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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


藍玉 + 変化 +



☆ ★


 今日も、彼女の周りには人が集まってきている。
 元々頭の回転が速いのだろう。彼女の話しは華やかで、話題性に富み、いつだって笑い声を響かせている。
 暗い表情なんて何もなく、幸せな1人の高校生として、彼女は話の中心で笑っている。

「ねー、鏡花、昨日のテレビ見たー?」
「見た見た!面白かったよねー!!」
「鏡花ー!教科書貸してくれる?」
「あ、うん、いーよー」
「そう言えばさ、前にどっかで航空機事故あったって言ってたじゃん?まだ行方不明の人が居るって」
「あー、そんなニュースやってたね」
「見つかったらしいね・・・遺体で」
「そりゃね、絶望的って言われてたんだからー!」
「でもさぁ、可哀想だよねぇ。姫宮さんって、夫婦ででしょ〜?」
「そうだね、可哀想だね」

 沖坂 鏡花。
 それは、従兄妹の苗字を借りただけの名前。
 彼女の本名は、姫宮 鏡花 ―――――
 日本人での唯一の犠牲者である姫宮夫婦の1人娘・・・
 けれど、周囲はソレを知らない。
 彼女は沖坂鏡花であって、姫宮鏡花ではないからだ。
 彼女はあくまで沖坂鏡花として神聖都学園に通い、たくさんの友達に囲まれて楽しそうに笑っている。
 今日も明日も明後日も、彼女の身には、悲しいことなんて起こらなくて・・・


 ―――― それが、本当に幸せだと言うのなら、幸せなのかも知れないけれども・・・


★ ☆


 夕暮れ時の放課後、窓の外には綺麗なグラデーション。
 オレンジ、紫、ピンク・・・あまりにも綺麗な空は、見ていて切なくなるほどに儚い色をしていた。直に訪れる夜の闇に隠されてしまう、ほんの刹那の光景でしかない。
 オールド スマグラーは冷たい廊下に立っていた。
 タイル張りの綺麗な廊下はよく磨かれており、オールドの姿が薄っすらと映っていた。
 薄いガラス越しに差し込んでくるオレンジ色の光が、友達と談笑しながら教室から出てきた鏡花の横顔に触れ、反対側の影を濃く浮かび上がらせる。
 銀色の髪がオレンジ色に光り、長い睫毛の下に出来た影が白い頬に伸びる。
「鏡花・・・」
「・・・」
 かけた声は、確かに鏡花に届いたはずなのに・・・
 鏡花は目を伏せると視線を横にずらした。
「あれ?歌のコンクールの時の・・・」
 茶色い髪を後頭部で1つに結んだ少女がそう言って、オールドの顔をまじまじと見詰める。
「あぁ、歌のコンクールの時の!鏡花のお友達でしょ?」
 パチンと手を打った少女が、鏡花の肩に手をかける。
 真っ黒な髪は夕陽の光を少しも通す事無く、重たげに肩で揺れ、鏡花の銀の髪と絡まりあう。
「・・・違うよ。友達じゃないよ」
 ゆっくりと、しかしはっきりとした口調で鏡花はそう言うと、ふっと顔を上げた。
 晴れやかな笑顔はオールドに向けられることはなく、周囲の友達に向けられたものだった。
 冷たいソレは、オールドを明らかに拒絶していた。
「ただの、知り合い」
 トンと上履きの底でタイルを鳴らすと、クルリと向きを変えて昇降口の方へ向かおうとする。
 残された少女達が目と目で何かを語り合い、首を傾げて眉を顰めた後で、オールドに1つだけ頭を下げると鏡花の背へ走って行く。
 長い髪が揺れる。窓から差し込んでくる陽の光はだんだんと色を落とし、明るかったオレンジ色が翳って行く。
 最初から拒絶されるかもしれないと言う事は分かっていた。
 屋上での最後の場面が頭の中に過ぎり、ギュっと拳を握る。
 ・・・最初からこうなることを知っていて、それでも会いに来たのはオールドの心だった。
 当たって砕けろの特攻精神で、伝えたいことを言いに来たのだ。
 気合を入れて、一言でも伝えられたら良いと ―――――
「・・・鏡花っ!!!」
 自分でも驚くほどの声の大きさで、オールドは廊下の端に消えようとしていた鏡花の姿を呼び止めた。
 ビクリと震える肩が、以前の鏡花をまだ残しているようで・・・
 少女達がオロオロと言った様子で目と目で何かを交し合い、鏡花の袖を引っ張る。
 オールドは鏡花の傍まで走ると、その華奢な腕を取った。
「話がある」
「・・・私にはないです」
「それでも、俺は鏡花に話がある」
「・・・・・・」
 冷たい瞳はその色と相まって、一層の拒絶の光となってオールドに突き刺さる。
「あの、鏡花・・・私達、先に帰ってるから」
 落ち着かない様子で茶色の髪の少女がそう言い、黒髪の少女の手を引く。
「あ、また明日・・・」
 髪と同じく真っ黒な瞳をクリクリとさせながら、形式程度に手を振って去って行く・・・。
「・・・それで、私に言いたいことって何ですか?」
 刺々しい言葉は、オールドが言おうと決めてきた言葉を発するまでに少しの躊躇をもたらした。
 一瞬だけ真っ白になった頭の中から言葉を探そうと視線を鏡花からそらし・・・
「わざわざ呼び止めたのに、言葉が出てこないなんて変です」
「いや・・・」
「お話がないなら、私帰ります」
 クルリと背を向ける鏡花の腕を再び掴む。
 鏡花が驚いて振り返り、何かを言おうと口を開き ―――――
「俺、鏡花のことが好きだ。仲直りしたいし、これからも友達でいたい」
 すんなりと出てきた言葉に、オールドは鏡花以上に内心では驚いていた。
 淡い青色の瞳を見開き唇を薄く開いたまま固まった鏡花の表情は、なんとも言いようのないものだった。
「あ・・・いや、その・・・」
「私は、貴方が嫌いです。それでも、友達って言えるんですか?」
 驚きの表情が掻き消えた顔は、とても冷静な色を宿していた。
 非難しているわけではない言葉は、優しく諭しているようにすら聞こえるものだった。
「それは・・・その・・・」
「私が嫌いって言っても、貴方は私の事が好きだって言えるんですか?」
「・・・俺は、鏡花の事友達だと思ってる」
「私は貴方が嫌いなのに、ですか?」
「・・・それでも・・・」
 どう答えたら良いものか、オールドには分からなかった。
 確かに、自分は鏡花のことを友達だと思っている。
 友達になりたいと、思っている。けれど、鏡花はそう思っていないのかも知れない。
 一方通行の気持ちは、ただ迷惑になるだけなのかも知れない。
 ・・・一方通行の友達は、もはや“友達”ではないのだろうか・・・?
「私って、何にもないんですよ?」
「へ?」
 急にかけられた言葉の意味が分からずに、オールドは一時思考を中断して顔を上げた。
「本当の私って、何にもないんですよ。話していて楽しくもないし、いつだって後ろ向きで、引っ込み思案で社交性がなくて。良いところなんてないんですよ」
「そんなこと・・・」
「ねぇ、それでも貴方は私の事を友達って言ってくれるんですか?何の見返りもないのに、友達をしようなんて思えるんですか?楽しくない人と友達になろうなんて、思えるんですか?」
「楽しくないとか、見返りとか、そんなの・・・」
「作り笑いをして、冗談を言い合って、楽しい事を共有する、それが友達なんじゃないんですか?」
「・・・そうかも知れないな」
 誰だって、友達に求めるものは“楽しさ”なのだ。
 一緒に居て楽しい人、笑い合える人、そう言う人と友達になりたがるのだ。
 ・・・でも、友達って本当にソレだけなのだろうか?
 作り笑顔で深刻な部分を全て曖昧に暈してしまう、それは友達と言えるのだろうか?
「でも・・・楽しい事だけじゃなく、辛い事も共有する・・・それが、友達なんじゃないのか?」
 困惑気味に発した言葉は、自分で言っていても頼りない響を纏っていた。
 “友達”は曖昧な言葉過ぎて、はっきりとした境界線がよく分からない。
 知り合いが友達に変わるのはいつなのだろうか?
 どこまで自分を出して、相手を受け止めれば友達になれるのだろうか?
「・・・1週間、よく考えてください」
 長い沈黙を打ち破ったのは鏡花の方だった。
 低く落ち着いた声は、ピンと張り詰めた空気に良く映えた。
「1週間後の放課後、一緒にお弁当を食べたあの中庭で待ってます」
「あぁ・・・」
「1週間経っても、まだ私の事を友達って言えるのかどうか、よく考えてください」
「分かった」
「私は、貴方の事が大嫌いです。大嫌いって言っても、まだ私の事を友達と思ってくれるのか、ちゃんと、よく・・・考えてくださいね?」
「あぁ」
 オールドは無意識のうちに視線を足元に落としていた。
 これほどまでに“嫌い”を連発されると、流石に落ち込んでくる。
「1週間後、中庭で・・・待ってますから」
 その言葉に、落としていた視線を上げる。
 すでに外は漆黒の闇に濡れており、天井から降り注いでくる人口の明かりが光と影をより濃く色分けしていた。
 鏡花の顔へと視線を向ける。
 必死に何かを訴えかけているような瞳は青く、透明で、考えなくても何を言っているのか容易に分かった。
 クルリを向きを変えて走り出す背中は追わずに、オールドは苦笑を浮かべて目を伏せた。
「大嫌いなんて、嘘ばっか・・・だな・・・」



               ≪ E N D ≫



 ◇★◇★◇★  登場人物  ★◇★◇★◇

 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


  6082 / オールド スマグラー / 男性 / 999歳 / 炭焼き職人 / ラベルデザイナー


  NPC / 沖坂 鏡花


 ◆☆◆☆◆☆  ライター通信  ☆◆☆◆☆◆

 この度は『藍玉 + 変化 +』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
 そして、いつもいつもお世話になっております。(ペコリ)
 なんだか鏡花が強い女の子みたいになっていて、少しオールドさんがたじたじになってしまいました。
 ただ、やっぱり鏡花はまだ少女年齢なので、最後はオールドさんが大人の余裕(笑)をみせてます。
 私の中のオールドさんは、渋い系のカッコ良さなのです!
 鏡花の気持ちはバレバレですが、本人は気付かれていないと思い込んでおります。
 さて、藍玉もとうとうあと1話を残すばかりとなりました。
 お気持ちが変わらなければ1週間後の放課後に中庭に起こし下さい。


  それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。