帯を狙って殺害したのだとしても、生きたまま被害者をバラバラにしたのであれば、少量であろうと返り血を浴びているはずだ。
 この部屋に浴室はない。返り血を洗い流すことはできない。
 恭介は携帯電話を取り出し、馴染みとなった電話番号へかけた。数回のコールのあと、聞きなれた声がした。
「俺だ。ちょっと調べてもらいたいことがある」
「なんだ?」
「大久保で轟組の組員が殺された事件を知っているか?」
「ああ」
「それに関する目撃情報がほしい。どんなものでも構わない」
「わかった。折り返し、連絡する」
 無愛想な返事をして相手は一方的に電話を切った。
 裏社会には情報屋と呼ばれる職種とは別に、スポッターと称される人間がいる。電話の相手は東京でも名うてのスポッターだ。スポッターとは観測手のことで、元々は軍事用語である。風や目標、着弾点などの情報を報告し、狙撃手の補助を行う。
 また、似たような意味でインディカー・レースなどでもスポッターという言葉が使われている。レースの最中にトラフィックの情報をドライバーに伝える役を担い、IRLでは非常に重要な仕事である。そうしたところから路上観測員、いわゆる面割を仕事とする人間をスポッターと呼ぶようになったとされている。
 スポッターは街中にいる。決して裏社会に関わっている人間ばかりではない。会社員や学生、主婦なども立派なスポッターだ。要は誰かが必要とする人間の顔を覚えているか否かでスポッターの素質は決まる。高い記憶力が要求される仕事だ。情報屋からの問い合わせに対し、スポッターは面割した情報を売る。そうしたシステムが出来上がっている。
 連絡を待つ間、恭介は再び室内を調べた。だが、多くの物が証拠品として警察に押収されており、手がかりになりそうな物を見つけることはできなかった。
 若干の落胆も感じたが、予想していたことでもあった。恐らく2人目、3人目の殺害現場も似たようなものだろう。
 部屋を出て歌舞伎町方面へ歩き出したところで懐の携帯電話が震えた。恭介は取り出して電話に出る。
「もしもし?」
「いくつか、気になる目撃情報が出た」
「どんな情報だ?」
「事件が起きた日の昼に、大久保通りでコートを着た男を乗せたタクシーがある」
 それは妙な話だった。梅雨も明けようとしている時期に、コートを着ている男などいない。犯行当日は雨が降っていなかったため、レインコートというわけでもないだろう。
「それは妙だな」
「もう1つ。犯行時間前後に、事件のあったアパートを2人の日本人が出入りしている。1人は男。もう1人は女だそうだ」
 恭介が得ていた情報によると、第1発見者は被害者と付き合いのあった女ということだった。そのため、目撃された女は第1発見者である可能性が高い。
「そのコートの男を乗せたタクシー会社は?」
 大手のタクシー会社の名前が返ってきた。個人タクシーでない限り、乗客がどこから乗り、どこで降ろしたかは記録されているはずだ。
「わかった。報酬はいつもの方法で支払う」
 電話を切り、恭介はコート姿の男を乗せたというタクシー会社の新宿営業所を目指して歩き出した。

 翌日の午後。タクシー会社から提出された乗降記録から、恭介はコートの男が降りたとされる辺りに来ていた。そこは多摩地区にあるベッドタウンの1つであった。
 コートの男は市の中心にある駅のロータリーでタクシーを降りていた。そこから徒歩で移動したのか、それとも別の乗り物を利用したのか。
 恭介はタクシーとバスの運転手に聞き込みをしたが、コートの男を乗せたという証言は得られなかった。
 駅前に設置された地図を眺めながら恭介は考えた。
(徒歩で移動したとなると、この辺りが限度か)
 その範囲は駅を中心にした半径1キロ圏内と恭介は想定した。都会の人間が徒歩で移動しようと考えるのは距離が1キロ前後の際だという統計が出ている。それ以上の距離になると別の移動手段を利用しようとするのだ。
 半径1キロといっても、その広さを1人で調べることは難しい。特にこうしたベッドタウンの場合、住宅が密集していて軒数ともなれば途方もない数になる。
 また、この付近には轟組の関係者、そして地上げの被害者などもいないということは事前の調査で判明していた。
 追跡を見越して陽動するために、わざとこの駅前でタクシーを降りたのか。それとも本当にこの街のどこかに潜んでいるのか。
 恭介はおもむろに携帯電話を取り出すと、短縮ダイアルに記憶させておいた番号を呼び出した。
「俺だ。チームの人間を何人か、こちらへ寄こしてほしい」

 完全に日が暮れた時刻。恭介は教会の前に立っていた。彼の隣には恭介がリーダーを務めるチームのメンバーである女性が控えている。
「ここです」
 女性が言った。
 チームの人間を使い、ローラー作戦にも近い方法で情報収集を行った結果、コートを着た男が教会へ入って行くところを目撃したという証言が何件か寄せられた。
「他のメンバーは配置についたか?」
「はい」
 教会はたいして大きくなく、住宅街の一角にひっそりと建っていた。周囲を民家に囲まれており、逃亡するにしても容易くないだろうことは想像できた。
 コートの男が教会に潜んでいる可能性を考慮し、教会の周囲にはチームのメンバーが展開されている。急な召集だったため、満足な装備は用意されていないが、それでも1人の人間を取り押さえるには充分すぎる。
「これより教会内部へ踏み込む」
 襟元に取りつけた無線内蔵のピンマイクに語りかけ、恭介は重厚な木製のドアをノックした。しかし、返事はない。
 何度かノックをし、中の気配を探ったが、内部に人間がいるようには感じられなかった。
 扉の鍵はかけられていなかった。恭介は扉を開け、中に入る。内部は暗く、恭介はフラッシュライトを点灯させて辺りを照らした。
 小さいとはいえ、教会の内部には神聖な雰囲気が漂っていた。
「こちらベース。各自、状況を報告しろ」
 内部に誰もいないことで、逃亡の可能性を考えた恭介は無線で呼びかけた。
「アルファ、異常なし」
「ブラボー、同じく異常なし」
「チャーリー、異常なし」
「デルタ、異常ありません」
 だが、返ってきたのはいずれも異常ないという答えであった。コートの男は逃亡したわけではなく、最初からいなかったということだ。
「わかった。ご苦労だった」
 恭介はチームのメンバーに解散を命令した。これ以上、多くの人数が住宅街にいれば目立つと考えたのだ。
 コートの男とこの教会、そして轟組との関係を早急に調べる必要があると恭介は考えていた。少なくとも、1人目の殺害に関して、コートの男はなにかを知っている可能性が非常に高いといえた。

 完


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 2512/真行寺恭介/男性/25歳/会社員
 5128/ジェームズ・ブラックマン/男性/666歳/交渉人&??

 NPC/グレイ・レオハースト/男性/32歳/始末屋

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■         ライター通信          ■
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 毎度、ご依頼いただき、誠にありがとうございます。
 遅くなりまして申し訳ありません。長々となってしまいましたが、このような調査結果となっております。
 真行寺様、ジェームズ様ともに別々の調査を行ったため、今回は個別の内容でお送りしております。
 これらの情報を元に、捜査を続行していただけると幸いです。
 では、またの機会にお会いいたしましょう。