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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


魔女の刻印

オープニング

 それは一人の女性が草間興信所にやって来た事から始まった。
「お願いです、この子を…殺してください…」
 そう言いながら女性は一枚の写真を渡してくる。
 その写真には一人の可愛らしい少女が笑いながら写っていた。年の頃は十歳前後だろう。
「失礼だが…この子は?」
 草間武彦が問いかけると、女性は一言「娘です」とだけ言葉を返してきた。
「娘の…暗殺依頼?」
 あからさまに嫌悪を露にした表情で草間武彦が女性に向けて言葉を返す。
「この子の名は…レオナ。………父親を殺した悪魔です…」
 父親を殺した、という穏やかでない言葉に草間武彦は眉を顰めた。
「殺した…?」
 女性が嘘をついているようには見えない、しかし…写真に写る少女が大の大人を殺したという事も信じることが出来ない。
「詳しく話を聞かせてくれ」
 零が出したお茶を一口飲み、女性はポツリ、ポツリと話し始めた。
「レオナは優しく、誰からも愛される子でした。――…あの事故が起きるまでは」
「あの事故…?」
「ある日、レオナは交通事故に遭ったんです。軽い打撲程度で済み、誰もが良かったと胸を撫で下ろしました…。ですが…」
 女性はそこまで言うと、ぐっと唇を噛み締め肩を小刻みに揺らし、震えだした。
「あの子は変わってしまった。残虐な事をし始め、あの日、父親を殺したんです」
 うっ、と嗚咽を漏らしながら女性は涙を流す。
「何があったんです?」
「…レオナが…楽しそうに笑いながら父親の首を絞めていたんです、片手で…」
 片手、確かにこの女性はそう言った。普通の子供が片手で大人の首を絞めて殺すことが出来るだろうか?
「他に…変わったことは?些細な何かでもいいんだが…」
「首の所に…花びらのような痣が出来ているんです…。関係がないとは思うんですが…」

「…事故後に変わった娘、か」
 女性が帰った後、依頼書を見ながら草間武彦はため息混じりに呟いた。
「…さて、どうしたものか……」


視点→パティ・ガントレット


「欲しい。実に欲しい」
 偶然、草間興信所を訪れたパティは草武彦から依頼の相談を持ちかけられた。
 事故に遭ってから、突然変わった娘、そして大人の男を簡単に殺せた能力の高さ。どれに注目してみても素晴らしいほどの力の持ち主だ。悪魔と呼ばれているならば尚更だ。
 下働きには持って来いの人材にパティは少しだけ頬が緩む。
「草間様?お手伝いはさせていただきますが、お望みはどの段階まででしょう?」
 パティは零が出してきた紅茶を一口だけ飲みながら草間武彦に問いかける。
その問いかけの意味が分からなかったのか、草間武彦は眉間に皺を寄せながら怪訝そうな顔でパティを見た。
「ふふ、どこまでしていいのかをお聞きしているんですよ、調伏か、処理か。それとも、調査か…」
 その言葉に草間武彦は暫く考えこんでいた。
「…父親を殺したという事実が残る以上、母親から愛される事はないな、いや、それ以前にまともな人生すら送れないだろう…」
それならば、いっそのこと…という気持ちも草間武彦の中には存在する。
「殺すをやむを得ず、というお考えならばわたしに、譲ってはいただけませぬか?」
 その言葉に草間武彦は少々考え込んだが、自分ではどうする事も出来ないと言う事を理解しているのか「…分かった、任せる」と言って依頼書を纏めた物をパティに渡してきた。
「ありがとうございます。それでは終わり次第、ご報告に参りますね」
 クスリ、と笑んでパティは草間興信所を後にした。
「…さて、どうしましょうか」
 とりあえずは依頼をしてきた母親の元へと向かい、詳しく話を聞こうとパティは、草間武彦から渡された紙を頼りに書かれている家へと向かった。
 

「…どちら様、でしょうか…」
 インターホンを鳴らした後に出てきたのは、少しやつれた感じの中年女性。
「草間興信所から参りました、パティ・ガントレット…と申します」
 草間興信所、という言葉に女性は「立ち話もなんですし……」と家の中に入るように促してきた。話の内容が内容だけに近所の人間に聞かれたくないのと、盲人用の杖を持っていたパティを気遣う事もあったのだろう。
「コーヒーでよろしいでしょうか?」
「いえ、お構いなく、娘さんの事を聞いたらすぐにお暇しますから」
 娘、という言葉に部屋の中の空気が変わったのがパティには感じられた。
「…娘さんは?」
「…いえ、今は…母に預かってもらってます…。父親を殺したというのに…あの子は変わりなく私に甘えてくるんです…。き、機嫌を損ねたら私までも殺されてしまいそうで…怖いんです」
 女性の声色の雰囲気が変わる。話し方に偽りはなく、心の底から恐怖しているような感じだ。
「…貴女は今後、娘さんをどうするおつもりですか?」
「…私にあの子は育てられません、きっと私が狂うか、殺されるかしかないと思いますから…」
「そうですか…。ではわたしが連れて行っても問題はありませんね?」
 パティが小さな声で問いかけると女性は「…貴女…いったい…」と呟いた。
「娘さんはお婆様の所ですね、その場所を教えていただけますか?」
 女性は何も言葉を言う事無く、パティにレオナの居場所を伝えた。
「…あの子を、よろしくお願いします。あの子を忘れないことが…私に出来る最後の母親らしいことですから…」
 女性の嗚咽らしい声が聞こえたが、パティはそれに構わずレオナのいる場所へと向かった。


「…お姉さん、あたしを殺しにきたの?」
 レオナの住む祖母の家に着いたとき、小さな女の子特有の高い声が耳に入ってきた。
「あら、お姉さんは目が見えないのね」
「さぁ、どうでしょうね。今日は貴女にお話があって来たの。わたしのところへ来ないかしら?」
 パティの言葉に驚いたのか「え?」と戸惑うレオナの声が耳に入ってきた。
「暴力ならウチに来ればいくらでも。憎悪も憤怒も、全ての衝動を受け止めますよ?悪い話ではないと思うけれど…」
「あたしは…自分の感情がコントロール出来ないの、いつかお姉さんを殺しちゃうよ、パパみたいに…」
 確かに微かな能力増幅させるような微弱な流れを感じる。おそらく母親の言っていた花びらのような痣のせいだろう。事故に遭い己の危機の時に隠されていた能力が発芽したのだ。そのせいで感情がうまくコントロールできずにいるのだ。
「わたしは簡単にやられるほど弱くはないですよ、きっと貴女にとっては居心地の良い場所になると思うけれど…?」
 どうする?パティは再度レオナに問いかける。
「何でもするから…あたしをつれてって…お願い…」
 レオナはレオナなりに父親を殺した事、自分の能力の恐ろしさを分かっているのだろう。
「いいよ、ついておいで…わたしはパティ・ガントレット…」


 そして、レオナはその後パティのところで下働きとしてだが充実した暮らしを送っている。
 暴力も何も全てが許されるのだから。
 レオナが待ち望んでいたのは、きっとパティのような者だったのだろう。
 そして、その報告をしたとき、草間武彦はどこか安心したような声だった。
 いくら父親殺しとはいえ、幼い子供を死なせるのはしのびなかったのだろう。


「パティ様、あたし…今すごく幸せですよ」



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名      / 性別 / 年齢 / 職業】

 4538 /パティ・ガントレット/ 女  /28歳 /魔人マフィアの頭目

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■         ライター通信          ■
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パティ・ガントレット様>

初めまして。
今回『魔女の刻印』を執筆させていただきました瀬皇緋澄です。
この度は発注を掛けてくださり、ありがとうございました。
魔女の刻印はいかがだったでしょうか?
少しでも面白いと思ってくださったら、ありがたいです^^
何かご意見、ご感想などありましたら是非聞かせてくださいませ。
それでは、またお会いできる事を祈りつつ失礼します。

            −瀬皇緋澄