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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


大神家の一族【第2章・東京編】
●オープニング【0】
 LAST TIME 『大神家の一族』――。
 監督・内海良司の依頼によって、ひょんなことからモデル上がりの新人タレント・石坂双葉を護衛することとなった草間の仲間たち。双葉は、金沢で毒殺された資産家の大神大二郎の依頼によって、草間が調査していた対象であった。
 なし崩し的に草間興信所の権限を預かる月刊アトラス編集長・碇麗香の元、銘々の方法で双葉の警護を始める草間の仲間たち。
 結論から言えば、内海がこのタイミングで双葉の護衛依頼にやってきたのは大正解だった。車からオイルが故意に漏らされていたり、双葉の部屋へ忍び込んだ者が居たりと、何者かが暗躍していたのだ。
 この日、双葉は部屋へ戻らずホテルで過ごすことになった。その間に部屋を調べた結果、とんでもないことが判明した。
「……ニコチンですって?」
 報告を受けた麗香が眉をひそめる。部屋の冷蔵庫に作り置きしてあったお茶から、ニコチンが検出されたというのだ。
 誰かが双葉の生命を狙っているのか?
 金沢の事件に何か関係しているのか?
 5月3日、双葉の仕事は本日ない。1日ホテルにこもることになるだろう。
 だがしかし、護衛は引き続き行われる――。

●ある提案【1】
「インタビュー?」
 場所は月刊アトラス編集部。碇麗香は記者である藤岡敏郎のその言葉に、怪訝な表情を浮かべていた。
「はい、次号の特集で『タレントの前世』という記事を組んでみたいんですけど……」
「面白そうではあるわね。で……今、それをする意図は何なのかしら?」
 敏郎の真意を探ろうとする麗香。そういった物に触れているテレビ番組が受けている今、記事を組むのは悪くない。だが、何故今それをやろうと考えたのだろうか。
「それは……そのタレントの中に、石坂双葉を含めたいんです」
「……大神家を絡ませる気ね?」
 敏郎が石坂双葉の名前を出した時点で、麗香もぴんときた。頷く敏郎。
「確証のない現時点では情報公開出来ませんが、オカルトの記事ならやりようがあると思うんですよ」
「オカルト記事でも、公になれば犯人は動き辛い……かしらねえ」
 しばし思案する麗香。そして、決断する。
「いいわ、やってみましょ。意図を抜きにしても、受ける記事にはなるでしょうし。でも次号が出るまで時間があるわよ。今すぐどうにかは出来ないわよね?」
 麗香が敏郎に疑問をぶつけた。
「その辺りも一応考えてはいます。ホームページに、次号の記事から抜粋という形で彼女の前世と大神家……もちろん匿名にしますけれど……その関わりについての部分をアップしようかと」
「見出しだけ今すぐアップしときなさい。そうね……『石坂双葉、前世は旧家?』とか『ルーツは古都・金沢に?』程度でいいわ。こっちから仕掛ける気なら、そのくらいやっておきましょ。インタビューの許可はすぐに取れると思うし。今日は1日ホテルにこもってるものね」
 やると決まったら、麗香の動きは素早い。敏郎の考えの上を行く。
「……あ、そうだ。あなた『小田原探偵社』って知ってる?」
 麗香が不意に月代慎から伝えられた探偵社の名前を出した。
「いえ、初耳ですが?」
 首を横に振る敏郎。
「そうよね、知らないわよね」
 そういう答えが返ってくることは、麗香予想済みであったようだ。
「となると、その筋の人に調べてもらった方が早い……かしら」
 麗香の脳裏に、高ヶ崎秋五の顔が浮かんでいた。

●隠れてみる【2】
「窓辺には近付かない方がいい」
 閉めている部屋のカーテンを改めて確認し、黒冥月は椅子に座っている双葉へ忠告した。昨夜から双葉がこもっているホテルの一室でのことだ。
 双葉はこくんと頷いてから、静かに口を開いた。
「……気のせいじゃ、なかったんですね」
「うん?」
「まさか狙われたりするなんて。付き人に身を隠して、護ってくれている人がそばに居たなんて……」
 そうつぶやき、冥月を見る双葉。冥月は昨夜の時点で自分の正体を明かしていた。その時の双葉の驚きは想像に難くない。
「昨夜も言ったはずだ。荒事は得意だ、任せておけと」
 安心させるように、昨夜の言葉を繰り返す冥月。
「それに……私の他にも、居る訳だからな」
 と言って冥月は隣の部屋を指差した。借りた部屋は中の扉で続く両隣の2部屋。隣の部屋には今、男性3人が詰めていた。秋五、宮小路皇騎、守崎啓斗の3人だ。ちなみにこういった部屋を借りるよう提案したのは秋五である。
 食事は極力自炊にし、双葉に必要な物があれば詰めている誰かが買いに行く。そうやって双葉の姿を外に出さないようにしていた。ある意味、ちょっとした軟禁状態ではあるが、状況が状況ゆえに仕方ない。
 と、隣の部屋から啓斗が姿を現した。
「……ちょっといいかな。聞きたいこと、確認しておきたいことがあるんだ」
 啓斗が双葉へそう声をかけた。
「ふむ。なら私は少し席を外しておくか」
 入れ替わりに冥月が隣の部屋へ向かう。冥月が隣の部屋へ消えると同時に、啓斗は双葉のそばへ行き質問を投げかけた。
「双葉さん。正直に答えてくれ」
「……はい?」
 啓斗の固い表情に、双葉が緊張した。
「ああ、別に咎めたりしないから」
 椅子に腰掛け、啓斗は緊張を解すように双葉へ言葉をかける。
「お父さん……最近誰かとよく会ってないか?」
「え?」
「何か愚痴をこぼしたり些細なことでもいいんだ。俺は、出来ることなら被害は最小限に食い止めたいんだ」
「え……急にそう言われても……」
「これから撮るドラマと同じで、この事件を握ってるのはたぶん金沢の……と、東京の双葉さん。あんたなんだから」
 啓斗が双葉をじっと見つめる。だが双葉は困惑したままだ。
「でも……父にそういうことはなかったと思いますけど……」
 双葉の答えは芳しくない。啓斗が思案する。
(父親にどうこうではないのか……?)
 本当に関係ないのか、あるいは双葉に知られぬよう徹底的に隠しているのか。この話だけでは完全に判断することは難しかった。
「ついでに聞いておくけれど……喫煙経験は、当然?」
「ありませんよ、そんなの!」
 驚き、ふるふると頭を振る双葉。啓斗はもちろんそういう答えが返ってくるだろうことは、予め調べていたので分かっていた。
(じゃああれはスキャンダル目的でなく、完全に殺害意図があったと見てよさそうだ)
 作り置きしていたお茶にニコチンが含まれていた件である。詳しい結果によると、結構入っていたそうだ。残念ながら煙草の葉や紙などは含まれていなかったそうだが。
「……普段飲むお茶は?」
「え、お茶ですか? そうですね、杜仲茶です。ちょっと苦いんですけど、身体にいいらしくって。おばさんみたいだって笑われるんですけど、よく」
 苦笑する双葉。それを聞いて啓斗がはっとした。
(そうか、杜仲茶自体の苦さでニコチンを誤魔化そうと)
 ニコチンには独特の匂いがあるし、口に含んでもすぐ異変を感じるはずだ。だが、元々くせのある苦いお茶に混ぜていたなら……変に思っても、そのまま飲み込む可能性は決して低くないだろう。
(俺を襲った奴らに、そう手慣れた感じは受けなかった。だのに、狙っているのは双葉の排除……何が奴らをそうさせるんだ?)
 啓斗には色々と糸が絡まっているように思えて仕方なかった……。

●それらを行う理由【3】
 その頃、隣の部屋。冥月と皇騎と秋五が会話を交わしていた。
「色々と状況が動き出しましたね……」
 くわえ煙草で顎を撫でながら、ぽつりと秋五が言った。
「ええ。ですから、金沢の方も含めて、うちの調査部に調べてもらっています」
 頷く皇騎。実は皇騎、他にも母親の所から借り受けてきた女性SPを数人ホテルへ潜り込ませていた。が、そのことは内緒である。ほら『敵を欺くにはまず味方から』とよく言うではないか。
「金沢ですか……そういえば、釈放されたらしいですね」
 秋五が思い出したように言う。草間武彦のことだ。今朝方、無事釈放されたと金沢に居る者たちから連絡が入っていたのだ。草間が釈放された以上、秋五がこのまま居る理由もなくなったけれども、さすがに双葉の件が続いているので途中で放り出す訳にもいかない。ゆえに、秋五はまだこの場に居た。
「草間が釈放されたのか。娑婆に戻ってきたら、自分が有名人になっている感想を聞きたいものだ」
 冥月が触っていたノートパソコンから顔を上げて言った。画面には、例の草間逮捕の画像が表示されていた。
「……私はネットをやらないのでよく知らないが、この手の写真はよく載せる物なのか? こんな事件、他人にはたいして意味あるまいに。故意に広めたいのか?」
 2人へ疑問を投げかける冥月。それに答えたのは、ネットに詳しい皇騎の方であった。
「金沢の方でも気になっているらしく、質問があったと雫さんが言っていました。それはともかく、普通は載せないですね。ですが、公開する心理は大きく2つあると思います。1つは今言われた故意。それからもう1つは自己顕示欲。普通なら載せるのは憚られる写真ですが、ネットの匿名性を利用すればその辺りの心理的ハードルはかなり低くなりますからね。雫さんとも少し話してみたんですが、恐らくこれは後者なんじゃないかと」
 瀬名雫と話し合って、皇騎はそう結論付けていた。
「ふぅむ……その心は?」
「故意なら、もっと激しくやってるだろうということですよ。早い段階で草間さんの個人情報が出て来ても不思議じゃないですからね」
 しかし雫が調べてみた所、そういったことが出た様子は見られない。単に分かっていても書き込んでいないだけかもしれないが、故意であるなら仕掛けた本人が早々に書き込んでいてもおかしくないはず。ゆえに『誰だか知らないけど、たまたま面白い写真が撮れたから載せちゃえ』だと考えられる。
「……それが本当なら、偶然が重なっただけか。全く迷惑な話だ」
 やれやれといった様子の冥月。全くですと苦笑して皇騎も同意する。
「迷惑ついでに、本当に迷惑な連中の話でもしましょうか?」
 冥月と皇騎の話が一段落したのを見計らって、秋五が口を開いた。2人が耳を傾ける。
「碇さんから、ある探偵社について調べてほしいと言われたんで、調べてみたんですよ。今回の事件に関わっているらしい探偵社を。そうしたら、面白いことがいくつか分かりまして」
「面白いこと、ですか?」
 皇騎が秋五へ聞き返した。
「まず、その探偵社の評判は芳しくないということ。はっきり、悪いと言っていいでしょうね。そして、以前に芸能界でまあ……裏工作をやった実績があるらしく。そして3つ目。以前の社長、今の社長の兄だそうですが……金沢に居るそうですよ。その筋の人と揉めて、ほとぼり冷ますために逃げたらしいですね」
「……偶然とは言い難いですね、それは」
 秋五の言葉を聞いた皇騎は、神妙な表情で言った。よもや金沢で繋がってくるとは。
「なるほど、コネがあるなら、スタジオにもどうにかして入ってこれるか……」
 冥月は昨日スタジオで感じた不審な気配のことを思い出していた。
「金沢といえば疑問がある」
 思い出したように冥月が言った。
「金沢がシアンで東京がニコチンとは、ずいぶんな差だと思わないか?」
「そうですね。繋がりを悟られないよう、わざと手口を変えているのかもしれませんが……にしては、手際が」
 皇騎が首を傾げた。
「そうなんだ。東京の方が稚拙だと言っていい。仮に、喫煙ネタで双葉を潰そうとするなら、わざわざお茶にニコチンを仕込む理由が分からない。普通に楽屋にでも煙草を置いて、隠し撮りしていた方がより直接的な絵は撮れるはずなのだし。だいたい、この程度を組織的にする理由が分からん」
 色々と納得のゆかない様子の冥月。この事件、訳の分からないことがあまりに多い。
「ところで、その探偵社の名前を教えていただけませんか?」
 皇騎が秋五へ尋ねる。それを調査部の方へ知らせ、金沢の方と合わせて詳しく調べさせるつもりなのだろう。
「ええ、構いませんよ。名前は『小田原探偵社』です」
 秋五がさらりと答えた。

●もう1つの警護ライン【4】
 ホテルの1階――喫茶スペースに、露樹故の姿があった。故もまた、双葉の警護をしていたのだった。だがしかしスタジオの時みたく、偶然ばったりという手は使えない。よってこうして、遠巻きに警護をすることになった。
(さて、どう出てくるのでしょうかね……)
 コーヒーカップを口元へ運びながら、故はそんなことを思っていた。
 当然ながら双葉が危険にさらされたことは、所属事務所から父親の春太へ昨日のうちに連絡がいっていた。するととても驚いていたという。
(それは一大事でしょうねぇ。もし誰かに依頼して、金沢の事件を起こしたのなら特に)
 故は春太が大神大二郎を強請っていたのではないかという疑いを崩していなかった。犯人が複数らしいと聞いて、それはより強まったかもしれない。……共犯者が裏切って、双葉を狙ったのだと考えることも出来るのだから。
(案外、金目当てで結託したはいいが、やはりお互いが信じきれずお互いの切り札を消そうとしたのでしょうかね……?)
 東京における切り札が双葉だとするならば、金沢においては尚かもしれない。タイミングよく昨日、尚が毒物を口にしたというし。
(ともあれ、未だ仮説の段階は出ません。どちらかでも尻尾をつかまない限り、仮説しか立てられないのが何とも)
 ああ、もどかしい。
「……言えることは、懐は裕福でも心まで健康にとはなかなか難しいってことですかね」
 故はそうつぶやいて苦笑いを浮かべた。

●仕事場にて【5】
 島公園スタジオ。慎は内海良司が今日もここに居ると聞いて訪れていた。金色の蝶・常世姫は昨日から『小田原探偵社』を見張らせたままである。今朝になって銀色の蝶・永世姫も向かわせ、こちらの方には探偵社から出かける人物や接触してくる人物が居ないかどうかを見張らせていた。もちろん居たら追跡させるのだ。
 これには2つの意味があった。1つは探偵社の行動の監視。もう1つは、その彼らの身の安全の確保である。もし双葉の件が相続絡みであるのなら、何らかの情報を持っているであろう探偵社の人間も口封じされないとは断言出来ないからである。そうでなくとも、彼らの証言が必要にならないとは限らない訳で。
 さて、スタジオにて内海と会った慎は、まずは他愛のない会話から始めていた。今度のドラマはどうだとか、最近の興味がどうだとか、そんな話。やがてそのうちに、昨日の話になり、慎はいかにも噂に聞いたという風を装って双葉の話題を口にした。
「双葉ちゃん、何かトラブルあったってほんとなの?」
「あー、お前さんの耳にも入ってるのか」
 苦笑する内海。あれこれと話をしてから、内海がこう言った。
「草間本人が居れば、もうちょっと安心出来るんだがなあ」
「誰それ?」
 知らない振りを装い、間髪入れず慎が尋ねた。
「ん? ああ、俺が信頼してる探偵だ。他の奴に紹介出来るほどにな」
「紹介したの、監督が?」
「ああ。去年のいつだったかな。誰か芸能界に詳しくて口の固い探偵を知らないかと、知り合いのプロダクションの奴に聞かれてな。草間を紹介しといた。受けたかどうかは知らないがな」
(ちょっと待った。去年って……)
 慎が麗香との会話を思い返す。確か草間、双葉のことを去年から調査していたはずでは――これは単なる偶然?

●蠢く者たち【6】
 午後2時を過ぎて、『小田原探偵社』に動きがあった。中から人が数人出て来たかと思うと、車に分乗してどこかへ出かけたのだ。永世姫がそれを追いかけてゆく。
 車は全てある場所へ向かっていた。――双葉のこもっているホテルに、だ。
 そこで車から降りた探偵社の者たちは、さらに数人と合流してから、改めて4つほどの班に分かれてバラバラに姿を消していった。
 永世姫を通じてそれを知った慎は、すぐに麗香の所へ連絡を入れていた。
「……という訳なんだ。気を付けた方がいい」
「そう、ありがとう。すぐ連絡入れるわ。ちょうど今、三下くんが部屋に居るはずだし」
 え、何で三下忠雄が双葉の部屋に居ますか?

●そして、仕掛けられる【7】
 その頃、双葉の部屋では三下が双葉にインタビューを始めたばかりであった。
「そ、それでは早速インタビューを始めさせていただきます」
 何故か焦っている三下。逆に双葉は落ち着いて見える。いや、三下が落ち着かないから相対的にそのように見えるだけなのかもしれないが。
 このインタビューは、敏郎が提案していたそれだ。ならば敏郎本人が来ればいいじゃないかという話だが、残念ながら双葉に顔が知れてしまっている。それゆえ、麗香の決定で三下を送り込んだのだった。
「あの」
「は、はい!」
 双葉から声をかけられ、三下が大きな声で言った。
「……テープレコーダー、回ってますか?」
「わわっ! す、すいません!!」
 どんな時でも、三下は三下であった。
(全く、何をして……)
 同席していた冥月はそんな三下に苦笑する。隣の部屋には、相変わらず秋五や啓斗、皇騎たちが詰めていた。
 その隣の部屋に、麗香から電話がかかってきた。出たのは皇騎である。
「はい、もしも……分かりました」
 皇騎の表情がさっと変わった。それに秋五や啓斗も気付く。そして3人連れ立ち、双葉の居る隣の部屋へと移動する。強い警戒態勢に移行したのだ。
 さて、1階。故は待ち合わせをしているかのように装い、ホテル1階を歩いていた。と、非常階段の辺りで3人ほどの怪し気な男たちの姿を目の当たりにした。
(おや? あれは……)
 故がそう思った時だった。
 ジリリリリリリリリリリリリリリリ!!!
 ホテル内にけたたましく、非常ベルが鳴り響いたのである。
「火事だーっ!!」
 後方で誰か男が叫ぶのが故の耳に聞こえていた。
「まずい!」
 故は慌てて非常階段の方へ駆け出していた。

●襲撃【8】
 当然ながら、非常ベルは部屋に居る双葉たちにも聞こえていた。真っ先にパニックになったのは、言うまでもなく三下だった。
「か、火事っ!? う、うわぁぁぁぁっ!!」
 インタビュー途中にも関わらず、頭を抱えて部屋を飛び出そうとする。
「待て! 出るな!!」
 冥月が止めたが三下の耳には聞こえない。三下が扉を開けて外へ出ていった次の瞬間――。
「ぎゃあっ!!」
 三下の悲鳴が聞こえ、ドスンと誰か倒れたような音まで聞こえてきた。
「双葉さんを!」
 秋五が冥月に叫ぶ。冥月は頷くと、すぐに双葉の腕をつかんでともに影の中へ姿を消した。
 入れ替わるように部屋に入ってきたのは、サングラスにマスクで顔を隠した男3人。手にはどうやらスタンガンらしき物を持っていた。バチバチと音が聞こえているのだから、間違いないだろう。
「残念ながら、双葉さんはここには居ませんよ」
 皇騎が男たちを見据えて言った。そのことは男たちにも分かったようで、ややたじろいでから慌てて外へ出てゆこうとした。
 そこに、2羽の大きな梟が部屋へ飛び込んできた。廊下に潜んでいた皇騎の式神『御隠居』と『和尚』である。2羽は男たちをくちばしで攻撃する。
「いたたたたた!」
「や、やめろ!!」
「助けてくれぇっ!!」
 悲鳴を上げる男たちに、皇騎・啓斗・秋五の3人が迫る。
「はっ!」
 皇騎が首の後ろへの手刀でまず1人昏倒させる。
「甘い!」
 啓斗がみぞおちへの一撃で、また1人昏倒させる。
 残る1人は『御隠居』と『和尚』から何とか逃れ、廊下へ転がるように飛び出した。秋五が追いかけて、逃げる男へ能力で生み出した爆弾を投げ付ける。瞬く間に破裂したそれに殺傷能力はない。いわゆるスタングレネード系……気絶させるあれだ。男は見事巻き込まれ、廊下へと倒れ込んだ。
「やられたようだ!」
「逃げるぞ!」
「出直しだ!!」
 非常階段で異変を感じていた別の男3人は、慌てて階段を駆け降りてきていた。すると先頭の男の鼻先をかすめ、どこからともなく飛んできた氷のトランプが壁に突き刺さった。
「……幕が降りる前に、観客へ挨拶もなく舞台を降りるのはどうかと思いますがねぇ」
 男たちの前に、不敵な笑みを浮かべた故が姿を現した――。

●逃げ出したのは誰?【9】
 結論から言うと、『小田原探偵社』から出て来た男たちと合流した男たちは、秋五たちの働きや、皇騎が潜り込ませていた女性SPたちの働きによって全員捕らえられていた。
 男たちの考えた流れはこうだ。まず発煙筒を炊く班が煙を起こして火事を装う。次いで陽動班が『火事だ!』などと叫び回ってホテルを混乱させる。その隙に襲撃班が双葉を襲って拉致し、待機していた逃走班に双葉を任せる……というものだった。ちなみに何故双葉の居場所が分かったのかというと、昨夜のうちにホテルは突き止めていたらしく、あとは従業員の何人かに金を握らせて部屋をつかんだのだそうだ。
 警察に引き渡す前、あれこれと男たちに質問をしてみた。だが異口同音に『社長の命令で、詳しいことは分からない。何のためにやっているのか、一切知らされていない』と答えるばかり。これでは社長本人を捕まえないことには、事情は分からない。
 その頃、1人の中年男が『小田原探偵社』を後にしていた。戻ってきていた永世姫が、その男を追跡する。
 事件はまだ、終わっちゃいない……。

【大神家の一族【第2章・東京編】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0554 / 守崎・啓斗(もりさき・けいと)
                / 男 / 17 / 高校生(忍) 】
【 0604 / 露樹・故(つゆき・ゆえ)
                / 男 / 青年? / マジシャン 】
【 2778 / 黒・冥月(ヘイ・ミンユェ)
     / 女 / 20 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒 】
【 2975 / 藤岡・敏郎(ふじおか・としろう)
    / 男 / 24 / 月刊アトラス記者 キャプテンブレイブ 】
【 6184 / 高ヶ崎・秋五(たかがさき・しゅうご)
               / 男 / 28 / 情報屋と探索屋 】
【 6408 / 月代・慎(つきしろ・しん)
            / 男 / 11 / 退魔師・アイドルの卵 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全9場面で構成されています。今回は皆さん同一の文章となっております。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。ここに第3話の東京編をお届けいたします。皆さんの備えがしっかりしていたからか、何だか呆気無くなっちゃいましたね。もう少し、混乱があるかとも思っていたんですが……。
・ともあれ今回の結果、事件のことは表に出ちゃいます。相手のやったことがやったことですからね。双葉の名前まで出てくるかは……まだ不明。次回上手く手を打てば、名前は出ないとは思いますけれど。
・『大神家の一族』も次回で完結……のはずなのですが、状況を見ているとどうも最後に1回草間興信所の方で終章を作らなければならないかなという感じがします。流動的ですが、その可能性もあるとは頭に入れておいてください。
・宮小路皇騎さん、39度目のご参加ありがとうございます。女性SP、配置していて正解だったと思います。陽動などしていた男たちを残さず捕らえることが出来ましたからね。調査に関する諸々は、金沢編の方で出てくるかもしれません。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。