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<東京怪談・PCゲームノベル>


 『逢魔封印〜参の章・前編〜』


「……ヒマだ」
 弓削森羅は、暇を持て余していた。
 夏休みも、もう半ば。課題はあったが、森羅は一切手をつけていない。休みの最終日に一気にやるか、授業が始まるまでにクラスメイトに写させてもらうのが、彼の主義だ。
「あ」
 ふと思い立ち、彼はクローゼットから甚平を取り出すと、そそくさと着替え、団扇を持ち、窓を開け、エアコンのスイッチをオフにする。
 そして、団扇をパタパタとさせながら、窓から外を眺めてみる。今年は梅雨が長引いたせいか、最近になって、ようやく蝉の声が聞こえるようになった。少しの間、それに耳を傾ける。
「これぞ日本の夏! ……なんつって」
 それから暫し。
「アホか俺! 暑いだけだっつーの」
 窓を閉め、エアコンのスイッチを再び入れると、彼は床に寝そべった。
「……ひとりでボケツッコミやっても面白くねーな。やっぱ、ツッコムならしーたんにだな。うんうん」
 そうひとりで納得すると、彼は、携帯電話を取り出した。そこで、あることに気づく。
「今日、しーたんガッコだったな。確か」
 携帯電話のカレンダーを確認すると、やはり、『しーたん登校日』と登録してあった。ただ、時間を見、櫻紫桜の通っている高校までの距離を考えると、ちょうど終業のあたりに間に合いそうだ。
「よし。しーたん待ち伏せ作戦開始!」
 森羅はひとり呟くと、Tシャツとジーンズに着替え、部屋を出た。


 目の前を、学生がぞろぞろと通り過ぎていく。森羅は、校門の壁に寄りかかりながら、それをぼんやりと眺める。彼が大きく伸びをしたその時、見慣れた姿を発見した。
「しーたん!」
 声をかけると、紫桜がこちらを振り向き、口を開いて言葉を発しかけた。
「ああ……」
「なぁ、ゲーセン行こうぜ!」
 それよりも早く、森羅の陽気な声が届く。すると、紫桜は複雑そうな顔をした。彼はゲームセンターなどには、森羅から誘われた時くらいしか足を運ばない。だが、誘えばついてくるし、意外とゲームに熱中するタイプである。
「悪い。ちょっと仕事を頼まれたから、今日は行けない」
 しかし、返ってきたのは断りの言葉だった。
 それを聞き、森羅は目を瞬かせる。
「仕事って?」
「俺にも、まだ良く理解出来ていない。ただ、何だか急いでいるみたいだった」
「ふーん……」
 森羅は、あごに手を当てて、暫し考えてから、笑みを浮かべると、口を開いた。
「じゃあ、俺も行く!」
 今度は、紫桜が目を瞬かせた。
「いや……頼まれたのは俺ですし……」
「敬語禁止! タメ口推奨! ついでに、俺がついてくの決定!」
 つい、いつもの癖で丁寧な言葉を使ってしまった紫桜に、森羅は指を突きつけて文句を言い、どさくさに紛れて、自分を同行させることを勝手に決定した。
 紫桜は小さく溜息をつくと、さも仕方なさそうに頷いた。


「へぇ。ここがねぇ……何か、フツーの家じゃん」
「まあな」
 道すがら聞いた話で、森羅はいかにも怪しげな外観を想像していたのだが、『瑪瑙庵』と筆文字で書かれた看板がかかっている以外は、至って普通の日本家屋だった。
(商売する気あんのかな……?)
 そのようなことを考えていると、紫桜が磨り硝子が嵌め込まれた木の引き戸を開けたので、慌てて後に続く。
「こんにちは」
 紫桜が挨拶をすると、店内にいた二人の人物が、こちらへと顔を向ける。ひとりは店主――紫桜が『瑪瑙亨』という名前だと言っていた――と思われる男、もうひとりは、知らない少女だった。歳は、森羅たちと同じくらいに見える。
「ああ紫桜君。突然すまなかった」
「いえ。あと、すみません。こいつもついてきたいって言うんで……」
「弓削森羅でーす! ヨロシク!」
 紫桜がこちらを見ながらおずおずと言うが、森羅は全く気にはしていないので、明るく自己紹介をする。亨はそれを見て、軽く頷いた。
「問題ない。助っ人は多いほど助かる」
「あの……私、四方神結って言います。宜しくお願いします」
 そこで、亨の隣にいた少女が、こちらに頭を下げてくる。
「結ちゃんかぁ。ヨロシクね! で、こっちはしーたん」
「いえ。櫻紫桜です。宜しくお願いします」
 森羅が勝手に中途半端な紹介をすると、彼の思惑通り、紫桜は慌てて自己紹介をし直した。
(やっぱ、しーたんって、からかうと面白いよな……)
 そんな森羅の無責任な思考をよそに、紫桜は本題に入る。
「それで、詳しいお話を伺いたいのですが……」


「ふーん。なるほどねぇ……その葉月さんってひと、泣いちゃったかもね」
「おい、森羅。失礼だろ」
 森羅の呟きに、紫桜が小声で注意してくるが、彼は肩を竦めて返した。不器用な人間は、意外に多いものだと改めて思う。
「瑪瑙さんは悪気があったわけじゃなくて、瑪瑙さんなりの考えがあったんだと思います。だから……」
 結がおずおずと口を開くと、森羅は彼女に片目を瞑ってみせる。
「解ってるって。人の事情はそれぞれ。想いもそれぞれ。ただ、もうちょっとやりようがあったんじゃないかなーって思っただけ。……なぁ亨さん、葉月さんには俺たちみたいな助っ人いんの?」
 そう問われ、亨は静かに首を振った。
「分からない」
「そっか……」
 そう言って森羅は、結と紫桜を交互に見ると、少し考えてから、また口を開く。
「結ちゃんの能力は分かんないけど、しーたんがいるし、俺が抜けても大丈夫か……。亨さん、葉月さんの連絡先教えてよ。俺、葉月さんをサポートする」
「それはありがたい。ちょっと待っててくれ」
 亨はそう言うと、一旦店の奥に向かい、すぐに戻ってきた。そして、手に持った名刺を、森羅へと渡す。
「これを」
「ふーん。フリーライター……か。じゃあ俺、行ってくる!」
「ああ。葉月君を宜しく頼む」
「OK! 任しといて」
 そう言って、森羅は皆に手を振りながら、店を後にした。不器用な人間がいれば、器用な人間が手を貸してやればいい。夏休みの課題が終わらない人間がいれば、終わっている人間が写させてやればいいのと同じだ。世の中は、ギヴ&テイクで成り立っている。
 そんなことを思いながら、彼は名刺を見、携帯電話のボタンをプッシュする。コール音が暫く続いた後、相手が出た。
『はい。堂本です』
「もしもーし。堂本葉月さんですか? 俺、弓削森羅って言います。初めまして!」
『そうですが……ご用件は?』
「俺、瑪瑙亨さんの知り合いなんです。それで、亨さんが、葉月さんのこと『メッチャクチャ心配』してて、葉月さんに冷たくしたことも『すんごい後悔』してて、俺に、『どーしても』葉月さんをサポートして欲しい、って『必死に頼んで来た』んです」
 森羅は、要所要所を思い切り強調しながら、用件を伝える。
『……と、亨ちゃんが? ホントに?』
 すると、明らかな手ごたえがあった。葉月の声のトーンが上がる。
「勿論です。マジ、超マジです。なので、これからそっちに向かいまーす!」
『う、うん。ありがとう。待ってるね』
「はーい! んじゃ!」
 そう言って通話を切ると、森羅は忍び笑いを漏らしながら、葉月の名刺を再び見る。
「げ。結構距離あんじゃん。タクシー乗って、経費で落としてもらおう」
 そして彼は、周囲を見回した。


 葉月の事務所は、オフィス街に程近い、閑静な場所にあった。大きくはないが、小奇麗なマンションの2階だ。
 チャイムを鳴らすと、すぐに中から二人の女性が出てきた。片方は、メイド服を着ている。森羅は思わず「コスプレ?」と呟いていた。
「コスプレじゃなくて、正真正銘、本モノのメイドさんだよ。……ああ、ごめん。森羅くんでいいんだよね? あたしが葉月。こちらは篠原美沙姫ちゃん」
「篠原美沙姫と申します。どうぞ、宜しくお願い致します」
「あ、えーっと、弓削森羅です。ヨロシクです」
 あまりにも丁寧な挨拶をされたので、流石の森羅も少し戸惑ってしまう。
「でもすっげー! 俺、ホンモノのメイドさんって初めて見た!」
 ――が、次の瞬間には、いつものペースを取り戻すのが、森羅の得意技である。
「盛り上がってるトコ申し訳ないんだけど、もう目的地に向かうところなの。来てくれたばかりなのに、お構いも出来ずにごめんね」
「新宿歌舞伎町?」
 そう森羅が言うと、葉月は目を瞬かせた。
「森羅くんも解けたの?」
「うん。俺、あーいうの得意だし」
「……ということは、亨様方も、もう向かわれたのでしょうか?」
 美沙姫の言葉を聞き、森羅は少し考えてから口を開く。
「分かんない。俺、話だけ聞いて、すぐこっちに来たから。……電話してみる?」
「それは……多分ダメ。あたしはあたしでやれって言われたし」
 葉月はそう言って、かぶりを振る。
「そっか……あのさ、津久乃ちゃんからもらったモノとかないかな?」
「え? ええと……急にそんなこと言われても……」
「わたくしが持っております」
 慌てる葉月を落ち着かせるかのように頷きながら、美沙姫がポケットから、小さな藁人形を取り出した。
「津久乃様から、お近づきの印に、と頂いたものです」
「ちょっと、触ってもいいかな?」
「どうぞ」
 美沙姫から承諾を得ると、森羅は藁人形にそっと触れた。
 ヴィジョンが、脳裏に映し出される。
 ビル、ネオン、人込み――暗い。
(あれ……?)
 暗い。
 暗い。
 どこまでも暗い。
 拒絶。
「……何か、分かった?」
 葉月の問いに、森羅は首を傾げるしかなかった。
「新宿歌舞伎町にいるのは、間違いないと思う。でも……それ以上は拒まれた」
「拒まれた……?」
「ごめん。分からない」
 そこで、二人のやり取りを見ていた美沙姫が、穏やかに言葉を発する。
「とにかく、現地に向かってみませんか? わたくしが、風の精霊の協力を得て、探して貰います。森羅様も、現地に着けば、何か感じられるかもしれません」
「うん……そうかもしれない」
 そう答えた森羅と、美沙姫を交互に見ると、葉月は、しっかりと頷いた。
「よし、行くよ!」


 新宿歌舞伎町。
 暗くなってきた空に、ネオンの輝きが映える。
 夕刻を過ぎても、人通りが途絶えることはない。むしろ、一夜の享楽を求める人々は、増えていく。
 森羅たち三人は、そこに、足を踏み入れた。
「亨ちゃんたちは、もう来てるのかな……?」
 すると美沙姫が、閉じていた瞳を開くと、それに答えた。
「……風の精霊たちが、混乱しています。情報が正常に届いて来ません」
 森羅には、彼女のように精霊と交信する力はなかったが、奇妙な感覚は、ビリビリと感じていた。
「美沙姫さん。この『変な感じ』、どこから来てるんだろ? 場所が変わる……っつーか、特定しづらい」
 美沙姫はそれに頷くと、言葉を発する。
「では、わたくしの得られる情報と、森羅様の感覚を照らし合わせて参りましょう」
「OK!」
「え? あたしは? あたし」
「葉月さんは、俺たちについてくればOK!」
「さぁ、ご一緒に」
 自分の分からないところで、勝手に話が進むことに葉月が戸惑っていると、森羅は片目を瞑って手招きをし、美沙姫は彼女の手を取り、それぞれ走り出した。
 人込みを縫って駆けると、最初の角にたどり着く。
 森羅と美沙姫は、意識を集中させる。
「美沙姫さんOK? せーので行くよ?」
「ええ」
「せーの! ――右!」
「右です」
 二人は、顔を見合わせて微笑む。
「うっし!」
「葉月様、こちらです」
「う、うん……」

 次の角。
「左!」
「左です」

 そして、その次の角、途中の路地裏、三叉路……二人は、順調にこなしていく。
 しかし。
「左!」
「右です」
「右!」
「左です」
「左斜め前!」
「今来た道かもしれません……」
「上!」
「……ちょっと、なによ『上』って」
 流石に葉月もおかしいと思い、思わず突っ込んでしまう。
「だって、分かんねーんだもん!」
「ええ……確実に近づいているはずなのに、判りづらくなって来ました」
「何かさぁ、遊ばれてる感覚だよね」
「ああ」
 森羅がそう言うと、美沙姫が、合点がいったかのように、頷く。
「成るほど……恐らく、遊ばれているのだと思います」
「どういうこと?」
 葉月が不思議そうに尋ねると、美沙姫が苦笑する。
「わたくしたちが移動するから、面白がって逃げるのです。なので、多分、動かなければ……」
「そっか。向こうから……あ、来たね」
「ええ、いらっしゃいましたね」
 納得しているのは二人だけで、葉月は完全に蚊帳の外だが、それも、致し方ない。
 段々と周囲の闇が濃くなり、空気が、重みを増してくる。そして――
『もう終わり?』
 目の前には、いつの間にか日本人形のような姿の少女が、立っていた。
『わたしは唄子。かわいいでしょ?』
 唄子と名乗った少女は、そう言って首を傾げる。
「うーん……可愛いっちゃぁ、可愛いかなぁ……」
「ちょっと森羅くん。変なの相手に真面目に答えてどうすんのよ」
 森羅と葉月のやり取りには構わずに、唄子は続けた。
『これは小唄子。かわいいでしょ?』
 彼女が開いて見せた、左手の五本の指に、それぞれ、違った顔の指人形が嵌められている。
「あ、あれはカワイイかも」
「うん、確かに……」
 葉月がそう言い、森羅が頷きかけた瞬間。
(――!?)
 何かが、物凄いスピードで飛んできた。
 森羅は、それを裏拳で弾く。
 それは地面に叩きつけられ、べちゃり、と嫌な音を立てた。赤黒いそれは、ずるずると引きずられながら戻っていく。中指に嵌められた小唄子の口から、発せられたものだ。
『小唄子は、人間を喰らってわたしに養分をくれるの。すてきでしょ?』
「前言撤回! ぜんっぜん可愛くねーし、素敵でもねー!」
「あ、あたしも撤回……」
 その時。
 森羅と葉月の周囲を、爽やかな風が、包み込み始めた。
「『聖風壁』です。お二人を守ってくれます」
 今まで黙していた、美沙姫が動いたのだ。
『あなたも風を遣うのね。わたしと同じね。――小唄子』
 唄子がそう呼びかけると、五体の小唄子が、宙に浮かび始めた。そして、唄子は懐から扇子を取り出すと、パッと広げる。その色は、血のように赤かった。
「森羅様、そちらはお任せしました!」
「りょーかい! ――と、その前に」
 森羅はポケットから符を数枚取り出すと、呪を唱え、葉月の周囲に配置する。それは、くるくると彼女の周りを回ると、光を放ち、五芒星の結界を張り巡らす。
「一応ね。安全第一」
「――森羅くん!」
 葉月が叫んだと同時に、森羅はニヤリと笑うと跳躍し、足を狙って飛んできた小唄子の一体を、思い切り踏みつける。にちゃり、と気色の悪い感触がした。足を上げると、赤黒い塊が、蠢いている。
「げ。エグっ!」
 思わず飛び退った彼の足元で、塊は徐々に形を整え始め、また元の姿に戻る。
(あれ……?)
 元に戻ったのも面倒だとは思ったが、何か、違和感を感じる。しかし、考えている間にも、別の小唄子が襲い掛かって来た。それを蹴りつけると、壁に叩きつけられた小唄子は、また気色の悪い塊になってから、再生する。
 やはり、何かがおかしい。
 小唄子たちに注意を向けたまま、美沙姫たちの方をちらりと見る。
 美沙姫は、僅かな動きだけで、唄子の攻撃をかわしている。しかし、逆に美沙姫の攻撃も、あまり唄子に効いているようには見えない。
 葉月の方はというと、地面に座り込み、カードを広げ、何かを必死で読んでいる。恐らく、説明書きだろう。
(大丈夫かなぁ……)
 一抹の不安を覚えたが、今はそれどころではない。
 今度は、三体の小唄子が、凶器の舌を放ってくる。
「お前らはカメレオンかっつーの!」
 そうツッコミを入れながらも、左右二本を手刀で斬りおとし、足元を狙ってきたものは、跳んでかわす。
 ――と、舌は巻き戻り、足首に巻きついてこようとしたので、もう一度軽く跳び、踏み潰す。
 そして、また今までと同じことが起こった。
「うぇぇっ。夢に出てきそう……あの過程はスキップ出来んのか! ……あ」
 そう毒づいていたところで、ようやく気づいた。
 小唄子が、大きさを増している。
 今まで、子供の指くらいのサイズしかなかったから、気がつかなかったのだ。
(俺の気を喰らってるんだ……)
 唄子は、小唄子たちが人間を喰らうと言った。それならば、気を喰らったところで不思議ではない。
 では、どうするか。
(五体全部いっぺんに倒しても……意味ねーだろうなぁ……)
 ならば、やはり本体である、唄子を叩くか。
 しかし、横目で見ると、美沙姫と唄子の戦いも、拮抗しているように見える。美沙姫はかなりの使い手だ。それを考えると、これだけ長引くのもおかしい気がする。
 小唄子の養分は、唄子に向かう。もしかしたら、唄子の養分も、どこかに向かっているのではないだろうか。
 でも、何も感じない。
 ただ、風が吹き荒れているだけ。
 風。
 美沙姫は、風の精霊たちが、混乱していると言った。
 自分の周囲も、美沙姫の風が守ってくれている。
 しかし、唄子も風を遣う。
(もしかして……!?)
「美沙姫さーん! 風の精霊、静かに出来ないかな?」
 森羅の大声に、美沙姫が良く通る声で答えた。
「でも、そのようなことをしたら、森羅様はともかく、葉月様が!」
「葉月さんは大丈夫! 俺の符が守ってるから! お願い! 一瞬だけでいいから!」
 美沙姫は、少し躊躇うような素振りを見せてから、頷いた。
「承知しました!」
 その声と共に、森羅たちの守りがとけ、風がぴたりと止む。
「――あっ!」
 美沙姫が声を上げる。
 その途端に、見えた。
 唄子と小唄子たちに張り巡らされた、無数の糸。
 今まで、乱れる風が隠していた、意図。
 その先は――ビルの上。
「ビンゴだ! ――美沙姫さん、決めちゃって!」
「はい!」
 美沙姫の『浄風』が、『本体』を絡め取り、地面へと引き摺り下ろす。その正体は、小さな蜘蛛だった。
「葉月さん! ほら! 早く! 『封印』!」
「――ええええっ!? ええと……」
「落ち着いて!」
 森羅は励まし、美沙姫は『本体』を押さえ込むことに集中する。
 やがて、葉月は意を決したように、頷いた。
「我が同朋が封印師、瑪瑙亨の名に於いて命ず! 我の言葉も鎖となりて、彼の者を捕らえる檻と化す! ――逢魔封印!」
 その途端、カードから眩い光が発せられ、触手のように蜘蛛を絡め取ったかと思うと、中へと引きずり込んだ。
 皆、一斉に安堵の溜め息を漏らす。
 そこで、美沙姫が穏やかに告げた。
「お疲れ様でした。亨様方は、この角の先におられるようです」
「え? ホント!?」
「葉月さん、行こう!」
 急いでそちらに向かって走る二人に、美沙姫も笑顔で続く。


「亨ちゃーん!」
「しーたーん!」
 見慣れた姿を認め、葉月と森羅は声を上げる。
「亨ちゃん! 何かね、カードが光って、化け物がカードに吸い込まれたんだけど、これでいいの?」
 亨は、葉月から渡されたカードを見て、驚いたような声を上げる。
「……見事な『封印』が施されている。君は、本当に初めてなのか?」
「当たり前じゃん! あたし、こんなのやったコトないもん」
「しーたんも結ちゃんもお疲れ! そんで、あの亨さんと話してるのが葉月さんで、このメイドさんは、美沙姫さん」
「ご紹介に与りました、わたくし、篠原美沙姫と申します。どうぞ、宜しくお願い致します」
「あ、俺は、櫻紫桜です。森羅がお世話になりました。宜しくお願いします」
「私は、四方神結です。宜しくお願いします」
 丁寧な美沙姫の物腰に、紫桜も結も、やや緊張しながら挨拶をする。
「ところで……津久乃様は見つかりましたでしょうか?」
 美沙姫がそう言うと、皆が顔を見合わせた。
「そう……そうだ。津久乃ちゃんは?」
 葉月が辺りを見回しながら言うと、亨は首を振る。
「こちらにもいなかった。だが……」
『ふふっ』
 唐突に。
『ふふふふっ……』
 笑い声が、聞こえた。
「この声……」
「津久乃様のお声です」
 葉月の言葉を、美沙姫が引き継ぐ。
「津久乃ちゃん! どこにいるの!? 無事なの!?」
 葉月が首を巡らせながら大声を出した時。
『あははははははははっ!』
 笑い声は弾け、辺りは闇に閉ざされた。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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■PC
【3941/四方神・結(しもがみ・ゆい)/女性/17歳/学生兼退魔師】
【4607/篠原・美沙姫(ささはら・みさき)/女性/22歳/メイド長/『使い人』 】
【5453/櫻・紫桜(さくら・しおう)/男性/15歳/高校生】
【6608/弓削・森羅(ゆげ・しんら)/男性/16歳/高校生】

※発注順

■NPC
【瑪瑙亨(めのう・とおる)/男性/28歳/封印師】
【堂本・葉月(どうもと・はづき)/女性/25歳/フリーライター】
【御稜・津久乃(おんりょう・つくの)/女性/17歳/高校生】

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■         ライター通信          ■
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■弓削・森羅さま

初めまして。今回はご発注ありがとうございます! 鴇家楽士です。
お楽しみいただけたでしょうか?

今回、森羅さんは、色々な意味での橋渡し役になっていただきました。ありがとうございます。

そして今回は、かなり個別視点が多くなっています。なので、ご一緒に参加いただいた方々のノベルを併せてお読みいただけると、話の全体像が見えてくるのではないかと思います。

それでは、読んでくださってありがとうございました!
もし宜しければ、後編もご参加いただけると嬉しいです。