コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


三下の明日はどっちだ!? 三下が勇者!? 第一話 勇者誕生

「あ〜、サンシタくん。ちょっと来なさい」
 アトラス編集長、碇 麗香に呼ばれ、三下 忠雄はヘコヘコと彼女の机に寄る。
「なんですか? お茶ですか? あ、コーヒーですか?」
「違うわよ。ちょっと取材行ってきてほしいの」
「しゅ、取材ですか?」
 ヒラ社員である三下が取材に行くのは稀だ。
 いつもは茶酌みやお使いが主な仕事である。
「ぼ、僕がですか?」
「そうよ。ちょっと面白そうなネタだから、サンシタくんにやってもらおうと思って」
「面白そう……ですか」
 嫌な予感を覚える三下を他所に、麗香はネタ帳を開く。
「最近巷である噂が広がってるのよ。剣の墓場ってね。街の中を歩いていると周りにいくつも剣が突き刺さって、あたりが剣だけになるらしいわ」
「周りの人が危ないですね」
「着目するところがズレてる気がするけど、まぁ良いわ。その時、周りの人間や建物なんかはパッと消えてしまうらしいの」
「へぇ、ありがちですね」
「そういう方が解り易くて良いでしょうが」
「その噂の真偽を確かめる取材を、僕がやるんですか?」
「そうよ。因みに拒否権は無しよ」
「……それの何処が面白そうなんですか?」
「ふふふ、その噂によるとその剣の墓場にある特定の剣を持った者が勇者と呼ばれ崇められるらしいわ!」
「勇者ってまた……なんと言うか子供だましのような……」
「ね? 面白いでしょ?」
「い、いやぁ……ど、どうなんでしょうね?」
「サンシタくんみたいなヒョロヒョロしたヤツが勇者よ!? これは抱腹絶倒モノよ!」
「面白いってそっちの面白いですか……」
「まぁ、とにかく行ってらっしゃい。しっかりやるのよ!」
「は、はぁ……」
「何? 文句でもあるの?」
「い、いえっ! 今すぐ行ってきます!」
 三下はすぐに準備を整え、編集部を出て行った。
「……あ、墓守が居るって言ったっけ?」
 麗香の言葉は三下には届かなかった。

***********************************

●なかま とうぞく

 そんなわけで、編集部から外へ出た三下。
 自分がその噂についてほとんど何も知らない事に気付かず、とにかくその噂の剣の墓場を探さねば、と歩き始めたその一歩目だ。
「お〜い、三下さん」
「は、はい?」
 突然後ろから声をかけられた。
 驚いて振り返ってみると、そこには一人の男性が。
「どこ行くん? さっき、碇さんとなんやおもろそうな話ししとったやん」
「あ、冷宵さん。面白そうなって、僕としてはそんなに面白くも無いような……」
 声をかけてきた男の名は冷宵・煉戯(さまよい・れんげ)。探し物屋を生業にしている。
 今回はアトラスの雑誌に乗るはずだった原稿を探し出し、それを今しがた麗香に渡してきたところだと言う。
「何でも、今『剣の墓場』の噂が立っているみたいで、僕がその真偽を確かめなくちゃならないんですよ」
「うん、それは聞いてた。それ、面白そうやん。ワイもついてって良い?」
「え、あの……良いですけど、良いんですか? 冷宵さんの都合とか」
「おもろい事の為には、どんな都合も捻じ曲げたるわ。ほな、行こか?」
 多少強引に煉戯がパーティイン。

 そうして二人が再び歩き出そうとしたところに、もう一人、今回の騒動に巻き込まれる人物が倒れこむ。
 三下と煉戯の前で、いきなり倒れたのはやや痩躯の男性。
「ど、どど、どうしたんですか!?」
 いきなり倒れこんだその男性は貧血を起こしたらしく、今は気を失っているようだ。
「ど、どうしましょう!?」
「とりあえず編集部に持って行った方がええんとちゃう? 休ませるならお天道さんの下より部屋の中やろ?」
「で、でも今帰ったら、編集長に何か言われそうで……」
「しゃーない。その辺の喫茶店にでも運ぼう。ほら三下さん、そっち持って」
「は、はい」
 二人は倒れた男性を担いで近くの喫茶店に入っていった。

***********************************

●なかま ……?

「いや、済みませんでした。ご迷惑をお掛けしまして」
「いえいえ、何も無かったのなら良かったです」
 喫茶店に入り、ものの数分で男性は目を覚ました。
 眼鏡をかけたイケメンは名を環和・基(かんなぎ・もとい)と言うのだそうだ。
「環和さん、でしたよね。このまま家に帰れますか? なんなら僕たちが送っていきましょうか?」
「基で良いですよ。……このまま家に帰れるか、と言われるとちょっと難しいですね」
「えっ!? まだ、何処か悪いとか!?」
「いえ、そういうわけではなく、助けてもらったお礼もしていないのに黙って帰るなんて、そんな不義理な事出来ませんから」
「え、そんなの気にしなくても……」
「ああっと、ちょいとタンマ」
 そこで煉戯が会話に割り込んで三下の肩を掴む。
「ちょっと待ちや、三下さん。今回の件は噂話なんやろ?」
「え、そうですけど」
「したら若い子が居った方がええやんか。噂話って言ったら若い子から流行るモンやで」
「若い子って……煉戯さんも18でしょ……」
「細かい事気にしなや。とにかく、この基君も居った方がええて」
「そ、そうでしょうか……?」
「人は多い方がおもろい事になりやすいからな」
 話に一区切りついたところで、三下が基に向き直る。
「あの、では僕たちの仕事に付き合ってもらえるでしょうか?」
「仕事、ですか?」
「ええ。大した事じゃないんですが、噂話の検証なんですよ」
「……わかりました。構いませんよ」
 こうして基もパーティイン。

 さて、改めて噂の剣の墓場を探そうとした時の事だ。
 窓際の席に座っていた三人に一人の来訪者が。
 喫茶店の窓をカンカンと叩く女性が窓の外に居た。
「あ、パティさん」
 それに反応したのは三下だった。

***********************************

●なかま せんし

 再び外。
 女性の元に駆け寄った三下は彼女に心配そうな視線を向けた。
「だ、大丈夫なんですか? 一人で出歩いたりして」
「大丈夫ですよ。杖もありますし」
 彼女はパティ・ガントレット。その穏やかな外見からは想像がつかないが、マフィアのボスである。
 両下腕には篭手をはめている。それが先程、窓を叩いた時、聞き馴染みのないカンカンという音をたてたのだろう。
「でも、どうしたんですか、こんな所に……あ、アトラスに用事ですか?」
「はい、まぁ、そういうことでしょうか。碇さんに頼まれて、貴方の護衛を務める事になりました」
「ご、護衛ですか?」
 その言葉に三下は背筋を冷やす。
 護衛が必要という事は、今回の件もかなり危ないという事だ。
「や、やっぱり僕は騙されたんじゃなかろうか……!?」
「大丈夫ですよ。貴方を危険な目に遭わせないために私が来たのですから。三下さんは取材に専念して下さい、大丈夫大丈夫。……多分」
 そう言ってパティはにっこり笑った。
「……あの、お話中のところ済みませんが」
 そこに煉戯が割り込む。
「そちらさんは、何で目を閉じてるんで?」
 煉戯の疑問に基も頷く。
 実は、先程からパティは一度も瞼を持ち上げていないのだ。
 それ故、危ない足取りで、杖にしがみつくように立っている。
「ああ、パティさんの目は何か特別で、開ける事は稀なんですよね?」
 情報も不確かな三下の言葉に、パティは付け足すことなく、ただ笑っていた。
 煉戯と基の二人は、三下の情報だけで納得するしかなく、微妙に頷くだけだった。

 こうしてパティもパーティインした一行。
 四人で剣の墓場を探すために東京を練り歩く事になった。

***********************************

●さくせん かいぎ

 まずは何の当てもなしに東京を探し回るには、この町は広すぎるので、大体の当たりをつけるために話し合う。
「巷の噂にしては現実離れしすぎております。根拠はきっと、あると思いますよ」
 パティの言葉に基も頷く。
「俺の通う神聖都学園でも偶にその噂を耳にしますよ。実際に遭遇した生徒も居るみたいで、嘘話ではないと思います」
「っちゅーことは、その遭遇した生徒らに会えば、なんかかんか情報がもらえるかもしれんって事やんな?」
「あ、そうですね。基君。その生徒さんたちに会えませんか?」
 三下の問いに基は首を横に振った。
「残念ながら、剣の墓場に出くわした人間は全て病院送りで面会謝絶なんです。相当酷い怪我をしたとか」
「……こ、こわぁ」
「やっぱり危険なんじゃないですかぁ! 編集長ぉ!!」
「お、落ち着いてください。大丈夫ですよ。……多分」
 なだめるパティの言葉が、逆に三下の不安を煽る。
「ダメだぁ! 僕の人生もこんなところで終わるんだぁ!!」
「うわぁ、三下さん良い感じにぶっ壊れてきよったなぁ」
「だ、大丈夫なんですか!? そんな静観してて良いんですか!?」
「大丈夫でしょう。三下さんにとってはいつもの発作みたいなものですし」
 暴走する三下。心配する基。和やかに見守る煉戯とパティ。
 不思議な四者は果たしてこれから剣の墓場を見つけることはできるのか。

●さくせん かいぎ しっぱい

***********************************

●ぼうけん とうきょう

「さて、三下さんも落ち着いたところで、どうしょか?」
 騒ぎ疲れたと言った方が正しい感じがする三下を引きずって、煉戯が言った。
「正直、あてもなんもないで? まるっきしゼロの状態から東京中さがしまわるっちゅーんは無謀すぎやろ?」
「まるっきしゼロってわけでもないでしょう」
 その言葉に基が自信ありげに切り返す。
「お、基、何か秘策でもあんのんか?」
「秘策、というか、怪しいところをチョロチョロ探してたら当たるんじゃないですかね?」
「怪しいところて……。それがわかったら苦労せんわ」
 期待していた煉戯は基の答えを聞いて肩を落とす。
「え、見えるでしょ?」
「見えへんっちゅーねん」
「……見鬼というヤツですかね?」
 その様子を見て、パティが呟く。
「見鬼? なんやそれ」
「簡単に言うと普通の人間には見えないモノを見る人間、ですかね。ですが、基さんはそれが当然と思ってらっしゃるようで」
「……じゃあ、あんまり価値観傷つけんのも悪いな。黙っとこか」
「その方向で行きましょう」
「あ、あの、話し合い、終わりましたか?」
「ええ、終わりましたよ。一応、基さんの勘を頼りにしようと思います」
「……は?」
「頼りにしてますよ、基さん!」
「しっかりしぃや!」
「……はぁ」
 これからの方針も決まったところで、基の目を頼りに早速冒険に出かけよう、という時。

 今までは昼だった。
 高層ビルによって区切られた空は青く、日が照って、多少熱いぐらいだった。
 そのはずだったのだが。
 それは一瞬にして豹変する。
 突然涼風が吹き、その風が通り過ぎると同時に景色が一変した。
 コンクリの地面はいつの間にか雑草の生い茂る草原に変わり、通りを形成していた建物は霧散してしまった。
 通行人は地面に突き刺さる剣に変わり、青かった空は赤黒い、不吉な夜空に変貌した。
「……な!?」
「これはこれは……基さんに頼るヒマすらありませんでしたね」
「うわぁ! うわぁ!! ホントに出たぁ!?」
 煉戯に引きずられていた三下が再び大声を上げる。
「あわわわわわ……も、もう駄目だ。僕も病院送りで面会謝絶だ……。いや、もしかしたら手の施しようが無いくらいにボコボコにされるのかもしれない……ど、どうしよぉ!!」
「また良い感じに壊れてきよったで。どうしよか。この状況でこの三下さんは危険すぎるで」
「いやいや! この状況じゃなくてもトリップしすぎじゃないですか!?」
「基さんは心配しすぎですよ。でも、まぁ、とにかく三下さんを黙らせなければ進行するにも邪魔ですね」
 穏やかに言ったパティが拳を振り上げ、それを三下の眉間にぶつける。
 かなりヤバイ音がしたかと思うと、それ以上三下が喚く事はなかった。
「ええと、死んでませんよね?」
「大丈夫大丈夫。……多分」
 パティの言葉は、今度は基の不安を煽った。

***********************************

●ぼうけん けんの はかば

 見る限り、剣、剣、剣。
 禍々しく宙に浮かぶ紅い月に刀身が照らされて、血の滴っているような印象を受ける。
「気味悪い事この上ないところやなぁ。早めに伝説の剣とやらを見つけて、こんなところオサラバしたいとこやで」
「そうですね。三下さんも気絶してしまって重いですし」
 今、三下を引きずっているのはパティ。
 煉戯の腕が疲れたらしいので、交代したようだ。
「っていうか、気絶させる必要があったんでしょうか……?」
「せやかて五月蝿かったやろ? あれじゃ剣探しもはかどらんって」
「……そんなモンでしょうか?」
 白目をむいて引きずられる三下に、基は憐憫の視線を投げかけた。

「まぁ、三下さんは放って置いても、どうにか剣を探さなな」
「そうですね。……基さん、怪しい剣とかわかりませんか?」
「……どれも同じくらい怪しいですね。俺じゃ判断しかねます」
 目の前に広がる剣の墓場は妖気が充満する場所だった。
 剣一本一本が妖気を噴出させているようで、怪しい剣はどれか? と問われれば全てだと答えるしかない。
「なんや、ここでもアテ無しかいな。しゃーないな。適当に抜いてみるか?」
「そうですね。それが一番手っ取り早いかもしれませんね」
「そ、そんな適当で良いんですか!?」
 こうして伝説の剣を発掘する宝探しが始まった。

「ほら、これなんかどや?」
 煉戯が取り出したるは何となくそれらしい剣。
 柄の先には大きめの宝石がついてあり、鍔にも細かい装飾が掘り込まれている。
「煉戯さん。真面目に探してください」
「なんでやー。ものっすごかっこええやん。何処が不満やねん」
 基のダメ出しに頬を膨らませる勢いで反論する煉戯。
「伝説の剣が、そんなボロボロの刃をしてるわけないじゃないですか。しっかりしてくださいよ」
 そう。煉戯が持ってきたのは刃こぼれが酷かったのだ。
 歴戦の剣というよりは材料が悪くて刃こぼれしやすいものだったように見えるし、その剣が噴出している妖気はかなり薄い。
「っち、基のアホ」
「俺の所為じゃないでしょ!?」
 最後に悪態をついて、煉戯は剣探しに戻った。
「基さん、これはいかがですか?」
 次にパティが持ってきたのは刀身の光り輝く剣。
 パティの身体で月の光から影にしても、その剣は自ら光を放っていた。
「……だめです。伝説にはなりそうですが、勇者の剣じゃない気がします」
「ど、どうしてですか!?」
「その光が禍々しいからですよ」
 なんとも赤黒い、血の色の光を放っている剣。
 どちらかというと呪われている剣っぽい。放っている妖気も一回り大きいようだ。
「き、厳しいですね」
「多分、普通の判断です」
 パティもその剣を棄てて、他の剣を物色し始めた。
「……はぁ、これは長くなりそうだな……。また貧血起こさなけりゃいいが……」
 基は額の汗をぬぐってため息をつく。
 先程から軽い眩暈が断続的に襲ってきている。
 なんだか、悪い予感がしてならない。
 いつもこういう兆候の時は何かがあるのだ。
「……気をつけなくては。こんなところで気を失ってる場合じゃないぞ、俺」
 そう自分を勇気付けている時、煉戯が再び
「おーい、これなんかどやー?」
 と声をかけてきた。
「これこれ」
 そう言って見せてきたのは、どう見ても金属バット。
「これが伝説の剣なわけないでしょ!? っていうか剣ですらねぇ!?」
 煉戯のボケに、これでもかというほどの絶叫ツッコミ。
 その時、基の視界がグラリと揺れる。
「……あ、ヤベ」
「お、おいどうした基。ワイのボケが神がかりすぎたからって貧血か」
「違いますよっ!! ……っう」
 耐えかねた基はとうとう倒れてしまった。
「あらら、気絶者二名ですね」
「ダメ出しするだけして貧血って、どんだけ自分勝手やねん」
 と、無責任な物言いをしていると、倒れている基から不思議な声が。
「ふ、ふふふ……」
「な、なんや!? 基が笑とる!?」
「ノンノン。私は基くんじゃないわ。私の名前は―――」
 基が立ち上がった時、煉戯もパティも眼を疑った。

***********************************

●なかま まほうつかい

「私の名前は元ちゃん! 間違っても基くんなんて呼ばないでよね☆」
 立ち上がった基、いや元は何処からどう見ても女の子だったのだ。
 身長や顔立ちは多少似ているが、その服はもう男物ではなく薄手のTシャツにプリーツスカート。あと、不思議なことに三角帽子を被っている。
 脚にはオーバーニーソックスも穿き、絶対領域すら再現。
 夏らしい薄めの恰好から浮き上がる女の子らしい凹凸には多少アクセントがついている。ぶっちゃけオッパイがある。
「な、なんや!? いきなり女装!? 基、どうしたー!? グレたのかー!?」
「基じゃないって言ってるでしょ〜? 私は元ちゃん。はい、リピートプリーズ」
「は、はじめちゃん?」
「おーらい。そうよ。私の名前は元ちゃん。もう間違えないようにね」
 絶品スマイルも、いつもボーっとしているような基には似つかない。
 これは完璧に別人といえる。
「やっぱり、勇者様の冒険にはヒロイン的な魔法使いってのは外せないじゃない? ここは出番だと思ったんだけど、基君がなかなか倒れてくれなくてねぇ」
「二重人格……にしても身体まで変わるっちゅーのはどういうこっちゃ?」
「かなり特殊みたいですね。まぁ、世の中こういう事もあるでしょう」
「……そやな。考えてわからんことは、現状を受け入れるしかないな」
「そうよぉ。現実起こっちゃってるんだから、理屈なんて考えたってしょうがない!」
 楽観極まる。いや、思考が柔軟と言おうか。
 とにかく、基と元が入れ替わり、新パーティで伝説の剣を捜す事になった。
「さぁて、私も頑張るわよぉ!」

***********************************

●ゆうしゃの めざめ

「……ん」
 元がパーティインしてから数分後。三下がやっと目を覚ました。
 その三下が見た光景、基というツッコミ役が居なくなった剣の墓場は騒然としていた。
「これ! これって伝説の剣っぽいかも!?」
「そ、それやぁ、それが伝説の剣やで元ちゃん!」
「やっぱり!? 煉戯さんもそう思う!?」
「まぁまぁ、待ちなさい。私の持ってきたこれもなかなか侮れませんよ」
「うわぁ、パティさんのそれ、結構それっぽいかも!?」
「それかもしれへん! 大切に保管や!」
「らじゃー!」「わかりました」
 元が起爆剤となり、パーティのテンションはうなぎのぼり。
 手につく剣は全て抜き放ち、それを『これはどうだ!?』『ああっ! それかも!?』という会話をハイテンションのまま続けているのだった。
 ノリの良い大阪人や女子高生はともかく、マフィアのボスまでもがこのテンションに毒されていると思うと、多少驚きである。
「……あ、あの皆さん。何をそんな楽しげに……?」
「あ、三下さん。起きたか」
「おはようございます、三下さん。気分はどうですか?」
「頭が痛いです。いや、それよりもあの娘は誰なんです?」
 三下が気絶する前には居なかった。
 あと、基の姿も見えない。
「ああ、アレは基が変身した姿や。元ちゃんって言うらしい」
「は、元さん……ですか」
「おや、三下さんも起きたみたいね! 私は元ちゃん! よろしくね!」
「……は、はぁ」
 煉戯の説明だけで彼女の存在を納得しろ、と言われているらしい三下。
 普通に考えれば、変身って何だよ!? と問い返してもおかしくないのだが、今、この剣の墓場と言う場所が最早異常なので、もうどうでも良い。
「そ、それよりも、何か危険な出来事ありませんでした!? ボコボコが怖いっ!」
「ボコボコって……。三下さん、ちょっと怖がりすぎやで」
「そうそう。三下さんがボコボコにならないために私達が居るわけだし」
「依頼されたからにはちゃんと守らせていただきますから、そんなに心配しなくてもよろしいですよ」
「……わ、わかりました」
 仲間たちに励まされて、三下はやっと勇気を取り戻す。
「こ、こうなったらパッパと終わらせちゃいましょう。事件が起きる前に取材を終えれば何の危険も無いはず!」
「その調子や、三下さん!」
「ファイト! 三下さん!」
「頑張ってください」
 こうして三下も加わったドタバタ伝説の剣探しは続行される。

***********************************

●まものが あらわれた

 ズシン、ズシンと地鳴りが聞こえる。
「なんや……? 地震?」
「違うみたいですね。どうやらお出ましのようです」
 パティの言葉に警戒の色が混じる。
 それを聞いて、煉戯も元も各々武器を構え始める。
「な、何が起きるんですか!?」
 ただ一人、三下だけは三人の中心でオロオロするだけだった。
「三下さん。ちょっと下がっててや。前に出ると危険やで」
「き、危険!? もしかして、ボコボコですか!?」
「イエス イエス イエス! と答えたいところだけど、それは私達がさせないって言ったでしょ」
「三下さんには指一本、触れさせませんから安心してください」
 煉戯はMDのようなものを取り出し、そこから更に重火器を取り出す。
 元は杖を持ち出して、魔法使いっぽさを増させる。
 パティもその辺から、突き刺さっている剣を取り、それを構える。
「え、パティさんって、目瞑りながら戦えるんですか!?」
「心配要りませんよ三下さん。武器を使った戦闘は好きなんです」
「そ、そういう問題……なんでしょうか?」
 そんな感じで全員の戦闘体勢が整ったところに、墓守が現れる。

 その身体はとても大きく、その手には身体に見合う大きさの斧が握られている。
 その姿からは知性の欠片すら見かけられず、パワータイプなのは一目瞭然だった。
 たった一体ながら、プレッシャーは大きい。
「……なんちゅーか、墓守っちゅーよりは墓荒らしって感じやな」
「なんにしろ、あちらは話し合いに応じてくれるような雰囲気ではありませんよ」
「女の子には優しくしてくれないと。モテないよ」
 自分の身長の二倍ほどはあろうかという巨躯の敵意を前にして、三人は余裕を見せる。
「だ、大丈夫なんですか?」
「三下さんはホント心配性だなぁ。任せなさいって」
「そこでよぉ見ときや。ワイの華麗なる活躍を!」
「行きますよ。というか、来ますよ」
 墓守が一行を見つけたらしい。
 斧を振り上げてこちらに向かってきた。

***********************************

●はかもり  1たい

 巨躯=鈍重。
 それはどんな世界でも通じるらしい。
 墓守がその斧を振り下ろす頃には、三人は既に散開していた。

 墓守の右手に逃げた煉戯。
 パティが墓守の右足を斬りつけながら、墓守の背中に回ったのを確認した後、取り出したのはアサルトライフル。
 その銃口を墓守に向け、レバーを操作してセミオートに設定する。
「さぁて、やったるでぇ!!」
 煉戯が引き金を引いた瞬間、ライフルが火を吹く。空薬莢が勢い良く飛び出し、煉戯の足元に鉄の山を作る。
 胴の中心や頭を狙った銃撃。だが、墓守はそれに動じていないようだ。
「ど、どんだけタフやねん! ま、まだまだぁ!」
 次に取り出したるはグレネードランチャー。
 引き金を引くたびに手榴弾が吐き出され、墓守にぶつかるたびに爆発する。
 だが、墓守はそれにも動じない様子。
「こ、これならどやぁ!!」
 最後に取り出したのはミサイルポッド。
 煉戯はその場に片膝を着き、照準を墓守につける。
「ファイア!」
 掛け声と共に引き金を引き、ミサイルを発射する。
 だが、やはり墓守は動じていない。
「タフと言うよりは、ただ鈍いだけに思えてきたで……。っち、厄介やな!」
 煉戯の愚痴に応える様に墓守が斧を振り回して反撃をしてくる。
 それを何とか避け、次の手段を考える。火力を上げてゴリ押しをしても時間がかかりすぎる気がする。
 その時、後ろから声が聞こえた。
「皆さん、下がってください!」
 振り返ると、三下が金属バットを持って立っていた。

***********************************

●エクスガリバーを てにいれた

「ど、どどど、どうしよう!?」
 三人が戦闘している間、三下は距離を取って頭を抱えていた。
 どう考えても非戦闘員の三下。
 できる事と言えば邪魔にならないように隠れている事だけなのだが、女性が二人も参戦してる中、自分だけ隠れているのは何か間違っている気がする。
『……若いの』
 その時、何処からとも無く声が聞こえた。
「……だ、誰ですか!?」
『ワシじゃ。下を見てみぃ』
 言われて下を見ていると、そこに転がっていたのは先程煉戯が持ってきた金属バット。
「き、ききき、金属バットが喋った!?」
『金属バットではない。ワシの名前はエクスガリバーじゃ。これでもたいそうな力を持った聖剣である』
「え、エクス『ガ』リバー? エクスカリバーじゃなくて、ですか?」
『違う。ワシはエクスガリバーじゃ』
 パチモンだ。三下はすぐにそう思った。
「に、偽者じゃないですか!? そんなありがちなパクり方もないですよ!?」
『偽者でもないしパクッてもおらん。ワシはれっきとした聖剣じゃ。それよりも若いの。おぬしは戦わんのか?』
「ぼ、僕が戦えるわけ無いでしょ!? 僕は一般人ですよ」
『馬鹿者。ワシの声が聞こえる時点で一般人ではないわ。おぬしには勇者の素質がある』
「ゆ、勇者の素質……!?」
『そうじゃ。その勇者の素質、ワシが試してやる。ワシを手に取り、あの怪物に殴りかかるが良い』
「……そ、そんな事出来ませんよ!」
『やるんじゃ。おぬしならば出来る』
 無根拠な金属バットの激励。その時点で信じられる要素など何処にも無いのだが、何を思ったか三下は金属バットを手に取る。
「……勇者の素質……。僕、やってみます」
『おお、その意気じゃ、若いの!』
 こうしてエクスガリバーと言う怪しい自称聖剣を手に取った三下。
 ここから伝説が生まれようとしていたのだ。

「皆さん、下がってください!」

***********************************

●たたかう はかもり  1たい つづき

「三下さん、そりゃ無茶やで」
「そうよ、三下さん! 金属バットなんかでコイツが倒せるわけないって!」
「おとなしく隠れていてください。すぐに片付けますから」
 仲間に大不評の三下の恰好。
 だが、それも正論と言えば正論だ。
 元の魔法でも、煉戯の重火器でも、パティの剣技でも倒れなかったのだ。
 金属バットで殴りかかってどうにかなるようなものでもないだろう。
 だがしかし、三下は諦めない。
「や、やってみます!!」
 三人が止めるのを聞かず、三下はバットの柄を握る手に力を込める。
 そして、ゆっくりと地を蹴り始めた。
「う、うわああぁぁぁぁ!!」
 涙交じりの歪んだ雄叫び。
 しかし、その足取りはしっかりしており、真っ直ぐ墓守に駆けて行っている。
 そしてゆっくりとバットを振りかぶり、大上段の構えで止まる。
「て、てやぁあああ!!」
 そして、拝み打ち一閃。
 ヒト一人、やっと気絶させられるぐらいの一撃に見えたその攻撃は、しかし絶大な威力を秘めていたようだ。
 三下がバットを振り下ろす過程でその金属バットは光り輝き始め、まるで松明を灯したかのように辺りを照らした。
 その光り輝く一撃が墓守に到達する。
 すると、バットが触れたその箇所から、墓守の身体はボロボロと崩れ始めた。
「な、なんやてぇ!?」
「すごい、金属バットすごい!?」
「驚きましたね……」
 見る見るうちに墓守の身体は瓦解し、土に混じって消えてしまった。

●はかもり を たおした

***********************************

●ぼうけん とうきょう

 墓守が居なくなった途端、辺りは元の景色を取り戻した。
「……なんやったんや、一体」
「金属バットが伝説の剣だったって事かな?」
「俄かに信じられませんが、そういうことでしょうね」
 金属バットが恐ろしい力を発揮した。
 という事はそのバットはただのバットではなく、噂を信じるならば、それを持った者は崇め奉られると言われる伝説の剣、と見るのが妥当だろう。
「しかもそれを三下さんが……。こ、これは笑えるかも!」
「笑たら失礼やで、元ちゃん。……ぶふっ!」
「噴き出してますよ、煉戯さん」
「……うぅ、皆さん酷いですよ」
 一仕事終えて、何となく和やかなムードになりつつある一行。
 だが、そこに聞き覚えのない一声が割って入る。
『のぅ、若いの。ちょいとよろしいか』
 エクスガリバーと名乗る金属バットである。
「き、金属バットが喋った!?」
「大発見やで三下さん。すぐにオークションに出品しよ!」
「いえ、近くのアンティークショップに持って行った方が高く買ってもらえるかもしれませんよ」
「う、売りませんよ!?」
 どうやらエクスガリバーの声はここに居る全員に聞こえるらしい。
 三下だけが特別と言うわけではないらしい。
『若いの。ワシは元の持ち主の許に帰りたいんじゃが、送って行ってくれるか?』
「え? 元の持ち主ですか?」
『そうじゃ。なぁに、心配いらんさ。すぐに見つかるわい。……ちなみにワシは呪われておるから装備からは外せんぞ。そして持ち主のところへ送ってくれんと呪いは解かんぞ』
「それって拒否権無しって事ですよね!?」
 こうして次のクエストが勇者三下を待ち受けることとなった。

●つづく


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【6604 / 環和・基 (かんなぎ・もとい) / 男性 / 17歳 / 魔法使い(神聖都学園三年生)】
【5584 / 冷宵・煉戯 (さまよい・れんげ) / 男性 / 18歳 / 盗賊(探し物屋『インビジブル』)】
【4538 / パティ・ガントレット (ぱてぃ・がんとれっと) / 女性 / 28歳 / 戦士(魔人マフィアの頭目)】

【NPC / 三下・忠雄 (みのした・ただお) / 男性 / 23歳 / 勇者(平社員)】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 冷宵 煉戯様、シナリオに参加してくださってありがとうございます! 『キャラが壊れてないか本気で心配』ピコかめです。(何
 本気で。本気と書いてマジと読んで心配です。(謎

 大阪弁とかかなり縁遠いピコかめです。
 それ故、どっかこっか間違いがあるかもわかりません。(ぉ
 いや、方言って難しいですね。
 それはともかく、次回も気が向いたらよろしくお願いします。