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<東京怪談・PCゲームノベル>


ワールズ・エンド〜ココア色の魔法







「ふー…まだまだ暑いわねえ」
 私は道路に水を撒く手を休め、ふぅと額の汗を拭った。
この季節、アスファルトの照り返しがきつくって、本来の日差しよりも容赦なく私の体力を奪っていく。
さっさとクーラーの効いた店内に戻りたいけれど、でもこれぐらいはやっておかなきゃ。
 今は昼を少し過ぎた、丁度お茶の時間。
夕暮れに差し掛かる前に、一日太陽の光を浴びたアスファルトを冷しておきたい。
そう思って、私は汗を拭いながらバケツに入った水をひしゃくで撒く。
 残っている水はあと少し。もう面倒だから、直接撒いちゃえ。
私はバケツを両手で持ち、えいやっと地面にぶちまけようとしたところで、寸前で止めた。
「…ごめんなさい、えっと…お取り込み中、ですか?」
 両足を大きく広げてバケツを構えたままの私と、そんな私をぱちくりと大きな瞳で瞬きしながら見つめている少女との目が合う。
あー…危なかった! もう少しでこのかわいらしいお嬢さんに行水させちゃうところだったわ。
 私はホッと胸を撫で下ろし、バケツを地面に置く。
そしてささっと身づくろいを整えて、少女にニッコリ笑いかけた。
「いいえ、ノープログレム! お客様かしら?」
 彼女は私の店の真ン前で足をとめた。ということは、高確率で私のお客。
となれば私の愛想出力も200%だ。
 少女は私の笑顔に安心したような顔を見せ、こっくりと頷いて笑った。
「はい。お邪魔して良いですか?」
 ええ、もちろんですとも。






「じゃあ改めまして、こんにちは」
 少女は純白のワンピースに麦藁帽子という、高原のお嬢様のような格好をしていた。
でもこのゴチャゴチャした街にあって、彼女の清楚な外見と、とってもよく似合っている。
少女は私の案内で店に入ると、麦藁帽子を取ってぺこりと頭を下げた。
その拍子で、編みこみが入ったココア色の長い柔らかな髪がふわっと揺れる。
 ほう…とその様子に私が惚れ惚れしていると、少女は小首を傾げて私を見る。
「…どうかしましたか?」
「あっ、ううん、何でもないの! あはは、気にしないで」
 私は誤魔化し笑いを浮かべて手をぶんぶんと振る。
いやあ、此処最近珍しい可憐な美少女を見たものだから、思わずぽかんとしちゃったわ。
男女問わず可愛らしいものっていうのはうっとりしちゃうものなのよね。
 でもいけないいけない、そんなことばかりしてたら、不審な人物ってレッテルを貼られちゃうわ。
何せ彼女は初めてましてさんだもの、第一印象は大切よ。
 そう思って私は張り切り、居住まいを正して彼女に軽く頭を下げた。
「遅くなったけれども、いらっしゃいませ、『ワールズ・エンド』へ。店主のルーリィです」
「あっ…店長さん、なんですか?」
 少女は一瞬驚いたような顔で私を見た。私はその様子に訝しさを感じつつ、
「ええ。ごめんなさい、若すぎて信用ならないかしら」
「いえっ、そうじゃないんです。ただ…」
 少女は言い澱み、私のほうをちらっと見たり、考え込む素振りを見せたり、…とりあえず何故か戸惑っているようだった。
私は首をかしげながら、そんな少女の様子を見守る。
 いい加減ワケを尋ねようかと口を開きかけたところで、少女が意を決してか、顔を上げた。
「あのっ…こちら、魔女の方がやっておられるお店とお聞きしたんですけれども」
「ああ、それ、私のことよ」
 私は成る程、と納得してそう答える。
少女は驚いたように目をぱちくりしている。
「うちの店のことを既に知ってらっしゃるなら話が早いわ。改めまして、魔女ルーリィです、こんにちは」
 私がそう笑って言うと、少女はふっと相好を崩して安堵の笑みを浮かべた。
「ああ、良かったぁ…。こんな若い人って思わなくって。
お店出してらっしゃるぐらいだから、もっと大人な人なのかなあ、って…あ、ごめんなさい」
 少女は安心したのか、言葉が緩んだ自分を諌めるように口に手を当てた。
私はううん、と首を振り、
「店を出してるっていっても、つい最近見習いから昇格したばかりなのよ。
それに、この店も私の修行のためなの。そんな魔女で良ければ、何かお力になるわよ」
「本当ですか? 私、あの…お願いしたいことがあって」
 照れたように笑い、手に持った麦藁帽子を弄る彼女。
私はそんな彼女を可愛らしく思いながら、手近にある椅子を勧めた。
「とりあえず、掛けてみて? ゆっくり聞かせて頂戴な」










 少女は樋口真帆と名乗った。
驚くべきことに、彼女もまた魔女なのだという。
「へえ、夢見の魔女かあ」
 感心したように私が呟くと、真帆は私の言葉を繰り返して首をかしげた。
「夢見、ですか?」
「ええ、うちの村ではそう呼んでるの。他人の夢に干渉できる才能ね。こちらでは夢魔とも呼ぶらしいけれども…。
どちらにしろ、生まれつき持った能力よ。羨ましいな」
「…そんな。私はまだ見習いで、簡単な魔法しか使えないんです。夢幻術だって、夢渡り程度しか」
「夢渡り?」
 今度は私が訪ねる番だった。真帆は嬉しそうに笑顔を浮かべながら、
「はい。他の人の夢をちょこっと覗けるんです。あ、でも内容を無理矢理変えることは出来ません」
「成る程ね。でもホント羨ましいわ。私にはそういう才能は無かったから」
 いいないいな、と私は繰り返す。事実、本音でもある。
魔女の村にも、真帆のように特殊な才能を持って生まれてきた子は少なからずいたわ。
確かに魔法は使えるけども、魔女の村において”平凡”な才能しかなかった私にとって、真帆みたいな人は憧れの的だった。
 そんな私に真帆は驚いたように目を見張って首を振る。
「そんなことないですよ。それに、ルーリィさんは魔法の道具を作れるんでしょう?
私は、そういうことは出来ませんから。それに、こんな立派なお店を出してらっしゃるんだもん。
すごいと思います」
「……」
 私は目をぱちくりさせた。そしてすぐに照れたような笑みで返す。
「いやあね、もう。真帆さんって褒め上手なんだから。
そんなこと言われたら、精魂込めて作らざるを得ないわね」
「ええ、頑張って下さい」
 ちゃっかり真帆もそう付け加える。何だか可笑しくなって、私たちはクスクスと笑った。
 

 そしてそんな発作がおさまった頃、私は改めて真帆に問いかける。
「で、今日はどんな御用?」
 うちを魔女の店と知っていて、しかも”お願い”ときた日には、お客の望みは大概決まっている。
作成術の魔女である私に、魔法の効果が付与された道具を頼みに来るのだ。
 真帆もまた、そんな中の一人であったらしい。
私に尋ねられた真帆は、身を乗り出しそうな真剣な表情を見せた。
私はその意気込みに、おお、と内心慄く。
…仮にも魔女の少女が、同業者の私に頼みに来るんだから―…きっと物凄い品に違いない。
どうしよう、作業室にある道具で足りるかしら? 村まで取り寄せる必要もあるかしら?
 真帆は真剣な表情で言った。
「…あの、ホウキ。ホウキを…お願いしたいんです」
「ホウキ?」
 私は思わずきょとん、とした。ホウキ…ホウキってあれよね、れれれのれーってやつ。
こう、ホウキで掃くシチュエーションを見せる私に、真帆はこくこくっと頷く。
「そう、それ。…私、家にあるホウキだったら飛べるんですけど、他のじゃ全然だめで。
…まだ普通のホウキを制御するだけの魔力がないんですよね」
「ああ…成る程、飛行用のね」
 私はぽん、と手を叩く。
なーるなる。私は魔女のくせに滅多に飛行術を使わないもんだから、うっかりしてたわ。
「つまり、あれよね。真帆さんが自由自在に扱えるホウキが欲しい、と」
 真帆はこくん、と頷き、
「お願いできますか?」
 と真摯な瞳で私を見つめた。
私はそんな子猫のような瞳に思わずきゅん、となる。
 となれば、だ。
「合点! まかせといて」
 私がぐっと拳を握って見せると、真帆は嬉しそうに歓声を上げた。







「ホウキといってもねー、色々あるのよね、これが」
「はぁ」
 場所を二階に移し、二階の突き当たりの作業室に案内した私。
真帆は開けっ放しの作業室の入り口で突っ立って、
私がぽいぽいっと中から放り投げてくるがらくた、もとい魔法の道具を目で追っていた。
 作業室を漁っていた私は3本のホウキを抱え、廊下に散らかった道具を作業室の中に押し込み、バタン、と扉を閉めた。
真帆は暫し呆気に取られていたが、それでも笑顔を浮かべて、
「…なかなか豪快な片付け方法ですねえ」
 といってくれる。私はあはは、と笑って誤魔化し、
「ま、とりあえず。今ある在庫はこの三本なの」
 そう言って私は廊下の壁にホウキを並べていく。全て魔女の村から持ってきたものだ。
私の母親のものと、リースのものと、私自身のもの。
「…全部新品なんですか?」
「あはは。…実はねー、一応中古は中古なんだけど、持ち主が全員飛行術が得意じゃなかったから、殆ど使ってなかったの。
だから真帆さんの魔力にあわせて、ベースを弄ることも可能よ」
「へえ」
 真帆はそう感心して呟き、まじまじと廊下にたてかけられたホウキを眺める。
実のところ、中古のホウキというのは非常に使いづらい。
何せ前の持ち主の魔力は、使えば使うほど色濃くホウキに残されるわけで、
よっぽどバランスの良い魔力を持っている人でなければ、大概前の持ち主のそれと反発しあい、ホウキが言うことを聞いてくれない。
もしくは至極上等で昔ながらの―…それこそ何百年単位で一族に伝えられているホウキか。
真帆の家にあるものとはそういう類のものだろう。そういった上等で使いこなされているホウキというものは、
大概持ち主の魔力がどんなものであっても、割合すんなり受け入れてくれるものなのだ。
「右からね、アローリボルバー、サンダーボルト、アイススピア、っていう名前。
アローは柄が竹でとにかく軽いのが特徴。若い女の子向きね、ちょっと外見が…アレだけど。
サンダーはケヤキ。木目が綺麗だけど、ちょっと堅すぎるのが難点かな。
そしてアイスは白樺。雪みたいな白さで一種のブランドになってるのよね。これも女の子には人気だったわ」
 どう?と解説を終えて、私は真帆を見た。
真帆は私とホウキを見比べて、ううん、と悩む。どうやら、ピンとくるものがないらしい。
私は別に直感主義ではないけれど、こういう自分だけの道具は何かしらの天命が欲しいと思う。
「真帆さん。正直に言ってね。あまり気に入るのがなければ―…」
「あの、ルーリィさん。これは?」
 いつの間に見つけたのか、反対側の廊下に放られていたホウキを指差し、真帆が問いかける。
私はああ、と頷き、
「作業室から転がっちゃったのかしら。これは極普通のホウキよ。魔法も何もかかってなくて―…」
 私はそういいながら、真帆の行動を見つめていた。
真帆は廊下にしゃがみこみ、その等身大のホウキを手に取る。
そして眺めながら両手で握り、少し振ってみたり、軽く掲げてみたり。
「…軽い…。ホウキってこんなに軽いものなんですか?」
「あー…それね、実を言うと失敗作なの。柄の内部に空洞をいれて、そこに精霊の核を埋め込もうと思って」
「…精霊」
 真帆は目を大きくする。慣れ親しんでいる単語がふいに出てきたから驚いたのだろうか。
私は苦笑しつつ続ける。
「ええ。ちょっとね、魔力の制御装置の代わりに、意思のある精霊を埋め込んでみたら面白いんじゃないかって思った時期があったの。
それなら契約者が無理に魔力をコントロールしなくても、精霊のほうである程度契約者の意を汲んでくれるわ。
…でも、さすがに意思のあるものは難しくってねー。しかも風を読み取らなきゃいけないから、風の属性を持つ精霊を選んじゃって。
彼らは元来気分屋だし、自分が気に入る相手じゃないと絶対言うことを聞かないのよね。
ま、早い話が、私は彼らのご主人様にはなれなかったの」
 たはは、と私は笑って見せた。
過去の失敗談は笑い話のネタには良いが、語る相手が真面目に聞いてくれていると、逆に情けなさが倍増するものでもある。
そう、真帆は私の失敗談を至極真面目に聞いていた。
聞き終わると、「そうなんですか」と呟き、手に取っているホウキをまじまじと眺めている。
その瞳には熱が篭っている。…これは、まさか。
「…真帆さん。そのホウキに惚れた?」
「っ!」
 真帆は私の言葉に驚いて振り返った。勿論、ホウキをぎゅっと握り締めたままで。
「惚れたっていうか、そのっ」
「あはは、いいのよ照れなくて。末永く付き合っていくものだもの、心底惚れ抜いたものじゃなくちゃ」
 私が笑ってそういうと、真帆はポッと頬を赤くして、
「…綺麗なホウキだな、って思ったんです。このラインも、豊かな房も」
「…そう」
 成る程ね、真帆さんはこういうものがお好みだったか。
そのホウキは、見ようによってはとても無骨なもの。
木目がリアルに浮かび、ニスで整えられてはいるが、その形は歪曲でとても真っ直ぐとは言いがたい。
まるで、樹木から直接切り取ってきたばかりのような。
 だがそのごつごつさに、真帆の心は何か惹かれるものを感じたのかもしれない。
清楚な真帆の印象とは全く真逆なホウキだが、大概惹かれあうときというのはそういうものだ。
人は鏡の向こうではなく、自分と違うものを持つ相手に惹かれるのだから。
「ね、真帆さん。そのホウキ、まだ精霊が眠ったままなの」
「…そうなんですか?」
 真帆は驚いたように目を丸くし、ホウキを再度眺めてみる。
そして、「あ」と声を上げた。
「封印してありますね」
「そうなの」
 私は苦笑する。手におえない精霊だったから、無理矢理眠らせてあるのだ。
柄の目立たないところに封印の札を貼ってある。
本来ならば封印せずに解放してやりたいところなのだが、
苦労して核を埋め込んだので、何もせずに解放するのが勿体無くなってしまったから。
だが真帆がこのホウキのご主人となってくれるのならば、封印までした甲斐もあるというものだ。
 真帆は、このホウキのご主人になれるかしら。―…なってくれるかしら?
 そんな私の心中を読んだわけでもないだろうが、真帆はホウキを握り締めながら、ジッと私を見つめていた。
そしておもむろに口を開く。
「…あの。この子と、お話させてください」
 私はにっこりと微笑んだ。










「…精霊術を使うときって、私は魔導書が必須だったんですけど」
「だーいじょうぶ、だいじょうぶ。このスカーフの魔方陣はね、あなたの感応力を高めてくれるから。
それに無から呼び出すわけじゃなし、このホウキに乗りたいって気持ちを、精霊に伝えるだけでいいのよ」
 一階の店内に移り、カウンターに複雑な陣を織り込んだスカーフを敷きながら、私は歌うように言った。
やや不安げな表情をしていた真帆は、私の言葉に安心して笑う。
「なら、いけるかな。上手くいくかどうか分からないけれど、頑張ります」
「ええ、きっと真帆さんなら大丈夫よ」
 うんうん、と私は頷き、綺麗に敷いたスカーフの上に、件のホウキをそっと置く。
「真帆さん、両手を軽く添えてみて」
 私の言葉に従って、真帆は両の手の平をホウキに触れるか触れないか、の場所に添える。
背筋をピン、と伸ばし、温和な笑みは消え、真剣な表情が浮かんでいる。
 私は封印の札に手をかけて、そんな真帆に言った。
「…あまり肩の力をいれないでね。あなたが身構えると、精霊もそうなっちゃうから」
「……はい」
 だがその表情とは違い、真帆の短い言葉は普段の柔らかな調子だった。
…うん、これなら、きっと大丈夫。
 そう思って、私は一気にピッと封印の札を剥がす。
それと同時に、両手をホウキの上に掲げたままの姿勢の真帆が、びくっと震えた。
私の目からは分からないが、今まさに真帆の内部では、ホウキの精との戦いが行われているのだろう。
 ―…いや、戦い、じゃあないな。
真帆の言葉を借りていうならば、”語り合い”。
 真帆はいつしか目を閉じて、ピンと張り詰めた空気の中でジッとその場に佇んでいた。
(…お茶でも淹れてこようかな)
 時間がかかりそうだと思い、私は真帆の気を逸らさないように、音を立てずにその場を離れた。










 アイスティとお茶請けのお菓子とを盆に載せて戻ってきた私を出迎えたのは、
椅子に座って鼻歌を歌っている上機嫌な真帆だった。
 鼻歌をやめ、ぱぁっと花が咲いたような笑顔を私に見せてくれる。
「おかえりなさい、ルーリィさん」
 私は目をぱちくりさせた。…あれから数分しか経ってないのに。
「は、早かったのね」
 辛うじてそういうと、真帆はえへへ、と照れたように笑った。
「何だか波長が合ったみたいで。いい子でしたよ?」
 といって、テーブルに立てかけてあるホウキに笑いかける。
何故かそのホウキの柄には、真帆のものと思わしき薄い黄色のレースがついたリボンが巻かれてあった。
「とりあえず急ごしらえですけど。あとで可愛いお店に寄って、柄にかけられるキィホルダーとかストラップとか見ようと思うんです。
あっ、もしかしてルーリィさんのお店にもありますか?」
 精霊と契約を交わしたばかりの真帆は、うきうきとしていた。
そんな真帆の姿に、私の頬にも自然笑みがこぼれる。
「うーんと、普通のストラップでいいならいくつかあるわよ。
ハートのビーズとか、うさぎの小さなぬいぐるみとか」
「うさぎですか? わぁ、私好きなんですよ。あとで見せてくださいね」
「ええ、勿論。とりあえず疲れただろうから、お茶にしない?」
 私はそう言って、手に掲げていたお盆をテーブルの上におき、お茶請けとアイスティのグラスを真帆の前に置く。
真帆は嬉しそうに手をあわせ、
「ありがとう、頂きます」
 そういって口をつけた。
 私も同じように椅子に座り、少し遅めのお茶を楽しむ。
すると唐突に真帆が口を開いた。
「そういえば、お代金ですけど」
「ああ」
 うーんと、どうしようかしら。
「おいくらですか?」
「んー…正直、あまり値はつけられないのよね。だからいつもお客様の言い値で貰ってるの。
別に現金じゃなくていいのよ、気持ちが篭っていれば」
「…そうですか…」
 ううん、と真帆は考え込む素振りを見せた。
だがそれは少しのことで、すぐに嬉しそうに顔を上げ、手を軽く叩く。
「そうだ! ルーリィさん、ケーキってお好きですか? そうですね…美味しいお紅茶を頂いたので、そのお礼も兼ねて紅茶のシフォンとか。
私、腕によりをかけて作ってきます」
 そう言って、真帆は細い腕を曲げてぐっとポーズを作った。
その様子が愛らしくて、私はころころと笑った。
「本当? とても嬉しい。うちの子たちってば、揃って甘党なの。ぺろりと食べちゃうわ、きっと」
「うちの子? お子さんいるんですか?」
 驚いたように目を丸くする真帆。私はくすくすと笑ったままで、
「ええとね、娘が1人と、使い魔が2人。あと居候が1人。…結構大所帯でしょ?」
「…ホントですね。じゃあ大きいサイズを作ってこなきゃ」
 真帆はうん、と気合をいれるように頷いた。シフォンケーキかあ、暫く食べてないわ。とても楽しみ。
「ええ、期待してるわね、ありがとう」
「こちらこそ! 私、この子とたくさん練習しますね。この子となら、きっと上手くいくと思うんです」
 真帆はホウキを手に取り、笑顔を浮かべた。
その笑顔は達成感に溢れたもので、きっとこれから先も彼女はそんな笑顔を浮かべるのだろうな、と思った。

 
 そして、もう一つの予感。
可愛らしい魔女がココア色の髪を靡かせて飛ぶ姿を、東京の空に見かけられる日もそう遠くない…と。









                  End.




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▼ 登場人物 * この物語に登場した人物の一覧
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【整理番号|PC名|性別|年齢|職業】

【6458|樋口・真帆|女性|17歳|高校生/見習い魔女】


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▼ ライター通信
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 はじめましてのお目見え、有難う御座います!
とても可愛らしい魔女さんで、うきうきしながら書かせて頂きました。

 アイテムのほうもある意味珍しい(?)正統派で!
PCさんの能力とあわせて、少し変則的なアイテムにさせて頂きました。
もし良ければご活用くださいませ。

 それでは、またお会いできることを祈って。