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<東京怪談・PCゲームノベル>


GATE:01 『提灯ノ灯リ…』 ―前編―



「ここは……? ど、どうしてこんなところに?」
「ああ……なんだここ……?」
 初瀬日和は、羽角悠宇と顔を見合わせる。自分たちは学校の帰りだったはず……この店に入った覚えはない。
 奥から誰かが出てくる。二十代後半という感じの女だ。大きく肩をあけた着物を着ていた。
「ああ、またお客かい。しかも二人同時とは。やれやれ……今日は多いねえ。二人とも、とりあえず奥においで」



 この世界は自分たちの居た世界とは違う場所で、ここで起きている怪異を解決しなければ元の世界に戻ることはできない。
 それが女将の説明であった。
「はいはい! 何かこの世界での注意事項とかありますか?」
 元気よく香坂丹が尋ねた。
 女将は肩をすくめた。
「特にないねえ。ああそうだ。この世界は別に夢の中とかじゃない。現実世界だからね。ケガもするし、殺されることもあるよ」
 さらっと言われて全員に緊張が走った。
 女将は小さく笑う。
「大丈夫。心配なら護衛をつけりゃいい。あんたらはいわば招待されてない客人なんだ。ちっとはズルしたっていいのさ」
「護衛?」
 梧北斗が女将を指差した。女将はくいっと顎をしゃくる。
「『ワタライ』と呼ばれる……特殊な人種がここにはいるのさ。あんたらのように別の世界から来たんだけどね。
 あいつらはココでも、そんじょそこらの連中に負けることはないだろうし、万が一化物に遭っても撃退してくれるだろうよ。
 別に護衛じゃなくても、ただの道案内で使ってくれていいからね」
 へえ、と成瀬冬馬は呟く。きちんと護衛までつけてくれるとは、そこそこ親切な世界だ。
「ただ……どいつもこいつも気まぐれでね。あまり過度に期待すると痛い目に遭うよ」
 女将はパンパンと両手を叩いた。そして奥に向けて声をかける。
「ちょいと! 出番だよ!」
 奥の障子がまるで自動ドアのようにすぅ、と両側に開いた。そこに居たのは三人の男女。
 白い衣服に白い帽子を目深に被った少女。金髪碧眼の長身の少年。ひらひらと手を振って愛想よく微笑んでいるのは黒髪おさげの少年だ。
「順番に自己紹介しな。あんたたちが護衛につくお客なんだからね」
 女将に言われて帽子の少女が口を開いた。
「フレア=ストレンジだ」
 その横に立つ金髪の少年が続けて自己紹介をする。
「オート=ビジョン。どうぞよろしく」
 最後に黒髪おさげの少年がにやっと笑った。
「十鎖渦維緒言います。よろしゅう」
 女将は全員を見回す。
「おそらくこの辺りで最近聞くアレがあんたたちをここに留めている原因だろう。蕎麦屋の親父が話してたことなんだけどね」



「柳に佇む女幽霊……うん、絵になるね。美人だったらお誘いしたいもんだ」
 冬馬は横を歩くオートを見遣る。冬馬はオートに道案内を頼んだ。彼となら……のんびりできそうだと思ったからだ。
 蕎麦屋への聞き込みは他の者に任せ、冬馬は街へ聞き込みをすることにした。
「……冗談だけど、ね」
 ぽつりと続けて言うと、オートは小さく微笑んだ。
「あなたは綺麗な女性に目がないんですか?」
「そんなことはないけど……。あ、名乗ってなかったね。ボクは……蛍雪」
 わざと母方の苗字を名乗った。成瀬の苗字を名乗る気は、今はない。
「蛍雪サン。あまり手助けにはならないかもしれないですが、ボクでお役に立てるならなんでも言ってくださいね」
「ありがとう。とりあえず他に噂を知っている人はいないのかな。キミはどれくらい知ってるの?」
「……ボクたちには禁止事項が存在しています。ボクは怪異についてはあなたたちに喋れないようになっています、今」
「? どういうこと?」
「すみません。特にボクは制限が厳しいので、これ以上は話せません」
 オートはすまなそうに言う。オレンジ色のレンズをした眼鏡を押し上げ、オートは続けた。
「ボクはお話できませんが、情報が集まりそうなところは知っています。行きますか?」

「ここ?」
 案内されたのは団子屋だ。オートは頷く。
 冬馬は団子屋ののれんをくぐって中に入った。本当に江戸時代のようだ。簡素な店内には客はいない。
 奥からすぐに誰かが出てきた。
 長い髪の美少女だ。どうやらこの店の看板娘らしい。
(うわ……すごいな)
 思わず冬馬がそう思ってしまう美貌の少女はオートと冬馬に向けてにっこり微笑んだ。
「いらっしゃい。ご注文は?」
 この世界の貨幣は持っていない。冬馬はオートに目配せする。
 オートは少女に向けて言う。
「月乃サン、最近よく聞く噂、教えて欲しいんだ。この人がそういう事件を調べてるから」
「だったらお団子くらいは注文してください」
 月乃は腰に手を当てた。オートは苦笑して団子を注文した。
 長椅子に腰掛けている冬馬は団子とお茶を運んできた月乃に尋ねる。
「で、何か噂ある?」
「どんなのが聞きたいんですか?」
「提灯を持った女の人の幽霊」
「そういうのが好きなんですか? 変わってますね」
 月乃は珍しそうに冬馬を見る。彼女はちょっと思案してから口を開いた。
「うちにタダ飯食いに来るお侍さんから聞いたもので、そういうのありますよ」
「探し物をしている女の人……でしょ?」
「そうですねぇ。あの人も遭遇したってブーブー言ってましたけど……。手伝おうとしたら消えてしまったらしいですね」
「……それがよくわかんないんだよね。手伝って欲しいのに、なぜ途中で消えるんだろう?」
 怪訝そうにする冬馬にオートが微苦笑した。彼は団子を口に運び、もぐもぐと食べている。
「その川、何かあった? 変なこととか、死体が出たとか」
「いいえ。でもどうして川なんですか? あの人は反物屋の前で遭ったって言ってましたけど……」
「え?」
 ぎょっとする冬馬は月乃を凝視した。
 どういうことだ? 川だけに出没するんじゃないのか?
「反物屋? それってどこ?」
「もう少し先に行ったところですけど。オートさんが居るから教えてもらってください」
 そうだった。その道案内にオートがいるのだ。
 冬馬はうーんと考え込む。
(移動している……? 川が原因じゃないの?)
 オートは月乃に微笑した。
「ここのお団子、いつも美味しいね」
「ありがとうございます。フレアさんは一緒じゃないんですね? 珍しい」
「……彼女は別件でね。あ、この人は蛍雪サン。今の女の人を探してるんだって」
「そうなんですか。他は……でも、どのお客さんも遭遇場所は決まってないですし……。すみません」
 謝る月乃に冬馬は微笑した。
「いいんだよ。気にしないで。あと……やっぱりその人を見かけるのって夜なんでしょ?」
「そうですね……。はい、夜遅くに遭う……って聞きましたよ?」
 だが女は常に何かを探しているわけだ。手伝おうとすると消えてしまうというのがどうにも解せない。



 蕎麦屋への聞き込みは丹と藤野咲月が行くことになったので、北斗と日和、悠宇……それにフレアの四人組は別のことをすることにした。
 北斗はちら、と一番後ろをついて歩くフレアを見遣る。
 白い帽子を目深に被った彼女は黙々と歩いていた。三人が選んだ案内人は彼女なのだ。
 北斗は悠宇に声をかける。
「なあ、この怪奇事件って、どうなんだ? 俺は考えるのって得意じゃねーんだ。おまえらの考えは?」
「そうですね……。川の傍だけではなんとも……。他に何か共通していることがないんでしょうか?」
 日和が小さな声で応えた。
「私の考えは……子供を亡くしたとか、そういうことでの未練で現れたんじゃないかなと……」
「あ、俺も。日和の考えに賛成だな。そういうのって恋しい男や子供を失って、っていうのが定番だし」
 悠宇も頷く。
 北斗は首を傾げた。元々北斗は動くほうが得意なタイプだ。推理をするのは得意ではない。
「定番すぎねーか、それだと」
「定番とかいう問題じゃないですよ。この怪異を解決しないと、私たち、帰れないんですよ!」
 日和は不安そうに言う。ただでさえ周囲は見知らぬ街。それに、見慣れぬ格好の人々が多い。こんなところに長い時間滞在するのはかなり不安になる。
「生前の、人であった頃の情報を探しませんか?」
「そうだな。あと、水の近くに出るってことだし、その幽霊、火に弱いかもしれねえ。火種は欲しいな」
 提案した悠宇はフレアのほうを振り向く。
「なあ、えと、ライター……はこの世界にはなさそうだよな。なにか火を起こせるものとかない……ですか? 持ち歩きたいんだが」
 相手が年上なので悠宇の口調がぎこちない。北斗が「ぷっ」と軽く吹き出した。
 フレアは帽子のツバの下から三人を見遣り、口を開く。
「その必要はない。アタシがいるから、そのへんは気にするな」
「どういうこと……ですか?」
 怪訝そうにする悠宇に向けてフレアが片手を伸ばした。掌を上に向ける。するとそこに、ボッ、と小さな火の玉ができた。
「この通り、アタシは火を熾せる。一応護衛も兼ねているんだ。遠慮なくアタシを使え」
 冷淡に言うフレアに日和と悠宇は顔を見合わせた。
 悠宇としては女の案内人のほうが日和も気が楽だろうと彼女を指名したのだが、失敗したかもしれない。
 北斗はフレアの周囲をウロウロする。
「せっかく一緒に行動するんだし、仲良くやろうぜ! 俺、梧北斗! よろしく、フレア!」
「…………」
 無言でいるフレアに笑顔を向けている北斗に、悠宇は呆れたような、感心したような顔を向けた。
(あいつ……一番最初にフレアを選んだな、そういえば。ああいうのが好みなのか?)
 フレアはちら、と北斗に目線を遣る。
「勝手になんとでも呼べ。……ところでどこへ行くんだ? 目的地を言ってくれないと案内のしようがないんだけど」
「フレアが行きたいところは?」
 元気よく言う北斗に彼女は目を細める。
「残念だが、この件に関してはアタシは情報規制もされている。答えを探すのはあんたたちなんだから、せいぜいしっかりやるんだね」
「なんだ。手伝ってくれねーの?」
 残念そうな北斗にフレアは肩をすくめた。
「アタシが手を貸せる行動は限られてるだけ。さ、どこへ行く?」

 川に調べに行った谷戸和真、山代克己は見当たらない。
「私の能力で読み取れればいいんですけど」
 日和は川を覗き込んだ。
 悠宇と北斗は柳の木を見ている。なんの変哲も無い木に見えるのだが。
「べつに変なものとか感じないけどな……俺」
 ここで死んだ霊とかならば、北斗は感じ取っているはずだ。
 日和は立ち上がり、首を横に振った。
「だめです……感じ取れない」
 どうやら日和の能力はこちらの世界では使用できないようになっているようだ。
 日和は不安に震えた。能力のない自分がこれほど頼りないとは思わなかった。
「じゃあさ、やっぱり地道に聞き込みだって! それに、帰ったら蕎麦屋の情報も聞けるし!」
 北斗の提案に悠宇は頷く。とりあえず街を回って聞き込みするのが一番だろう。

「ここがこの街ではわりと人が多い場所になるね」
 フレアがそう説明する。行き交う人に多さに北斗が「うわ〜」と声をあげた。
「ここらへんの店は聞き込めば教えてくれるはずだよ。悪いヤツはいない。心配ならアタシがついていく」
 悠宇が日和を見遣る。自分が彼女と一緒に聞き込むのもいいが、やはり心配だし……分かれるなら三人バラバラのほうがいい。
 日和が悠宇の視線に含まれたものを感じておずおずと手を挙げた。
「あ、あの……じゃあ私と一緒にお願いします」
「わかった」
 こくんとフレアが頷く。
 三人はそれぞれ別の店に入って行った。だが、それほどめぼしい情報は見つからなかった。
 恋人に捨てられた女や、子供を失った女。それに関して尋ねていた日和や悠宇は、それほどいい情報は得られなかった。
 とりあえず一旦全員集まることにした。
「あるにはあるけど……古すぎる。時期が合わないぞ?」
「悠宇も聞いたの?」
「ああ。でもあれは怪談話だな。最近のじゃない」
 がっかりしている二人とは違い、北斗はうきうきしていた。見知らぬ世界でも彼は不安になるどころか楽しんでいた。
「最近落し物した女の人いるかって訊いて回ったけど、いなかったなあ。最近誰かが死んだかって訊いても、長屋のなんとかっていう婆さんとか、そういうのばっかりだ」
「そうですか……。じゃあ期待するのは蕎麦屋のご主人の情報だけですかね」
 日和は嘆息する。そんな彼女の視界に何かが入った。何かを握ったフレアの手だ。
 驚いた日和は顔をあげる。
「か、缶ジュース!? どうしてそんなものを持っているんですか?」
 差し出された缶を日和に押し付けた。そして北斗、悠宇にも。
「歩き回って疲れたかと思っただけだよ。その飲み物があるのが、あんたたちの世界なんだろ?」
「そ、そうだけどよ……」
 不気味なものでも見るように悠宇がフレアをうかがう。
 北斗はフレアに「サンキュー!」と礼を言った。全く疑いもしない男だ。
 とりあえず化生堂に戻ることになった。これ以上は情報は得られそうにない。



 女将は戻って来た者達を見渡して口を開いた。
「戻ってきたようだね。もうそろそろ夕暮れ時だ。集めた情報で今後どうするか決めておきな」



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【6540/山代・克己(やましろ・かつき)/男/19/大学生】
【2711/成瀬・冬馬(なるせ・とうま)/男/19/蛍雪家・現当主】
【4757/谷戸・和真(やと・かずま)/男/19/古書店『誘蛾灯』店主 兼 祓い屋】
【5698/梧・北斗(あおぎり・ほくと)/男/17/退魔師兼高校生】
【3524/初瀬・日和(はつせ・ひより)/女/16/高校生】
【1721/藤野・咲月(とうの・さつき)/女/15/中学生・御巫】
【2394/香坂・丹(こうさか・まこと)/女/20/学生】
【3525/羽角・悠宇(はすみ・ゆう)/男/16/高校生】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、羽角様。ライターのともやいずみです。
 今回は物語を二つに分け、羽角様は初瀬様、梧様と行動させていただきました。まだ謎は完全に……というか、ほとんど解明されていない状態です。
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!