コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


緋色の珠玉

オープニング

 緋色の珠玉、それは使用者の願いを一つだけ叶える宝石。
 しかし、願いを叶えるというだけあって、支払わなければならない代償は大きいものだと伝えられる。
 この日、草間興信所には三人の依頼者がやってきた。

 一人目の依頼者『沙庭ナオト』
 派手なスーツで着飾った彼は、母親が病気で入院しており、その治療代を稼ぐためにホストをしているのだという。
 治療といっても現状維持で決して良くならない母親の体を心配していたときに客の一人から緋色の珠玉の事を聞いたのだという。

 二人目の依頼者『姫川ヨーコ』
 良くもわるくも、特徴のない彼女は近くのコンビニエンスストアで働いているのだとか。
 毎日働きづめの彼女が緋色の珠玉に願うのは『お金』。
 遊び暮らしたいがために緋色の珠玉を手にしてほしいと依頼をしてきた。

 三人目の依頼者『溝口ショータ』
 小学生の彼が緋色の珠玉を欲しがるのは、自分の将来を自分で決めたいからだという。
 とある財閥の一人息子である彼は動物園の飼育係になりたいのだという。
 しかし、跡取り息子である彼には許されない道だった。
 そんな場所から逃げたくて、自分の将来を自分で決めたいから、彼は緋色の珠玉を手にしたいのだという。

「依頼者は三人。しかし、手に入れられる珠玉は一つのみ、か」
 草間武彦はポツリと呟く。
 さて、あなたは誰の依頼を受けますか?

視点→桜小路・花

「…あれ…?」
 その日、花は買い物をした帰りだった。今日の晩御飯は何かなぁ、と暢気に考えていると、一人の少年に目が留まった。
 その少年は見るからにお坊ちゃまで、まだ少し大きな黒いランドセルを重そうに背負っていた。別にそれ自体は可笑しな事ではないと思う。
 今は下校時間だし、小学校に入りたての子供ならばランドセルを重そうに背負うのも納得が出来る。
 花が疑問を抱いた事、それは少年が出てきた建物だった。

『草間興信所』

 明らかに小学生の男の子が出入りするような場所ではない。
「…ねぇ、キミ」
 花が声を掛けると、少年は驚いたような、不審者を見るような目で花を訝しげに見てきた。その視線に気がついた花は慌てて「アヤシイ人じゃないよぅ」と言葉を付け足した。

「………何の用ですか?」
「草間興信所…から出てきたよね?」
 そうですが、それが何か?この年頃の少年にしては、あまり相応しいとは言いがたい丁寧な言葉。
「いや、キミみたいな子供が出入りするような場所には見えないから」
 花がそう言うと、少年は俯き「…もう、こうするしかないから」と弱々しく呟いた。その少年の様子を不思議に思った花は、立ち話もなんだしと近くの喫茶店に誘った。
「あたしは、桜小路・花よ。キミの名前は?」
「…溝口ショータ」
 それぞれの飲み物を注文したあと、花は「何であんな所にいたの?」と問いかけた。それは問いただすような言い方ではなく、どこか心配するような言い方だった。
「お姉さんは将来の夢って、ありますか?…それは、叶う夢ですか?」
 ショータの突然の質問に花はキョトンとした表情でショータを見た。花にも将来の夢はある。曾祖母のような魔女になること、それが花の夢であり、その為に努力もしているのだから。
「あるわよ、キミにもあるでしょ?」
 幼い彼にならもっと沢山の夢があるはず。宇宙飛行士になりたい、弁護士になりたい、ショータくらいの男の子なら沢山の将来の夢を語るはず。
「僕にも…あります。動物園の飼育係になりたいんです。だけど――…」
 ショータが言葉を区切ったところで飲み物が来て、それを一口飲む。
 そして、再度口を開いた。
「だけど、僕はお父さんの会社を継がなくちゃいけなくて、だから、動物園の飼育係にはなれないんです…だから、緋色の珠玉に僕の願いを叶えてもらおうと…」
 だから草間興信所で緋色の珠玉の捜索依頼をした、とショータが呟いた。
 お金持ちだからと言って全てが叶うわけではない、そんな事は花にも分かっていた。
 だけど、花はそれよりもショータに腹が立ったのだ。
「それで、キミは何をしたの?」
 花が問いかけると「え?」と間の抜けたような声でショータが返事をしてきた。
「え?じゃなくて、キミ自身が夢のためにした事って何?ほんとうになりたいんだったら。どんな事をしても親を説得する努力をしたらどうなの?」
 いずれ家を出る覚悟、親を説得する努力、それらを成していないうちから自分は可哀想だと悲観して人に頼る…今回は石だからモノだけど。
「まだキミは小さいのよ?夢を叶える事ばかりを追いかけないで、ちゃんと現実と向き合ったらどうなの?」
 それに動物園の飼育係と言っても簡単な事ではないのだ。誰かが辞めない限り、募集が出る事がないのだから。
「それにキミは飼育係になる努力すらしていないじゃない。そんなのはただの我侭でしかないわ」
 花はグイッとジュースを飲み干し、会計を済ませてショータの腕を掴みながら外へと出る。
「お、お姉さん、何?」
「動物の事なら動物に聞くのが一番手っ取り早いでしょ?」
 近くの公園にいた猫を捕まえて、自身の能力を使う。
「何、してるの?」
「‘簡単に叶うのなら夢じゃないでしょ?’」
「…え?」
 この猫の言葉、そう言って花は言葉を続ける。
「‘叶わない夢なんてないのよ、諦めずに頑張ればきっとご両親も分かってくださるわ’」
「…あたしの事を疑うならそれでもいい、だけど、これはこの猫の言葉なのよ」
 花が呟くと、ショータは涙を零しながら「うん」と何度も頷いた。
 きっと、ショータに必要だったのは『緋色の珠玉』などではなく、誰か話をきちんと聞いてくれる人間だったんじゃないだろうか?花はそう思いながら笑みを零した。
「草間興信所に行って謝ろ?自分の夢は自分で叶えます、って」

 その後、二人は草間興信所に行って依頼キャンセルを行った。草間武彦はキャンセルに来ると確信していたのか、苦笑交じりに「頑張れ」とショータの頭を撫でながら言葉を紡いだ。


「え?何でショータにお節介をしたかって?それは…緋色の珠玉の使用者から奪われる代償ってのが気に入らなかっただけよ」


                 END

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 6675   /桜小路・花 / 女/ 15歳/女子高生かつ(自称)魔女見習い

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
桜小路・花様

はじめまして。瀬皇緋澄と申します。
今回は『緋色の珠玉』に参加してくださり、ありがとうございます。
話の内容はいかがだったでしょうか?
少しでも面白いと思っていただけたら嬉しいです。
ご意見、ご感想などありましたら、遠慮なくどうぞです。
それでは、またお会いできる事を祈りつつ、失礼いたします。

                 ―瀬皇 緋澄