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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


空鯨の光臨(後編)

 海の悪魔を追い払う仕事をしている草間武彦とその一行。
 自分の憩いの場を守るため、
 その後のビールがさぞかし美味しいだろうと思いたいため。
 今日も海の悪魔を倒しまくる。
 海の悪魔は、半魚人のようだが、狙っているものが民宿“深淵”(注:ここではふかぶちと読む)にある、
 空鯨を倒せる槍というのだ。

 草間が言った。
 其れを破壊して奴らの狙いを外すことは出来るのか? と。
 守っている人は答える。
 空鯨様に関連する、大事なモノでもあり、危険なモノです。人には破壊できません。と

 ならば、今回の悪魔を追い払うには首領を倒すしかないのだろうか?
 さて、どこにいる? 海の底か?

 この深淵地域のどこかに、半魚人の地下神殿があるというか……。


〈作戦〉
 まず、全員は考えた。
 このまま倒しても拉致があかないと。何か決定的な打開策を講じなければならない
 このままでは、限りなくやってくる海の悪魔達とのイタチごっこになるのだ。無効の数、神出鬼没性、様々な謎、其れをすべて知るには時間がかかる。
「もしかすると、この海の悪魔達って、空鯨さんと関係あるのかしら?」
 シュライン・エマが言った。
「この深淵、閉鎖空間でしょ? 彼らが存在していることが不思議に感じる。あたしが今までここでの体験では、結構平和だったはず……。槍がここの神様を殺せると言うことは、空鯨の一部ではないかと思うの」
 と。
 空鯨はびくっとなった。
 概ね当たりらしい……。だが、遠からずという感じかもしれない。
 鯨は暗い顔していた。
「なんだ? そうなのか?」
 草間と施祇刹利は、鯨である少女をみる。
 しかし、彼女は何も言わなかった。
「むぅ。困りましたねぇ」
 榊船亜真知は困った顔をした。自分も過去に同じ事なことをしているためでもある。
 しかし、空鯨は何も言わなかった。
 全員は深淵全体の地図を見て、今までの悪魔の出没地点を調べ、その点を調べてみる。シュラインが予想していた、線を結ぶと空鯨の形をしているという事ではないが、ある地点で多いということが分かる。 人魚の地下都市近辺から多い。
「最前線ですからねぇ」
 アリス・ルシファールは呟いた。

 近くに拠点があるというなら、その地点を見つけ、そこを叩くことが解決になるのだろうと何人かは思う。ただ、海底にあるなら出来る人間は限られる。人魚なら出来るが、普通の人間には出来ないだろう。人間は陸に済む生き物だからだ。
 まず、アリスと亜真知が一匹の悪魔に発信器をつけ、追う。そのあと、水中移動可能になった全員でその地点に向かう事になった。さて、問題は神出鬼没の悪魔達にどうやってその発信器を取り付けるかになる。
「槍の魔力を模した囮を作ると良いかもしれないわ」
 シュラインが言った。
「それで、数匹おびき寄せてつけると言うことですね」
 
「で? 囮は何にするんだ? ナマモノは居ないぞ?」
 草間が言うと、皆がうめく。
「あ、いい人が居ます」
 亜真知はにっこり微笑んだ。
 約1名のぞき、その場にいた全員が、亜真知が指さした人物をみた。
「ん? 何?」
 空鯨をある意味危険な視線で見ている、刹利が小首をかしげている。


〈其れはないだろう!?〉
「ぎゃああああああ!」
 僕、施祇刹利。18歳。
 いま、海の悪魔の半魚人に襲われています。必死に走って逃げています。いや、かなり命がけで。
 ある意味悪魔な女の子が、
「はい、これもってくださいね」
 と、奇妙な槍を渡されてから、僕の人生が変わりました。
 って、そんなこと語っている余裕すらない!
 いや、引き留めたり囮になったりするのは良いけどさ、この数尋常じゃない。
 見たときは、ほんの10匹だったのに! それぐらいなら僕も倒せるけどさ!
 台所の黒い悪魔みたいに増えて、300、9000、180000…ってナニー!?

「大丈夫かしら?」
 シュラインは双眼鏡から、その恐ろしい光景を見て、苦笑していた。
 彼女の手には本物の神殺しの槍。封印で魔力や効力を発することはないが。
 つまり、現物から何か情報を得られないかと調べてみた。もっとも、魔力の質を亜真知が真似るために出したのだのだが。こうも面白いほど連れるとは誰が予想したのだろう?
 予想的に当たりらしい。槍の一部に、鯨の骨があったのだ。おそらくこれは歯の部分。
「ああ、大丈夫だ。あいつなら、死にはしない」
 草間が、けたけた笑っている。
「それに、近くに亜真知が居るし問題は無いだろう」
 そう、人外なら、人外で対応すれば良いだけのことだ。
 数分後、又爆発があった。
 亜真知とアリスの魔法が炸裂したのだろう。前に見た、殲滅光線の光と比べると派手ではないが。
「こちら草間、余り派手には壊すなよ」
 草間がトランシーバーで亜真知に伝える。
『分かっています〜』
 それでも、威力が並ではなかったので「やっちゃった」と舌を出す亜真知であった。
 絶壁に追いつめられた施祇の周りに群がる悪魔達を余分な物を一掃しただけだが、誤って、施祇も巻き込んでしまったのだ。
 施祇の行動にある意味疑念を抱いていた亜真知。
 その理由は単純だった。
 彼は空鯨を狩って食いそうな視線をいつも投げかけていたのである……。
 可愛い、少女になっている空鯨を食おうなんて……という静かな怒りがそうさせたのだろう。
 手加減しているし、見たところ、死んでないから問題ない。
「何倒れて居るんですか? 早くそこで蹲っている悪魔にトレースシール貼って!」
 亜真知が空から言う。
「あああ! わかった!」
 起きあがって、目の前に倒れてぴくぴくしている悪魔に、湿布みたいな物を貼り、そのまま海に投げ捨てた。
「さて、これからどうするんだ?」
「あれが住処についたら全員で一気に転移します」


〈悪魔の正体〉
 悪魔の住処は発信器によりすぐに分かった。
「標的が逃げているのが見えます」
 人魚の近くで防御線を張っていたアリスが、逃げていく半魚人をみて全員に連絡、ボートで合流する。
 そして、発信器からの電波がある地点で止まる。
「ここのようです!」
 と、亜真知がシュラインと草間兄妹、アリス、刹利と手をつなぎ、一気に転移する。

 その先は……

 昔にうち捨てられたような、神殿の跡であった。理力によって水中呼吸と通常に移動できる。
 近くに、空鯨がいて、心配そうに見ている。
「話してくれるかしら?」
「きゅい……」
 シュラインの言葉に、空鯨が鳴く。
「シュラインさんの言うとおりだと、おもうきゅい……少し違うかもしれないけど」
 彼女曰く、この特殊な閉鎖世界、深淵は、元々彼女の夢の世界というのだ。今彼女は起きているのは、自分も夢の参加者ということだろう。大本は眠っている。その槍というのはおそらく、この夢の自分を目覚めさせ、深淵自体をなくすということかもしれない。しかし、その確証はない。
 悪魔はおそらく悪夢の具現化。過去、もしくは現在、別の世界の干渉が、生み出された物。
 しかし、自分自身が夢なのか、余り実感はない。しかし、槍や悪魔に対しては恐怖を覚えるのである。
「うーん、自分から生み出されて悪意とも言うのかしらね……」
「本来、悪い異界などなら……排除が必要だが」
 草間が言う。
「俺はここでゆっくり出来るから消したくはないな」
 バカンス出来る場所が無くなるのは避けたいのだ。
「なら、決まりですね。悪夢中心を探し出して駆除しましょう」
「僕はここの海ブドウが食べたい。あと、鯨の刺……ぎゃあああ」
 刹利がトンでもないことを言った時に鮫が施祇を襲った。
「お前は食うことしかないのか? ああ、亜真知が鮫を呼び寄せて……」
 実際鮫が噛みつけば恐ろしいことになるが、この呼ばれた鮫には歯がないようで、顔も手も噛み放題のようだ。
「しばらくそのままで居なさい」
 亜真知は少しどころかかなり不機嫌であった。胸にはきゅいきゅいと涙ぐんで泣いている少女が居る。

 その廃墟に、今までの時間を押しつぶした廃棄物のような山がある。
「あああ、これなのね。まるで粗大ゴミのよう」
 シュラインがむ、と唸る。
 ゴミの山。冷蔵庫や、空き缶などを形作っている。実際、そのものではないようだが、見ていて気分が悪い。悪夢の具現と言うにはふさわしい物ではないだろうか?
 そこから、緑のオーラをはっして、悪魔達が儀式を起こしているのだった。
「海! 海を汚す物よ! 我に! 我の世界を! この平和な世界に繋げたまえ!!」
 と、叫んでいる。
 ゴミの山から門がこじ開けられ、悪魔達が現れてきた。ゴミという悪夢が、悪魔を呼び寄せているのだろう。これが空鯨の言う具現のであるらしい。
「なるほど、こうして、外界移動しているのか」
「亜真知ちゃんアリスちゃん、浄化お願いね」
「はい、シュライン様」
「おまかせあれ♪」
 と、二人の少女が各々の最強武器を手に、粗大ゴミの幻影を浄化した。
 鮫に遊ばれている刹利も、鮫に乗って、周りの悪魔を追い払っていた。
「きゅいくんを泣かす悪魔は居ない方が良いんだよ? ……ゴミから出るからって、なんていうかさぁ……」
「其れを言うならお前も、だ」
 草間は苦笑した。
「又トンでもないことを言うと、亜真知さんに怒られますよ?」
 零も苦笑している。

 ひとまずは、この世界に干渉する悪魔のゲートを破壊でき、一件落着に思える。
 シュラインは悪魔の出所を人魚の歳と深淵に報告し、時には、夢の世界を徹底的に掃除することを勧めた。実際空鯨がどこで眠っているのかが気になるが、その拠点を探ることは亜真知や空間管理の魔技であるアリスにも出来ないようである。してはならないかもしれない。それに、見つけ出すことイコールこの深淵をなくすことの可能性が高いのだ。
「彼女が目覚めるときにこの世界がなくなるというなら、もし、現実世界に彼女が眠っているなら海全体を綺麗にしないといけないのですね」
 と。
「きゅうい」
 空鯨はしょんぼりした。
 申し訳なさそうに。


〈バカンス〉
 空鯨からの報酬も貰い、草間は深淵の縁側にてビールを飲んで一息ついている。シュラインや零は西瓜を食べて、麦茶で一服だ。
「いやあ、何とかなって良かったわね。色々問題は残っているけど」
 と、草間のコップにビールを注いであげるシュライン。
「この深淵は、あの悪魔さえいなきゃ平和だからな。槍が壊せないと言うのはやっぱり、空鯨の目覚ましなんだろうなぁ」
 草間はほろ酔い気分で、スルメをかじる。
「定期的にお払いなどをすれば、彼らは現れないのだと思うわ。彼女が自ら目覚めようとするまでは清めの儀式などやる方が良いのよね」

 刹利というと、また空鯨を食べ物と見ているために、海の民に反感を勝って、追いかけられている。もう、親の敵のように。
「だから、ナマモノを食い物扱いするのは止めないといけませんよー」
 夏江という、深淵の仲居さんがからから笑って其れを眺めていた。
「眺めてないで、たすけてー! ぼ、僕は只単に美味しいものを食べ……ぎゃあ」
 鮫に食われた模様。しかも歯がしっかりついている方で。

「空鯨様! 一緒に泳ぎましょう」
「きゅ、きゅい!」
 亜真知とアリスは水着姿で遊んでいる。友達になったようすだ。
「あっちでは、海を綺麗にするようにつとめますね」
「たすかりますですきゅい」
 と、一緒に泳いだり、刹利を逆にいじめたりと楽しく過ごすわけだが。
「先輩、先輩」
「?」
「出来れば時空管理維持局の専属魔技になりませんか?」
「え?」
 そのスカウトに固まる亜真知。
「しかえしだぁ!」
 と、後ろから鮫をボートにして突撃をする刹利。
「きゃあああああ!」
 大きな水柱が上がった。

「ああ、これだよ。このいい加減な平和さが良い。俺に被害がなければさらによい」
 草間はその和やかな子供達の戯れを見て笑っていた。
「でも、命がけっぽいよねぇ」
 苦笑するシュラインであった。 

END

■登場人物
【0086シュライン・エマ 26 女 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1593 榊船・亜真知 999 女 超高位次元知的生命体・・・神さま!?】
【5307 施祇・刹利 18 男 過剰付与師】
【6047 アリス・ルシファール 13 女 時空管理維持局特殊執務官/魔操の奏者】


■ライター通信
 滝照直樹です
 『空鯨の光臨(後)』に参加していただきましてありがとうございます。
 この世界は夢の中。その夢に干渉している別の影響が、悪夢を呼び起こす。其れがいきなり現れるというのは不安な物です。といった感じになりましたが、いかがでしたでしょうか?
 一時の平和が訪れましたが、後には空鯨が目覚めの時が来るかもしれません。そのときはどうするのでしょうか?
 皆様参加ありがとうございました。

 ちなみ、に空鯨は食べ物ではありません。ご注意を。今回は出ていませんが、小麦色も然りです

 ではまたの機会に。

 滝照直樹
 20060822