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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


向こう側の古着処分

●オープニング
 何処とも知れない場所にある、何やら特別な人間だけが辿り着けるというアンティークショップ・レン。
 普段は曰く付き商品の数々が置いてあるのだが、今日は何かが違う。
 店先には「ブランド品 30パーセント〜80パーセントOFF」と書いてある看板がおいてある。
 店主の碧摩蓮曰く。

「骨董品ばかり売るのも飽きたから」

 …だそうで。

 ひとりの女子高生が、花柄のピンクのワンピースを手に取り、喜んでいた。
「すみませーん、これ、試着してみてもいいですかー?」
「いいよ。店の奥で着替えてみな。姿見もあるから」
 試着し終えた女子高生はルンルン気分で80パーセントOFFのそのワンピースを買った。
 それと入れ違いに、お香専門店『幽玄堂』の店主、香月那智がアンティークショップ・レンに入った。
「ごめんください、先日ご予約してくださった香をお届けに参りました」
「ああ、わざわざ届けてくれてありがようよ」
「先程、私と入れ違いの子が買っていったもの、何やら妙な香りがしたのですが…私の気のせいでしょうか?」
 香りに敏感な那智が何かに気がついたようだ。
 それを察したのか、蓮はしれっとしてこう答えた。
「ちょっとした処分品セールさ、向こう側の…ね」
 向こう側、というのがひっかかるが…。
「なるほど、彼の岸の…ですか。しかし貴女も趣味が悪い。そのようなものを売りつけるとは」
 あたしは悪徳業者かい? と意地悪な目で那智を見つめる蓮。

 そんな二人の遣り取りを見ず、あなたはアンティークショップ・レンに足を踏み入れた。

●お客様ご来店
「瑠璃色の鳩」「アイスブルーの瞳」などの異名を持つ若きマフィアの首領、パティ・ガントレットは何かの気配を感じとり、アンティークショップ・レンに足を踏み入れた。
 盲人用の杖を突き、瞳を閉じて目が見えない演技をしている。彼女の瞼が開かれる時は、誰かが死ぬ時でもある…らしい。そのような事情もあり、彼女は盲人の振りをしている。
 ブランドセールを催していることは、周囲で服を選んでいる客の気配と反応でわかっている。
「いらっしゃい、服を探しているのかい?」
 店主の碧摩蓮が、珍しいお客が来たもんだねと関心しながらパティに声をかけた。パティは近くにある服を手に取ると、蓮にこれはどんな服かと尋ねた。
「すいません、これが、何色だか教えていただけますか?」
 これも盲人演技の一環。知っていても、知らぬ振り。だた、自分、あるいは蓮が脱衣婆のような…という気がした。蓮はそれを知ってはいるが、あえて知らない素振りを見せて答えた。
「これかい? 最近入荷したばかりの服だよ。色は白」
「そうですか。出来れば、気軽に外出できるような、明るい色のものが欲しいのですが」
 そうだねぇ…と顎に手を添え、服を物色して選び出す蓮。そんな彼女が手にしたのは、白いワンピースと水色のカーディガンだった。パティは篭手越しに衣服に触れると、目を開き衣装を呪う。そうすることで、衣服にこびり付いた過去を垣間見た。

 見えたものは、一人の男性。ブティックの一角にあるワンピースコーナーで、女性の服を選んでいるようだ。
 初めて女物の服を買うのだろうか、胸が高鳴っている。店員にアドバイスをしてもらい、小一時間悩んだ結果、パティが触れた衣装を購入した。
 綺麗にラッピングされた箱を手にし、ウキウキ気分で急いでこれを渡そうと走った。
 その後の光景は…真っ暗で何も見えない。それと同時に、誰かの声が聞こえる。

 真っ暗な世界に感じるのは、これから誰かの元に貰われていくというドキドキ感。
 どんな人に会えるのだろう。そして、自分を手に取った時、何と言うだろう。
 ああ…楽しみ…。
 でも…何かがぶつかる音がしたかと思うと、辺りが騒がしくなり、自分はどこかに連れ出された。
 どこをどう巡り巡ったかわからないが、今、自分は再び誰かに触れられている。
 誰だろう…?

 過去、というよりは、ワンピースの思念を読み取ったという感じであったが、何があったのかはわかった。
「店主さん、この衣装をください。お幾らですか?」
「あんた、良い買い物したねぇ。これは掘り出し物だよ。新品同様のブランド服さ」
 値札に書かれている金額を支払い、パティはアンティークショップ・レンを後にした。

●一途な想い
 自宅に戻ると、パティは自室へ真っ直ぐ向かい、丁寧に畳まれ、袋に入れられたワンピースとカーディガンをハンガーにかけて
眺めた。
「この衣服の側にいる霊魂殿、出てきてはくださいませんか?」
 ワンピースに向かってそう言うと、何かがすぅっと現れ、紺のポロシャツ、ジーンズ、耳にはルビーのピアスという今時の若者風の男性となった。
「あはは…僕のこと、バレちゃったようで」
 頬を掻き、少し困った表情を浮かべ、男性は苦笑した。
「ワンピースからあなたの気配を強く感じましたので。私がこの衣服を購入したのは…あなたの想いが強かったからです。宜しければ、私の話し相手になってください。そして、あなた自身の話を聞かせてください」
 パティは頭を下げ、男性に相手を願い出た。
 あ、頭を上げてください。でないと…話し辛いですと男性に言われ、パティは頭を上げ、アンティーク調の木椅子に腰掛けた。
 あなたも腰掛けてはいかがです? と男性に座ることを勧めたが、僕は幽霊ですからと遠慮されてしまった。
「この衣服を買ったのは、あなた。プレゼント用だった、みたいですね。道理で染みも無く、売り物になる訳だ」
「仰るとおりです、はい。あ、自己紹介がまだでしたね。僕、七瀬マサルと言います」
 マサルはパティに、自分が死ぬまでの経緯を話した。

 マサルには二つ年下の渚という彼女がいた。ガールフレンドは何人かいるが、恋人と呼べるのは彼女だけだった。
 プレゼントとして購入したのは、初めて渚に送るバースディプレゼントになる…はずのワンピースだった。太陽のような明るい彼女には白い色が似合う、という彼の拘りもある。
 ブティックの店員のアドバイスもあり、無事ワンピースを購入できた。
「その時はやったぁ! って思いましたね。渚が喜んで、このワンピースを着るのが楽しみで楽しみで。でも…」

 ブティックの帰り道の横断歩道で…信号無視して走っていたから…トラックに撥ねられて…

 病院に運ばれた時には既に手遅れ状態。それから数十分後、家族に看取られること無く、マサルは息を引き取った。
「そのような事情でしたか。お気の毒に…」
「いえ、僕も悪いんです。死んだ後も、渚が気にかかって…。この衣装は処分されるかと思いましたが、どこをどう巡ってか、あのお店で再び売られました。あ、話が変わりますが…あなたは渚に似ているんです。ツインテールが特に。差し出がましいお願いと思いますが…あなたを彼女だと思っても良いですか?」
 一途なマサルの思いに、パティは応えなかった。
「……私はあなたの恋人にはなれません。私は私、渚さんは渚さんです」
「それはそうですけど…。一度だけで良いんです、あなたを渚と呼ばせてください!」
「先程も申し上げたはずです。私は渚さんにはなれないと。その一途な思いは…今、執念になろうとしています」
 執念はマサルを怨霊と化してしまう場合もある。そのことを懸念に思ったパティは、ハンガーに掛けられているワンピースを手にした。
「あの…後ろを向いてくださいませんか? 幽霊とはいえ、男の方に着替えを見られるのはちょっと…」
 その間、マサルは廊下で待つことにした。幽霊である彼は、ドアを簡単に潜り抜けた。

 数分後、パティの着替えが済んだ。
「どうでしょうか…似合いますか…?」
 はにかんだ表情で、パティはマサルに聞いてみる。
「すっごく似合います! まるで…渚が着ているみたいです。僕…すごく嬉しいです…」
 マサルは泣いていた。嬉しいからなのか、悲しいからなのかは彼自身わかっていなかった。
「ありがとうございます…。僕、心残りはもうないです。僕が居るべき場所に帰ります」

 さようなら…

 マサルの姿が消えると同時に、悲しげなその声は聞こえた。

「マサル殿…お元気で」
 パティは胸元に手を当て、マサルの冥福を祈った。 

 あなたの執念を呑んで、私はこの命を楽しみましょう。
 高々一の呪いを呑めずして、ファミリーを纏める事等できようものか。
 これも何かの縁です。マサル殿、明日はあなたを着て、親交を深めようと思います。
 しばしの間ですが、私はあなたと共にいます…。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【4538 / パティ・ガントレット / 女性 / 28歳 / 魔人マフィアの頭目】

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■         ライター通信          ■
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パティ・ガントレット様

はじめまして、ライターの火村 笙と申します。
このたびは「向こう側の古着処分」にご参加くださり、ありがとうございました。
初めて書くタイプのPC様でしたので、上手く表現できたかどうか不安です…。

パティ様は芯の強い感じの女性なので、幽霊のマサルは今時風にしてみました。
マサルの思いは、パティ様のお優しい心の中にあると思います。

ご縁がありましたら、また宜しくお願いいたします。

火村 笙 拝