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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


ウゴドラクの牙

 「また難儀なものが入ってきたねぇ…」
 小さな木箱の中には一対の鋭い牙。
「ウゴドラクの牙かい…こんなものを保存しているなんて…狩った奴ぁ随分自己顕示欲の強いことだ」
 セルビア語でヴァンパイア。
 イストリア語やスロヴェニア語では、クドラク。
 元は人狼を意味する言葉。
「さぁて…魔術が施されているようだが、此れをつければ人狼になれるってぇトコかね」
 誰ぞに売るべきか。
 処分するべきか。
 それとも魔術を解除してただの飾り物とすべきか。
 蓮が迷っているそんな時、アナタは来店します。
「ああ、いらっしゃい。ちょうどいいや、お前さんならこれをどうするね?」

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■九条宗介の場合

 「――さて、どうしたもんかねぇ」
 厄介な物を押し付けられたものだと、ため息をつく碧摩蓮(へきま・れん)。
 まぁ、一癖も二癖もあるような代物が店に来るのはいつものことと言えばいつものことなのだが。
「お邪魔すよ」
「おや、宗介じゃないか。どうしたんだい」
 男の名は九条宗介(くじょう・そうすけ)。蓮とは旧知の仲で時折このようにふらりと立ち寄っては、何か話のネタにならないかと物色していくのだ。
「近くまで来たのでね。様子を見に来たのさ。で、どうだい?商売の方は」
 蓮は軽く肩をすくめ、相変わらずさ、と微笑して煙管をふかす。
「それは?」
 テーブルにつかれた蓮の肘。その傍にある、彼女には不釣合いなちっぽけな木箱。
 他にも怪しげなものはいくらでもあるのに、宗介の目は彼女の傍にあるそれに注がれる。
「これかい?これはねぇ、ウゴドラクの牙さ」
「へぇ、ヴゴドラクの牙か。 実物を見たのは初めてだ」
 慣れた手つきでパカッと木箱を開けて、中身を宗介に見せる蓮。
 真っ白な長い牙が一対、そこにあった。
「まぁ、わざわざこんな風に魔術を施してまで取っておくぐらいだしねぇ。同じようなものが幾つかあるよ」
「君の店にこういった物が置いてあるのは珍しいね。行商からの品かい?」
 自分たちでも処分に困ったのだろう、それをこちらにまとめて押し付けてきたのだと、蓮は苦笑する。
 そこで蓮はいいタイミングで店に訪れた宗介に、興味があるなら話のネタに買っていかないかと勧めてみた。
「生憎、今月は生活費が苦しいんだ。ただ、そうだね。条件次第では、貰ってあげてもいい。あぁ、悪いけど煙草貰ってもいいかな」
「条件…ねぇ、ああ、好きにしな」
 勿論普通の煙草があるわけではない。
 予備の煙管をさも当然のように手にした宗介は、慣れた手つき葉を詰める。
 嫌煙家のくせに、と笑う蓮。
「少しぐらい鈍い方が楽だからね」
 それが何を意味するのかは語らないし、わからない。
 付き合いがそこそこ長い蓮も、宗介のこういう部分は未だによくわからないでいる。
「――まずは、これの取り扱い説明でもするか。夜この牙を自分の歯に当てるとすぐに同化を始め、二本とも同化したら後は獣化を念じればそのとおりに変身できるそうだ。ただし…これは満月の日に行ってはいけない。牙の魔力が勝って完全な人狼になってしまうからね。元に戻るには、朝日を浴びると自然と落ちるそうだ。同じことが何度でもできる。そしてそれは一日一回にすること。不精して何日も朝日を浴びずにいれば満月の日と同様の事態になるからね」
 説明聞いてもつける気ないから。と、煙管をふかしながらのたまう宗介。
 あっそ、と半眼で見やるも、文句は言わない。
 買い上げたとしても、それを観賞用にするか実用にするかは本人次第。
 宗介が観賞派なだけだ。
 勿論、観賞派と断定することもできないが。
 彼がどう扱うかなど想像できもしない。
 それだけ変則的な行動や思考をしているからである。
「好き好んで人狼やらヴァンパイアやらイナゴやらになりたいと思う奴なんているのかい?わざわざクルースニクと対決なんてしたかないね」
「おや、姿は一つじゃないのかい?」
 宗介の言い様からしてクドラク…ウゴドラクには様々な形状があるようだ。
 さすがの蓮もそれは知らなかった。
「まぁ、ウゴドラク…クドラクに関して言うなら…スラブ諸国に伝わる吸血鬼のことなんだけど、イストリア語方言の呼び名がクドラク。これは吸血鬼狩人クルースニク…もしくはクレスニクと宿敵関係にあり、どんな小さな村にもこの両者がすんでいるという」
「住んでいる?人外が人の村に住んでいるってのかい?」
「人と同じように住んでいるって訳じゃないさ。さっきも言っただろ?分類は吸血鬼であっても姿は千変万化。牛や豚といった動物の姿で激しくぶつかり合い、例外なく黒い方がクドラクだ。そしてクドラクはバッタに変身する事も出来るといわれている」
 まるで聖書にある悪魔のような表現だろう?と笑う宗介。
 どの辺が笑うツボなのかは理解しかねるが…
 宗介の講釈は続く。
「そしてウゴドラクの本来の姿は魔術師であり、村などの集落に悪疫や不作などをもたらすと信じられた。凄まじい生命力を持ち、真の恐ろしさはその死後。死後はセイヨウサンザシの杭で串刺しにするか、埋葬の際に膝から下を切断して復活を防がないといけないようだね」
「えぐい話だね」
 苦笑しながら葉を詰めなおす。
「ま、実物を実際に見たわけではないから、所詮聞きかじりの知識に過ぎないね」
「聞きかじりでもそこまで知ってりゃ大したもんさ。さすがは小説家って所か」
 褒める気など毛頭無いくせに、口先ばかりでそんな風に煽てるものじゃないよ、と、宗介は言った。
 木箱を手に取り、煙管を片手にそれを眺める宗介。
 牙を見てそれがどういった動物の時のウゴドラクであるかは、動物に詳しいわけではないので判断しかねるが、まぁ恐らく肉食獣のものであることはまず間違いないだろう。
「…狼か、人狼か…吸血鬼という分類で一区切りにされるってのも妙な話だな」
「血肉をすするあたりで同一視されてるんだろうねぇ。ま、人狼だからといって、吸血鬼だからといって…昨今はそんな奴ばかりでもないがね」
「人との共存を望んでいるって奴かい?」
 不思議なものだよねぇ、と蓮は笑った。
 自分たちが生きる為にしている当然の行為を自ら否定し、多種族…場合によっては捕食対象と共存していこうという考えはどうにも理解できない。
 突き詰めて考えていけば、興味の惹かれる面白い展開になるのかもしれないが。
 殺人、強盗などの犯罪を個人の自由と一括りにする宗介にとって、自らの自由を失ってまで得ようとするものは何なのか、それについて考えるのは面白そうだと思った。
 思考停止こそが、この世で唯一許されざる罪。そう思っている宗介らしい考えだ。
「これについてはいい参考になったよ。さて、脱線させてしまったが…条件について考えようか」
 生活費に悩んでいる状況からすれば、格安で売りつけるのが一番手っ取り早いだろう。
 少し天井を見つめ、考えている様子の蓮。
 そして思いついたのか、にんまりと宗介に微笑む。
「値段は半値。それにおまけでそれをつけてやるよ」
 蓮が指差したのは宗介が持っている予備の煙管。
「それでどうだい?嫌煙家」
「これは一本取られたな。わかった、それで買おうじゃないか」
 笑いながら会計を済ませ、木箱と煙管を手にした宗介は、それじゃあそろそろバイトの時間だといって店を出た。
「相変わらずだねぇ」
 妙なところはあるが、嫌いではない。
 宗介が出て行った後、蓮は残りの木箱を出して眺めた。

「あと二つ、か…」



 木箱は待っている。
 自分の新たなる持ち主を。
 それが誰になるかは、また別のお話。



 勿論、取り扱いにはくれぐれもご注意を。


―了―
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【6585 / 九条・宗介 / 男性 / 27歳 / 三流作家】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、鴉です。
ウゴドラクの牙、お買い上げありがとうございます。
宗介さんの性格が上手く出せたかどうか、聊か不安もありますが…

ともあれ、このノベルに関して何かご意見等ありましたら遠慮なくお報せいただけますと幸いです。
この度は当方に発注して頂きました事、重ねてお礼申し上げます。