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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


 北山遊園地の戦い

 0.オープニング

 東京西部の、とある場所に、霊峰八国山という妖怪の里があった。
 そこに、一匹の化け猫が住んでいた。
 「夏は暑いにゃ〜
  でも、暇だから出かけるにゃ〜」
 と、猫は唄いながら山から出かけた。
 「北山遊園地でも行ってみるにゃ〜
  お金は無いけど、何とかなるにゃ〜」
 猫は唄いながら、近所にある遊園地に行った。
 近隣に線路を巡らす鉄道会社が作った、その巨大遊園地は、真夏でも賑やかだった。特にプールには人が集まっていた。
 (ぼ、僕は猫だから、こっそり入れば、き、きっと怒られないにゃ〜)
 化け猫は心の中で歌いながら、こっそりと猫の姿のまま、遊園地に入った。敷地に入った後で、人の姿に化ける。
 「プールでも行ってみるにゃ〜」
 化け猫は唄いながら、プールに向かった。
 幾つかのプールが並んでいる。
 海を模した、波が起きるプール。
 円筒系で、一定の向きに水が流れ続ける、流れるプール。
 高い飛び込み台がある、飛び込みプール。
 長い滑り台が付いている、滑るプール。
 水深50メートルの、潜れるプール。
 etc…
 もちろん、普通のシンプルなプールもあった。
 「ひゃっほー、にゃ!
  泳ぐにゃ!滑るにゃ!流れるにゃ!」
 と、化け猫は遊びまわった。
 …が、遊びまわるうちに、つい、猫の姿に戻ってしまった。
 「監視員さん!猫が浮いてます!」
 「わー、しゃべる猫だー、水かけちゃえー」
 と、プールの客が猫を見つけて騒ぎ始めた。
 「ぼ、僕、怪しい猫じゃないにゃ。
  き、気にしないで泳いでて下さいにゃ」
 と言いながら、化け猫は遊園地を逃げ出した。
 …でも、面白かったにゃ。今度は、みんなを連れてくるにゃ。
 こうして、霊峰八国山の化け猫の間で、北山遊園地に忍び込んでプールで遊ぶ事が流行した。
 そんな理由で、草間興信所だ。
 「というわけで、遊園地の人に怒られちゃいまして…」
 「そうか…」
 草間と少年が話している。
 少年は、霊峰八国山で長老をやっている、化け猫の陸奥である。語尾に『にゃ』と付けずにしゃべれる天才化け猫で、若いながらも長老をやっている猫だった。
 陸奥が言うには、山で仲間の化け猫達を説教しても、あまり効き目が無いという。なので、北山遊園地のプールまで行って、現行犯で捕まえて説教したいそうだ。
 「遊園地の入場料とかは払いますんで…」
 アトラクションのフリーパスは用意しますと、陸奥は言った。

 (依頼内容)

 ・遊園地のプールに化け猫が現れて、遊園地のお客さんや関係者が、喜んだり怒ったりしています。
 ・誰か何とかして下さい。

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 1.夏の興信所

 ある、夏の日の事である。
 天波・慎霧は、茹でるという言葉を辞書で引いてみた。
 「シュライン!『茹でる』って、『熱湯で煮る』って意味らしいぞ!」
 傍らに居る探偵と女性に、辞書で引いた言葉の意味を説明する。
 「『茹る』っていうと、もう、茹でてるみたいに蒸し暑いって意味になるわね…」
 シュライン・エマが言った。
 「エアコンさえ、まともだったらなー」
 「良い時期に壊れたわね…」
 慎霧とシュラインは、誰にともなく言って、ため息をついた。部屋の上の方を見ると、リモコンを押しても反応の無くなったエアコンが静かに佇んでいる。修理業者によると、もう寿命なので買い換えるしか無いそうだ。
 「何か言いたそうだな…お前ら…」
 先ほどから黙って話を聞いていた、建物の持ち主が言った。草間興信所の草間である。
 「いえ、何でもないわよ」
 「おう!何でもないぞ。機械で冷やさなくても、涼しい風さえ流れてれば平気だぞ!」
 ヒートアイランドで年々気温が上昇中の東京に立っている、草間興信所での出来事である。窓を開けると、熱風が入ってくる。
 「文句あるなら帰れよ…
  シュラインも、別に今日は事務員の仕事は非番だろうが…」
 人が増えた分だけ、気温も上昇している草間興信所である。それでも、誰かしらは出入りしているのが草間興信所だった。
 そんな所に、
 『プールに化け猫が侵入しているんで何とかして下さい』
 と、やってきたのが霊峰八国山の陸奥だった。
 「ここで茹ってるよりは涼めるかもね、武彦さん」
 シュラインの言葉を、全くその通りだと草間は思った。人間と妖怪が何やら揉めてるなら、俺も行くよ。と、慎霧も言った。
 それから数十分後、一向は化け猫が現れるという北山遊園地のプールを目指して興信所を後にした…
 
 2.夏のプールサイド

 何かの間違い探しをしているような、不思議な空間だなーとシュラインは思った。
 何といっても、8月の夏休みの遊園地である。人が多い。
 親子連れの客が、売店のテラスでパラソルに隠れながらソフトクリームを食べている。
 限られたお金で乗り物券を買った子供たちが、次はどのアトラクションへ行くか相談している。
 日陰でゴロゴロしている猫達が、
 『そろそろプールに行ってみるにゃ。でも暑いにゃ』
 と、話し合っている。
 間違っているのは、どれだろうなー…
 その空間を、不思議な空間だなーと慎霧は思った。
 乗ったからと行って、特にどこへ行くわけでもなく、数分ほどで一周して元の場所に戻ってくる乗り物が並んでいる。乗り物としての意味は無いのだけれど、高く上ったり急降下したりして、乗ってみると楽しいらしい。遊園地というだけあって、遊ぶ為の物が色々並んでいる。
 プールの方に行ってみると、もちろんプールにも仕掛けがあった。無意味に流れたり、波が立ったり、ウォータースライダーという大きな滑り台が置いてあったりする。
 「よ、妖気を感じたから行ってくるぜ!
  け、決して遊びに行くんじゃないぞ!」
 慎霧は遊園地のプールの風景を見ると、そう言ってウォータースライダーの方へ向かった。しっかりと水着に着替えている。
 「妖気というか、見ればわかるような気もするんですが…」
 陸奥が言った。よく見ると、たまに人に紛れて猫が浮んでいる。人の姿をしていても、語尾に『にゃ』と必ず付けてしゃべっている者も居た。
 「確かに…」
 シュラインが言った。一見冷静そうだが、この二人も水着に着替えている。
 「まずは、仕事だ」
 草間が言った。彼も水着にパーカーを羽織っている。プールに監視員風に見えなくも無かった。
 こうして、一行はプールサイドで化け猫を探す事になった…

 3.猫とプールサイド

 プールの一角では、ヒーローショーが始まった。テレビで放送されているヒーローの着ぐるみを被った軽演劇だ。着ぐるみを着てプールに飛び込んだりと、なかなか手が込んでいる。見物客が集まっていた。
 流れるプール、波のプールといった仕掛けのプールにも人が集まっていた。
 遊園地の客達は、そうしてプールサイドでいつものように遊んでいる。そんな中、密かに化け猫の捕獲は続けられた。
 「あれ、なんか草の匂いがするよ」
 泳ぎ疲れてプールサイドに上がった子供が言った。
 「ああ、これはマタタビだよ」
 子供の親は解説をしながら思った。
 …なぜ、マタタビ?
 しばらくすると、泳ぎ疲れてプールサイドに上がってきた化け猫達が、ふらふらとマタタビに誘われてきた。そのままマタタビを追って、涼しい日陰へと集まって昼寝を始める。シュラインがマタタビスプレーをプールサイドに撒いたのだ。
 一方、プール内では慎霧がはしゃいでいる。
 「おい、お前ら、次は波に乗るぞ!」
 「わかったにゃ!乗りまくるにゃ!」
 いつの間にか、慎霧の周りには化け猫が集まって、一緒に騒いでいた。
 プールサイドでは、昼寝から覚めた化け猫にシュラインと陸奥と草間が化け猫に説教中である。
 「だめよ、勝手に忍び込んで遊んだら
  なんか、山で工夫して遊ぶとか…」
 「うむ、勝手に入るのはよくない」
 「以下同文です」
 シュラインと草間と陸奥が言う。
 「えー、別に遊んでもいいにゃ。
  人間も山によく遊びに来るにゃ。でも、僕達は怒らないにゃ。
  だから、僕達が遊びに来ても、怒ったら嫌にゃ」
 化け猫達は、にゃーにゃーと不満そうにしている。
 「そーだそーだ。別にいいじゃないか!」
 …いかん、思わず猫と一緒に遊んでしまった。と、プールから上がってきた慎霧も、何となく文句を言っている。
 「うーん、それもそうなんだけど、やっぱり勝手に入っちゃだめよ」
 シュラインが言った。
 人が山に入ってきても、山に火でも着けたりしなければ、化け猫達は文句は言わない。それは、わかっている。
 遊園地の関係者曰く、
 「お金払ってくれれば、構いません」
 という話もある。
 「そーだ、お前ら。金は払え!」
 「持ってないにゃ!」
 慎霧が言って、化け猫が答えた。
 「お金は無いですねー…」
 陸奥がしみじみと言った。
 「じゃあ、遊園地でバイトでもするとか…」
 猫の手も借りたいほど、忙しそうな遊園地ではある。何か無いかなーとシュラインは考えた。そろそろ話し合いに飽きてきた慎霧は、何となく周りを見ている。
 「じゃ、じゃあ、おまえら、あれでもやれ!」
 慎霧が、プールの一角でやっているヒーローショーを指差した。
 「変化ごっこにゃ?
  それなら得意にゃ?」
 化け猫はヒーローショーを眺めている。
 「あー、化けるのは得意よね」
 ヒーローショーなら、まあ、化け猫にも出来るかも知れないな。とシュラインは思った。
 その後、遊園地側とヒーローショーでアルバイトをするという条件で、化け猫達はプールで泳いで良い事になった…

 4.数日後

 それから数日して、再び草間興信所に陸奥がやってきた。
 「おー、その後どうだ」
 草間が遊園地の件のその後について訪ねた。シュラインが早速マタタビ茶を入れる。
 「ちゃんとやってるのか?」
 慎霧も言った。
 ちょうど、関係者が揃っていた。
 「はい、まあ大丈夫です」
 着ぐるみ無しに何でも化けられるので、悪役の怪人役として化け猫達は重宝されているらしい。
 『妖怪だから、人を怖がらせるにゃー』
 と、化け猫達も楽しんでいるようだが、しゃべろうとすると必ず語尾ににゃと付いてしまうので、物静かな怪人役をやる事が多いそうだ。
 プールの方は、そろそろ夏の開放期間が終わるらしい。
 秋になっても化け猫達が飽きずに遊園地に行くかは、定かでは無い…
 (完)

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1928 /天波・慎霧  / 男 / 15歳 / 天狗・高校生】

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■         ライター通信          ■
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 ご無沙汰しています。
 今回はお買い上げありがとうございました。
 約1年位お待たせしたような気も致しますが、いかがでしたでしょうか…
 また機会があったら、よろしくお願い致します。
 お疲れ様でした。