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<東京怪談ノベル(シングル)>


『愚者のエンドロール』


「さようなら」
 彼女はそう囁いた。
 静かに。
 確固たる真実を音声化させて。
 そして彼は、それに笑った。
 彼女は確かに生きている。
 生き残る。
 彼を殺す事に微塵の躊躇いも無い。
 だが、彼の方は後悔が残っていた。
 ナイフで切り刻んでやったライダースーツ。
 あと少しで乳を曝け出し、下腹部も………
 それが心残りだ。
 この凛とした顔を、恥辱に染めて、犯してやりたかったのに。
 だから彼は、死ぬ間際に、携帯電話の電源を入れた。
 これにより愚者のエンドロールは終らない。



 +++


 東京某所のデパート。
 玩具売り場。
 そこにはかわいらしい人形が並んでいた。
 時間は深夜。丑三つ時。
 携帯電話が着信すると歌を唄いだす人形が置かれているそのコーナーで、ひとつの人形(小学1年生ぐらいの大きさ)が、唄いだした。



 +++


「いらっしゃいませ」
「すみませんがこの人形をください」
「はい。真にありがとうございます。こちらの商品ですね」
「あ、それとすみませんが、その人形、プレゼント用のリボンを付けてもらえますか? 娘の誕生日プレゼントなんです。携帯電話と一緒に」
 彼は父親らしく優しく笑った。




 そして事は、回る。


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 銃声が闇に轟いた。
 それは夜気を震わせて、あたりの夜のしじまをも撃ち砕いたが、しかし私は知っている。
 その銃声よりも先に、夜の大気に乗った音を。
 沈黙に慣れていた私の耳朶をふいに愛撫した音は、携帯電話の通話音だった。
 どこかへと繋がり、そして呼び出している音。
 私はそいつが死んでいる事はわかっていた。
 眉間を撃ち抜いたのだ。生きている訳が無かった。
 それでも私がそいつに照準したままの銃口を下げようとは思わなかったのは、そいつが今にも動きそうな顔をしていたから。
 眉間の銃創から赤い雫を垂らし、
 完全に白目はむいていて、
 絶命してしまったために、垂れ流される鼻水や涎で汚れた、顔に浮かぶ表情、
 死臭を放ちながらもそいつは、今もまだ尚、生きているようで。
 だから私は、銃口をずらす事は出来ない。
 いつでもこの指で無機質な死神という弾丸を吐き出せるようにトリガーに指をかけて。
 そんな事を思いながら近寄ると、そいつの携帯電話はふいにぴぃぴぃぴぃ、と電池切れの音を吐き出し始め、
 転瞬後にぴぃー、という断末魔の音と共に切れた。
 ただ、その切れる寸前に携帯電話の向こうから聴こえたくすくすと笑うそいつの声は、果たして、私の聴き間違いだろうか?
 私は、その携帯電話に触れようとして、
 そしたらその携帯電話の液晶画面から半透明の手が伸びて、それがまるで蛇のようにのた打ち回って、私の身体をはいずり、縛り付けて、
 私の手から拳銃が落ち、
 私のうなじを舌で舐めるように這いずった手の平が私の顔の前に来て、
 その手の平には口があって、
 その口が私を―――――
「――――っぅ」
 私はベッドの上から跳ね起きた。
 そしてあれが夢であった事を認識し、
 再びベッドに倒れこむ。
 昨夜は洗い立ての石鹸の香りと太陽の匂いがした真っ白なシーツはしかし、汗で塗れ、どこか血の香りがした。
 ベッドの横の窓の外に広がる世界はまだ薄暗い。
 時刻は午前4時を少し回ったところだった。
 もう一度寝なおすにはまだ、良い時間。
 それでも私は、だからといってもう、寝る気にはなれなかった。
 あの悪夢の続きを見るのが嫌なのではなくって、
 この胸を締め付ける焦燥感に寝れそうも無いから。
 私は汗で額と頬に張り付く髪をぞんざいに掻きあげた。
「手遅れかどうかは、だけどまだわからない。しくったのは確かだけど」
 前向きな発言は自己暗示。
 これ以上の失敗を重ねないための。
 そして願掛け。
 新たな犠牲者が出ないように。
 私はベッドから立ち上がると、脱衣所へと移動した。
 汗で濡れたパジャマと、下着を脱衣籠に入れて、浴室に入る。
 浴室の冷たい空気が私の肌を撫でた。
 それは刺すように冷たく、だから悪夢と焦燥感に火照った身体に心地良い。
 迸るシャワーの湯は、あっという間に私の身体を完全に濡らし、私は熱い湯の愛撫に身体の緊張を溶かれて、吐息を漏らす。
 顔を打った湯は、顎を撫で、そのまま首筋をつぅーっと指先でなぞるように流れて、鎖骨を伝い、胸から腹、下腹部へと流れ落ち、太ももから足を流れた湯は、足の指から浴室のタイルに広がって、他の湯と一緒になって、流れていく。
 浴室はもやに包まれて、
 私の零した吐息も、それと一緒になって。
 シャワーの熱い湯は心地良かった。
 それが私の中にあった緊張も溶かして、流していってくれるのがわかる。
 私は自分が自分でも思う以上にこの状況に焦っていた事を再認識した。
 そしてだから、このシャワーの熱い湯を浴びている間だけでもその事を忘れるようにした。
 浴室から出て、脱衣所で髪と身体を拭き、濡れた髪はタオルで結い上げる。うなじを流れる雫は、そのまま流れるに任せた。
 身体にもバスタオル一枚、巻くだけにする。
 部屋のソファーに足を組んで座り、私はテレビのリモコンでテレビを点けた。
 早朝のニュースが目的だった。
 そしてそれはまるで私を待っててくれたように、
『それでは次は新宿区で起こった連続放火事件についてです。一昨日の夜から連続で起こっているこの放火事件について警察は新たな情報をマスコミに発表しました。これは放火犯からのメッセージであり、そしてそれは他の異常性事件などで見られるような警察へのメッセージではなく―――――』
 その後にもアナウンサーは何かを言っていたが、しかし私は聴いてはいなかった。
 そのアナウンサーの横に小さく表示されたメッセージは明らかにあの携帯電話で何かをしていた男がこの私に残したメッセージだったのだから。
 私は口笛を鳴らす。不敵な敵に対して。
 そしてソファーから立ち上がり、身体に巻いたバスタオルと髪を結い上げていたタオルを足下に落とすと、能力の応用で濡れた髪を乾かし、そして下着をはいて、あとは裸身の身をライダースーツで包み込んだ。
 それが私の戦闘衣装だ。
「ミッションスタート」



 +++


 あの殺したが、殺し損ねた彼と私が出会ったのは、彼が行っていた脊髄強奪事件が切欠だった。
 彼は金の為に人間の脊髄を強奪し、そして今はこの私に復讐するために放火事件を連続で起こしている。
 しかし彼だって馬鹿じゃない。
 一度負けた私に、また真正面から立ち向かう愚は行わないはず。
 それでいて私への挑戦状。
 つまり罠は仕掛けられているという事。
 だったらこちらはさらにその上を行けば良い。
 情報は警察から、いただくか?
 私はバイクをこの連続放火事件を担当している捜査会議室が開かれている警察署へと向けた。
 警察署のすぐ近くのファミレスにバイクを止めて、私は携帯電話から相手の携帯電話へとメールを送る。
 ほどなくして私が呼び出した喫茶店に彼がやって来た。
 彼は警視庁の刑事だ。
 彼とはとある怪異絡みの事件で出会った。
 最初は怪異などまるで信じてなどいなかった彼も私と共に彼が関わったその事件を経て、怪異を信じるようになった。
 そして今では、私の良き理解者であり、協力者。
 私は店に入ってきた彼に手を上げて挨拶する。
「で、今回は何だ? お嬢ちゃん」
 ただ、この呼び方だけは何とかしてもらいたい。
「いつも言っているが」
 私が苦々しげに言うと、彼は子どものように笑った。
 そしてこれが私が最後に見た彼の笑みとなる。
 そんな事など露とも知らずに、私は彼に切り出した。
「一連の連続放火殺人事件について教えてもらいたい」
 彼は眼を細めた。
「あれは怪異絡みか?」
「間違い無く」
「そうか」
 どっと重い息を吐き出すように彼はそう言って、火のついていない煙草を口にくわえた。
 女子どもが居る所では彼は煙草を吸わない。それでも煙草を吸うのは、口が寂しいからだ。
 そしてそれはまた、彼が緊張している時に見せる癖でもあった。
「警察があのメッセージを発表したのは、犯人がまだ小学1年生の子どもの可能性があるからだ」
 私は自分の眉根が寄るのが分かった。
 どの火災現場にも同じ靴の跡があり、そして、鑑識課の科学捜査によってそれが小学1年生の女子である事がわかり、
 それを基に行った聞き込みによってひとりの女の子が捜査線上に浮かび、
 そして彼女の父親が、昨日、マンションの階段3階踊り場から落ち、現在は生死の境をさまよっていると、
 突き落とした犯人もまたその女の子であり、
 大きな人形を持ったその現場から逃げさる姿を最後に行方がわからなくなっていると、
 彼は私にそう教えてくれた。
「その女の子が、では感染者、という訳か」
 私はそう呟き、どういう事か聞いてくる彼に、私が追っていた脊髄強奪事件の犯人が呪によって己が魂を携帯電話でどこかに飛ばし、
 そして何故かその女の子がその携帯電話で飛ばされた彼の魂を受信してしまって、
 彼の魂に感染してしまっているのであろう事を、
 報道によって流されたメッセージは自分へのメッセージであった事を、私は彼に伝えた。
「という事です。それでその女の子の写真はありますか?」
「ああ。頼むよ。この女の子を助けてやってくれ」
「ええ。必ず」
 そして彼は殺された。
 私はそれを携帯電話で知る。
 彼と別れてから私はバイクで女の子を探し回っていて、だけど何の情報も無く、それで彼に何か進展があったか聞くために携帯電話をかけたら、
 彼の部下が出て、彼が件の女の子に殺された事を私は知った。
 それは彼の腹部に刺さっていたナイフの位置から判明した事だった。検死医もそれを保証していたそうだ。
 ただ、彼が残したダイイングメッセージは…………



 +++


 私は彼が殺された廃墟に来ていた。
 ここは前はデパートだった。
 私は中に入る。
 現場検証は終わり、数人の警察官が廃墟の前に居たが、私はその眼を盗み、デパートに入ったのだ。
 彼の遺体が倒れていたのはエスカレターの下だった。
 頭を乗り入れ口に向けて、うつ伏せで倒れていたのだ。
 そしてその彼の横にダイイングメッセージがあった。
 二11V
 果たして二11Vとは?
 私は白いチョークが象っている人の形を見据える。
 彼はここで何をしていたのだろうか?
 決まっている。
 彼はここにあの件の女の子を追いかけてきて、そして殺された。
 だけどそれは本当に?
 彼は私から聞いていたはずだ。あの子が他人の魂に汚染されていると。
 なのにどうして彼は――――
 私は天を仰ぎ見る。
 それから白いチョークで象られた枠の通りに寝転がってみた。
 彼がそうしていたように。
 そしてその手でダイイングメッセージを書こうとして、でもそこで私は気がつく。
 書かれていたダイイングメッセージとここからそれを書こうとすると、どうしても不自然な点が出てくる事に。
 彼の字を書く時の癖では、こうして寝転がった状態であれを書こうとすると、字の入り方が歪む――――――
 私はばっと、立ち上がり、そしてダイイングメッセージを逆方向から見た。
「ダメだ。余計に、意味の無い物になる。でも、これは」
 私は確信する。
 これは彼が書いた物ではない。
 では誰が?
 ここでたむろする人たち?
 いや、この文字に、私はどこか幼さを感じた。
 そして彼はこの文字を書くのではなく、指し示す事で、それをダイイングメッセージとし、残そうとした。おそらく、
「私に」
 それは確か。
 私は彼の意思を感じる。
 ならこれは意味がある事。
 幼さを感じる文字。
 私は顎を触る。
 自然と眼を細めて。
「幼さ………あの娘?」
 あの女の子が書いた文字。
 それを彼はダイイングメッセージとした。
 どういう事?
 私はエスカレーターを見る。
 何かに違和感を覚えた。
「何だろう?」
 私はそれを上手く説明できない。
 でも何かを確かに―――。
 天気予報では今日一杯天気はもつような事を言っていた。
 しかし、どうやら土砂降りの雨が降り出したようだ。
 雨の降る音と、雷の音が、この廃墟の空気を震わせる。
 そしての振動で天井から埃が雪のように降ってきて、それが床に降り積もる。
 当然、エスカレーターにも。
「そういう、事か」
 私は辺りを見回した。
 そして気付く。
「エスカレーターの埃。それが床と一番下の段とではズレている」
 霊現象はブラズマだと言う学者が居る。
 確かに強力な霊が放出するエネルギーは強力な電磁波と同様の効果を見せ、電化製品などを起動させる事がある。
 それと同様の事が起こったんじゃないのか?
 私はだから能力を発動させる要領で力を放出させ、エスカレーターを起動させる。動き始めたエスカレーターの操作パネルを操り、
 下りだったエスカレーターは上りとなって、
 私はそれを目で追う。
「ビンゴ」
 そこに書かれていた文字は、私が思っていた通りの物だった。
 人形。
 そして私は天井にあるカメラを見る。
 エスカレーターが動いたのなら、あの監視カメラも動いた、という事は無いだろうか?
 私はセキュリティー室に行き、そして先ほどと同じ要領でそこの電源を入れ、画面に映し出された映像を巻き戻した。
 映っていた。
 件の女の子と彼。
 女の子が床に文字を書いていて、彼がそれを見て、
 そして女の子を連れて逃げようとする彼に、
 人形が襲い掛かる。
 揉み合う人形と彼。
 彼は何かを言いながら片手を振り回し、女の子は逃げていく。
 それだけの映像が映っていた。
 あの子はどこへ行った?
 そう思う私の全身の産毛全てが逆立ったのは、その映像が消える間際に、人形がカメラを見たからだ。
 人形と女の子が居る場所が、わかった。



 +++


 バイクをフルスロットルで飛ばした。
 闇をバイクのハイライトが照り出す。
 そして私は、つい最近も来た、その元マネキンの製造工場に来た。
 そこで彼は誘拐してきた人間の脊髄を強奪し、脊髄を強奪した人間はマネキンを壊す機械で粉みじんにして、コンクリートで固めて海に捨てていた。
 それを私は解決した。
 その事件だけは。
 しかし肝心のその犯人の魂は、取り逃がし、
 そしてそのツケが手痛い今回の事となったのだ。
 私は舌打ちをする。
 マネキン工場に入る。
 女の子は、彼がその前までの事件でそうしていたように、巨大な機械の中(クリーニング店の業務用の洗濯機のようなモノに見える)に入れられていた。
 嘔吐感がこみ上げてくるような怒りが私を支配する。
 私は拳銃を握る。
 両手に。
 そして視力に頼らず、五感とそれを越える感覚を持って、濃密な闇夜の海に潜るその気配を探り、掴む。
 夜特有の湿った香りと、
 血と埃、
 邪な感情の臭いが染み付いた闇に紛れ込んでいたその気配はよく知っていた。
 銃声が続けて鳴る。
 だが手ごたえは無い。
 そして聴力が捕らえた、空気の摩擦の音。
 何かが軋む音。
 ついで私のライダースーツの胸部が斬られる。横一文字に。
 露になった胸が、夜気の冷たさを感じる。
 衣服の胸の部分を斬れば、胸を曝け出せば、女は両腕で胸を隠し、身動きできなくなると、こいつはそんな邪な男の感情でそれをやったのか?
 ――――ちぃ。
 私は舌打ちをする。
 そんな感情は、私はとっくに捨てている。
 真っ裸でも、私は動ける。
 そうでなければ、私が生きるこの世界で、
「私は生き残ってはこれなかった」
 両手の拳銃の銃口を迫り来る人形に照準。
 トリガー。
 それを撃ち砕く気配が、闇にする。
 だがそれでも身体は緊張をとかなかった。
 ――――正解。
 360度。
 敵に周りを囲まれている。
 打ち捨てられていたマネキン人形が、私に襲い掛かる。
 拳銃はすぐに弾切れ。新たな銃弾を装填する暇は無い。
 私はその拳銃を捨て、隠し持っていた拳銃を新たに手に、マネキン人形の海に銃弾を放つ。
 だけどいかに最新式の大砲で打ち寄せる海の波をぶっ放そうが、それが無駄であるようにマネキン人形どもは次々と押し寄せる。
 拳銃はまた弾切れ。
 そして肉薄するマネキン人形たち。
 背後から来る人形に肘打ち。
 前から来る人形に蹴り。
 隠し持つ暗器の矢で右から来る人形の頭部を撃ち砕き、
 左から来た人形の横殴りの一撃をかわすために身体を沈め、そのままブレイクダンスを踊るように私は下段蹴りを放ち、床に着いた両手のバネだけで宙へと上がって、そして元私が居た場所に押し寄せたマネキン人形たちへと向かって、符を投げつける。
 転瞬、
 炎。
 火の海がそこにある人形全てを飲み込み、一瞬にして全てが燃え尽きた。
 それが私の力。
「人形如きがどう頑張ったって」
 萌え残った人形の首やら腕、足が転がるそこに降り立った私は、焼け付くような空気を胸に吸い込んだ。
 肺が痛い。
「あの子は?」
 私は駆け寄る。
 そして彼女を助け出して、
 ぶしゅぅ。
 湿った音がする。
 私は女の子を見る。
 その子の顔には、表情は無かった。
 ――――人形だった。
「やられた」
 私は幻術にかけられていたのだ。
 女の子もこいつと一緒に居る、という思い込みもあったから。
「最低ね」
 腹部を見れば、人形の右手が肘の部分まで私の薄い腹に埋まっていた。
 という事は貫かれたという訳だ。
 せり上がってくる熱い液体。
 私は口から大きな血塊を吐き出す。
 そしてそのまま無理やり咳をした。呼吸を確保するために。
 表情の無いはずの人形が笑ったように見えた。
 私は舌打ちし、
 そして苦労しながら右手を人形に当てると、気を放つ。
 威力に飛ばされる人形。
 そして私も踏ん張る事が出来ずに、放った気の衝撃に私自身が後ろに飛ばされる。壁に激突。
 ぶつかって、咳き込む。
 そのままずるずると私は座り込んだ。
 絶対的な慢心。
 この期に及んで私の思い込みがこの危機的状況を作った。
 まだまだだ、私は。
 このままでは私は死ぬ。
 だから私は、自分の状況を改めて探る。
 先ほどは貫かれたと思ったが、そうではなかった。
 腹に穴が空いてるだけだ。
 血液は、流しすぎた。
 眩暈がする。
 嘔吐感も。
 全身も打撲してる。
 状況は最悪だ。
 完全な、ポンコツ。
 だけど、
「この命が尽きるまで、私は戦い続ける、って決めてるんだなー、これが」
 私は笑う。
 自然と笑声が声帯を震わせて零れ出る。
 そうだ。私は生きているのだ。
 そして私は私の尻拭いをせねばならないし、
 彼の敵をとらねばならないし、
 彼女を助けねばならない。
 だから私は立ち上がり、符を腹の傷に当てる。
 応急処置。符による身体の偽装。これによって私の身体は勘違いをしているのだ。傷口に当てられた符によって、そこに穴が空いてなどいないと。
 それで痛みが消えるわけではない。
 出血多量による眩暈や寒気、頭痛も消えるわけじゃない。
 だけどこれ以上出血する事は無い。
 今はそれで充分。
 人形は静かにやって来る。
 これが最後。
 そう、最後。
 人形が来る。
 走り出す。
 私に肉薄する。
 その手刀が振り上げられ、袈裟斬りのように振り下ろされる。
 私は瞼を閉じる事も無くそれを睨みつける。
 どちらが先か?
 血の味がする唾を嚥下した、その時―――



 ゴォウ――――



 闇は一瞬のうちに陵辱された。燃え盛る炎の明かりに。爆発的に。
 その人形は燃え出した。
 魔眼『緋の眼』、それが私の奥の手。
「前の時は見せなかった力」
 私は笑ってみせる。
 ―――だけどそれはきっと私がそう思ってるだけ。
 変色した眼の色と同じ髪に縁取られた私の顔は、もう、疲労でぐしゃぐしゃの表情しかしていないのは、わかっていた。
 でもそれでもどうやら、それも私が笑った、とわかったようで、悔しそうに炎に燃やされながら、私に肉薄せんと、
 だけど私は傷とこの能力の反動で動けない。
 燃やされ尽くすのが先か、
 それとも――――



 そして最後に聞いたのは、断末魔の悲鳴だった―――
 ―――確かに人形に取り憑いた悪霊が上げた。



 人形は、炎の中で踊りながら燃え崩れ、
「ミッション終了」
 そして私は、気を失った。
 愚者のエンドロールはようやく、
 終ったのだから。



【ending】


 女の子は無事に保護され、
 そしてあの廃墟の監視カメラの映像と意識を取り戻した父親と私の証言によって、
 彼女の無実は証明された。
 全てはあの人形がしていた事だったのだ。
 私の視線の先に病院の医者と看護士にお礼を言って病院を後にする幸せそうな家族が居る。
 私はその家族の笑みと幸せを護れた事に安堵し、
 そして護れなかった彼の命を背負い、
 新たな想いをこの胸に抱き、
 私は身を翻す。
 次の怪異事件を解決するために。



 →closed
 


 ++ライターより++


 こんにちは、火宮翔子さま。
 はじめまして。
 このたび担当させていただいたライターの草摩一護です。
 今回はご依頼、ありがとうございました。


 いかがでしたか?
 PLさまのご想像通りの作品に仕上げる事ができていましたでしょうか?
 もしもそうならライターとして幸いです。^^



 翔子さんの設定は私もすごく好きな設定だったので、本当に書いていて楽しかったです。^^
 やはり正義感溢れる感じは良いですよね。
 それだけで全てに対して動く理由となるから、だからこその凛とした姿が描けて。^^ 私もそういうキャラが大好きで、投稿用の小説ではそういう主人公ばかり書いています。^^
 今回は、三人称の描写よりも、
 揺れ動く翔子さんの内面、想い、それを描写する事でPLさまに翔子さんの視点で、指定してくださったお話の感じを楽しんでもらおうと想い、一人称で書きました。
 それに一人称ならば、翔子さんの正義感とか、決意とかも描写できますし。^^
 また悩みや、駆け引きもそれで書く事が出来て、最後の部分なんかは楽しんでもらえますように、と。^^
 翔子さんの内面が、PLさまが想像している通りの感じで描写できていたら嬉しいです。^^
 少しでも楽しんでもらえていましたら幸いです。


 それでは今回はこの辺で失礼させていただきますね。
 ご依頼、ありがとうございました。
 失礼します。