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<東京怪談・PCゲームノベル>


みどりの黒髪



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「…なあ、一緒に海へ行かないか?」

…唐突に切り出されたのはそんな言葉、其の言葉を投げ掛けられたのは分厚い眼鏡をかけてきょとんとしている寺田聡呼その人。
きょとんとしている聡呼に至って動じず、にこにこと爽やかな笑みを浮かべているのは静修院刀夜だ。

「……あの、お仕事のお話、は…」

ようやっと声を出す事のできた聡呼は、本日の用件だったはずの事柄を述べた。刀夜は相変わらず涼しげに笑っているだけだ。聡呼は困ったように首を揺らす、その度に後ろで結った黒い髪がゆらゆらと揺れているのだった。

「そう急くなよ、海へ行くのがまず仕事なんだ」

刀夜は顎に手を当てて口端を上げた、目を少し細めて困惑している様子の聡呼を見つめる。したらば、案の定聡呼はどこかしらへと目線を少しそらした。くすりと小さな笑い声を上げれば、答えを続けて紡ぎだす。

「南江ノ島、ホテルの最上階で、妖魔が出たんだと依頼があった。」

いや、噂があるから確かめてくれ、だったかな?…刀夜は少しとぼけた口調で言葉を足した。聡呼は少しほど考えている様子、刀夜は少し体を傾け聡呼のほうへと乗り出した。顔を覗き込めばやはり困り顔のようで。

「…嫌ならいいんだが?俺はただ、海で泳いだりするのも息抜きになって良いんじゃないかな、と思って誘ったんだがな」

「っ!い、いえ、そんな事は無いんです!…が…、あのぅ」

「……何」

おろおろとする聡呼の口から出てきたのは、父に異性との外泊は硬く禁じられている、との言葉。刀夜は笑いを禁じえず、少し噴出してしまった。普通の女性ならば恐らくコレは断り文句だろうが、聡呼の様子と経験からして、本当に言われた事をかっちり護っているのだろう。
刀夜はそれを判っているのか、上がった口端はそのままだ。

「聡呼はえらいな。まあ、それは仕事のせいにするか…」

「…するか?」

一つ提案を上げた刀夜は、乗り出した其のままで少し上体を上げ、聡呼の耳元へと唇を寄せた。少し聡呼の肩に力が入るのが判る。

「黙っていればいいだろう…泊まる気なら、俺は尚更ご一緒したいね」

先ほどの言葉、誰も泊まるとは言っていないのにも拘らず、聡呼の“外泊”発言はよほど刀夜は気に入ったらしい。そして聡呼の顔はやはり真っ赤になっていた。刀夜は聡呼の反応を逐一楽しみ、海へは刀夜の粘り勝ち。と、言うよりは、聡呼も行きたかったらしい。解決方法が判れば、聡呼は顔を真っ赤にしながら、一つ頷いただけで承諾したのだった。



天は澄み切った泉が空に浮いているのかと思うほどの晴天だ、雲ひとつなく水色から濃い蒼色へのグラデーションが美しい。聡呼は髪が暴れないように、手で押さえつけながら窓の外を見る。木々の隙間に、天の物とは違う青い光が見えてきた。

「刀夜さんっ、すごい!凄い一杯人がっ!」

「シーズンだからな」

まるで海を初めて見たかのような聡呼の興奮振りは、出発前から続いていた。刀夜の車に乗る時もそわそわと落ち着きがなく、海が見えたと刀夜が一言吐けば、すぐに窓へと釘付けになっていた。
聡呼の格好はいつもと違ってとてもラフとなっている、淡い水色のスカートが窓から入る風に揺れた。

対して、刀夜もまたラフな物。シンプルなシャツに黒のストレートパンツと、いつもと違う風貌と二人してなっている。

「海、来た事ないみたいだな」

未だに窓から身を乗り出さんばかりに、海を見つめる聡呼に軽く笑いながら声をかける。

「いえ、来た事はあるんですけど…随分昔で…」

「…何時振り?そういえば、水着は?」

刀夜の質問に対して、聡呼は何故だかびしりと固まってしまう。其の様子は見ずとも肩口から伝わってくるものがあり、山道にハンドルを切りながら返答を待っていれば、妙に真面目な聡呼の声音が帰ってきた。

「……笑いません?」

「内容によりけり、だな」

「…絶対に笑わないなら話しますっ」

刀夜は笑って何度か頷いた、声に出さなかったのは笑っているお陰で声が出せなかったのだろう。既に笑い始めてしまった刀夜に、聡呼は多少むくれるようにしているも刀夜の誓いを信じたのだろう、一つ考えるように間を置いてから口を開いた。

「高校生振りです…スクール水着くらいしか着た事ないんです…」

「…それは別に笑うような事じゃあないけど」

しかし、聡呼は未だに黙ったままだ。一体他に何の要素が…刀夜は暫く考えてみる、はて、どこいらに笑ってしまうような要素が…?………まさか

「……スクール水着、持って来てないだろうな」

「………」

聡呼は黙ったままでうんともすんとも言いはしない、バックミラーを介してみてみれば…気まずそうに顔を赤くして俯いている。これはもう、肯定と取るほかない。それが刀夜の頭の中で浮かべば、自然と笑いもこみ上げてくるもの。笑いを我慢しようとしているも、肩が震えてしまっているだろうことは明解だ。
ヘアピンカーブを華麗に曲がる際にでも漏れてしまったろうか、聡呼の悲鳴は。

「わ、笑わないって言ったじゃないですかあ!!」



依頼のあるリゾートホテルはビーチの目の前にあり、立地条件もかなりいい。ほぼ全ての客室が文句なしのパノラマオーシャンビュー。
山際と言うこともあって、夏場と言うのに涼しげな風が流れ込んでくる。…が、問題なことに、一番の売りだろう最上階で妖魔が出るなど、気の毒な話この上ない。
ホテルの駐車場へと車を停め、二人は一度ホテルへと寄る事に。カウンターへと足を運び、刀夜が名を告げれば奥から見計ったかのように支配人が出てくる。面持ちは深刻そうで、大層悩んでいる様子が伺えた。

「お越しいただき感謝しております」

「いいえ、依頼の件だが…最上階、だったよな?」

一つ、支配人は頷いた。軽く上を見上げるようにしてから、また二人へと目線を映す。

「スイートルームに出現する、と」

「…え!」

「では、泊まり掛けで退治するから、手配を頼む」

聡呼が叫んだのを全く二人は気にしていない、刀夜の言葉を聞いた支配人は軽く会釈をしてカウンターへと戻っていく。まるで引き止めたかったかのように、聡呼の手は空を彷徨っていたが、ぽんと肩に置かれた刀夜の手にそれは降ろされた。

「スイートルームがタダ、なんて滅多ない。ツイてるな」

「…一緒のお部屋なんですか」

「そりゃあ」

刀夜の言葉に聡呼は何かから護るようにして頭を抱え込んでしまった、そしてううと苦しげに唸る声が微かに聞こえてくる。

「安心しろよ、どうせ夜は妖魔退治だ、寝る暇だって無いだろ」

「…何を安心するんですかっ」

どうやら、聡呼は一緒の部屋に泊まると言うのが恥ずかしいらしい。真赤になって唸っている聡呼をよそに、支配人はスイートルームの鍵を持って現れた。其の後ろには1人のベルボーイも連れて。

「お荷物をお持ちいたしましょう」

「悪いね」

エレベーターはシースルー。上るに連れて空とは又違う青さを見せる海が見えてきた。階が増すに連れて色が変わり、聡呼は其の変化に夢中だ。ガラスの壁に張り付いてじっと見ている。その様子に刀夜は軽く笑った。



荷物はホテルへと置き、来たのはとある服屋。小さいながらも品揃えは豊富、聡呼も刀夜も歩くのが精一杯の通路を何とか通り行く…あるのは水着ばかりだが。

「狭い…どれが良いのか判らないんですけど…」

「気に入ったのとか、ないのか?」

刀夜の言葉を聞けば、目を瞬かせ水着の群集へと目を向けうーんと唸りだす。幸い、他に客はいないようで、ゆっくりと選べそうだ。そして、これっと刀夜の目の前に差し出された水着。
それはタンクトップとショートパンツのツーピースの水着だ…ただ、色は紺に茶、柄無しといたって地味な上、露出も少なくまるで競泳用だ。…刀夜は軽く笑って其れを棚へと戻した。

「聡呼、地味すぎ」

「!だ、だって、ああいうのが好きで…」

「俺が見立ててやるよ」

そう言うなり、聡呼の返答も待たずに刀夜は水着を掻き分け選びだす。さて、何がいいだろう。
聡呼は長い黒髪を持っているし、肌も余り昼間に外へ出ないせいか白い、水着になるならもう少し露出の高いもののほうが…。

「どうだ?これ」

「…少し、派手じゃありませんか?それに、あの、露出が…」

刀夜は自分の選んだ水着を見直した。…セパレートタイプの白いビキニで、大きく百合の柄が入っている。まあ、今時の女性ならば何の疑問もなく着るだろう至って普通の水着だ。多少、エレガントすぎる感じも否めなくは無いが、此方の方が聡呼の抵抗も少ないだろうと刀夜の配慮も見えた…のだが、予想以上に聡呼の規格は厳しかった。

「普通だろ」

「…判りましたっ、これにしましょう…あー、こんな、下着みたいな格好…」

恥ずかしいのか赤くさせた頬を覚ますように、水着を抱えながら手で仰ぐ。レジを済ませ、繰り出すは雪のように白い砂浜と、エメラルドブルーの海だ。
太陽は眩しく、店から出ればじりじりと炙られているような感覚に陥る。刀夜は手早く着替え、砂浜で聡呼が着替え終わるのを待っている、砂浜には色々な客が闊歩していた。
老若男女、無論美女だっている。此処で声を掛けるほど、刀夜は間抜けではなく、少し片眉を上げるだけに留めたのだった。だが、逆にあちらの方から話しかけると言う危険性も少なくは無かった。ちらちらと刀夜へと向ける目線は日差しより熱いものだってあったのだが…。

「お待たせしました…っと、熱〜」

ようやっとエスコートする相手が来れば、その間何もなかったのに感謝しているのか、刀夜は軽く安堵の息を吐いたのだった。
当の聡呼は…どうやら、肌に砂が当たってしまったらしい。聡呼は少しかがんで足をなでてから、此方へと向かってくる。髪は待たせているからと解いたままで、水に入るのだからと眼鏡はチェーンをつけて首から提げている。
聡呼は黒髪を揺らしながら刀夜の元へと駆けてくれば、眼鏡がないお陰で余り視界は良くなく、刀夜の顔も余り見えていない為か屈託のない笑みを容易に見せた。

「似合ってる、俺のセンスに間違いはなかったな」

「何言ってんですか…、刀夜さんも珍しく露出度が高いですね」

すちゃりと眼鏡をかけ、しげしげと水着姿の刀夜を見遣る。結構逞しい体つきの刀夜に、多少驚きを隠せない聡呼は興味深げに刀夜を見回した。

「…あんまり見るな。ほら、泳ぐぞ」

「わっ、はい〜〜」

刀夜は聡呼の手をぐっと引っ張り、連れて行く。砂浜は素足に暑く、日光もまた夏らしく強いものだ。

様々な人や水着でごった返す白い砂浜は極彩色に彩られていた。また、騒がしくもあり、昼の一番人の多い時間帯らしい。
久しぶりの海にはしゃぐ聡呼に付いて、刀夜も遊ぶ。とは、言っても、泳ぐわけでなく海の家に入って涼んだり、ひざ下ほどまで海に浸かったりする程度だったが、聡呼は十分楽しめている様子だった。
日は傾き海が金色に輝きだす頃合となり、そろそろ海からは引き上げるかという話になったのは海水浴客たちも引き上げだした時だった。水着から着替えた二人は、提灯を下げビアガーデンと変化した海の家の前で待ち合わせ。


「妖魔が出るのは深夜ですしね…そろそろ、帰って支度を」

「何言ってる、まだ早い」

「は?」

思わず聞き返した聡呼の手を引っ張り、向かうのは夕刻でもネオンに街頭煌びやかに輝く繁華街へと。
リゾート地というだけあって、そういう場所には事欠かない。

「折角きたんだ、遊ばなきゃ損だろ?」

笑う刀夜はそのまま聡呼を引っ張ってバーまで連れて行く。行った先でもまたオーシャンビューの綺麗な店だった。街中のおかげで該当の明かりも助け夜景も中々のものだ。

「刀夜さん、よくこう言うお店知ってますねえ…」

ちびちびと頼まれてきたジュースを飲みながら聡呼は感嘆深く呟いた。刀夜といえば軽く笑っただけで聡呼の言葉に返答はしない。

「…女の人とよく来てるんでしょう…」

…こう言う時の声は女性特有と言うものがあるのだろうか、聡呼にしては少しばかりじめっとした感じの声だった。いつもは陰気ながらも、張りがあったのだが…そこから何やら汲み取れたか、刀夜は聡呼へと目を向ける。

「残念ながら、ここは聡呼が初めてだな」

「…」

聡呼の目は遠くへと放られ、海の移ろいを見ているようだがおそらくはガラスに映った刀夜を間接的に見ているのだろう。遠いながらもどことなく目線は厳しい。

「聡呼でもすねる時があるのか」

「拗ねてません」

刀夜も聡呼を直接は見ずにガラスに映る聡呼へと視線を投げた、すれば、視線が合うのは当然の事。ぱっとガラスに映った聡呼は視線をそらす、横でもまったく同じ動作が繰り広げられているのだろう。

「そういう所も可愛いと思う」

そういって、刀夜はカクテルグラスを傾けた。ガラスに映る聡呼の色味は乏しいが、室内照明のせいなのか、はて暑いのだろうか…刀夜は横目で本物も確認してみたが、どちらの顔も真っ赤には違いなかった。



「もうすぐ、1時か…聡呼、どういう術が使える?」

ホテルに戻ってくれば、刀夜はソファへと座り幾分くつろいでいる様子で聡呼へと声をかけた。聡呼は夜起きているのは慣れていたのだが、昼間遊んで…という事は久しくなく、刀夜の向かい側のソファで舟漕ぎをし始めていた。

「…聡呼、寝るな」

「ぅあっ、はい!」

驚いたのか、慌てて飛び起き立ち上がってしまった聡呼の様子に刀夜はくすりと小さく笑いをこぼした。

「で、どういう術を持ってる?」

刀夜の言葉を理解したのか、聡呼は眼鏡の奥の目を瞬かせた。

「私は、修験道を少しばかり…。後は…下等霊なら、従えさせる事が出来ます」

「修験道ね…だから、鼬が懐いてたのか。…俺は陰陽道。あと、呪符術を使う。下等霊なら、聡呼だけでも大丈夫そうだな」

刀夜は以前見せてもらった聡呼の相棒を思い出した。小さな鼬の霊は随分と彼女に懐いていたな…修験道ならば当たり前かと、ひとつ頷き納得している。その様だけでは聡呼は意味を汲み取れなかったのだろう、きょとんとした顔で刀夜を見つめている。
それに気づいたか、刀夜は軽く手をふるって何でもないと意思を手で語った。


さて、帰ってきてからもうすぐ2時間と14分経過しようとしていた。時は既に2時。丑三つ時などとうの昔に過ぎている。
それを思ってか、聡呼は大きくあくびをした。疲労もあいまり眠気は絶頂だ。

「…仮眠するか?」

「いえ、大丈夫…です」

聡呼は眠気を覚ますために目をこする…?…聡呼はもう一度目をこする。

「刀夜さん、…出ましたよ」

聡呼は注意深く辺りを見渡す、背に刺さるのは妖魔の視線だろうか、気配だろうか。どちらにしろ、痛いものには違いなかった。聡呼の言葉に刀夜は一つ頷いただけで返答を済ます。
パチ、パチリと照明から火花が散る、明かりが弱まり薄暗闇が勢力を増した。影は静かに二人を囲んでいる、かろうじて残った灯りの下、二人は感覚を研ぎ澄まし相手の出方を見計らう。
室内、ましてやスイートルームなどでは、大きな立ち回りは出来ない。相手に隙を見せたら最後、と言う表現は今まさに、目の前の危機として感じられる言葉だった。
刀夜は呪符を…隠器術で隠していたのだろう、手品のように手を動かし何処からともなく取り出した。

聡呼は眼鏡を取り去り、軽く頭を振るい髪を揺らした。

「動物霊か…野蛮そうなやつらだよ」

「…そんな事はない、慣れてみれば可愛いもんじゃ」

聡呼の口調が変われば刀夜の笑みは深くなった、そうかね、と小さく返答をしながらも、ソファの周りを巡る気配に気を尖らせる。
舌なめずりのような音が聞こえる、確かに、人間ではない軽快な足音、それは闇の奥底から聞こえる。
まるで腹を減らした野良犬のように、あちこちをさ迷い歩いている。

「俺が相手をしようか…、女性に手を煩わせるのは嫌いでね」

刀夜が言った矢先のことだ、刀夜の後ろに現れたるは犬らしき影。ただ耳がない、鼻も目も、すべてこそぎ落ちて無くなっている。白い頭蓋骨に微かについた肉片が生々しく、照明の灯りを滑った感触で反射させた。
それは一体何匹いるのか…恐らく一匹ではないだろう、こう言う霊はお互いがお互いを呼び群れたがる。刀夜は目線だけで見える範囲を見回した、見かけられる影は…一、二…三?
刀夜はそれを認めた後にソファから立ち上がり、聡呼から少し離れた場所へとゆっくり歩んでいく。犬たちには背を見せる格好となってしまっているが、それも狙いのうちなのだろう。ゆっくりと刀夜は振り向き、目を細めた。

「ほら、躾け直してやるよ…来い」

刀夜の挑発の言葉を理解しているのかいないのか、飛び掛ってくる数匹の獣。一匹を軽くあしらい、指に挟み込んでいた呪符を額へと叩き付けた。呪符は剥がれる事無く犬の額に張り付いたまま。
犬の霊は足元がおぼつかず、すぐに倒れたがそれに構っている暇もない。後もう二匹、刀夜ならば素早く倒せそうでもある。

「何だ、随分と低級だな…」

これならば、呪符のみでも構わないだろう。隠器術にて隠していた武器たちも使う事無く事が終わりそうなのに、ため息めいた息を吐く。指を動かせば札の枚数が増え、それをいとも簡単に犬の額へと一匹二匹と貼り付けていった。それはもうあっさりと倒れてくれる犬たちに、刀夜は拍子抜けしてしまう。

聡呼に終わったと告げようと、後ろへと振り返った瞬間だ。一応は用意をしていたのだろう、己の仕事道具の弓を手にした聡呼が弦を引いて…此方に矢を放った。刀夜は思わず目を見開いたが、それは髪をやや掠めただけで青白い矢は刀夜の肩口を抜けていったのだった。後ろを見れば…倒れ崩れ行く犬の死骸のようなもの。それを見た刀夜は軽く笑って再度聡呼へと目線を向けた。

「油断大敵じゃ、刀夜」

してやったりと言わんばかりの聡呼の強気な笑みはこの時ばかりの物だが、刀夜は一つ息を吐いてから聡呼のそばへと腰を据えた。

「俺もまだまだだな…まさか、聡呼に助けられるなんてね」

「っ、人を何じゃと…!」

聡呼は距離が近いことに気づいてか、少しばかりひるんだ様に逃げ腰になる。それを感じ取ったか、刀夜の体も少し後ろへと引かれた。

「可愛い人だと」

「適当な事を抜かすでないっ」

刀夜は少し体を引いたままで聡呼の目を見て軽く笑った、聡呼の性格が変わったままであろうともどうやら晩熟なのはそのままらしく、頬を赤らめたままでぐっと口を食いしばっている。

「真面目だよ、俺はいつでも。…聡呼に対しては尚の事」

「…わ、わしは…っ」

聡呼の声に軽く刀夜は首をかしいだ。ぐっと刀夜の胸倉をすばやく聡呼の手が掴み、あわやこのまま投げ飛ばされてしまうのでは…と思うほどに強く引っ張られてしまう。さすがの刀夜も慌てたように瞬きを何度か繰り返すも、瞬間に襲ってきたのは痛みではない。頬に掛かる柔らかい感触はなんだろうか。
それはすぐに離れてしまった、刀夜の視線の端に茹蛸のように真っ赤な物体が映る。…聡呼の頬は、今までに見た事も無いほどに赤く染まってしまっていた。

「…上出来」

刀夜はまた笑えば、聡呼の頭を軽くなでるようにして叩いた、ぽんぽんとリズムを刻むように二回。

「んなっ………刀、夜?」

聡呼の肩にもたれる様にして前倒しになった刀夜の体を支えるままに、聡呼の腕は軽く抱きしめるように回されている。
…刀夜は、疲れも来たのだろう…あっという間に眠りに落ち、聡呼の肩で寝息を吐いていた。聡呼の唇は再度刀夜の頬へと寄せられ、それに刀夜が気づいたか否かは…軽く上がった口元で示されているだろう。
それを認める事無く、ゆっくりと体を後ろへと倒せば…聡呼も共に、眠りの世界へと落ちていったのだった。


「よし、今日は何をして遊ぶ」

「…ま、まだ遊ぶ気なんですか」

ソファにて目が覚めた聡呼に対し、朝の会話は初弾から疲れそうなものだった。分厚い眼鏡を掛けながら聡呼は問い返すも、それは愚問とばかりに刀夜が笑う。

「当たり前だ、若者が精力的に遊ばないでどうする」

「わ、若者って、私はもうにじゅう…!」

「若い若い!ほら、立て若人」






ぐいっと腕を引っ張られ、よたりと立ち上がれば…行くは紺碧の海、頭上は蒼々たる空、今日もまた海水浴日和であり、遊ぶには快適な空模様だろう。
太陽の日差しは夏にふさわしく隅々までも照らし、木の陰を葉の一枚まで鮮明に砂浜へと焼き付けている。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【6465 / 静修院・刀夜 / 男性 / 25歳 / 元退魔師。現在何でも屋】

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■         ライター通信          ■
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■静修院・刀夜 様
毎度、発注有難う御座います!ライターのひだりのです。
遅くなってしまい申し訳御座いませんでした…!何卒ご容赦くださいませ…。
口説き文句いかがでしょうか…こう、率直な感じじゃなく、周りから固める感じになりました。
今回は戦闘メインと言うよりは、口説きメインになってしまいましたが、どうでしょう。
楽しんでいただけますと幸いです!

此れからもまだまだ精進して行きますので
是非、また機会がありましたら何卒宜しくお願いいたします!

ひだりの