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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


死の手紙 1日目

「ねえ、こんな噂知ってる?」
 ある日の昼休み、教室で昼食を摂っていると1人の生徒が話し始めた。
「先輩から聞いたんだけど、死の手紙を受け取ると、3日後にその人は死んじゃうんだって」
「やだ、なにそれ?」
 笑いながら別の生徒が答える。
「でも、別の学校で死んだ人いるらしいよ?」
「どうせ、あれでしょ? 都市伝説ってやつ?」
「かもねー」
 笑いながら生徒たちは興味をなくしたように別の話に移った。
 その日の放課後、1人の女子生徒が帰宅するために下駄箱の蓋を開けると、スニーカーの上に1通の封筒が置かれていることに気がついた。
「なんだろ?」
 疑問に思いながら封筒を手に取ると、表には自分の名前が書かれていた。
(もしかして、ラブレターってやつ?)
 今時、古風なことをする人間もいるものだ、と思いながら女子生徒は少し胸をときめかせて封筒を開けた。中には二つ折りにされた便箋が1枚。
 呼吸を整えて便箋を見ると、そこにはなにも書かれていなかった。
「なんだ。悪戯か……」
 がっかりしつつ、若干の怒りを覚えながら女子生徒は便箋と封筒をクシャっと握り潰し、近くのゴミ箱へ放り捨てて帰宅した。
 3日後、その女子生徒が学校裏手の巨木で首を吊って死んでいるのが用務員によって発見された。その巨木は人の手が届く高さには枝がなく、女子生徒は地上から10メートル近くも離れた場所で首を吊ったのだった。近くにはハシゴや脚立、台に使用した物などはなく、自殺ということだけで片づけるには、あまりにも不可解で、謎の多い死に方であった。
 生徒たちの間には「死の手紙」の噂が急速に広まった。誰が広めたのかはわからない。だが、首を吊って死んだ女子生徒も、手紙を受け取ったから死んだのだ、と生徒たちは実しやかに噂した。
 そして、新たな生徒の許へ手紙が送りつけられる。

「ねえ、1年のコ。手紙、きちゃったらしいよ?」
 昼休み、教室でクラスメイトたちと昼食を摂っていた陸誠司は、女子たちがそんな話をしているのを耳にした。
 最近、学園で話題になっている手紙といえば、死の手紙しかない。1週間前に首吊り自殺した生徒も、死の手紙を受け取ったから死んだと噂されていた。
「あのさ、その話、ちょっと詳しく聞かせてくれないかな?」
 誠司は女子生徒に近づき、声をかけた。彼女たちは少し意外そうな表情を見せたが、快く話をしてくれた。
「1年2組の吉田さんているじゃない? あのコが受け取っちゃったらしいよ」
「それは、いつ?」
「今朝だって。学校にきたら、下駄箱に入ってたみたい」
 当然、悪戯という可能性も充分に考えられた。しかし、同じ学園の生徒が死んだばかりにも関わらず、そうした悪質なことを仕出かす人間がいるものだろうか、と誠司は首をひねった。
「吉田さんて、どんな人?」
「そんな親しくないけど、見た目は派手な感じじゃないよ」
「ふーん」
 曖昧にうなずいてみたが、誠司は本人に会ってみることにした。

 放課後。最後の授業が終わると同時に誠司は2組へ向かった。
 普段は生徒たちの嬌声が響いているだろう1年2組の教室も、この日はなぜか微妙な沈黙に包まれていた。
「あのさ、吉田さんている?」
 教室へ入るなり、誠司は入り口近くにいた生徒へ訊ねた。生徒へ礼を言い、誠司は教室の一角にいる女子生徒たちへ近づいた。
「ちょっと、いいかな?」
 誠司の言葉に女性たちが振り返った。
「手紙、受け取ったコがいるって聞いたんだけど?」
 そう誠司が言った瞬間、1人の女子生徒が怯えたように体を震わせた。と同時に数人の女子が怒りの視線を誠司へ向けた。
「ちょっと! あんた、いったいなんなの!?」
「面白がってるなら、こっち来ないでよね!」
 誠司は複数の女子から集中砲火を受けた。だが、それが吉田という生徒を周囲の奇異の視線から守ろうとするものだということは理解できた。
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
 若干、女子たちの勢いにたじろぎながらも、誠司は説明を試みた。
 すでに何人かの心ない生徒からからかわれたりしたのだろう。誠司は女子たちを説得するのに思いのほか骨を折った。
 手紙を受け取ったのは吉田明美という生徒で、学校に登校してきたら下駄箱に入っていたということであった。中身を確認したが、便箋にはなにも書かれておらず、気味が悪くなって近くのゴミ箱に捨てたと明美は言った。
 それを聞いた誠司はすぐに下駄箱へ向かった。清掃が済んでいるため、ゴミ箱の中身を片づけられている可能性は高かったが、残っていることに賭けた。
 幸いにもゴミ箱の中身は片づけられていなかった。帰宅する生徒たちから奇異の視線を向けられながらも、誠司はゴミ箱を漁って手紙を見つけ出した。
 その封筒に触れた瞬間、誠司はなんとも言えない奇妙な気を感じた。簡単に言うならば怨念といったところだろうか。しかし、そう単純なものでもないような気がする。
 中の便箋には、なにも書かれていなかった。試しに持っていたライターで炙ってみたが変化はない。近くの水道で水に浸してみたが、同じく変化は見られなかった。
(悪戯か、あるいは人的なものではないということか)
 やはり現時点では悪戯という考えを拭い去ることはできなかった。死の手紙の噂、そして実際に自殺した生徒。こうもタイミング良く事件が起きては怖がらない生徒はいないだろう。
 だが、同時に人外の存在の仕業という印象も感じていた。誠司も校舎裏に立つ巨木の巨木を見たことがあるが、人の手が届く高さに枝はなく、踏み台などを用意しなければ自殺などできるような木ではない。
 ふと、そこで誠司は思いついた。他殺ということも考えられる。誰かが自殺に見せかけて生徒を殺したという可能性も否定はできない。
 湿った手紙をポケットに突っ込み、誠司は校舎裏手へ向かった。

 久しぶりに見上げた巨木は誠司の記憶よりもはるかに高かった。校舎の屋上に届くほどの高さで、最も低い枝も3階ほどの高さにある。ロープを投げて引っ掛けることもできなくはないだろうが、難しいと思った。
 また、校舎からも10メートルは離れており、窓から飛び移ることも無理だろう。周囲に他の木はなく、この巨木だけが悠然と立っている。
 巨木の下にはいくつかの花束が置かれていた。自殺した生徒のために供えられた物だということは容易に想像できた。
 巨木の周囲には異質な空気が漂っていた。それが自殺した生徒の霊なのか、それとも生徒を殺した人外のものの気なのかは判別できそうにもなかった。
 ただ漠然と誠司が思ったのは、誰かが自殺に見せかけて殺したのだとしても、女性では難しいだろうということだった。滑車の原理で重量が軽くなるとはいえ、女性が人間1人を持ち上げることが果たしてできるのか疑問に感じたからだ。
 どのみち、自殺した生徒と吉田明美の周辺を調べる必要があると思った。それを調べるために誠司は校舎へと戻ることにした。

 放課後ということもあり、帰宅してしまった生徒も少なくなかったが、それでも複数の生徒から自殺した生徒に関する情報を得ることができた。
 自殺した生徒の名前は1年の三島優子という女子生徒で、彼女に関する悪い情報は特に耳にしなかった。唯一、気になる情報があるとすれば、亡くなる1週間ほど前、三島優子が同じ学年の生徒をフったということであった。
 その情報に引っかかりを覚えた誠司は、男子生徒から話を聞くために探した。三島優子を知る生徒から聞いた話では、フラれたという男子生徒はサッカー部に所属する1年生であるようだった。グラウンドへ行ってみるとサッカー部は練習をしており、その合間を見て話を聞くことにした。
「練習してるところ悪いんだけど、話を聞かせてもらえないかな?」
 誠司が声をかけると、男子生徒は驚いた表情をした。だが、先輩ということもあってか嫌な顔は見せなかった。
「なんですか?」
「亡くなった三島優子さん、知っているよね?」
「ええ、まあ……」
 どこか怯えたように少年は答えた。
「彼女が自殺する前、フラれたって話、聞いたんだけど?」
「その話っすか」
 誠司の問いに少年は困ったような、怯えたような顔をした。その様子から今までにも多くの人間から同様の質問をされたのだろうと誠司は思った。
「俺、殺してないっすよ?」
 少年は機先を制するように言った。誠司はいささか呆気に取られたように驚きをあらわにしたが、小さくうなずいた。
「そんなことを言うつもりはないよ。ただ、最後に三島さんとどんな話をしたのか、聞かせてもらいたいだけなんだ」
「そんな、たいしたことは話してませんよ。告って、フラれて、それから気まずかったですから」
 三島優子は野球部のマネージャーだったというから、気まずい状態が続いたという言葉は容易に想像がついた。少年からさらに話を聞いた誠司であったが、特に参考になりそうな情報は得られなかった。
 考えられるのは三島優子にフラれた少年が、彼女を逆恨みして殺害したというものであったが、少年の態度を見ている限り、そうしたことはなさそうであった。仮に少年が誠司を騙そうとしているのであれば、アカデミー賞ものだと感じた。
 礼を言ってグラウンドを後にした誠司は、続けて職員室へ向かった。
 もう1つ、誠司には気になっていることがあった。それは手紙から感じた怨念のような気である。そして三島優子が自殺した場所からも異様な気を感じた。
 これらを感じたために、今回の事件が人外のものの仕業ではないかという印象が拭い去れないでいる。
 学校には多くの怪異現象が発生する。それは不特定多数の人間が、長年に亘って出入りしている特異な場所であるからだろう。特にこの神聖都学園は、他の学校よりも怪異現象が多いことで知られている。
 新しいものから古いものまで。良く知られた怪異から、そうではないものもある。
 この学園に古くからいる教師ならば、そうしたことも詳しいのではないかと思っていた。
「失礼します」
 そう言って誠司は高等部の職員室へと入った。
 目的の教師は職員室の片隅で茶をすすっていた。杉並という日本史の教師で、まもなく定年退職を迎えるという学園でも最古参と言われている。
「杉並先生。今、よろしいですか?」
「おお、陸か。どうした?」
 誠司の突然の訪問に驚いたようだったが、杉並は顔をほころばせた。
「先生。死の手紙って知ってますか?」
「最近、生徒たちの間で噂になっているやつかね?」
「はい。そうです」
 てっきり「くだらない」と一喝されるかと思っていた誠司は、微妙な顔つきをした杉並を見て意外な印象を受けた。
 三島優子が巨木で首を吊って自殺して生徒たちが死の手紙の仕業だと騒ぎ立てた際、多くの教師はそんな非科学的なことはないと断じた。
 当然、それは教師としての立場に置かれた人間の建前だったのだろう。いかに神聖都学園が多くの怪奇現象に満ちているとはいえ、教師という立場にある人間が公然と認めるわけにはいかないという考えが教師たちの間にはあった。
 しかし、誠司の目の前にいる教師は少し違うような気がした。
「陸は信じているのか?」
「死の手紙に関しては信じている、とは言い切れませんね。ただ、原因を解明したいとは思っています。今のままだと生徒は誰も落ち着けませんから。それに今朝、こんなものが届いたんです」
 そう言って誠司はポケットから取り出した封筒を杉並に見せた。その瞬間、杉並の表情が強張った。
「これは、陸が受け取ったのか?」
「そうです」
 嘘をついた。だが、余計なことを喋って杉並に心配をかけたくないという気持ちもあったし、なにより話を大げさにしたくないという考えからでもあった。
「手紙の噂が本当なら、3日後には死にます」
「だから、調べているのかね?」
「むざむざ、死にたくはありませんから」
 正確には死なせたくない、だ。手紙を受け取ったことを知り、その噂を知っていながらなんの手段も講じず、同じ学園の生徒を死なせたくないという思いがあった。
「そうか」
 呟き、なにかを考え込むかのように杉並はわずかに沈黙した。
「15年ほどまえ、同じような事件があった」
「本当ですか!?」
 思わず誠司の口から驚きの声が漏れた。
「今いる若い先生方は知らないだろうが、15年ほど前、やはり手紙を受け取った生徒が相次いで自殺を遂げるという怪事件があった。自殺した場所は、やはり校舎裏手にある巨木でな。そのときは切ろうという話まで持ち上がったのだが、結局は切れなかった」
「なぜ、切れなかったんですか?」
「祟りを恐れたからだ」
「祟り?」
「そうだ。あの巨木、邪魔だとは思わないかね?」
 そう言われてみれば邪魔な位置に立っているような気がすると誠司は思い、うなずいた。
「あの巨木は高等部の校舎を建てる前からあったといわれている。工事の際、切ろうとしたが、作業員が原因不明の病にかかったり、重機が暴走したり、祟りとしか思えないことが重なったため、断念したと聞いている」
「あの巨木には、なにか曰くでもあるんですか?」
「私も日本史を専攻しているからな、独自に地元の歴史などを紐解いてみたら、いくつも出てきた」
 杉並の話では、戦国時代に名だたる武将が巨木の下で斬首されたのを皮切りに、いくつもの不吉な話が付きまとっているのだそうだ。
 明治時代には結婚を反対された近くの村の若い男女が巨木の下で自害しただとか、太平洋戦争時には空襲に巻き込まれた人々が巨木の根元で息絶えたとか、そうした事実とも噂ともつかない逸話が数多く残っていると杉並は話した。
「この学園ができてからも、巨木にまつわる話はある。ある男子生徒が女子生徒に告白の手紙を送ったが、相手にされず、それどころか手紙の内容を他の生徒たちの前で公表したそうだ。それを苦にした男子生徒は、巨木で首を吊って自殺したという」
「それって……」
 それは死の手紙に通じるものがある。
「だから、15年前の事件が起きたときも、その男子生徒の怨念が女子生徒へ復讐している、などと騒がれたが、それについても謎が残る」
「どういうことですか?」
「その男子生徒が自殺したのが事実だとしても、学園ができてからということになる。その頃には巨木もそれなりに大きかったはずだ。今よりも少しは背丈が低かったかもしれんが、それでも自殺できるような高さではなかったはずだ」
 確かにその通りかもしれない、と誠司も思った。ならば、その男子生徒はどのようにして巨木から首を吊ったのだろうか。また、本当にその自殺した男子生徒が死の手紙を配り、今も女子生徒たちを殺しているのだろうか。
 自殺した男子生徒の怨念が行っているのだとしたら、前回の事件から15年も間が開いているのはなぜなのか、という疑問もあった。

 次に誠司は新聞部へ協力を求めた。単に学園の歴史を調べるだけなら、図書館にある書物を調べればわかる。しかし、誠司が求めている情報はそうした書物には決して記されない内容であった。
 新聞部の歴史は古いらしく、また過去に発行した記事もきちんと保管されていた。そうした中に15年前の事件、そして杉並教諭から聞いた自殺した男子生徒の記事があった。
 どちらも事実であった。記事には面白おかしく書きたてられていたが、15年前の事件に関しては原因もわからないまま、ある日、唐突に手紙の噂が消えたという曖昧な内容で終わっていた。
 男子生徒が自殺したのは約30年前。そう考えると、15年周期で事件が起きているような感じもしたが、それは誠司の憶測でしかない。
 この時点で考えられる可能性はいくつかに絞り込めたような気がした。
 1つ目は他殺。三島優子を自殺に見せかけて殺害した男子生徒が、それを隠すために死の手紙を装ったという可能性。
 2つ目は30年前に自殺した生徒の怨念。その怨念が死の手紙をばら撒き、女子生徒たちを殺害しているという可能性。
 3つ目は巨木に宿る別の怨念によるもの。杉並教諭の話では校舎裏の巨木には様々な曰くがあり、そのどれもが血なまぐさいものであった。そうした長年に亘って蓄積された怨念が、ここにきて噴き出したという可能性。
 4つ目は本当に自殺した。だが、それでは吉田明美に届いた手紙の説明がつかない。
 誠司は最後の考えを打ち消した。
 その時、不意に校内放送が鳴り響いた。
「下校の時刻を過ぎました。校内に残っている生徒は、速やかに下校してください」
 スピーカーから流れる校内放送を聞き、誠司は続きは明日にしようと思った。これ以上、校舎に残ることはできない。
 新聞部員に礼を言い、渋々ながらも帰宅することにした。

 完


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 5096/陸誠司/男性/18歳/高校生(高3)兼道士

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■         ライター通信          ■
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 はじめまして。九流翔と申します。このたびは、ご依頼いただきまして誠にありがとうございます。
 遅くなりまして申し訳ありません。長々となってしまいましたが、今回はこのような調査結果となっております。
 これらの情報を元に、捜査を続行していただけると幸いです。
 では、またの機会にお会いいたしましょう。