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<東京怪談・PCゲームノベル>


[ 雪月花2.5 残るは唯一つの…… ]



 同じ宿で一夜を明かし、交わしたメールを見ては朝を迎える。
 別れの朝。けれど、それは彼女、崎咲里美にとって始まりの朝――。


 意を決し叩いた扉。返事はせず、ただ中から物音だけが響いていた。部屋は間違っていないはずだ。しつこいくらいに何度も確認したのだから。
「えっと、柾葵さーん?」
 思わず声をかけると物音がピタリと止み、少し後にドアが開いた。
「?」
 中から出てきたのはやはり柾葵だった。髪の毛は寝癖なのか所々はねていて、暖房が効いているとはいえ今はワイシャツ一枚で、腕まくりをしてもいる。
「えっと……、今一人?」
 その状況に戸惑いながらも里美が問うと、柾葵は一度右のポケットを探り、次に左のポケットを探り。そこに何も無かったことを知ると、里美の左手を取った。
『あぁ、洸どっか行った。』
 どうやらメモ帳もペンも近くに無いらしい。掌に書かれる文字を里美はゆっくりと解読し、やがて苦笑いを浮かべた。
「二人揃ってると思ったから今言いたかったんだけどな……どうしよ…」
 まさか朝から居ないとは思ってもいなかった、と言うのがある。チェックアウトの時間はもうすぐの筈だ。それは柾葵も考えていたようで、「そう言えば」と言ったような顔でやがて里美の掌に書き記す。
『もうそろそろ帰るから出るんだろ?洸には伝えとく。』
 少し名残惜しそうに、けれどしょうがないと言った表情で、やがて柾葵は顔を上げた。そんな彼と眼が合うと、里美は一瞬言葉を失いながらも、此処へ来た本来の目的、それを告げようとする。
「あ、それなんだけど……」
 が、その瞬間。部屋の奥で何かが崩れたような、そんな音がし思わず里美は柾葵の向こう側を覗き込んだ。
「――って、どうしたのその部屋!?」
 そして、その惨状に思わず声を上げた。まるで強盗にでも入られたのではないのだろうかと言う部屋の荒れ具合。まさかとは思ったが、里美は思わず柾葵を見返した。彼は暫く無言のまま。やがて未だ離していなかった里美の掌に『ん、探し物してて。』と、恐る恐ると言った様子で現状を書き記した。
「探し物……それで柾葵さんはこの格好で、部屋はこの状態なわけね。何探してるの? よかったら私も探すの手伝うけれど」
 柾葵にしてみれば助け舟が来た、そんな心境だっただろう。しかし、それを必死で隠そうとし――しかし一瞬見せた喜びの表情は里美に真正面から見られている――此処まで荷物をひっくり返しておいて尚、冷静であることを装い里美の掌へと返事を書いた。
『鞄、なんだけどな。  じゃあ、よければ手伝ってくれるか?礼の一つ位はする。』
「別にお礼はいいんだけど……うん、それじゃあ――」
 「一緒に探そう」と、言いかけ里美の思考が止まる。一瞬の沈黙に柾葵が不思議そうな顔を見せたが、次の瞬間里美は事の大きさに気づき声を上げた。
「って、鞄!? それって、かなり大事なんじゃ?」
 恐る恐る問えば柾葵は頷き、苦笑いを浮かべたまま里美の掌へと言葉を記す。
『あぁ‥かなり大事だな。確か本とか、手紙だとか写真とか‥あるし。』
「やっぱりどれも大切な物―― ぇ写真って……柾葵さんの?」
 思わず聞いてみたが、返答は無く、返ってきたのはただの苦笑いだけ。これ以上の質問は時間のロスにもなると考え、里美は小さくかぶりを振ると、今まで柾葵に掴まれていた手で彼の手を握り返した。
「……大丈夫。もう焦らないで? 必ず鞄は見つかるから」
 目の前の部屋の惨状を見れば良く分かる。彼がどんな思いで鞄を探していたのか位は。ただ、多少疑問も残った。こんな狭い場所でどうして鞄ひとつ見つからないのかと。
「えっと、でも昨日此処に着いた時は持ってたと思ったけど、部屋には無いの?」
 里美がそういうと、一瞬柾葵は眼を泳がせた。何かあるのだなと、瞬時に里美は悟り「心当たりは、あるんだ?」と問い直す。
『夜中散歩に出て  その時持ち歩いて、思い返せば持って 帰ってきた記憶が無い。』
 掌に書かれた文字を解読すると同時に言葉に出し、本当にこれで良いのかと里美が問えば、柾葵は小さく頷いた。夜中に外へ出たとして現在もう陽は昇りきった朝。大分時間が経っていた。
「…………えーっと、それじゃあ、とりあえず外に行ってみない事には始まらない…かな?」
 里美の提案に柾葵は頷き、そのまま一度部屋の奥へ行く。その何かの山の中から黒いコートを引っ張り出すと、しっかり着込み部屋を出た。
 揃って宿を出ると外は生憎の曇り空。
「それじゃあ一緒に探すことは出来るけど道は分からないから、昨晩の散歩ルートの案内、よろしくお願いします」
 ぺこりと頭を下げると、唐突に里美の体がガクンと動いた。
「まっ、!?」
 止めることも止まることも出来なかった。ただ、柾葵は依然焦っているのだろう。里美の左手をぐいっと引っ張ると、そのまま町の中心部へと向かい早足で歩き始めた。




    □□□




 昨晩はよく分からなかったが、こうして朝の風景を見ればごくありふれた町の姿が見えた。観光地としての姿は、やはり夜だけに見られるのかもしれない。人はまばらで、店がようやく開き始めた、そんな時間。
「結構来たね?」
 町の中心部にある噴水の前で二人、立ち止まっては一息吐いた。
 柾葵の散歩ルートは複雑で、表通りを歩いていたと思ったら急に裏通りへと移動し、又表へと出る。何か理由があったのか、それともただ思うがままにそう動いていたのか。
『疲れた、休もう。』
「あ、うん」
 噴水の隅っこに座る柾葵に続き、里美も隣に座った。時間帯のせいか噴水は止まっていて、後ろに落ちない限り濡れる心配はなさそうだ。
 ぼんやりと曇り空を仰いでいると、隣でガサガサと紙の音。思わず里美が隣を見れば、コートのポケットからメモ帳とペンを出している柾葵の姿があった。少しすれば、やはり里美へと一枚のメモ用紙が渡される。掌に書かれない訳はすぐに分かった。
『こんな話、今するのもなんだけどさ…もし、もしだ‥自分の両親を殺した奴が、わざわざ自分の居場所を残して行ってたらどうした?
 と、俺は分からないからもしそうだったら悪いけど、両親殺したのが能力者だったりしたら…どうしてた?』
 例え話、なのだろう。けれど、互いの状況を知っている今、この質問が本当に例えであるかは、それだけで終わるのかは分からない。ただ里美は小さく唸った後、俯く柾葵を見て言った。
「んー、そうだね……仇が居場所を残していってたら、私だったら追うと思う」
 自分の件で犯人の痕跡がない分、尚の事そう思う。
「追って、真実を確かめると思うよ」
「……」
 里美の言葉に、柾葵からの言葉はない。けれど、しっかりと話は聞いていて、彼女の言葉に何かしら思考を巡らせているらしい。時折眼が宙を泳いでは戻ってくる。
 やがて、柾葵の言葉は里美の掌へと向けられた。
『その居場所に 見当がつかなくても、か?』
「居場所を残していったのに……見当がつかないって、要するに分からないの?」
 問い返すと、柾葵は自分の言ったことの意味に気づいたのかかぶりを振る。
『今のは無しだ 悪い。  もう、行こう。』
 そして里美の手を解放すると立ち上がった。
「ぇ、……うん」
 一体何がどうしたのか――考えながらも、里美は先行く柾葵の後をついていく。やがて隣に並ぶが、彼はそれ以上メモを渡すことも、彼女の掌に何かを書くことも無かった。ただ、何処かを目指し、無言で歩き続けた。


 やがて辿り着いたそこは終着点。此処まで来て少し休んだ後、来た道をそのまま戻ったと柾葵は言う。
「結局、此処に来たんだ……というか戻って来た、と言うべきかな?」
 此処に来たのは、まだついさっきの気がする。二人揃い星空を仰いだ丘の上。柾葵がどうして再び此処へやってきたのかは分からない。それを問うことも、先ほどのこともあってかなんとなく阻まれた。
 ただ、此処で見つからなければ鞄はもう何処にも無い。その考えだけが、確実に里美の頭を支配し始めている。全てのきっかけは柾葵から写真の話を聞いてからだ。
 昔も今も好きなのは変わらない。けれど写真には写らないようにしていると――出会った頃の彼は里美にそう言った。それが妙に引っかかっていた。もしかしたら、その写真に何か理由があるのではないのかと……里美は察す。そして、気づけば柾葵に言った言葉を忘れ、必死に鞄を探していた。
 夜見た風景とは違うこの丘は今、涼しくて穏やかな風が吹いている。辺りに生えている草は長く、最長で里美の膝に達した。この辺りに鞄が埋もれていれば、近くまで行かなければ分からないだろう。
「どこだろう……」
 ゆっくりと柾葵の傍から離れ、里美は辺りを探し始めた。陽はゆっくりと頭上近くに迫っている。秋の丘とはいえ、此処まで歩いてきた距離と、気を配りながら歩くその行為は気を使い、薄っすらと額に汗が滲む。
 置いてきてしまった柾葵の方を振り返れば、彼は彼で里美とは逆の方向を探していた。
 こんな場所だ、柾葵が散歩したという深夜から見るものも無い夕方まで人は訪れていない――筈だ。誰かに持っていかれたという可能性は低いと思っていた。
 やがて丘の中でも一際見晴らしの良い場所に出た。町の反対側が一望できる場所だ。この場所に限っては、見所は夜空だけではなく、目の前の風景にもあるだろう。周囲は山ばかりだが、所々が赤や黄色に色付き、川も流れ街道も見える。
 しかし、そんな景色に見惚れていた里美は唐突に前につんのめった。
「いっ――――!?」
 一瞬草に足をとられたのかと思った。何かにビンッと引っかかった気がしたからだ。しかし、足元を見て気がついた。そこには何かがある。しゃがみこみ、ようやくその存在に気づいた。
「……コレ、もしかしてそうじゃないかな?」
 そう里美が持ち上げて振り向く柾葵へと見せたのは、普通であればこんな場所にあるわけのない鞄だ。そして、それを見るなり柾葵が里美の方へと飛んできたことは言うまでも無い。
 物が見つかれば後の問題は中身だった。柾葵は一旦鞄を下に置くとしゃがみ、ジーッとファスナーを開け、ゴソゴソと鞄の中身を漁り始める。里美はそれを立ったまま、後ろから見守っていた。
 やがて彼の動きは止まり、手渡された一枚のメモ。
『あった‥中身も全部無事だ。』
「よかった……」
 思わず里美も安堵の息を吐く。
『助かった。ホント、サンキュ。』
 やがて鞄を持ち立ち上がった柾葵からもう一枚、礼を告げるメモと別の何かが里美へと渡された。
『礼になるかは分からないけどこの写真、やるよ。』
「ぇ、これ……もしかして、」
 共に渡されたのは、少し色褪せた一枚の写真。それを手にした里美はすぐさま柾葵を見返した。
『昔の写真。家族で最後に撮った写真、だな。最後の一枚。』
 彼女の言いたかったことはその表情からすぐ分かったのだろう。答えはすぐにメモで返ってくるが、その言葉に里美はかぶりを振った。
「最後の一枚って…そんなの貰えない!」
 すぐさま押し返そうとする里美に、柾葵もかぶりを振り。続けざまにメモを渡す。
『正確には最後じゃない。本当はネガが残ってるんだ。持ち歩いてはいないけど、残ってはいる。
 ただ、焼き増しすると思い出って感じがしないんだ。新しい、作り物の何かの気がして。
 やっぱりつい最近の事で、まだみんなすぐ傍に居るんじゃないかって‥馬鹿みたいに錯覚もするから。』
「だったら尚更これは持っ――んむーー!?」
 引き下がらない里美に、柾葵は笑顔で彼女の口を塞いだ。自らの手で。
 カサリと渡された紙には、既に里美の言動など読みきっていたらしい彼の文字が書かれている。
『良いんだ、持っていてほしい。つうかいいから持ってろ。
 思い出は確かに形で残しておくのも大事だけど、それが無くても思い出は思い返せるし、顔を忘れるわけでもないから。』
 それを見た里美は、少しした後コクリコクリと何度か頷いた。するとようやく柾葵の手が里美の口を離れ、彼女は大きく息をする。
「――――ぷっはぁ……」
 里美が深呼吸を続ける間、柾葵は鞄を持つと立ち上がり、また一枚のメモを里美へと向けた。
『写真…ホントは凄い好きだった。ただ、もうダメなんだ。俺の中の時間は、その写真で止まってる。
 止めて おきたいだけなのかもしれないけどな。今はまだ、動かせない。何も終わっちゃいないのに、俺独りが写っちゃいけない。
 でも、もし‥俺が目的を達成出来た時は、よかったら…気が向いたら撮って欲しい。記念に。』
「………………」
 読み終わったメモは、少し考えた後ポケットにしまった。これは今この場で失くしてはいけない気がして。そして小さく頷き。
「分かった、とりあえずコレは貰うね。柾葵さんの、大切な写真だから」
 受け取った写真を大事に抱え込んだ。
「じゃあ…鞄も見つかったし、そろそろ帰ろっか?」
 そう言ったところで。里美の手はまたしても柾葵に掴まれる。その手の指が、掌に書く言葉。今までは暖かいような、くすぐったいような感じのしていたその動作も、今この瞬間ばかりは里美を凍らせた。
『そう言えば、洸に書き置き残してないな。』




    □□□




「それで――二人揃って鞄を探しに……?」
 荷物無く消えた柾葵と、カメラを除き荷物を置いたまま消えた里美。書き置きも何も無く消えた二人に、捜索願の一つでも出そうと洸が考えていたときだった。柾葵と里美が勢いよく部屋のドアを開けたのは。そして椅子に座りぼんやりと外の方向を見ている洸と二人の目が合った。今日の彼は珍しくサングラスをはずしていて、心なしか眼の色は青に見えた。それは、いつの間にか窓の向こうに薄っすら見える青空、それに少し似ている気がする。
 やがて二人から状況を説明され、洸は多少納得したものの「本当に馬鹿だよね、普通鞄忘れる?」を皮切りにいくつか悪態を吐き、やがて時計と里美を交互に見て言う。
「まぁ、柾葵はともかく崎咲さんはもう帰らなくちゃまずいんじゃないの? もう、昼を過ぎましたよ」
 洸の言葉に、里美はハッとした様子で二人を交互に見て言った。
「あ、それなのだけど。私ね、今朝二人に言おうと思ってた事があるの」
 里美のその言葉に、柾葵が「そういえば…」という顔を見せる。
「なんですか?」
「私も……二人と一緒に行く。この先の旅、一緒に行きたいの」
 軽い気持ちで聞いてたいたことは勿論、内容もそう大したものではないだろうと、何処か高をくくっていたのが洸にとって間違いだったらしい。予想外の事態に、一瞬眼を見開いた。
「あのね、柾葵さんと話してメールして…決めたの。二人の………その…柾葵さ、んの…力になりたいから」
 語尾は消えそうなほど小さく、その声が二人に届いたかもよく分からない。洸は暫くの間黙り込んだまま。ただ柾葵は、里美が何を言ったのかよく分からなかったといった様子でポカンとしている。ただ暫くの後、洸が首を傾げながら里美に問い返す。
「俺達の力、に?」
 洸には里美の言葉は届いたらしい。多分、一部を除き。しかし洸は「ん?」と、何かに気づき、その視線を里美から柾葵へと移す。
「…待って。何、それ? 原因はお前なわけ?」
 原因という言葉を使う以上、彼は今の彼女の言葉をあまり良い意味には捉えてないのかもしれない。余計なことを、もしくは勝手に彼女を巻き込んだ――と。なんとなくそんな雰囲気を察した里美も、すぐさまフォローを入れておく。
「あ、違うの。決めたのは、私だから。それにね――」
 しかし、そのフォローの途中鳴り響く電子音。見れば、洸の携帯電話が鳴っている。それはメール音だったのかすぐ鳴り止むが、洸は携帯電話のディスプレイを見ると一瞬その表情を強張らせ、後に里美を見た。その表情は既に普段のものへと戻っている。
「悪い……ちょっと、外出るから、この件は保留。すぐ戻ってくるから待ってて下さいよ」
「あ、うん」
 パタンとドアの閉まる音と同時、部屋には静寂が訪れた。
 洸がどれ程で戻ってくるかは分からないが、この僅かな時間をどうするべきか里美は考える。そして、ゆっくりと柾葵を見て言った。
「――柾葵さん言ってくれたよね? 私の力は誰かの為に使う日が来るって」
『あ、あ‥確かに言った。きっといつか、誰かの為に――って。』
 返答は筆談だ。渡されたメモに里美は頷く。昨日、丘の上でのことだ。お互い、特に言われた里美はきっといつまでも忘れてるわけが無い。
「私だって誰かの為になるならその人の為にこの力を使いたい。だから……最初の誰か、になってほしいの」
 静かに、けれどその眼と意志は強く。柾葵はそんな里美の言葉を真正面から聞き入れていた。
「きっとそうすることで、私自身も前に進んでいけると思う。それで、もっともっと色々な事を経験して……もっともっと――強くなりたい」
 ギュッと握り締めた両手。しかし、それが唐突に握られ開かれた。柾葵の手によって。そして、その掌へと、ゆっくり言葉が書かれ始めた。
『強い意志がこんな所で出てくるとは、な。こんな力入れて。ま、要するに今があの時のいつか、な訳か。』
 コクリと頷く里美に、柾葵は苦笑いを浮かべながらも更に続ける。
『でも仕事は?今は旅行中って言ったけど、帰らなくちゃまずいだろ?』
「仕事は大丈夫! もともとフリーだし。だから……一緒に行っても、良いですか?」
 ジッと、それは真剣な面持ちで柾葵を見た里美に、彼はフイッと視線を逸らす。そして里美の手から一旦手を離すと、その手でそのまま自分の顔を隠した。主に口を。
 そして顔は逸らされたまま、彼はやがてメモ帳を取り出しそこへサラサラと言葉を書き綴った。
『おまえ……上目遣いは禁止、な。なんにしても決定権は洸が持ってると思う。俺が決めてもあいつが却下すれば無理になる。
 それに、正直俺達と行くのは危険だと思う。共に来ることを、勧めることは出来ない。』
 何か言おうとする里美に対し、すぐさま次のメモ用紙が渡された。
『でも、そう言って貰えるのは嬉しいし‥一緒に来るなら、危険な目にはあわせたくない。俺が守る!とか言いたいけどな‥
 俺も洸も何処かしら欠けてるから、どうなるか分からない。
 それに、俺は……目的達成できても出来なくても春には大学戻るつもりだから、後少しだ。それでも…良いのか?』
「春には――そう、なんだ……」
 確かに、彼がどれ程この旅を続けているか分からないが、いつまでも休んでいるわけにもいかないだろう。そっと押し黙った里美に、柾葵が何か言いたそうに一歩近寄った。その時ドアは唐突に開く。入ってきたのは勿論洸だった。
「ごめん、それでさっきの続きだけど――」
 瞬時に柾葵が里美から一歩退く。里美は「お帰り」と洸に言葉をかけ、洸はそれまで二人の間に流れていた空気には微塵も気づいていなかった。ただ、彼女を見て真顔で切り出す。
「同行を歓迎します、とは言えません」
 その言葉に、柾葵の言葉が脳裏を過ぎる。決定権は洸が持っている。つまり、同行は無理――。しかし、洸の言葉には続きがあった。
「ただ、拒絶するとも言いません」
 一瞬の間の後、思わず里美は問い返す。
「え、それって要するに……?」
「そいつからも少し聞いたと思うけど、安全は保障しません。俺には助けることは出来ませんし。頼るならそっちを頼ってください。それを前提に来るのは構いませんよ。後、柾葵の相手をしといてください。そうすると俺も助かるんで」
「っ……ありがとう。これから宜しくお願いします」
 思わず改まり礼を告げると、顔を上げた先に見た洸は微笑を浮かべていた。
「じゃあ、俺は先に出てフロント寄ってくから、二人も準備して下に降りてきて。少し遅くなったけど、すぐに出発しますから」
 そう言い自分の荷物を手に持つと、洸は早々に部屋を後にした。
 思わず里美の体から力が抜け落ち、その場に座り込みそうになったところを柾葵に後ろから支えられる。
「ぁ……ありがと…?」
 そしてそのまま、半ば後ろ抱きの状態で彼は里美の手を取った。なんだか昨日も似たような状態になった気がする。
『ま、そういうことだとさ。これからも 宜しくな。』
「うん、こちらこそ」
 言いながら顔を上に向けると柾葵と目が合った。彼は笑いながら、まるで出会った頃のように里美の頭をくしゃりと撫でるともう一言。
『あと、今日はホント、ありがとな  里美。』
 最後は彼の、その口すらも同時に動く。
「――――…………っ!?」
 声は勿論、聞こえないのだけれども……。

 里美は一度部屋に戻ると鞄を持ち、気持ちを落ち着かせてからロビーで洸と柾葵に合流した。柾葵から渡された写真は一旦鞄へとしまい、平常心を保とうとする。
「それじゃあ…行きましょうか」
 率先するよう歩く洸の後ろを柾葵がひょこひょことついていき、そんな彼の後ろを里美が歩く。
「うん、行こ」
 しかし、先行く柾葵が振り返っては「早く行こう」と言いたげな顔で里美の手を引っ張ったところで、彼女は再び平常心を失う事となる……。



 季節はやがて秋から冬へ。三人の旅路が今此処から始まる。
 けれど、その旅の終わりがすぐ側まで迫っていたことなど……この時はまだ、誰も知らなかった。
 否、ただ一人を除いては――――。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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→PC
 [2836/崎咲・里美/女性/19歳/敏腕新聞記者]

→NPC
 [  洸・男性・16歳・放浪者 ]
 [ 柾葵・男性・21歳・大学生 ]←main!

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、亀ライターの李月です。いつも有難うございます!本当に色々とお待たせしましたが2.5話のお届けです。
 このお話は少々状況が変わりまして2話から完全に続いた状態になっています。なので、色々順番も変わっていますが、同行ありがとうございます。
 自分の時間を動かしてはいけないと思いながらも、前へは進もうとしている。この矛盾は彼が崎咲さんと出会う前から抱え続けている物でありますが、今に関してはやはり特別な理由が働いていたりします。
 3話からは真相により近づいていきますが、今まで得た情報、そして崎咲さん自身が抱える想いと考えで何かが大きく変わる可能性もあります。ので、又3話でお会いできれば嬉しいです。彼からの写真も、よろしければどこかに保管を…。柾葵からの願いは、良ければこの先どこかで答えを出してあげてください。全ては彼が目的を達成しないことにはアレなのですが。
 最後になりましたが何かありましたらお気軽にご連絡ください。

 それでは又のご縁がありましたら…‥
 李月蒼