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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


山羊戦隊テラレンジャー VS 闘龍炎陣ドラゴグーン


 この世界に存在するすべてを猛毒の吐息で眷属のワイバーンたちの理想郷を作ろうと企む邪龍王バシリスク。しかし彼は延々と自分を追い続ける存在に幾度となく痛めつけられていた。邪悪な力を感知して異世界を駆け巡り、常に危険な戦いを乗り越えて勝利を得る正義の戦士『闘龍炎陣ドラゴグーン』。そんなしつこい敵を巻こうと邪龍王が次に目をつけたのが、緑豊かな「地球」という名の星であった。ドラゴグーンが乗る円盤は時空を切り裂き、最後の敵が近くにいるであろう東京湾の底で到着とともにさまざまな調査を開始する。
 主に新天地へとやってきた時、現地調査を行うのがドラゴレンジャーの祐希。膨大なデータをさまざまな角度から検証する頭脳明晰な青年である。華奢な体つきだが、正義を思う気持ちは人一倍だ。そんな彼の側であくびばかりしているのが、ドラゴウォリアーの譲司。いつも「戦うことこそが俺の仕事」と口癖のように言っている偉丈夫で、その言葉どおりトレーニングか戦闘しかしないのが彼のスタイルである。そんなデコボコたちをしっかりまとめているのがドラゴファイターの純。ふたりから尊敬の念を込めて「リーダー」と呼ばれている。彼の活躍で幾多の困難を乗り越えてきた。そんなドラゴグーンがついに宿敵・バシリスクを捕らえようとしている。みんなの思いはただひとつ。この地球という星で忌まわしき因果を断ち切ること……胸に秘めた熱い思いが願いとなって通じたのか、祐希がついに邪悪な敵の姿を捉えた!

 「リーダー、東京上空で……バシリスクを発見しました」

 しかし、なぜかその声は喜びに弾むことはない。むしろ失意の色に染まっていた。リーダーの純はすぐさまその様子をモニターに映すように指示。すると邪龍王が強大な力を保ったまま、目にも止まらぬ早さで空を駆け巡っていた。その口は常に不気味に光る牙を光らせながら、生物から発せられる負の感情やどす黒い煙などを吸うことで急激にパワーアップしているではないか。

 「奴さん、人様の星で無茶しやがるな!」
 「おそらくは地球を一撃で葬り去るつもりなのでしょう。あいつも俺たちの追跡に気づいてるはずだから」
 「もしかしたら……今あいつと戦っても勝ち目がないのかもしれない」

 純の意外な言葉に反応したのが譲司だ。すっくと立ち上がったかと思うと、弱気になったリーダーの胸倉をつかんで容赦なく身体を揺らす。

 「どんな時でも戦うのが俺たちじゃねぇのか! この地球がどうなってもいいのか、ええっ?!」
 「や、やめてくださいよ、譲司さん! き、きっとリーダーも考えがあって……」
 「うるせぇ! せっかくここまで追い詰めたっつーのに全部ぶち壊しにする気か?!」

 ケンカに祐希まで混ざって円盤内は大混乱。そこで妙なタイミングでリーダーの冷静な声が響く……今まで威勢よく吠えていた譲司もこの時ばかりはおとなしくなった。相手の言い分も聞こうというのだろうか。落ち着いた表情で両手を離し、再びどっかりと椅子に座ると腕を組む。

 「俺たちには力の源であるテイルサバイバーもある。闘龍の化身であるリュウエンジンもある。だが、邪龍王バシリスクはこの星でそれを凌ぐすさまじい力を手に入れてしまったんだ。原因はわからない。このまま戦ったところで返り討ちに遭うのがオチだ。祐希、俺が計算した勝率を読み上げてくれ。残念ながら、今の譲司も納得できる数字が出てきたよ」
 「……いっ、1.0824パーセント……?!」
 「今でも恐ろしい力を蓄えているというのに、さらに奴は余力を得ようと動き続けている。攻撃を仕掛けるタイミングは一度だけ……万が一それに失敗すれば、この東京という地域はおろか地球という星は猛毒の吐息が支配する世界に早代わりしてしまう」

 ドラゴグーン、万事休す……しかし譲司は自信に満ち溢れた声で聞き返す。いつもそうだ。リーダーは深刻そうな声でこうは言ってはいるが、ちゃーんと対抗策を用意している。きっと今回も自分たちが慢心しないように釘を刺しているだけだ。柔らかな腕の動きで両腕を開きながら、いつものセリフを声にする。

 「で、策はあるんだろ? いつもの通りによ?」
 「あるにはある。なんでもこの星にも邪悪な敵から世界を守った『山羊戦隊テラレンジャー』なる組織が存在するらしい」
 「山羊……おいおい、山羊が何匹いてもしょうがないだろ。俺たちドラゴンだぜ。な〜んか頼りねぇなぁ。響きといい……なんかなぁ」
 「台座らしきところに変身リングが祭られている。ただ、その戦士は今もいるのだろうか……」

 リーダーの疑問は風船のように膨らんでいくばかり。その間、祐希は地球の情報をかき集めて主要なものだけを口頭で伝えた。テラレンジャーというのは選ばれし者だけが変身でき、自分たちと同じように巨大なロボを操ることができるらしい。ただ変身するのは「誰が」というわけではなく、その時々で選ばれし者が変わるそうだ。譲司が皮肉を込めてテラレンジャーを「烏合の衆」と評する。そんな彼らと手を組み、邪龍王バシリスクを撃破しようというのが打開策……さすがの純もこんなギャンブルにすべてを賭けるのには二の足を踏んだが、祐希からミッション成功の可能性を数値化したプリントを見せられると意を決して号令を下した!

 「我々ドラゴグーンはテラレンジャーと連携し、邪龍王バシリスクを倒す!」
 「しゃーねーか。じゃあ、俺はそいつらの教育でもしてやるよ……」
 「バシリスクが人間に化けて負の力をかき集める可能性もあります。やはりこの星のことはこの星の戦隊に任せるのが適当でしょう。今から民間の情報機関にテラレンジャーとなるべき者を募る情報を出します」


 その数時間後、祐希の手によってゴーストネットに不思議な文字が躍った。

 「集え、山羊戦隊テラレンジャー!」

 祐希の予想通り、その言葉の意味を理解する者たちが続々と現れたようだった。ところが譲司が言ったように、しょせん彼らは烏合の衆。この円盤にたどり着くこそすらままならないらしい。時間が経てば経つほど、バシリスクの力は強大になっていくというのに……中途半端に状況を把握しているせいか、さすがのドラゴグーンにも焦りの色が見え始めた。指輪の宿命を受け入れられずにテラレンジャーを放棄したのだろうか。
 メンバーの深い溜め息や沈鬱な表情で暗くなりがちだった空気は、とある女性の登場で一変した。円盤の入り口が開いたかと思うと、キレイに着飾った女性が登場する。いくつかの華美なネックレスをつけ、扇子を持った優雅なその姿はまさに美人と評するにふさわしい。

 「あら、もっと広いのかと思ってたら結構狭いじゃな〜い。うちの仕事場の方がまだいい感じ?」
 「……姐ちゃん、来るとこ間違ってるとか思わない?」

 譲司の言い分は至極ごもっともである。彼らにしてみれば『指輪も持っていないのにお遊び感覚でこんなところに来られても困る』といったところか。すると彼女は「キッ!」とした鋭い視線でドラゴグーンの面々を睨みつける。早い話が「逆ギレ」だ。普通なら『この女、なんてわがままな女性なんだろう』などと感じるだけだろう。ところがなぜか、今の彼らにはそんな余裕などない。祐希や譲司はおろか、リーダーである純でさえも腰が砕けてへろへろになってしまった!

 「なっ、な、なんだ……彼女のあの眼光は!」
 「歴戦の勇士たる俺たちが腰砕けだと……?!」
 「そこのあんた、姐さんとか呼んだわね。私、まだ18歳なんだから。レディーに失礼でしょ……いや、このドラゴグーン地球長官に対して、ね」
 「そ、そんなぁ、僕たちはここで言うところの『独立愚連隊』なんです。別に誰かの指示に従う必要はないんですけど……」
 「わ・た・し・が・長・官・で・文・句・が・あ・る・の・ぉッ?!」

 背後から炎が立ち上らん勢いで、今度は祐希に迫るレディー。たった二度で謎の力にウンザリした彼らは素直に彼女の言われるがまま、地球での作戦遂行のための長官にすることを早急に決定した。リーダーがそれを承認すると、彼女は満足げな表情を浮かべる。そして主に作戦で使う特殊なテーブルの上座に収まった。そして彼らに『ドラゴグーン地球長官のラン・ファーよ』と自己紹介すると、大げさに扇子を開くと入り口に向けて振った。それを合図に3人の男女が中に入ってくるではないか。どうやら長官がことのついでに連れてきたらしい。またもや厄介な連中かと思いきや、彼らはすでに山羊の紋章が彫られた指輪をつけていた。これにはさすがの譲司も感嘆する。

 「おお、姐さん。テラレンジャーを集めてきてくれたのか!」
 「譲司、その呼び方はいい加減におやめなさい。ま、それはともかく。例の場所にテラレンジャーの資格者がたむろしてたのよ。どこに行けばいいか迷ってたみたいだから、私がここに連れてきたってわけ」
 「ちょ、長官がさっそく役に立ってる……しっ、信じられない」
 「ということで、私はドラゴグーンの長官であり、テラレンジャーの長官でもあるってことね。レッドの修羅とかは了解してるからご安心なさい。まぁ物分かりがいいのはテラレンジャーの方かな?」

 彼女と出会ってからものの数分だが、そこにいる誰もがその性格を読みとった。こういう人はこのまま放置しておくのが一番いい。テラレンジャーもドラゴグーンも同じことを思っていた。実際に連れてこられたテラレンジャーは不動 修羅、内山 時雨、彼瀬 蔵人の3人。リングは赤、緑、黄……それを聞いた祐希が思わず暴言を吐いた。

 「ま、まるで地球に点在する『シンゴウキ』なる装置のようですね……その、皆さんのカラーリングなんですけど」
 「うわ……それ聞いたら、ますます不安になってきた。ホントにこんな連中と一緒で大丈夫なのかよ?」
 「なんか黙って聞いてれば、酷い言われようですね。今回は地球を救うためにやってきたというのに」

 相手の過剰なまでの口撃に蔵人は呆れてしまった。時雨もそれに同調するもんだから、両者の仲はどんどん悪くなる。しかし修羅はそんなことはお構いなしに話を前へ進めようとした。

 「キミたちが何と言おうと、俺はテラレンジャーとして戦う。俺は数日前、未知なる英霊の声を聞いた。相手は『宇宙からやってきた大いなる力を宿した者』だと語っていた。俺は……戦わなければならない」
 「それは俺たちのことじゃないのかな?」
 「おそらくキミたちとは違う。だが、バシリスクと戦えば何かが見えてくるはずだ」
 「やめときな、怪我するだけだぜ。信号機戦隊さんよぉ」

 純が修羅の疑問に精一杯答えようとするが、譲司が「待ってました」と言わんばかりにすぐに話の腰を折る。そこはテラレンジャーも負けてはいない。

 「確かに端で安全の灯火を照らす緑と私の立ち位置は似てるやねぇ。だけど、私はそこまで安全ではないよ。何ならここで試してみるかい?」
 「本物の戦士・ドラゴウォリアーの力を今すぐにでも見たいというのか。わかったわかった……その性根、一から鍛えなおしてやるよ」
 「やれやれ、行け行けゴーゴー! 最後にバシリスクが倒れてれば、オールオッケー!」

 ラン・ファー長官のどの角度から聞いてもダメな発言でふたりは盛大にズッコケる。おかげさまですっかり険悪なムードが吹き飛んだ。しかし、両者の溝はなかなか埋まらない。それ以前にテラレンジャーがひとつになっていないのが致命的だ。はたしてこんなことで本当にバシリスクを倒すことができるのだろうか。


 東京の高層ビル街の屋上では抜けるような青空を満喫できる。施祇 刹利は抜群の眺めが楽しめるお気に入りの場所で、今日も裏路地に打ち捨てられていた武器を手に入れた。小さなクナイ一本だが、彼はそれに一度の極みと永遠の滅びを与えることができる。それとして生きてきた一瞬の間だけ本質を極め、そして後は形を持たず灰となって消え去るのみ……刹利はいつもこの能力を使うことに疑問を覚えていた。灰塵と化す宿命にある武器は永遠の喜びを感じることができているのだろうか。それを抱いて永遠の闇に、虚無の果てにたどり着けるのだろうか。年頃の少年が考えるには少し難しいことかもしれない。刹利はじっとクナイを見つめていた。

 「それは……いったいなんだ?」
 「……ッ、貴様……」

 つい刹利は強大な力を感じ、自然と凶眼を発動させた。そして戦うに適した立ち位置として屋上の中央を選んで立つ。彼の目の前には異国情緒あふれる衣服に身を包んだ紫色の髪をだらしなく垂らした男が、刹利が武器として使おうとしたクナイを物珍しそうに見つめていた。いくつかの高級そうな布を羽織った彼こそが、ドラゴグーンたちが探している人間体のバシリスクである。王の威厳を人間たちに示せるであろう服装で、今も邪気を吸っている最中なのだ。
 もちろん今の刹利がそんな事情を知るわけがない。さらに相手が自分の持つ武器に興味を示したのだから嬉しくてしょうがなかった。次の瞬間、刹利はいつもの人懐っこさを充分に発揮しながら説明を始める。

 「あ、これね。これは忍者とかが使うクナイっていう武器。ボク、こういう打ち捨てられた武器を探してるんだ」
 「なるほど。この刃が敵を切らんとするか。空から観察した時よりもずっと興味深いものが多く眠る街のようだな」
 「へぇ、飛行機で来たんだ〜。じゃあ、外人さんだよね。でも、日本語ぺらぺらだ。すごいなぁ。ボク、刹利。日本人だよ」
 「余の名はバシリスク。滅びからすべてを生み出す王なるぞ」

 滅びから何かを生み出す外人で、日本語が通じて、さらに異能力者。刹利の瞳がキラキラと輝いた。自分の望むことをいとも簡単にやってのける人といとも簡単に出会えるなんて……彼は素直に感動した。そしてもっと話が聞きたいと思い、彼をここから連れ出そうとする。

 「こっちに来て、まだそんなに経ってないんじゃない? お付きの人もいないみたいだし……ボクが東京を案内するよ!」
 「余の供をするというのか……酔狂な奴だ。構わぬ、好きにするがいい」

 バシリスクの尊大な喋り方にもまったく動じず、自分のペースに持ち込んだ刹利は心の中で「やった!」と喜んだ。まさか彼は『地球を滅ぼす存在』と一緒に遊ぼうとしているなんて微塵も思っていない。だって目の前にいるのは、大切な友達なのだから。一方、邪龍王は「変わった奴だ」と笑みを浮かべていた。


 街中では偶然出会った人間と邪龍がすっかり仲良くなっているというのに、円盤の中ではまだテラレンジャーとドラゴグーンがいがみ合っていた。ラン・ファーは長官と呼ばれてはいるが、本来の任務をすでに放棄しているも同然である。両者の間で口ゲンカが始まりそうになると「やるならとことんまで!」とはやし立て、バシリスクのサーチに時間がかかると「まだならジュースくらい持ってきなさいよー」と上等な椅子を動かしながらだるそ〜うな声を出す。でもむやみに怒らせると非常におっかないので、仕方なく長官のご機嫌を損ねぬように扱っていた。
 今のドラゴグーンからすれば、味方となるテラレンジャーの戦力を計りたいところだ。なんとかしてバシリスクを見つけ出し、先陣を切らせようと腹の底で考えていた。そんな中、都合よく危険信号が鳴り響く……どうやら邪龍王の居場所を発見したらしい。リーダーの純はおろか、長官までもが巨大ヴィジョンに目をやった。

 「リーダー、すでにバシリスクは人間体となって移動中です。ただ、邪気を喰らっている様子はありません」
 「もうパワーを蓄えやがったのか? いくらなんでも早すぎる!」
 「むっ、この住所……もしや!」
 「キミ、何か知ってるんじゃなかろうねぇ?」

 時雨が声をした方に視線を向ける。声の主は蔵人だが、本人はさっさと円盤から出て行くではないか。とっさに引き止めようにも、あそこまで全速力で逃げられてはどうしようもない。首を傾げるテラレンジャーだったが、純の不思議そうなセリフに耳を疑った。

 「君たちは『カイテンズシ』なるものを知っているか?」
 「く、食い物……だが。地球の、特に日本特有の」
 「腹が減っては戦はできぬというが、敵さんもまさか本当に腹ごしらえをするとは思わなかったな」
 「宇宙広しといえども、地球ではまーまー話が通じるってとこか。じゃ、俺も飯でも食おうかな……」

 戦士としては恵まれた体格をしている譲司だが、やはりこのタイプはしっかり食っておかないとバッチリ戦えないらしい。時雨は「誰も似たようなもんだねぇ」と微笑んだ。この長官は何かあるとすぐに反応する。超高性能でやたら過敏なセンサーのようだ。もはや円盤内ではおなじみとなった口調で今回も元気にまくし立てる。

 「待った! 譲司だけが食べるって……どういうことぉ? 長官たる私の分も作りなさいっ!」
 「了解。でもメニュー入れただけで料理ができる全自動調理器で作るからな。味は保証しないぜ?」

 しぶしぶ長官の要求を聞き入れた譲司。実はこれは「してやったり」の芝居だった。祐希はサーチ、純は長官のお守り、そして自分は料理。謀らずとも状況的にテラレンジャーが蔵人を追うしかなくなってしまったのである。さらに修羅と時雨は地球出身。地の利を活かせるのは彼らの方だ。

 「いくらテラレンジャーでもひとりでバシリスクに立ち向かうのは無謀だぜ?」
 「ならば、追うしかあんめぇ。修羅、場所はわかるかい?」
 「ああ、あの辺なら何度か行ったことがある。大丈夫だ」

 こうしてテラレンジャーは虎口に飛び込むこととなった。そこにはドラゴグーンも予測し得なかった危険な罠が待っているというのに……


 一方、刹利とバシリスクはすっかり回転寿司の虜となっていた。ずいぶんと勉強熱心な王は「これが地球の娯楽か」と声を上げる。しかも従者によれば、ひとりで大量に食えば貨幣を支払う必要がないという。今はそのような小規模な祭りを行っているそうだ。なんと地球とは豊かな世界であろう。バシリスクは遠慮なくいろんな皿を取り、無尽蔵の胃の中へと物を収めていく。彼は物理的な食べ物で満腹になることはない。邪気を吸う場合だけは限界があるので、惑星を破壊することで力を放出しているだけなのだ。
 王の気品あふれる箸使いと豪快な食べっぷりの両面を見て、刹利はますます邪龍王に惹かれていく。だが少年は大食いするほどの体格ではないので、そんなにたくさん食べられるわけではない。すると信じられないことにバシリスクが従者に気を遣った。

 「ん? このままではそちにだけ貨幣の支払いが発生するではないか」
 「いいんだよ、ボクはお金持ってるから。キミがいっぱい食べてくれれば、それで……」
 「余は……そちの忠誠心に応えねばならぬ。この邪龍紋の刻まれた指輪をやろう。今からそちは余の新たなる従者だ」

 まだまだ食う気のバシリスクは自分の左手の人差し指につけていた指輪を刹利に差し出した。少なくとも日本では見たことのない真っ黒な石に紫色の龍の装飾が施されている。刹利は一度は断ったが、相手が「それでは王の顔が立たぬ」と出した手を引っ込めようとしない。このままでは場が収まらないので、この場は従者が折れた。そして彼と同じ人差し指にはめると、ふたりは嬉しそうに笑いながら食事に戻る。
 王がふと向かいの席を見ると、自分と同じほど食ってる奴がいるではないか。しかも相手は明らかにバシリスクを意識している。目と目が合った瞬間、彼は従者との会食を諦めてその挑戦を受けることにした!

 「あやつ……余の食いっぷりに負けぬというのか?」
 「むぐむぐむぐ、ばくばくばく、むしゃむしゃむしゃ……」
 「確かに偉丈夫やもしれぬ。食らうことにかけては得意やも知れぬ。しかし……しかし、余は王なり!」

 奮起したバシリスクの食いっぷりは店が回転できなくなるほどの可能性を秘めていた。それを見たライバルがさらに加速する。もはやこの寿司屋は娯楽の場所などではない。ここは男の決闘場。当事者と刹利以外はみーんな食う気が失せてしまった。もうどれだけ食っても無料なのに、それでもこのふたりは食い続ける。寿司が回り続ける限り、この戦いは終わらない。
 言い忘れていたが、バシリスクの相手をしているのはさっさと円盤を抜け出した蔵人である。本来は時雨が言うように「腹が減っては戦はできぬ」のつもりで店に入ったのだが、細身の男が信じられない枚数を積み上げているのを見て彼の大食い魂に火がついてしまった。その後は相手が宿敵であることもすっかり忘れて、寿司を食いまくるだけの人になってしまったのである。一枚、また一枚……番町皿屋敷も真っ青の勝負は意外な形での結末を迎えた。

 「お客さぁぁん……すみませぇぇぇん。もうネタ切れなんですんで店じまいですぅ〜」
 「なっ、なんだと! このままでは王たる威厳が保てぬではないか!」
 「し、しまった。相手のペースに合わせたから枚数が同じになってしまった……」
 「とにかくお代はいいから、早く店から出て下さいよぉ〜」

 なんと結果は『板前ストップによるドロー』となった。完全決着をつけられず、残念そうに3人は肩を並べて店を出る。そしてバシリスクは蔵人を一瞥して「なかなかやるではないか」と声をかけた。大食らいは常にボーダレスなのか……健闘を称えられると蔵人もまんざらでもない顔をする。それを見つけた修羅と時雨が驚いた表情で邪龍王を見た!

 「おやおや何をしてるのかと思えば、回転寿司の開店セールかい。ずいぶんとイエローらしいねぇ」
 「任務そっちのけで走っていくから戦ってるのかと思えば……困ったもんだ」
 「でも、おかげさまで相手の力がわかりました。相手の胃は底なしです」
 「何の分析かね、それは。それじゃあ行くよ、邪龍王バシリスク……!」

 蔵人がふたりの元へ戻ると、思い思いのポーズから「オーダーメイドチェンジ!」と声を上げてリングに触れる。すると瞬時のうちに特殊スーツに身を包んだ山羊戦隊テラレンジャーの姿があらわになった! ヘルメットと肩、そして膝のラインに黄金色の角を模したエネルギーラインが煌く!

 「閃光に包まれし、熱血の山羊! テラレッド!」
 「迅雷に包まれし、剛力の山羊! テライエロー!」
 「新緑に包まれし、信望の山羊! テラグリーン!」
 「「「いつ何時でも地球の平和を守る……山羊戦隊、テラレンジャー!!」」」

 地球を守る敵に遭遇することを想定していなかったバシリスクは戸惑いの表情を見せる。おそらくはこれは宿敵ドラゴグーンの差し金だろう。しかし従者である刹利もまた地球人。彼らをいなすのは簡単だが、自分から率先して戦うというのはマズい。邪龍王がそんなことを考えているうちに、レッドがライフルゴートを構えた。イエローは巨大なハンマーゴート、グリーンは打撃に強いグローブゴートを装備している。まさに前口上と同じ、いつでも戦闘できる状態を保っていた。
 すると刹利が間に割って入り、テラレンジャーたちを止める。しかし3人から少年を見た時、明らかに『邪悪な王に懐柔された人間』にしか見えないのが致命的だった。だからマトモに相手の話を聞こうとも思わない。

 「ちょちょ、ちょっと待ってよ。ボクの友達に何するんだよ……やめてよ!」
 「キミ、そこをどきたまえ。怪我するぞ」
 「その人の正体は巨大な龍、しかも邪悪な龍なんだ。いくつもの惑星を破壊している。これ以上、迷える魂を増やすわけにはいかない」
 「刹利、奴らの言う通りだ。余は惑星の灰塵から眷属たるワイバーンの楽園を作り出すことを目的としている」

 テラレンジャーとバシリスクの情報は一致した。しかしそれをどう判断するかは少年次第……明らかに迷った表情を見せたが、彼は王の顔を見て一言だけ呟く。

 「ボク、なんとなくわかる。バシリスクは地球を滅ぼさないって。だから……だからっ! 邪龍エンジン全開!」
 「なっ、なんだ! あいつ何考えてるんだ?!」
 「そちが……余を守ろうと言うのか?」

 邪龍紋に触れた瞬間から黒い竜巻が刹利の全身を覆い、それが台風のように強く渦巻いた時にすべてが弾け飛んだ。その中からは邪龍を模した漆黒の甲冑に身を包んだ刹利が現れた。信じられない展開に全員が驚愕する!

 「あ、相手にも変身する奴がいるなんて……!」
 「邪龍闘士……ワイバルス、推参! 俺は俺のやり方でバシリスクの地球破壊を止める!」

 同じ変身者を前にしているため、つい凶眼を発動しっぱなしになっている刹利。いや、今は彼を邪龍闘士と呼ぶべきだろう。彼は腰に一振りの剣を持っていたが、それを抜かずにテラレンジャーとの戦いに挑む……と説明するよりも早く、すさまじい移動力でレッドの背後を取った!

 「い、今の動……ぐはっ! うごっ……」
 「悪りぃ、今の俺には手加減ができねぇんだ。お前らが地を這うまでは、な」
 「イエロー、ハンマーを思いっきり横に振りな。その勢いに乗って私が一気に攻撃を仕掛けて坊ちゃんに気絶してもらうよ」
 「うちのレッドのようにね……ふうぅぅぅぅーーーーーんっ!」

 イエローがハンマーを振り回すと、絶妙のタイミングでジャンプしグリーンが特攻を仕掛けた! レッドが仕留められた時の速度を参考に、それを上回るスピードをふたりの格闘センスが瞬時に生み出したのだ! グリーンがいよいよワイバルスに届かんとする頃、いきなり相手の姿が目の前から消える!

 「何度も同じこと言わせるなよ。今は手加減できないんだよ……っと!!」
 「わ、私よりも上に……ワイバルスは反射神経も優れ、ぶぐっ! うごあ!」
 「そして、そっちはまだ回ってるの?」
 「いつもより多く回って〜、なんちゃって。うぐっ……た、たくさん食べた後にお腹を殴るのは、いろんな意味でいただけません。ぐはあっ!」

 一撃……邪龍王バシリスクにならまだしも、その部下を名乗る邪龍闘士ワイバルスに3人がやられた。『テラレンジャーいきなり大ピンチ!』の報はもちろん円盤のヴィジョンでも確認されている。しかし彼らが何の策も持たずに救援に行ったなら、テラレンジャーと同じように邪龍闘士にやられてしまう可能性が高い。戦力を計ろうとしたバチが当たったのだろうか……このままでは協力して戦う前にすべてが終わってしまう。すでに純、譲司、祐希は変身アイテム『テイルサバイバー』を装着し、時空間を繋ぐ特殊な扉の前で待機していた。しかしこのまま飛び込むかどうかを悩んでいた。彼らに与えられた時間は限りなく短い……そんな時、リーダーが直々にラン・ファー長官にあるお願いをした。それは「もう一度、あの祭壇へ行ってほしい」というのだ。地球の伝承ではテラレンジャーは5人ほどいた記述があるらしい。

 「要するにリングが余ってるかもしれないってこと? それってもしかして、早い話が『余ってたら私がつけろ』ってこと?」
 「地球語で意訳すると……そうなりますか?」
 「さっきまで日本語ぺらぺらだったのに、今さら持って回った言い方するんじゃないわよっ!」
 「姐さんが変身したら、たぶん強えーと思うけどなぁ。気のせいじゃないと思うんだけどなぁ、絶対」
 「譲司、生き残ったら往復ビンタ2000回の刑!」
 「なら、いっそ死んだ方がよさそうだな」
 「……という冗談が言えないくらい危険な状況です。どうかよろしくお願いします。時間稼ぎは我々でやりますから」

 祐希がそう言うと「自分たちが出た後に扉を閉め、もう一度開けると思った場所に行けますから」と説明し、テラレンジャーの援護に向かった。さすがのラン・ファーもひとりになると楽しくないので、新しいおもちゃを探しに行く感覚で祭壇……正確には例の墓地へ急ぐ。しかし、そこにはひとつのリングも残されてはいない。

 「おっかしいわね。指輪の数とテラレンジャーの数が合わないじゃない」
 「その通り! その謎はこの愛と希望のマッドサイエンティスト・東雲 緑田がご説明いたしましょう!」

 ラン・ファーは一発で嫌な空気を察知した。この系統の人間には日本語が通じないからある意味で怖い。さらに遊び道具になってくれそうにもない冗談の通じない人種だ。彼女はずるずるのローブにぐるぐるの眼鏡をかけた青年を無視してさっさと帰ろうとした。あの部屋になら現場に声を届ける装置があるだろう。それを使って遊ぼうと考えたのだ。ところが彼女はすでに東雲の罠にかかっていた!

 「さぁ、目覚めるのです……テラアストラル! 6人目専用の魔法のリングで魔女っ子風フリフリスーツで戦いましょう!」
 「あっ! いつの間にリングが! って、あれあれあれ、無理やり変身しちゃうわ! でもなんか目の部分だけ薄いゴーグルなのはなぜ?!」
 「魔女っ子は目が命だからです」
 「だから私、こんなとこに来たくなかったのよ! もーっ、戦うハメになっちゃったじゃないっ! 後でドラゴグーンは6時間正座っ!!」

 まだ5人にもなっていないテラレンジャーの6人目の戦士『テラアストラル』にでっち上げられたラン・ファーの受難はまだまだこれからだ。ちなみに東雲はその場から姿を消した代わりに、アストラルの腰には道化師風魔法使い人形がくっついていた。


 ドラゴグーンは闘龍エンジン全開で変身し、いくつもの戦闘フォーメーションを駆使しながら戦った。さすがのワイバルスもこれには苦戦したが、徐々にそれを逆手に取る動作に切り替える。反射神経を最大限に駆使し、十分に敵を引きつけてからその場を離れ、同士討ち寸前まで追い込む頭脳プレーを披露した。
 こうなるとドラゴグーンにも隙が生まれる。ワイバルスはその一瞬を利用し、剣撃などで攻め立てるスタイルに変えた。連携が取れている分だけ時間稼ぎができたものの、今の段階で彼を倒すなど夢物語もいいところである。ドラゴグーンもいよいよ倒れ、バシリスクは自らの手を汚さずして戦いに勝利するかと思われた。
 その時、ふらっと髪の長い紳士がテラレンジャーを起こしにやってきた。見た目はまったく戦いには縁のなさそうな男だが、その指には白い指輪が輝いている。そう、彼が4人目のテラレンジャーなのだ!

 「いやぁ、道に迷ってしまいまして……私はシオン・レ・ハイ。で、今から変身する、と。オーダーメイドチェンジ!」

 白きオーラを身にまとった戦士は、特殊武器『スティックゴート』を構えながら高らかに名乗る!

 「白銀に包まれし、雪原の山羊! テラホワイト!」
 「ちょ、ちょっと。いるんだったらもっと早く来るもんだよ、まったく……」
 「おっと皆さん、あまりの驚きで元気に立ち上がってしまいましたね。いいことです。さぁ、戦いましょう」
 「ちょっと待ってください、皆さん! その大苦戦、テラレンジャーが5人揃わないからじゃないんですかっ?!」

 さすがのワイバルスもドラゴグーンも「えっ、テラレンジャーってまだいるの?」という感じで状況を見守る。遥か彼方からアスファルトの上を歩いてくる戦士は、明らかに番組を間違えて変身しちゃっていた。せっかく立ち上がったのに、今度は盛大にズッコケるテラレンジャー。

 「ま、待つだけ損だったかねぇ……」
 「そんなことはありません! この俺、風宮 駿は指輪の声を聞いた。仲間のピンチを救うために大いなる力を手に入れたんです! アーマードパージ!」

 指輪からも同じような声が響いたかと思うと、戦士の鎧は勢いよく弾け飛んだ。するとその中からはエメラルドに輝く新たなるテラレンジャーが出現する!

 「轟く音速の衝撃、テラソニック!」
 「独自の進化を遂げたテラレンジャーだが、これで5人揃ったというわけか」
 「こうなってくると、まだまだ戦い足りないって気分になるねぇ。イエローもそろそろ腹が落ち着いてきた頃じゃないのかい?」
 「もう一度、いや何度でも戦いましょう!」

 レッド、イエロー、グリーン、そしてホワイトとソニック。5人で十分なのに、なぜかもうひとりのテラレンジャーが現れていよいよ場は騒然となる。さすがのバシリスクもテラレンジャーも「えっ、テラレンジャーってまだいるの?」と口にした。そう、忘れてはならない。鮮やかな青を基調にしたスーツが印象的な魔女っ子風のスーツに身を包んだテラアストラルがいることを!

 「こうなったらやってやるわよ! やりゃいいんでしょ! 魔法に包まれし、希望の山羊っ! テラアストラルっ!」
 「そっ、その声は姐さん!」
 「いち早く気づいたドラゴウォリアーには、百叩きの刑をプレゼント♪」

 まさか長官自ら6人目となって出現するとは……これは大事件である。さすがに無敵の邪龍闘士ワイバルスいえども、この状況の変化を見てすっかり慌ててしまった。最初に相手した時より3倍も人数が増えているのだから。でもここで後ろに控えるバシリスクに視線を送ったりはしない。この場で9人全員を倒すのみと、今までで一番しっかりと剣を握った。テラレンジャー揃い踏みを見て、ドラゴグーンも気力で立ち上がる。

 「銀河を駆け抜ける龍星の魂! 闘龍炎陣ドラゴグーン!」
 「いつ何時でも地球の平和を守る! 山羊戦隊テラレンジャー!」

 両者の雄叫びとともに再び戦いの幕が切って落とされた。まずホワイトが得意とする氷の力でワイバルスの足を完全に止め、続いてソニックがレイピアにも変化するライフル『ライフルーレ』で攻撃。何発か命中させた後で敵に接近し、そのまま胸を切りつける!

 「うおおぉぉぉっ?!」
 「まだまだですよ〜、今度はこの雪玉でカチンコチンに凍らせて差し上げましょう。それそれそれ!」

 ホワイトが投げる無数の雪玉はわずかに触れただけでそこから凍り始めてしまう恐ろしい威力を秘めていた。すでに足止めされている邪龍闘士に避ける術はなく、甲冑の随所が凍ってしまう。その部分を狙ってレッドが精密なシューティングを行い、グリーンが氷を割る衝撃でダメージを与えようと的確に重いパンチを当てていく。しかも角を持った武器なので凍結した部分に亀裂を与えた。そこをイエローが束縛から解放してやろうと、目の前で大きなハンマーを振りかざす!

 「さっきは味方を飛ばすためでしたが、今度は違いますよ。本気で場外ホームランを狙いますから」
 「余の従者を傷つけることは許さ……」
 「おっと、お前の相手は俺たちだ!」
 「闘龍炎陣ドラゴグーン……邪魔をするなぁ!」
 「あいつが倒れれば、次はお前の番だ。覚悟しな!」

 宿敵を前にして己の非力さを思い知らされるバシリスク。そしてついにイエローのハンマーがグシャッという音とともに邪龍闘士に命中すると、彼の身体は宙を舞った。しかし地面に激突する瞬間、彼の身体はふわっと浮く。これは魔法の力……そう、テラアストラルが今まで動かなかったのは中に入っている刹利の身を案じてのことだ。おそらく自分が動かずとも彼を倒すことはできるだろう。長官としてヴィジョンを見ていた時から、中身が地球人であることは知っていた。だから最後の最後で彼を救ったのである。
 ついにワイバルス最期の時かと思われたが、そうはさせまいとバシリスクが今まで蓄えた力を放出し、ついにその邪悪な本性を現した! 巨大な邪龍に変化したバシリスクは一台のロボを用意し、テラアストラルの魔法を破って従者をそれに転送する。そのロボは山羊と龍が合わさった悪魔のような姿をしているではないか。その名も『ジャリュウジン』。王の力で我に返った邪龍闘士はロボを巧みに操り、巨大な龍と並び立った。

 「よし、3体の力を合わせるんだ! テラレンジャーロボ、発進!」
 「おっと、ホワイトは自分だけのロボを持ってるんで。プラチナモデラー発進!」
 「俺も自分の持ってますから。テラファルコン音速変形、ソニックファルコン!!」
 「出でよ、三騎の龍! 闘龍合体リュウエンジンっ!」

 ロボがたくさん登場することを知り、テラアストラルことラン・ファー長官は魔力の根源である人形を地面に叩きつけてあっさりとテラレンジャーとしての任務を放棄した。最初から何が自分に力を与えているのかなんてお見通しだったのである。そして急いで円盤に戻り、4体のロボに指示を下そうと躍起になっていた。その顔はなぜか、ものすごく楽しそうな顔をしている。
 ところで彼女が投げ捨てた魔法使い人形はいつの間にかどこかへ消え去った。いったい東雲はどこに行ってしまったのだろうか?

 巨大ロボを動かしても2対4というワイルドな光景が広がる。完全に山羊巨神となったテラレンジャーロボはゴートランサーで、モデル風で立ち姿もスタイリッシュなプラチナモデラーは細身のアイスソード、翼を有するソニックファルコンはウイングカッターでそれぞれ攻撃を展開した。もちろんリュウエンジンも負けじとテイルウイップを使って戦いに参加する。しかしまたしてもジャリュウジンの目の前に攻撃を弾かれてしまう。もはや彼を倒さずして邪龍王バシリスクを倒すことは考えられない状況に陥っていた。

 「ジャリュウジン……おかしい。どう考えてもおかしい」
 「桁外れのパワーは誰が見てもおかしいと思いますけどね。アイスソードも全然効いてないみたいですし」
 「あれだけのパワーを発揮できるものを作り出してしまっては、最終的にバシリスクは地球を破壊できなくなるんですよ」
 「じゃあ、今はワイバルスが操縦するジャリュウジンだけに的を絞ればいいんだな?」
 「そういうことだ。テラレンジャー、よろしく頼む。しかし、何のつもりだ。もしロボが破壊されれば、自分が危険に晒されるというのに……?」

 ドラゴグーンの純と祐希は今までのバシリスクらしくない行動に頭を悩ましていたが、ジャリュウジンがいる限りは地球が危険に晒されることには変わりはない。テラソニックは即座にテラファルコンへと変形し、テラレンジャーロボに近づいた。さらにプラチナモデラーも寄り添うようにやってくる……そしてふたりは同時に信じられない言葉を発した!

 「さて、そろそろ5人の力を合わせますか……」
 「完璧融合! パーフェクトテラレンジャーロボ!」
 「困ったねぇ。コックピットが賑やかになってしょうがないよ」

 グリーンの心配をよそに勝手に融合が始まった。テラファルコンが装甲となり、その上からプラチナモデラーが装飾のように追加合体されていく。そしてまさに完璧の言葉がふさわしいパーフェクトテラレンジャーロボが出現した! 翼を得たロボは空をも駆ることができる。ラン・ファー長官も「一気にやっておしまい!」というものの、ジャリュウジンの中にいるのは地球人……はたしてこのまま必殺技を撃っていいものかと誰もが悩んでいた。

 『パワーを無駄遣いしてない今がチャンスじゃないのっ?!』
 「そうは言っても……中には少年が……」
 『そんなこともあろうかと! 皆さんのために私が特殊な武器を用意しておきました!』
 『あっ、私をフリフリイケイケにしたバカ眼鏡! なんで基地の中にいるのよっ! どうやって入ったの?!』

 ラン・ファー長官をテラレンジャーに仕立て上げた張本人・東雲が再び怪しげな科学者として登場した。彼はご丁寧にも『愛と希望と勇気を重んじるマッドサイエンティスト』と自己紹介をし、パーフェクトテラレンジャーロボの両手に『イレイサーバズーカ』なる装備を転送魔法で与える。これは操縦者の力をリンクさせることで相手の力を消し去ってしまう武器なのだ。つまり中にいるワイバルスを爆発に巻き込むことなく、ジャリュウジンだけを倒せるらしい。

 『ただし、試作品なので一回使ったら壊れると思って下さ〜い』
 「あ、あの……『さ〜い』って気軽に言わないで下さ〜い」
 『これに失敗したら、マックスパワーでジャリュウジンを倒すしかないわね〜。私は敵のメカがドッカンドッカン爆発する映像を見るんでも構わないんだけど?』

 長官の言葉でテラレンジャーが奮起する。地球を守るため、ひとりの少年を救うため……彼らは力を合わせてこの一撃に賭けることを決めた。その時だ、出会った時からいがみあっていたドラゴグーンの巨大ロボ・リュウエンジンがパーフェクトテラレンジャーロボの背後でバズーカをがっしりと固定するではないか!

 「この場は任せた。地球の、テラレンジャーの力を見せてくれ!」
 「計算じゃない、論理じゃない。皆さんの感情に賭けます!」
 「お前らのそんな非合理的なとこ、俺は嫌いじゃないぜ。なぁ、グリーンさんよ」
 「君達の科学力は大したものだ。だが、無知蒙昧な我々の力は何だと思う? 執着だよ。この星にしがみつくしか生きる術がないからね。根性とか熱意ちゅうもんでなんとかするってのもたまにはいいだろ?」
 『あーあー、そんな手で固定するくらいなら私に言って下さいよー。ほら、ブースト機能を搭載した『ゴウオンキャノン』があるんですから。これで威力は倍増です! グリーンさん、僕と名前も近ければ考え方も近いですね! がんばってください!』

 同じく試作品のゴウオンキャノンとイレイサーバズーカが合体し、友情の合体攻撃が生み出される時が来た! さすがのワイバルスもこれには焦り、何らかの手段を講じようとするが、相手の決心の方がわずかに早かった!

 「イレイサーバズーカ、いや……イレイサーキャノン発射ぁぁぁっ!!」
 「し、しまった、一手遅れ……なっ、なっ?!」

 ジャリュウジンを消滅させるエネルギーを打ち出したキャノンは東雲の言う通りあっさりと崩れ去った。しかし彼らの思い、団結、希望は生きている。それが敵のロボに命中するかと思ったその時だ。誰もが目を疑う光景がそこにあった。なんと邪龍王であるバシリスクがその身を犠牲にしてジャリュウジンを守ったのだ……消滅の力はどんどんその身を焦がし、その邪悪な姿は消え去ろうとしている。あまりにも予想外のことで誰も声を発することができなかった。

 「そんな、バシリスク……なんで……?」
 「ぐあぁぁぁ、従者を守れずして、な、何の王か……で、できれば、お、お前を地球の支配者にさせてやりたかったが……」
 「やっぱり、やっぱり最初から地球を壊す気はなかったんだね……」
 「お前がいる星を……壊せるはずが、うごおああぁぁぁーーーっ!!」

 バシリスクは言葉の途中で消え去った。それと同時にジャリュウジンも消え去り、刹利の身を包んでいた黒甲冑も消滅する。それは邪龍王の敗北を意味していた。ドラゴグーンの面々は戸惑いを隠さない。

 「まさか……惑星の者のためにその身を犠牲にするとは……」
 「奴さん、やってくれるじゃねぇか。よお、姐さんはこういう結末はお好みじゃなさそうだねぇ?」
 『あら、そうかしら。相手は名に恥じぬ行為を繰り返してきたんでしょ。この場限りの同情なんかしないわよ』
 「じゃあ、勝ったってことでいいんですよね。きっと」

 ビル街の中、静かにパーフェクトテラレンジャーロボとリュウエンジンがたたずんでいた。やるせない気持ちを誰もが胸に抱えたままで。


 その後、ドラゴグーンの祐希の調査で意外な事実が発覚した。実は消滅したかに見えたバシリスクはジャリュウシンのエネルギーを自分に戻し、元気いっぱい時空を駆け抜けているのだという。まんまと一杯食わされたテラレンジャーとドラゴグーン、そして協力者たち。「そんなにうまく行かねぇよな」と悔しがる譲司を尻目に、刹利は「よかった〜」と小さく一言呟いた。
 そんな刹利の切なる願いもあり、今後ドラゴグーンは邪龍王と積極的に対話することを約束した。今回、地球を破壊せずに逃げたのはエネルギーが足らなかっただけではないと言えるだけの理由がいくつかあったからだ。イエローとして奮戦した蔵人が語る。

 「奇妙な縁ではありますが、刹利さんと邪龍王の間には何かが芽生えた。それは紛れもない真実です。これから目を背けるのはよくない。皆さんの戦いの末に悠久の平和が訪れることを願っていますが、これからは戦う以外の方法も模索していくといいのかもしれません」
 「戦いの最中、マゼラン星雲あたりで同じことを考えてる奴がいるらしい。なんだったらアクセスするといいかもしれないな」
 「まぁ、今回はみんなががんばったから……ドラゴグーンへのお仕置きはまた今度にしてあげるわ」

 それを聞いて純が「譲司が二度と地球なんかには来ないって言ってましたよ」と冗談を言うと、またもやいつものような口ゲンカが始まった。「やっぱり往復ビンタくらいはしてから旅立ちなさい!」とか、「地球にいるうちは私が一番偉いのよ?」などと言っている。周囲には明るい笑顔があふれた。東雲も大騒ぎしているお嬢さんよりも好き勝手ができて大満足のようだ。
 そんな中、シオンが『あるもの』を見て驚いた。それは刹利がまだあの指輪をつけていたからである。邪龍紋が刻まれたあの指輪……彼は「友情の印だと思ってるから」という理由でまだ身につけていた。

 「何が世界を救うのか、わかりませんね」
 「まったくですよ。力なのか、正義なのか、勇気なのか、それとも奇妙な友情なのか。これからも大変な旅になると思いますが、絶対に負けないで下さいね。俺たちもがんばります」
 「またこれやるのかい? それはしんどいねぇ」

 駿の激励に困り顔を見せる時雨だがまんざらではないようだ。そして時空を越える戦士たちは再び円盤に乗って旅立った。終わりなき戦いを見送るのは、地球を守ったテラレンジャーたちである。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/ PC名 /性別/ 年齢 / 職業】

5484/内山・時雨    /女性/ 20歳/無職
2592/不動・修羅    /男性/ 17歳/神聖都学園高等部2年生 降霊師
4321/彼瀬・蔵人    /男性/ 28歳/合気道家 死神
6224/ラン・ファー   /女性/ 18歳/万屋斡旋
2980/風宮・駿     /男性/ 23歳/記憶喪失中 ソニックライダー(?)
5307/施祇・刹利    /男性/ 18歳/過剰付与師
3356/シオン・レ・ハイ /男性/ 42歳/紳士気取りの内職人など
6591/東雲・緑田    /男性/ 22歳/魔法の斡旋業兼ラーメン屋台の情報屋さん

(※登場人物の各種紹介は、受注の順番に掲載させて頂いております。)

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■         ライター通信          ■
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皆さんこんばんわ、市川 智彦です。ついにテラレンジャーシリーズ・第3弾です!
今回はさまざまな理由から受注タイミングが変わったことをお詫び申し上げます。
なんで変わったのか……それは「推して知るべし」でございますよ、皆さん(笑)。

今回は皆さんのご希望を最大限に生かそうとがんばりました。で、この長文です。
皆さんの素敵なアイデアはできる限り詰め込みました。どうぞお楽しみ下さいませ。
正直、自分が想像していた物語とはすさまじくかけ離れてくれて楽しかったです!

実は「似たようなネタは三度やらない」のがポリシーでしたが……次回もあるかな?
また通常依頼やシチュノベ、特撮ヒーロー系やご近所異界などでお会いしましょう!