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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


学園七不思議―02血に濡れる純潔

 純潔の色を保っていることがイヤになったのだろうか。
 それともなにか言いたかったのだろうか。
 白い白い、純白の百合の色がある日を境に突然血のような赤い色に変わってしまった。
 目立つ場所にあったその絵の豹変振りに見た人は足を止め、眉をしかめた。
 呪われているんじゃないだろうか。
 やっぱり何かでるんだよ。
 憶測が噂を呼び、目立つ場所にあったためにそれはどんどん噂だけが広がっていった。
 あまりに大きくなりすぎた噂とその百合の絵画。
 立派なものだったけれども、撤去することが決まった。
 
 だが撤去のその日。
 なかなか作業は進まなかった。


 その日も屍月・鎖姫はなんとなく学園へとふらりとやってきた、まるで何かに呼ばれたかのように。
 普段はとおりもしない、大きな正門から学園内へと入り普段通りもしない来客用のエントランスへと足を進めた。
 まるで何かに呼ばれていたかのように。
 まるで何かに誘われていたかのように。
 まるで何かが待っているかのように。
 そうして何かは待っていた。
 エントランスをくぐってすぐに鎖姫の足は止まった。
 エントランスには何かを囲むように人だかりが出来ていた。それで鎖姫の足は止まった、が、それはまたすぐに動き出す。
 鎖姫はそのまま人だかりの方へと足を進めて、何があるのかと覗き込む。
 壁に大きく飾られている立派な絵画があるだけだった。
 それだけなのになぜ人が集まってきてるのだろう。
 疑問に思った鎖姫は群集の中の一人に声を掛ける。
「ねぇ、何かあったの?」
「え?いや。………元々この絵は白い百合の絵だったんだよ。いつだったかな、忘れちゃったけれども、ある日突然赤い色の変わってしまって………初めは誰かのイタズラだろうなんて話だったんけれどもさ。なんか呪いだとか怨念だとかいう話もあって、今日撤去することになったんだ」
 鎖姫が話しかけた男子生徒は撤去されていく様子に興奮してるのか、その噂に興奮してるのかわからないが饒舌に話してくれた。
 鎖姫はそれにふーん。と相槌を打ちながらまだ壁にかかっている赤い百合の絵を見た。
「僕は別に紅い百合でも素敵だと思うんだけれどもね」
 独り言のように呟いたときだった。
「さぁ、作業に入るからどいてくれないか」
 絵の撤去にきた作業員の一人が大きな声で野次馬の人だかりに声をかける。と、いいタイミングで授業を始めるチャイムも鳴り、ザワザワと生徒達はあちらこちらへと去っていく。
 広いエントランスに残ったのは業者と鎖姫だけ。
 業者の人たちが絵を取り外しにかかる準備の中、ひとりの業者の男だけが絵画を眺めたまま仕事についていなかった。
「何か問題でも?」
 絵を眺めたままの業者に何気なく話しかけた。
「あぁ、いや。………実はこの絵私の友人が描いたものみたいでね。撤去するのが残念でしかたないんだ」
「へぇ……お友達?」
「あぁ、古い友人でね。もう亡くなってしまっているのだけれども…………」
「あの、失礼じゃなかったら、その絵描きさんと、この絵の話きかせてもらいたいな?」
 鎖姫も業者の横に立ち、大きな紅い百合の絵を眺めながら尋ねる。
 芸術関係には興味がある。
 どんな絵描きがどんなことを思ってこの作品を仕上げたのか。
「んー………そうだな、どこから話せばいいかな。この絵は彼の遺作になるのかもしれないね」
「コレが最後に書いた作品?」
「私が知っている限りではそうなるね。………その当時あまり売れないない画家だった、そんな友人に大きな絵の依頼が来て、喜んでいたのよ良く覚えているよ」
「なんでそれで死んじゃったの?」
「書き出してすぐに病にかかってしまったんだよ。嬉しくて夢中になって描いてるときにね………病気と闘いながらもなんとか友人はこの絵を書き上げたんだ。そうして、書きあがってすぐに他界したんだ」
 誰ともなしに作業の手は止まっていた。
 絵を見上げたままの業者の言葉を聞き言っていた。
 鎖姫もまた同じで、絵画を見ながら業者の話を聞いていた。
 重い沈黙があたりを包んだ。
「ねぇ、なら。白く戻ればここにあってもいいのかな?」
「え?」
「いや、僕は紅い百合の花も綺麗だと思うんだけれども。最期の命まで削った絵を紅くなって不気味だからっていう理由だけで、ここから撤去しちゃうのもなんだかなぁ。って思うんだよね」
「戻るのだろうか?」
「あんまり謎解きは得意じゃないんだけどさ。何か理由があるのかも………絵に触っても大丈夫?」
「あぁ、構わないさ」
 重い沈黙を掻き破ったのは鎖姫の暢気な言葉だった。
 どうせなら紅いままでここにあってもいいのに、どうしてもって言うのなら彼は元に戻してみようと提案する。
 業者の了承を得てから鎖姫は絵画の方に近寄り、そっと腕を伸ばし指先で絵をなぞってみた。
 なんてことない普通の油絵の感じがした。
 直接油絵を触ったことなどなかったがおかしな感じはしないような気がする。花の部分だけ塗ってみたとかそんな感触はないように思う。
 そのまま絵画の上を指を滑らしていく。
 何か言いたい事があるのかもしれない。
 百合の花言葉がなんとなく頭をよぎる。
「百合の花言葉に『注目を浴びる』とか『私を見て』とかあるらしいけれども………まさか人目につかなくてひがんでるわけじゃないよねぇ?」
 指先は絵画の上をなぞりつつ思いついたことを口にしていく。
 ふいっと隣に立っているこの絵を描いた画家が友人だという作業員の方を見て目を細める。彼からなにか返答があるわけではない。そのまま鎖姫の視線は後ろへと向けられていく。
 此処はエントランス。
 一番注目を浴びる場所。
 見て欲しいと願って、赤く色変わったわけでもなさそうだ。
 広いキャンバス。一面に覆い尽くす百合の絵の上を鎖姫の指は辿っていく。
 今は赤い血の海のような百合の花弁の上を辿っていく。
 言葉はなかった。
 エントランスは静寂に包まれた。
 ただ鎖姫の指先がキャンバスの上を滑っていく、指の腹に感じるのは油絵独特のざらりとしや質感だけ。
なにか考えがあるわけではない。
 どちらかといえば謎解きは苦手だ。
 もうダメだギブアップと、指をキャンバスから離そうとした。
 丁度指がキャンバスの右端にまでたどり着いたから、キリがいいからと………。
 でもそれはそうはならなかった。
 逆に鎖姫はキャンバスを覗き込んだ。
 赤い赤い絵の中そこだけが何故か色がなかった。
 緑色に書かれた百合の茎と茎の合間。
 もう一輪花が描かれても良さそうな妙なスペースが開いている。
 その緑の隙間に置いた指先。
 遠目で見ていたときには何も不自然さを感じなかったのに、何故だろう近づきじっくり見た今何か引っかかる。
「本当に、僕苦手なんだよねぇ」
 独り言が呟かれる。
 鎖姫の動きの変化から取り外す作業をやめたままの業者の者たちも息を殺すように見つめ、画家の友人だという業者は神妙な顔つきで食いついて見つめていた。
「――――あ?」
 静寂が何時までも続くと思うような時間が壊される。
 呟いたのは鎖姫。
 緑の茎を辿っていった先。
 その先にあるはずの花が描かれてなかった。
「まさか………ねぇ?」
 鎖姫は指をそのままキャンバスの上に置いたまま、友人の業者の方に顔を向けた。
 その業者も鎖姫野指が動いていくのを見つめていたから、鎖姫が言わんとしてることが分かったらしく戸惑いがちに小さく頷いた。
「ここに最後の一輪を描きたかった。けれども筆は続かなかった。小さな百合の花をかけなかったことの無念から?」
 まるで尋ねるような口調で自分の考えを言葉にしていく。
 言葉にしていくことで更に纏っていく様な気がして。
「なにか聞いた話とか……ないの?」
「病気の時は会えずに、私は結局死亡の知らせを聞いて、葬式に行っただけなんだよ。………………そういえば、家族から『まだなんだ……』なんて言葉を常に発していたなんて聞いたよ」
「じゃぁ、やっぱり。ここはもう一輪、百合の花が咲くはずだったんだね。………きっと」
 死人に口無し。
 何を言っても憶測でしかないけれども、なんとなく点と点が線で繋がって行くようなきがしていく。
「絵描きさん、完成してないものをここに飾られているのがたまらなくなったのかなぁ…………僕か書き足して納得してくれたらいいけどね」
 そう言ってから、ようやくキャンバスの上から指を離した鎖姫。
 自分の考えを口にする口調は普段と変わらないもの、のんびりと隣に立っている業者を見ながら言葉を続けた。
「折角だから、百合の花を書き足してみようか?どうせ撤去しちゃうんでしょ?」
「あ、あぁ。そうだな、未完かもしれないと分かったのなら、余計なお世話かもしれないが」
「僕がヘタな百合を描き足しても怒られないかな?」
 にこやかな笑顔で鎖姫が提案をしていく。
 どうせ外してしまうのなら。
 絵描きが未完と思っているのなら。
 完成品にしたっていいじゃないかと、軽い鎖姫の口調が緊張していた空気をほぐした。
 業者達は口元に笑みを作っていた。
 隣に立っていた絵描きの友人だという業者は、軽く鎖姫の肩を叩いた。
 言葉のかわりに、いいじゃないか。と、でもいうように。


 そうして鎖姫は美術室から油絵セットを借りてきた。
 鎖姫がエントランスに戻ったときには百合の絵は壁から外されて、壁にもたれ掛けさせる様に床の上に置かれていた。
「絵を描くなんて久しぶりだよ」
 そんなことを言いながら、パレットの上に白い絵の具を搾り出していく。描き方を美術室にいた生徒に簡単に聞いてきたためにそんなにてこずることはなく、準備を進めることが出来た。
 いざまるで絵描きのように片手に筆、片手にパレットを持ちキャンバスのほうに歩み寄る。
 先ほど見つけた妙な空間。
 緑の茎の先何もないぽかりと開いた空間。
 その場所を確かめた。
「じゃぁ、描かせてもらうね。出来が悪くて怒らないでよ」
 誰に言うでもない独り言を呟きつつ、筆をキャンバスの上に置いた。
 何か別の力が働きだしたような気がした。
 自分と別の何かがこの絵を描こうとしてるかのように、自然と自分のふでをもった手が動き出すのに鎖姫は戸惑いを感じる。が、力は加わる一方で自分はただ筆を握っているだけの状態だった。
 けれどもそれは端から見ていて、不自然ではなかった。
 普通に鎖姫が絵を描いているようにしか見えなかったから。
 何かの力によって白い絵の具が順調に塗られていく。
 初めは戸惑いを隠せなかった鎖姫だったが、次第にそれが楽しくなってくる不思議な感触を味わっていた時、ふっと思った。
 あぁ、そうか。
 絵描きさんが描きに来たんだ。
 口にはしない独り言を心で呟いたとき、背後でため息にも似た歓声が上がるのが耳に入った。
 筆を持ったまま鎖姫は振り返る。
 作業をやめて鎖姫の行動を眺めていた業者達が、皆一斉にキャンバスを見つめていたのだった。
 なにか可笑しいところでもあったのだろうかと、鎖姫はまたキャンバスに向き直る。
 見つめた先は今自分が描いている場所。
 そこにほぼ完成できつつある白い百合の花が一輪。
 が、その周りの百合の花も白く変わりつつあった。
 筆を一つ動かすと、一つの赤い百合が白くゆっくりと色を塗り替えたように変わっていき。
 またひとつ筆を動かすと別の場所の赤い百合が白い百合へとスローモーションで変わっていく。
 物凄く不思議なことが起こっているのに、まるでそれは自然な出来事のような雰囲気があたりをつつむ。
 どれほどそうして描き続けただろうか。
 最後の赤い百合が白く変わったところで、自然とキャンバスの上から筆が離れていった。
 鎖姫にしてみればそんなに長い時間をかけて描いたつもりはないのだけれども、身体は物凄く疲れていた。「………――――――はぁ」
 思わずため息をついてしまう。
 筆を握ったまま、自分が今まで向かっていたキャンバスを改めて見てみる。
 キャンバスを埋めつくほどの百合の花は白くなっていた。
 まるで血の海のようだった赤い色だったということが嘘のように白い純白に戻って、大きなキャンバスの上に咲き乱れる。
「おつかれさん。他の花に引けを取らないぐらいに綺麗な百合だな」
 描き終わった鎖姫に近づいてそっと声を掛けてきたのは、この絵を描いた画家と友達だったと言ってた業者だった。
 その声に誘われて、業者のほうを見た鎖姫は薄いいつもの笑みを浮かべる。
「そうだねぇ。僕じゃ描いたんじゃないからね」
 薄い笑みのまままたキャンバスを見つめてみた。
 赤い色の百合は白い百合に変わって、赤い色の威圧感はなくなり変わりに凛とした気高さをかもし出していた。
「赤いのも綺麗でよかったけど、やっぱり百合は白いほうがいいのかもね」
 白く元通り以上にキャンパスの中で咲き乱れる百合を見てなんとなくそう呟いた。
「アレ?元に戻ってるじゃん?」
「やっぱ、デマだったんじゃ、ねぇの?」
「つか、案外、上塗りしてたのがはがれたりとか?」
「ありえねー」
 授業が終わったのか数人の男子生徒が通りかかりながら、そんな何気ない会話を笑いながらしては通り過ぎてしまった。
 それを薄い笑みの表情のまま聞いていた鎖姫。
「知らぬが仏ってね」 
 そんな呟きは誰にも届かずに、ただ自分の周りだけで響いた。
「よし、この絵このまま飾っておいても大丈夫だそうだ」
 大きな声が響いた。
 業者のうちのひとりが白百合になった絵をもう一度ここに飾られないだろうかと、交渉しに行きなんとか美味く誤魔化して事情を説明したところ、そのまままたもとの位置に戻してもかまわないと許可が下りたらしい。
 業者達は今度は下ろすときと違って、意気揚々と掲げなおす作業に入っていく。
 大きなキャンバスが持ち上がったときだった。何かが落ちた音がした。酷く乾いた硬い音。
 気がついたのは鎖姫だけ。
 音のしたほうに近づけば、床に赤いビー玉が転がっていた。
 身を屈めてそれを拾い上げ、赤いビー玉越に百合の絵を見てみた。
 絵は良く見えなかったが、ビー玉の中心でなにか雫が落ちているように見えた。
「僕で良かったのか、どうかはわからないけど…………。変わらずここに飾られてよかったじゃん。これは今回のお礼ってことで貰っていくね」
 薄い笑みを浮かべながら赤いビー玉をズボンのポケットに忍ばせた。
 そうして鎖姫はそのままそのエントランスに背を向けて、歩き出す。


 それから百合の絵画は変わらずエントランスに飾られている。
 一時、また白く戻った色についての噂が飛び交ったりもしたが、結局それは悪戯だったらしいと結論付けられて終わってしまった。
 真実を知っているのは百合の花だけ。
 



――――――――――fin



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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2562/屍月・鎖姫 (しづき・さき) /男性/920歳 /鍵師

 



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■         ライター通信          ■
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屍月・鎖姫様

この度は【学園七不思議―02血に濡れる純潔】に
ご参加下さりありがとうございました。
前回に引き続きのご参加本当に嬉しく思ってます。

こんにちわ。櫻正宗です。
今回はちょっと難解な依頼でしたでしょうか。
プレイングに触れるとあったので、このような展開になりました。
無事に赤百合は元の白百合に戻ることが出来、変わらず学園に飾られているそうです。
前回に引き続き、鎖姫さんの人柄がよくわかるプレイングありがとうございます。
こちらが楽しませていただいてます。
ニヒルで軽いのに嫌らしくない雰囲気を心がけさせていただいてますが、大丈夫でしょうか?
そうして次の3話もまた学園内で小さな噂から生まれるかもしれません。
ご興味がある内容でしたら、またお付き合いくださいませ。

そうして、今回此方の都合で納品が遅れたことを心からお詫び申し上げます。

それでは最後に
重ね重ねになりますがご参加ありがとうございました。
またどこかで出会うようなことがあればよろしくお願いいたします。

櫻正宗 拝