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<東京怪談・PCゲームノベル>


文月堂奇譚 〜古書探し〜

桜塚詩文編

●ふとした気まぐれ
「うっふっふっ〜ん」
 とある夏の昼下がり、上機嫌で裏通りに入ってきた綺麗なストレートの茶色の髪を揺らしたスタイルの良い背の高い女性が歩いてくる。
 女性はブランド物のスーツを見事に着こなし、通りに入ってくると、一件のお店を発見する。
 見つけた店の名前は『文月堂』、かなり古い雰囲気を持った古書店であった。
 店を見つけた女性の名前は桜塚・詩文(さくらづか・しふみ)という。
「ふ〜ん、古本屋さんかぁ、これだけ古そうだと何か良い出物とかもありそうね。ちょっと寄って行こうかしら」
 詩文はそう言って文月堂の前で呟いた。
 そして詩文は文月堂の店の扉を開けたのだった。
「あら〜、思った通り、凄そうな本屋さんね」
 詩文は店内を楽しそうに見渡す。
 店内に人が入ってきた事に気が付き、店の奥から一人の少女が出て来る。
「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」
 奥から出て来た銀髪の少女はそう言って詩文に小さくお辞儀をした。
「あなたがここの店員さん?店の雰囲気と違ってずいぶんと可愛いのね?あなたお名前は?私は桜塚詩文というのよ」
 詩文のその問いに店番の少女が答える。
「私は佐伯・紗霧(さえき・さぎり)といいます」
「紗霧ちゃんか、ずいぶん可愛いらしい名前ね」
「ありがとうございます!?」
 詩文のその言葉に嬉しそうに紗霧が微笑みを浮かべて答える。
「ところで、私は今日は魔法の書を探しに来たんだけど、あるかしら?」
「魔法の書……ですか?例えばどういうのですか?」
 『魔法の書』という言葉に少し警戒し緊張した様に紗霧は答える。
「ごめんなさいね、お姉さんは実は悪い魔法使いだったのよ。だから『イエスズ会士の真性魔法書』とか『黒い雌鶏』とかを探しているのよ。言語はなんだっていいのだけどね〜。こう見えてもお姉さんは若い頃に一杯勉強したから大抵の文字は読めるのよ、だから結構博識なのよ」
「その本って……かなり危ない本なんじゃないですか?」
 紗霧の言葉にどこか楽しそうに詩文は答える。
「そうね〜、結構危ない本だと思うわよ。でもお姉さんならちゃんと使いこなせるから大丈夫なのよ〜」
 そこまで言われたが、紗霧は申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「すみません。そういう本はお売りする事ができないんです、あるのかどうかは私は知らないんですが……」
 紗霧のその言葉に詩文はまぁ、そんなものか、という様な表情を浮かべる。
「ふーん、売れないっていう物を無理やり出せという訳にも行かない話よね……。仕方ない、今日はお姉さん諦めてあげる」
 詩文のその言葉にほっと紗霧は安堵の息を吐いたのだった。

●封印
「あら?そういえばあなた、紗霧ちゃんだったっけ?何かを封印してるのかしら?」
 紗霧の顔をじっと見つめていた詩文がとうとつにそう話出す。
 詩文のその言葉に紗霧はドキリと胸の高まりを堪えきれずに詩文の顔をマジマジと見つめる。
 そして紗霧の表情は強張り、どこか怯えた様な表情を浮かべた。
 そんな紗霧の様子を見て詩文は優しい笑みを浮かべた。
「大丈夫よ、そんなに怯えなくても。別に取って食べようとかそういう訳じゃないんだから。お姉さんもね、実は昔自分で自分の事を、そうね、あなたが今封じこんでいる様な物を封じた事があるのよ。だからなんとなくそういうのは判るのよ」
「……そうなんですか?」
 まだ少し怯えた様に、だが明らかに先ほどよりは緊張が歩ぐれた様子で紗霧は詩文に問い返す。
「そうなのよ。色々あると大変な事っていうのはあるわよね。紗霧ちゃんもそうやっているという事は何か理由があるんだろうし。それを無理やりどうにかしようとは思わないわ

 気が付くと詩文の瞳の色は先ほどまでの興味本位の物から優しい、どこか包みこむ様な物へと変わっていた。
 その空気の変化に気が付いた紗霧もようやく緊張がとけたのか笑みを浮かべる事ができた。
「ごめんなさいね、急にこんな事を言い出してしまって」
「いえ、大丈夫です。私も急にこういう風に言われるとは思わなくて……。変な態度を取ってしまってごめんなさい」
 そう言って紗霧は詩文に小さく頭を下げた。
「そんな風に謝らなくて良いわよ。お姉さんもちょっと唐突すぎたのが悪いんだから。興味があるとついついそれを口にだしちゃう悪い癖なのよ」
 詩文はどこか悪戯を見つかった子供の様な笑みを浮かべた。
「でも封じなければいけないという事は大変な事よね。お姉さんもこう見えても結構苦労してきたんだから」
 気が付くと詩文は紗霧の反応に関係なく自分の苦労話を始めていた。
 紗霧はその話をただただ聞いているしかなかったのだった。
「で、そういう事になっちゃったのよ。私はあの時の事はずーっとずーっと忘れないわよ」
 もう完全に本を探していたという事実は忘れて、苦労話をする事に詩文は夢中になっていたのだった。
 そしてふと気が付くともう扉の外が徐々に夕闇に包まれ始めてきたのに詩文が気が付いた。
「あらいけない、もうこんな時間なのかしら。そろそろおいとましないといけないわね」
 そう言って詩文は苦労話をそこで終わらせる。
「それじゃ紗霧ちゃん、お姉ちゃんはそろそろ帰る事に……、あ、そうだわ」
 詩文は言いかけてふと何かを思い出した様に手に持っていた鞄の中を探る。
 そして出してきたのは小さなネックレスであった。
 小さな銀製のペンダントヘッドにはナウシズのルーンが掘り込んであった。
「これはね、紗霧ちゃんがどうにもう束縛されて動けなくなった時につけると良いわよ。きっと何かの役にたってくれると思うから」
「え……?ありがとうございます」
 驚きを隠せないまま紗霧はペンダントを受け取った。
「それじゃ今日は楽しかったわよ。また会いましょう」
 そう言って詩文はそのまま文月堂を出ていくのだった。
 店の外に出た詩文はふと考え込む。
「そういえば、私は何をしに行ったのかしら……?ま、いいかそんな事は」
 そう言って気を取り直した詩文はゆっくりと夕闇へ時えていくのだった。


Fin

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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≪PC≫
■桜塚・詩文
整理番号:6625 性別:女 年齢:348
職業:不動産王(ヤクザ)の愛人

≪NPC≫
■佐伯・紗霧
職業:高校生兼古本屋

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■         ライター通信          ■
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 どうも初めまして、ライターの藤杜錬です。
 この度はゲームノベル『文月堂奇譚 〜古書探し〜』にご参加ありがとうございます。
 詩文さんの気まぐれさを出そうと思って頑張って見ましたがいかがだったでしょうか?
 はじめてのノベル参加という事で、上手く描写できているか心配ではありますが、楽しんでいただけたら幸いです。
 それではありがとうございました。

2006.08.16.
Written by Ren Fujimori