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<東京怪談ノベル(シングル)>


『someday』


 砂漠で探していたモノは光りの欠片でした。
 それは真っ暗な暗闇に居た自分を闇から照り出させてくれたのです。
 それが嬉しかったのです。
 温かかったのです。
 本当にとても大事なモノでした。
 だけど闇に居たのは自分だけでは在りませんでした。
 光りの欠片はほんの少しの気の緩みから失ってしまったのです。
 それが哀しくって哀しくってたまりませんでした。
 だから自分はこの砂漠でそれを探し始めたのです。
 どこまでも広がる砂漠にはいつくばって、眼と手で砂漠の砂をさらいながらそれを探しました。
 広い広い砂漠で、ただ独りぼっちで。
 独りぼっちで探すには、砂漠は広すぎました。
 光りの欠片は見つけられませんでしたが、砂漠の中にオアシスを見つけました。
 自分の他にも守るべきものが居るオアシスです。
 そしてそのオアシスで休憩していると、砂漠の砂をさらっていた焼け爛れた手にはそれぞれ大切なモノが乗りました。
 焼け爛れていた手は癒されていきます。
 それは本当にかわいらしく愛おしいモノでした。
 自分は父親となりました。
 オアシスは家となり、
 そして家族ができたのです。
 時には気ままな風もそのオアシスにはやってきました。
 幸せでした。
 でもそれは、言うなれば箱庭のようなモノでした。世界を照らす光ではなく、箱庭を照らす光だったのです。
 ですから、箱庭の光では、光りの欠片のように全てを照らし出せる訳も無く、どこかいつも箱庭には闇があったのです。
 何よりも違う事は両手のそれは確かに愛おしいけど、だけどそれは親としての愛情で、
 それは与える愛で、
 与えられる愛情とは、
 自分を闇から救ってくれた光りの欠片へと抱いた、子が親へと抱くような愛情とは違っていたのです。
 そう。自分は今でも求めているのです。
 ただ狂おしく。
 寂しいから。
 哀しいから。
 本当はいつも与えてもらいたくって。
 初めてそれが、自分に光りを与えてくれたから―――
 だから確かに彼を照らしているはずの蛍光灯の光りも、風も、光りの欠片には敵わないのです。
 それを求める心があるから、彼の眼は、彼自身はオアシスにあっても、砂漠に向かっているのです。
 風が運ぶのは音。
 オアシスに居る自分に、風は希望の音を運んできました。
 その音に自分は打ち震えました。
 もう一度砂漠に出て、それを探したいと思いました。
 しかし彼には護るべきものが存在するオアシスと、両の手に乗るそれがありました。
 どれも大切なモノです。
 大切な居場所と、
 護るべき愛すべき愛しき者たちです。
 だけど自分が風にそれを全て託したのは、
 光りの欠片とは、彼が帰るべき場所だったからなのです。
 そこが自分の帰れる場所だから、帰りたいと望む場所だから、だから自分は、それを風に託したのです。
 風は、風でもそのオアシスを護れるから。
 風を信頼しているから。
 わかってもらいたいと、望み、願うから。皆に。
 帰れる場所とは、生まれた場所で、そしてそれは自分の何よりも大切な優先されるべき場所なのだから――――――
 それをわかってもらいたいと、望み、願いながら自分はオアシスから砂漠へと足を踏み出した。




 そう、絶対に生きて帰ってこいよ、ユーン。
 俺たちに殴られに………。



 羈絏堂は雨宿りの場所だった。
 ノイズのように雨が降る世界で得た、雨宿りの場所。
 時を刻む音は、時が進んでいく事を、時が止まった俺の心に如実に教えてくれていて、それがどこか心安らいだ。自虐的な安堵の子守唄を自分の口で口ずさむよりも、耳元で呪詛にも似た嘲笑を浴びせられているようで。
 それでも何かを得れば、得たそこで何かをしていれば、たとえ間違った道に踏み込んでも、そこで前にさえ歩いていれば、万事塞翁が馬と言われるように良き事が起こるように、雨宿りの場所が家となって、家族が出来た。
 そしてやはり塞翁が馬。
 この心に触れていたその心たちを、
 だけど俺はこの心が求める光の為に、
 ―――――――――――――――――――――――――――――――捨てる。
「わかってくれ、とは言わない。だけど俺にとってはそこが、帰れる、帰りたいと望む唯一の場所なんだ」
 いくつもの港に立ち寄る船は、しかし帰港する港はただ一つの様に、俺も帰れる場所はただ、そこだけだから。
 だけどこの心は、憧れと後悔とが混ぜ合わさった寂しさを、身勝手にも羈絏堂と家族に抱く。
 そこは、ただ立ち寄った港なだけにも関わらずに。
 だから俺は、背後の風を振り返られなかった。
 振り返れば風は、その音色で俺の足を止めて、家族という港に俺を連れて行ってしまうから。
 港の思いは、かつての俺が抱いた想いだから、想像できるから。
 ああ、そうか。
 あの時の彼女は、俺がこうなる事を知っていたのかもしれない。
 俺はそれにようやく思いつき、
 そしてその時の記憶は、泡のように俺の中から浮かび上がった。



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 ぱたり、と糸が切れたように俯いた顔の表情を隠す黒髪をユーンは不思議そうに見つめた。
「どうしましたか、綾瀬さん。ささ、遠慮せずにどうぞ?」
「あ、や、これは何の罰ゲームですか?」
 顔を上げたまあやの髪の隙間から紫暗の瞳がユーンを見つめている。
「は?」
 ユーンは小首を傾げた。戸惑いがちに睫を上下させる。
 まあやの顔は青ざめていた。
「それにほら、これはあの子たちのおやつだし」
 右手の人差し指を立ててまあやは言う。何やら必死だ。
 しかしそれにユーンは得心がいったように手をぽんと打った。
 お優しい人だ。あいつらのためにこんなに必死になって。
「大丈夫。ちゃんと取ってありますから。何もそんなにお気になさらずとも。お客様なんだから」
 ユーンはほやりと笑った。
 綾瀬まあやは時計の電池交換と整備をしてもらうためにここ、時計専門店『羈絏堂』を訪れた。
 そしてそこの店主、シン・ユーンは朗らかな笑みを持って彼女を出迎え、こうしてお客人としてもてなしてくれているのだ。
 時計の秒針が刻を刻む音色がオルゴールの音楽のように空気に飽和する店の奥で、二人はテーブルについている。
 出された紅茶は良い香りだ。
 そしてそれと一緒に出された、お皿。その上の手作りのお菓子。
 誰がそれを作ったかは、独創性溢れるそれを見れば、一目瞭然だった。
 そしてまあやは困った表情を隠しきれずに俯き、事は先のような会話を持って進められた。
 ユーンはにこにこと笑っている。そういえばこのお菓子を出す時に彼は会心の一品と言っていた。
 そもそもが人の家を訪ねて、出された物にケチをつけること自体が間違いであるのだが、綾瀬まあやという娘はそんな常識も、この場の空気も一切無視した。
「えっと、でも、あ、そうだ。あたし、ダイエット中なんです♪」
 にこりと笑って言う乙女の苦悩。の、割にはこの店に入って来た時に確かアイスクリームを舐めていた。
 しかしユーンが浮かべた表情は奇特にも保護者らしい優しい表情だった。
「ダイエットだなんてそんな、身体に悪いですよ? それにまあやさんは充分に細いじゃないですか。寧ろ、もう少し肉を付けた方が健康的ですよ?」
「わ。それはセクハラと言うものですよ、ユーンさん」
 必殺あー言えば、こー言う作戦のセクハラ、という言葉に憐れにも驚くユーン。
 決して間違った事を言ってもいないし、悪くも無いのにユーンは戸惑いがちに言う。
「セ、セクハラですか?」
 何故か善意のユーンを悪者にして、まあやは右手の人差し指をリズミカルに振りながら言った。
「はい。女の子に細いとか、お腹とか胸とか、二の腕とかうなじとか、足首の事を言うのはセクハラです。もろに下ネタを言うのももちろんセクハラ。もう、そこらのおやじと一緒になっちゃいますよ。電車の中で父親が痴漢をやって、その光景を目撃した思春期の娘の冷たい目を彼らにもされたらどうします?」
「………それは、困ります」
 深刻そうに呟いたユーンにまあやはうんうんと頷いて、諭すような声を出した。
「ですよね。だからもうセクハラ発言したらダメですよ? お母さんも悲しみます」
「はい」
「よし。という事で、あたしはダイエット中ですから、すみませんが」
「でも食べないダイエットは健康には悪いですから、しっかりと食べて、運動しましょう。後から俺と一緒に刻の精の散歩でもすれば大丈夫ですよ」
 鶏に似た姿をしている刻の精たちが小首を傾げる中、ユーンの方へまあやが押したお皿はユーンによって押し戻された。
「うにゅ」まあやはアヒル口。
 ユーンはにこりとニンジンとピーマンを嫌がる子どもにそれを食べさせようとする母親のような顔をする。
 刻の精たちは柱の陰や時計の陰からユーンたちを見ている。
 中には足下まで寄る者たちや、テーブルに乗って二人の真似をする者たちも居る。
「さあ、食べましょう。栄養価はばっちりです」
「栄養が高いと太りません?」
 まだ無駄な抵抗を示す。
「ですから綾瀬さんは充分にほ」
 ん? と紫暗の瞳でまあやが見据える。その眼は意地悪だ。
 ユーンは口を片手で押さえる。
 そして彼は肩を竦めた。
「仕方がありませんね。では、ここは実力行使と行きましょう」
「ほほう。この闇の調律師に決闘を申し込むと?」
 どこからともなくリュートが現れる。
 しかしユーンが刻を使って出したのは、ホワイトボードとマジックだった。
 まあやは眼を細める。
「○×ですか? それともワンヒット・ワンブロック? よもや絵心クイズですか?」
 臨戦態勢に入っているまあやに、ユーンもシリアスな緊張感を感じさせながら微笑む。
「いえ、ある・ないクイズです。勉強と発想力を鍛えるためにいつもあの子らがわがままを言うたびにやっているのですよ」
「なるほど。それをあたしにもやると。いいでしょう。その勝負、受けて立ちます」
 にやりと瞳を細めてクールに言うまあやに、
 ユーンも頷く。
 そして二人同時に唇を動かした。
「「決闘(デュエル)!!!」」
 マジックの蓋を開けてユーンはホワイトボードに問題を書いていく。
 そして書かれた問題はこうだった―――


 ある:菓子  水  今日  リーフ
 ない:ご飯  湯  明日  フラワー


 しかしまあやは問題が書かれたその次の瞬間に答えを口にした。
 ユーンは拍手をする。そして次に不敵に笑う。
「正解です」
「頭の体操にもなりませんね」
「いえ、小手調べですよ」
「で、次はあたしが出す番ですよね」
「ええ」
「「決闘(デュエル)!!!」」
「あたしはなぞなそです。


 地獄と天国へと続く分かれ道があり、その前に二匹の鬼が立っています。
 一方は正直者、もう一方は嘘つき。
 さて、あなたは鬼たちに一度だけ質問する事が許されています。
 天国に行くためにはその一度の質問でどのような質問をすればいいでしょうか?


 いかがですか?」
 頬にかかる髪を後ろに流しながらまあやは眼を細めた。
 だがユーンはふっと笑う。
「この俺を誰だとお思いで? 答えは」
 ユーンが口にした答えもまた正解だった。
 まあやは舌打ち。
 ユーンはマジックを置く。
「では次は俺です。俺もなぞなぞで」
「いいでしょう」
「「決闘(デュエル)!!!」」
「いきますよ、綾瀬さん。


 道が途中で二つに分かれています。
 一方は天国で、
 一方は地獄。
 
 分かれ道には3人の亡霊が居ました。
 ひとりは常に正直です。
 ひとりは常に嘘つきです。
 ひとりは時に正直で、時に嘘つきです。
 外見では誰がどの亡霊なのかは区別できません。
 (亡霊の性格が3つある事は知っています。亡霊同士は互いにどの亡霊か知っています。)


 では問題です。
 確実に天国へと行くためにはどの様な質問をするべきでしょうか?
 どの亡霊にでもイエス、ノーで答えられる質問を2問する事が出来ます。
 1問目と2問目は別の亡霊に対してでもよい。述べ二人に質問できる。
 ただし質問はイエス、ノーで答えられるものに限る。
 パラドックス的な質問は出来ない。


 さて、綾瀬さん、答えられますか?」
 にやりと笑いながらユーンはまあやを見据えた。
「ふん。不敵ですね、ユーンさん。あたしが出した問題のさらに上級問題で来ますか? でもあたし、性格が捻くれていますから、こういうの得意なんですよ」
 そしてまあやがすらすらと口にした答えは正解だった。
「くぅ」
 ユーンは肩を竦める。
「さすがです。そこまでダイエットに拘りますか」
「ええ。女の子ですから。あたしも」
 今度はまあやがマジックを手に取ると、ホワイトボードに式を書いた。



 5+5+5=550



「シンプルな問題こそ美しい。どうですか?」
 まあやはとん、とマジックで問題を指す。
 しかしユーンは間髪入れずにまあやに手を出した。
「綾瀬さん、マジックを」
 そしてユーンはしかしこの問題も解いてしまった。
 まあやは肩を竦め、椅子に座ると足を組んだ。
「本当にやりますね」
「ええ。だから言ったでしょう? 俺はこういうの得意なんですよ。さて、では次のバトルを」
「ええ。負けませんよ」
「「決闘(デュエル)!!!」」
「俺の次の問題はこうです。この問題で俺はあなたにあのお菓子を食べてもらいます。ものを食べないダイエットだなんて俺はあなたにさせません。




 ある豪華客船で殺人事件が起きました。
 密室殺人です。
 完全な密室で女性は殺されていました。
 自殺の可能性はありません。司法解剖でそれは証明されます。
 部屋にも不自然なくぼみは在りませんでした。
 俺はその女性と船のデッキで話をしました。
 彼女はこの船で子どもと会ったと泣きながら言っていました。
 幼い頃に捨てた子。
 そして、女性社長として成功している彼女はその捨てた子とはもはや会う事はできなかったのです。それは彼女が第二次世界大戦後の横浜で娼婦をやっていた頃に産んだ米軍兵士の黒人の子だから。
 しかし彼女が死んだと思われる時間、彼は別の場所で見られています。




 さて、綾瀬さん。あなたはこの問題が解けますか?」
 うぐぅ、と苦笑いしながらまあやは肩を竦めた。それから万歳。
 そして何をし出すかと思ったら、椅子にちゃんと座りなおし、皿の横に置いてあったフォークを手にとって、それでお皿の上のお菓子を刺す。ぶしゅぅ、というような音がして、膨らんでいたそれがみるみるしぼんで、すごく大きく膨らんでいたそれは、ぺらぺらとなって、一口サイズにたたんだそれを、まあやは口に入れた。
 それを口に入れるまでは黒髪に縁取られた美貌はどこか青ざめていたようにも見えたが、
 しかし、意外げに大きく見開かれた紫暗の瞳は次に満足そうに細められた。
「驚いた。美味しい」
 最初の驚いた、とはおそらく驚くほどに美味しい、という事だろうか?
 ユーンはくすりと満足げに微笑む。
 まあやは皿の上のお菓子全てと、冷蔵庫の中にあった残りのそのお菓子全てを食べると、口をハンカチでぬぐって、微笑んだ。
「ユーンさん、ご馳走様でした」
「はい。で、先ほどの答えは?」
 悪戯っぽく小首を傾げたユーン。やはり確信犯だったか、とまあやはその彼に笑い、そして答えを口にする。
「先ほどの答え。犯人はやはり子ども。殺傷現場はその彼女の子どもが見られたそこ。しかし彼女が死んだ場所が違っていたのは、それが彼女の母親心だったから。彼女は子どもを殺人犯にしないためにそこから離れて、そしてわざわざ密室を作って、そうしてやる事全てをやって息絶えた」
 ユーンは頷いた。
「そういう事です。それが親心。親は子どもが心配だから、言うんです。やるんです。そして全力で護る。俺は間違ったダイエットなんかさせたくありませんでしたからね」
「あたしはユーンさんの子どもですか?」
 まあやはくすくすと笑って、ユーンが出してくれた紅茶とクッキーに目を細めて、そしてそれを今度は意外にも素直に口に運び始める。
「うん、美味しい、このクッキー」
 ユーンはそれを優しい瞳で見守った。
「そういう人も居た、と、そう覚えておいてくだされば、それは本当に光栄ですよ」
 それは無意識に口に出した言葉だったのだろう。
 まあやは目を細めたが、しかしそれについては何も言わなかった。
 ただ、
「子どもはだけど――どれだけ大人になって、自分の家族を築き上げて、子を成しても――それでも子どもで、親を慕うのでしょうね。そう、親の前ではいつまでも子どもは子ども。それが子どもが親を慕う感情。親は、子どもにとって神様だから。いつまでもそここそが子どもにとっては帰れる場所だから。ね、ユーンさん」
「ええ。きっと親こそが、子どもが帰りたいと望む場所なのでしょう。だから夕暮れ時の世界で、子が家に帰り、それを親が迎える光景は何よりも優しくって、美しい」
「ええ。でも、困りものは、親が親の前では子どもなのでは、ではその子の子は、帰るべき場所は、どうすればいいのか? 帰りたいと望む親の子は。問題です、ユーンさん。決闘(デュエル)」
「決闘(デュエル)。そうですね。その時は、やはり繋がりが決める、それが答えとなるのではないのでしょうか? 親と子の繋がりが。俺は、親として、子を護ってもらいたいです。親となるという事は背負う事だから。その重みを忘れずに、子との繋がりを忘れずに、帰りたいと望んでしまう気持ちはわかるけど、親として子の帰れる場所を護ってやる事が何よりもの愛情なのでは、と考えるから。親とは究極の自己犠牲の役柄なのかもしれません」
「そうですか」
 まあやは微笑む。
「だけど、親は神様で、その愛情は深くって、親は自分を護ってくれて、だからこそ人は誰か他の人を求めるのかもしれませんね。与えられる愛情では哀しくって、寂しいから。自分も愛情を与える側となりたいから。自分が愛するべき存在が、自分をちゃんと愛してくれる存在が欲しいから。その人は、自分の味方となってくれるから。だからこそ人を愛する事は難しく、そして何よりも大きな責任がかかってくる。いつか愛する人たちを自分の心と天秤にかけねばならなくなるほどに。帰りたい場所か、それとも自分という場所に帰ってくる存在か。うん」
 紅茶を啜るまあやを見据え、ユーンは何かを言おうとし、だけど「「ただいま」」という言葉に言おうとしていた言葉を飲み込んだ。
 そしてその後は、第一回『羈絏堂』クイズ大会に皆で紅茶とクッキーを食しながら、耽るのであった。




 それがある日の思い出。
 この未来を予感していた。
 そしてユーンは進む道に立っていた綾瀬まあやの横をすれ違う時に言うのだ。
「決闘(デュエル)。俺は絆が答えと言いました。そう、絆があれば大丈夫です。あいつらには俺よりも深い、互いという絆があるから。他にも絆があるから。そして、いつかあいつら自身が帰ってくる者たちを迎える場所となるから。それは確かに帰れる場所があるのと同じぐらいに、それ以上に幸せな事だから。俺は、それを知っているから」
 ――――俺は、それを知っているから、その言葉を口にする事が罪のように、ユーンはそれだけを口の中だけで呟いた。
「じゃあ、あなたは?」
「俺は、あいつらを信じているから。実は俺が一番弱いから、だから帰りたいと望む場所に帰るんです、俺は。それがずっと長年願ってきた、祈ってきた事だから。だからどうか、もう、叶えさせてやってください。そのエゴの業は、あいつらを捨てる事で背負ったから」
 まあやは自分を追い越したユーンを振り返って言った。
「馬鹿な人。だけどユーンさん、忘れないでください。あの子達も、皆も、あなたという場所に帰るだけの存在ではない、って事。あの子達も皆も、あなたが帰れる場所なんだ、って事を。絶対に。待っててくれますから。出逢ってから今日まで、あなたがそうしてくれていたように。皆。そしてまた、あの前に食べさせてくれたお菓子、食べさせてくださいね。あれを作れるのは、ユーンさんだけなんですから。そうじゃなかったら、見つけて作らせます」
 ユーンはくすりと笑い、まあやを振り返った。
「はい」
 そして愛しい者たちが居る方を見つめた。
「行ってきます」



 →closed


 ++ライターより++


 こんにちは、シン・ユーンさま。
 いつもお世話になっております。
 このたび担当させていただいたライターの草摩一護です。
 ご依頼、ありがとうございました。



 ある日のユーンさんとまあやのやり取り、いかがでしたか?
 こら、出された物は何でもありがたく食べなさい、という感じなのですが、プレイングにあった楽しくなるような、という希望を優先して、まあやを悪い子に。
 いかがでしたか?^^ 楽しんでもらえていましたら幸いです。
 ユーンさんがクイズとかに詳しいのはきっと、羈絏堂に来たと当時鍛えられたのでしょう。
 お菓子は、PLさまにご想像して、楽しんでいただくように描写しなかったのですが、どのようなお菓子をご想像しましたか? 思わず逃げたくなるようなお菓子………
 シュークリームのような感じなのは確かですよね。というか、シュークリームだったのでしょうか? 生地は美味しかったのかな? たためた、という事は中身は?
 色々と私の方も考えてしまいます。
 だけど一度ユーンさんの作ったご飯、食べてみたいなー、と思います。^^
 さて、クイズの答えですね。
 作中ではPLさまに考えていただこうと思って、答えは書きませんでした。
 ここから答えを書きますので、自力で解きたい場合はお気をつけを。^^







 第一問。
 ある、の方の最初の文字を繰り返しにすると、別の言葉になります。
 菓子→かかし 水→ミミズ 今日→帰郷 リーフ→リリーフ
 という具合に。^^


 第二問。
 右の鬼を選び、
 「左の鬼に『天国はこちらの道か?』と聞いたら左の鬼はそうだと答えるか聞きます。
 そうだと言われたら反対の道へ、
 違うといわれたらこちらの道へ行きます。
 問題自体が嘘つきではなければこれで天国に行けます。


 第三問。
 1問目
 どの亡霊に向かってでも良いですが、
 残りの二人のうち一方の亡霊を指差して、
「あなたは正直者で、この亡霊が嘘つきであるか、
 又は、
 あなたは嘘つきで、この亡霊がどっちつかずであるか、
 のいずれですか?」
 と聞く。


 2問目
 第1問目の結果で、イエスという答えが返ってきたときは、
 指差していた亡霊に向かい、
 又、
 ノーという答えが返ってきたときは、
 第3の亡霊(第一問の相手でも、また指差したのでもない亡霊)に向かい、
 どちらかの道を指差して、
「あなたは正直者で、この道が天国に通じているか、
 又は、
 あなたは嘘つき者で、この道が地獄に通じている、
 のいずれですか?」
 と、聞く。


 2問目の答えがイエスならば指差した道が、
 ノーならばもう一方の道が、
 天国に通じている道になります。



 第4問。
 5+5+5=550
 の最初の+に/を付け加えれば、4となります。
 だから545+5=550
 となります。



 いかがですか?
 あっておられましたか?
 少しでも楽しんでいただけていましたら幸いです。


 それでは今回はこの辺で失礼させていただきますね。
 ご依頼、本当にありがとうございました。
 失礼します。