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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


届く想いはイツマデも

 本当か定かじゃない話に惹かれて、手に入れたのは薄桜色の紙。
 私はその一枚の紙を両手に持って店を出た。
 そうして今は自分の部屋にいる。
 普段と何も変わることなく、静かに机に向かっている。
 ただ普段と違うのは薄桜色の紙を目の前にして、ペンが動かない。
 何を書こうか。
 書きたいことはたくさんある。
 聞きたいこともたくさんある。
 紙を目の前に置き、ペンを持てば手が震えていた。
 書き出しが見つからずに、ため息をついた。
 差し出す相手は決まっている。
 私にさえわからない相手。
 『母』と呼べる相手へと………。
 届かぬ想いを………。
 この想いを届けてくれるという紙の存在。
「だめねぇ………」
 持っていたペンを手放した。
 ペンは机の上を転がって行く。
 私はただ机に片肘をつくと頬杖をつきながら、ため息をこぼすしかなかった。

 一体何を伝えたいのだろう。
 存在するかどうか分からない相手に届くのだろうか。
 そう思えば自然と視線はまだ何もかかれていない紙の上に落ちる。
 
 私が産み落とされてからどれほどの月日がたっただろう。
 もう生まれたときのことなど覚えていない。
 ただ覚えているのは繰り返されていく命の営み。
 器だけを何度も替えて。
 するするとそれでも命は私の指の隙間を流れて行く。
 私はそれをとめることはできない。
 私は…………私のオモイとは無関係のようにくるくる繰り返す。
 何度も……何度も……。
 今の器は7代目。
 何か不便があるか。
 いいえ、ない。
 だけれども少し寂しく感じることはある。
 何に…………。
 何にだろう。
 
 気持ちだけが堂々巡りする。
 ザワザワするのは私の心だろうか。
 それともまた別のなにかなのだろうか。
 薄桜色の紙を眺めたまま、溢れるオモイを整理できずにいる。
 どれほどそうしていたのか、窓辺から差し込むのは明るい陽射しから夕陽へと変わっていた。

「…………――――――――私は………」

 何を言おうとしたのだろう。
 言葉はそこで途切れてしまった。
 私は…………。
 いいえ、私達。
―――――――そう。
 私達はただ見送ることしかできなかった。
 どれほどの人たちの命が皆。私達を追い越して消えて行ったのか。
………………どれくらいなのか、わからないほど。
 ただ、それを見送るしかできない。きっとそれは今までもこれからも何も変わらない。
 変わるのは器ばかり。
 私達の魂は変わらない。
 どれほど生きてきても人の死を見送ることはツライ。
 考えれば考えるほどに、疑問とオモイが溢れ出て私達を悩ませる。
 転がったペンを手に取った。
 迷いはなかったと言えば嘘になる。

―――――――――――母さんへ

 どうして 私達は生まれたのですか?

 私達の生まれた意味は何ですか?

 生き続ける意味はなんですか?

 どうして、誰かと手を取り共に逝くことはできないのですか?

 貴女はいるのですか?

 終わりはあるのですか?

 どうして、募るオモイは晴れないのですか?
 
   ―――――――――― 私達は何者なのですか?


 ペンは走り出す。
 綴られていく言葉は全て疑問ばかり。
 手紙と呼べるものかどうかさえ怪しいけれども、尋ねずにはいられないオモイが溢れ出す。
 あふれ出したオモイが、堪えることができない。
 さっきまであんなに躊躇っていたのに、ただ一文を書き出せば簡単なことだった。
 切欠さえ掴んでしまえばあとは、オモイに任せればよかった。
 考える暇さえなく、文字が薄桜色の紙の上に綴られていく。
 いくつもの疑問ばかりが今の正直な自分の心なのかもしれない。
 幾星霜の年月を重ねた結果なのだろう。
 年月を重ねれば重ねるほど『分からない』ことが増えていく。
 自分の年齢を聞かれれば確かな年月はいえないかもしれないほどに生きすぎた。けれどもこれからも生きて行く。
 零れ落ちて行く魂の営みを見送りながら。
 ずっとそれは変わらないのだろう。
 きっと何時までも、見つめることしかできないのかもしれない。
 何も出来ることはないのか。
 何も出来ない自分がもどかしい。
 その全てが抑えられずに、薄桜色の紙の上に文字が躍って行く。
 答えなどないのかもしれない。
 そんなことは頭のどこかで分かっていても、尋ねずにはいられなかった。
 幾星霜。
 気が遠くなる時の中、生きて行くには辛いことが多すぎる。
 悔しいことが多すぎる。
 泣きたくなることが多すぎる。
 だから、尋ねずにはいられない。
 答えなど期待していない、分かっている。
 答えなど返ってくるはずもない。
 答えなどあるはずもない。
 それでも問いかけたくなる。
 誰でもよかったのかもしれない。
 気持ちを、疑問をぶつける場所が欲しかったのかもしれない。
「…………―――――――母さん」
 その呟いた声は泣きそうな声になっていた。
 いっそこのまま大声で泣けたなら…………。


 私達はこれから、どこへ向かうのですか?

 母さん。

 どこですか?

 私達を抱いてくれたことはありますか?

 私達の幸せはドコですか?

 零れ落ちる魂を拾うことは出来ないのですか?

―――――――――――――― 愛することは許されますか?

 薄桜色の紙の上に書かれた疑問の言葉はぎっしりと埋まっていた。
 書き終わって、そっとペンを置いた。
 知らないうちに目に溜まった涙を指で拭った。


 書きあがった手紙を紙飛行機に折る。
 そうしてそれを飛ばせば相手に届くと店の主人に聞いた。
 ペンを置いた指が震えていた。
 震える指先を見つめて笑ってしまった。
 どうしたのだろうと、普段の自分じゃないようで。
「しっかりしろ」
 自分に声を掛けながら、震える指先を押さえゆっくりと紙飛行機を折っていく。
 紙飛行機を折るなんてどれくらいぶりだろう、意外と折り方は忘れていなかったらしい。
 小さな苦笑い。
 出来上がった紙飛行機は酷く不恰好で、ちゃんと飛べるのかどうかさえ怪しい代物になっていた。
 紙飛行機を持って、窓の方へと歩く。
 もう陽が暮れていた。
 空は藍色に染まり切っていた。
 どれくらいの時間、机と向き合っていたのだろうか。まるで学校の試験勉強をしたとき以来の様な気がして、思わず笑ってしまった。
 大きく窓を開け放った、夜になり冷えた風が部屋の中に吹き込んでくるのが気持ちよかった。
「母さんに、よろしくね」
 届くとは半分思って居ない。
 ドコへ飛んでいくのかわからない。
 もしかしたらそのまま落下して、明日外に出てみれば窓の下あるのかもしれない。
 でも残りの半分は届くと信じているから。
 私は紙飛行機を片手に持つと、窓の外に向かって飛び立たせた。
 どこからともなく、ふわり。と、風が吹いた。
 まるで紙飛行機が飛び立つのを待っていたかのように、風が紙飛行機をすくい上げて向こうのほうまでと運んでいく。
 自分が力を使っては居ないのに、風が動いている。
「…………母さん?」
 風の匂いがどこか懐かしく感じた。記憶がないほど遠い昔近くで感じていた気がするから、思わずでた呟き。思わず唇の上に手を置いた。
 もしかしたら本当にこれは母親に届くのかもしれない。
 紙飛行機が見えなくなっても、離れられず飽きるまで窓辺にたって外を眺めていた。
 私達の知らない貴女のもとへこの紙飛行機が届きますよう…………。


 紙飛行機を飛ばした次の日、何かあるのではないかと慌てて外へと駆け出してみた。
 けれども何もなかった。
 その次の日もなにかあるかもしれない。と、表へと駆け出てみた。
 けれども何もなかった。
 そんなことを続けていれば次第に期待は消えていき、紙飛行機の存在さえ忘れてしまっていた。
 もう紙飛行機のことなど忘れかけだした頃。
 いつもと変わらず、仕事に向かうために歩いていた。
 私の背後から何かが迫ってくるような気配がして、後ろを振り返った。
 振り返ったと同時に私にめがけて、突風が吹き荒れた。
 髪の毛を着ているものを翻して吹き抜けていった。
 一瞬の出来事。
 目を瞬かして、振り返った方向を凝視した。
 何が起こったのか理解できなかった。
 吹き抜けた風は向こう側に行ったはずなのに、まだ私の周りに残っていた。
 あの時を思い出す。
 紙飛行機を飛ばした夜の日を………。
 あの時と同じ風の香りがした。
「………母さん?」
 私は慌ててあたりを見渡す。
 なにがあるわけでもない、ただいつもと変わらない風景が広がっているだけ。
 人など私の他に誰も居ない。
「………――――――届いたんだ」
 不思議とそう思った。
 思わず涙が溢れ出しそうになった。
 慌てて目元を手で拭う。
 何か明確な返事があったわけでもない。
 何か明確な確証があたわけでもない。
 それなのに、紙飛行機は届いたような気がして、この風を送ったのも母だというような気がした。
 全ては自分の思い込みだといわれればそうかもしれないが。
 手紙は届けられ、母は返事を送ってくれた。
 
…………―――――――――――生きて、生きて、イキナサイ。  
 
 風がそういう風に言ってる。
 そんな気がするだけかもしれないが。
 明確な疑問の答えではなかった。
 ただ、生きろ。と風が言う。
 母が生きろ。という。
 まだ終わりを探すには早いということなのだろうか。
 いつの間にかあった風はなくなっていた。
 風の痕跡さえなかった。
 
 そうして私はまた歩き出す。
 しっかり顔を上げて。
 疑問が解決されたわけではなかったが、それでも何故だか私の心は少し晴れていた。
 きっと疑問は解決される。分かるときが来る。
 自分のことをヒトに頼ってどうするのだ。
 いつか自分の力で疑問を解決できる日が来るまで……………。
 

…………―――――――生きて。 
   
 
 


 
 

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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1891/風祭・真(かざまつり・まこと)/女性/987歳/特捜本部司令室付秘書/古神  


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■         ライター通信          ■
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風祭 真様

この度は【届く想いはイツマデも 】にご参加下さりありがとうございました。
初めてのご参加、うれしい限りでございます。

はじめまして。櫻正宗と申します。
きっと普段はもっとしゃきっりした、カッコイイオネーサンだと思うのですが、今回は自分の心の奥底と向き合うということで、普段と違うキャラクターになってしまったかもしれません。
どこにいるのか、もういないのか分からない母への手紙ということで、長い年月過ごして溢れ出たオモイを手紙にぶつけてみました。
きっとこれからも真さんは命の営みをずっと見続けていくのかもしれません。
それはきっと想像以上に辛く、悲しいことの連続だと思います。
それでもきっと産み落とした母親なら、自分の子どもなら生きていて欲しいのではないかと。
それに立ち向かえるほどの強くなれと、叱咤激励をおくるのではないだろうかと。
こんな形にさせていただきました。
口調など最善の注意を払ったつもりですが、何かあればご遠慮なく申し出てください。

それでは最後に
重ね重ねになりますがご参加ありがとうございました。
またどこかで出会うようなことがあればよろしくお願いいたします。

櫻正宗 拝