コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


商物「過現未」

 趣味を聞かれたら、さんざ悩んだ末に読書? と答えるのが書目皆という青年だ。
 実家が古書店を営み、自身もその代々の家業を手伝うに、一番好きな事が比重を大きく仕事に傾けるが故、趣味、に分類するに疑問を抱かずにいられない生粋の本の虫だ。
 故に休日、古書店『書目』から放り出されてしまうと、どうやって時間を潰すたひたすら悩む。
 皆の休日は客商売の為に不定期な上、父の予定や祖父の都合に左右され、長いときは三週間ほども無休であるかと思えば、一週間ほども放り出される事もある……店内で最も立場の低い皆故に一番便利に使われている実際に、予定は常に未定である。
 とはいえ、本人は店に居る時間が最も充実ているので欠片も不満を感じていない。
 大概、不意となる休日と上手い具合に重なれば、古本市やフリーマーケット(意外な掘り出し物があったりする)に嬉々として赴く所だが、週の真ん中の平日、しかも夏休みも終わりを告げたばかりとくればイベント事は音を立てて激減して、皆は時間を持て余していた。
 それこそ他の書店を巡ればいいのだろうが、近隣の書店に皆の求める知識を重点に取り扱う店はなく、普通の書店ともなればいわずもがな、である。
 そんな無為の休日を持て余し、無目的に町を流離っていた皆は、ふと、自分が暗い路地に入り込んでいる事に気付いた。
「……あれ?」
つらつらと、とりとめのない事を……下らなさすぎて覚えても居ない、思考を重ねていたのは自覚しているが、何を思って路地に至っているのかまで理解できない。
 我に返れば己でも謎の行動に首を捻り、何処までも続いていそうな路地を戻ろうと踵を返して直ぐ、皆は其処に店がある事に気付いた。
 完全に、通り過ぎた位置である。
 店内は外から見ても薄暗く、営業の是非すら判断出来ないが、それでも細い路地に存在感のあるそれに、全く認識出来ないのも人としてどうか、と皆は呆れに腰に手を置き、頭を一つ振ってまだぼんやりと残る眠気に似た思考を振り払う。
 さて、そうなればこんな対向者と擦れ違おうものなら、肩をぶつけずに居られない路地に構えた店の存在が気になる。
 店舗の外観、円形と菱形を線で組み合わせた格子に絡む植物めいた紋様が大陸のそれを思わせて一見、雑貨の販売を兼ねた中華飯店めいているが、装飾の施されるのは華やかな朱ではなく、黒漆の艶やかさはどこか和風である。
 存外、埃っぽさのないショウ・ウィンドウを覗き込んで、台付きの万華鏡や拡大鏡、そんな物の中に書見台に置かれた本を見つける。
「お?」
流石に内容まで見て取れないが、古書独特の紙の風合いを判じて、皆は職業病的な興味がうずうずと起き出すのを押さえきれない。
 しばしの躊躇……この場合は店が営業しているか否かの判断が付かない為、であるが店が開いてたら扉が開くだろう、と最もな判断を下して皆は真鍮の取っ手を握り込んだ。
 古びて丸い取っ手は、確かに金属なのだが奇妙な暖かさを持つようでもある。
 存外、容易に扉は開き、遠慮がちに薄い隙間から中を覗き込めば薄暗いながらも、中の様子は見て取れた。
 正面奥に広く畳敷きの台場があり、其処に到るまで膝から腰へと順に高さを変える台には駄菓子や子供だましの籤が並ぶかと思えば妙に古びた本が積まれ、ガラスケースに真贋を問いたくなる無頓着さで装飾品の類が並ぶ。
 空気の流れに乗って鼻を擽る生薬の香が心地よく、懐かしいような落ち着きを覚えて、皆はほっと肩の力を抜いた。
「すみませ〜ん?」
店員の姿を探して、というにはささやかにか細い声で呼びかけながら、皆は何故だか抜き足差し足、店の奥へと歩を進める。
 先の香の正体は、壁かと紛う程に大きな棚の一面、小さな引き出しに和紙に墨でひとつひとつ、納められた薬種が元らしく、歩みの毎に僅かな変化がある。
 そんなごく些細な事柄を認識したのは久しぶりだと、楽しくなって皆は店内を見回してある一画で視線を止めた。
 店の片隅、東洋風のライティング・デスクの棚に何冊か、本が立てかけられていたのだ。
 書見台のそれよりもそちらの方が気にかかり、皆は他に脇目も振らず、古びた皮表紙の一冊を取る。
「ゲーテの詩集……原文か。発行年は解らないかな」
パラパラと、中性紙ではない、厚みの統一しない紙を繰る。それだけでかなり旧い時代のそれと知れるが、時代・年代は手に取っただけで容易に判別出来ない。
 15世紀に木版印刷から活版印刷に移りかわってから、17世紀に著作権が確立するまでの間に発行された書物の多くは重ねた版数や発行年が曖昧なものが多い。
 紙質、装幀のデザイン、そして字体の種類から判断を要し、専門知識は多岐に及ぶ。
 子供の頃から店に出入りして数多の書物に触れていても、父及び祖父に未だ及ばぬと半人前扱いされているのは、知識の絶対量が足りない為と……商品である店の本に没頭してしまうその為である。
 商品価値としての判断より先に、知識の糧として見てしまうのを未熟の証と言われても、即時に改められるものではない。
 しかしながら、それに甘えて研鑽を怠けるようでは、古書店『書目』店主の座は遠い、と皆は身内だからこそ厳しい目がない場所で己が知識を試す絶好の機会とばかりに、主に装幀の重量が腕にかかる本をライティング・デスクの上に置いた。
 店内の薄暗さの中で、皆は些細な特徴すら見逃すまいと、懸命に銀縁の眼鏡越しに書物に目を懲らす。
 装幀を確かめ、紙質を指先で探り、字体を綿密に追ってやがて……皆は癖のある黒髪に両手の五指を突っ込んで掻き回した。
「……有り得ないッ!」
「それはそうでしょうとも」
耳元近く、吐息と共に吹きかけられた言葉に怖気立つと同時、その場から飛び退った皆に、声の主は短い笑いを溢す。
「あぁ、こりゃ失礼を。あまりに熱心に品を御覧の様子にちょいと商売っ気が擽られてねぇ……陰と陽と、その間に構える故に陰陽堂と、そう冠しましたるこの店の主でさぁ」
そうと言われても、無精髭もそのまま、紺の単を着流しにしたあまりにも怪しい風体は客商売というには苦しすぎる。
 不意を突かれたその事と、視覚から訴えてくる怪しさに、皆は警戒を解く事が出来ない。
 その間に、店主は皆が見ていた洋書の頁をパラパラと繰った。
「ご不満は最もだ、17世紀の作家の作品が、18世紀のディド活字で、14世紀のヴェラム紙に印字されてたらねぇ」
皆の見立て、その3世紀に渡る破綻をそのまま言い当てて、店主は実に楽しげだ。
「……装幀は15世紀の特徴でしょう」
げんなりと疲れを隠せない皆の更なる指摘に、店主とうとう笑いを零す。
「お見事。実際のトコ、髪やインクに印刷機器は当時そのままに御座いますが、インクは紛う方なき現代の品。物好き……というより趣味の悪い御仁がいらっしゃいまして、旧ぅい倉庫から出て来た白紙を使って悪戯目的で作られたんですよ」
動機は古書業者の鼻を明かすため、というから年の入った事だ。
 顔も名前も知らない人間の道楽と奸計に見事嵌った皆は、己の力不足にを思い知らされると同時、ある意味教訓も得て萎える怒りにデスクに懐いた。
「そうお気落ちにならずとも」
明らかに楽しんでいる様子に軽い口調で励まされても、そう立ち直る縁にはならない。
 ダメージを感じさせる皆の様子に、店主は軽く眉を上げると、店の奥に向かって声をかけた。
「コシカタ、ユクスエ」
声に軽い足音がパタパタと、近付いてくるのに皆は顔を上げて思わずぎょっと身を引いた。
 触れんばかりの距離で、見上げてくる二つの視線……金と銀に一対ずつが、奇妙に感情を感じさせない瞳が皆を映している。
「兄がコシカタ、妹がユクスエと。申しましてうちの立派な商品で」
へぃ?! と少年少女を称する『商品』という単語に、あらぬ想像が脳裏を駆け巡るのは、古今東西の情報過多気味な皆に於いては仕方ない。
「この子等は占が得意でね。コシカタは後、ユクスエは先、見通す事にかけちゃ、ちょっとしたモンですよ」
疑念が明確な形になるより先、与えられる答えに肩の力を抜く間、左右から手を引かれた。
「何処に行く?」
右の手をキュ、と握られて見れば金の瞳で見上げる少年……コシカタ。
「何して遊ぶ?」
銀の瞳を見下ろせば、少女……ユクスエの長い白髪がさらりと流れる。
 子供らしからぬ表情の薄さに反し、人懐っこい動作とぬくもりに皆は目を瞬かせた。
「えっと……?」
流れについて行けていない皆を余所に、店主は軽く両手を叩いて続ける。
「こんな辺鄙な店に足を踏み入れる位だ。急ぎの用は御座いませんでしょう。お代はどうぞこの子等に一つずつ、揃いの品でも買い与えてやって下さればそれでよし。夕を過ぎてから朝までの間に、店に送り届けてやって下さいましな」
さくさくと、自分を置いて進む話に、皆が目を向く間すらなく、子供達はしっかと繋いだ手を引いて皆を戸口へ誘導する。
「気を引かれるならば、その子等が。今必要という事ですよお客様」
にぎにぎと手を開閉して、薄暗い店内に残る店主に、半ば連行されながら皆は首だけを捩って声を上げた。
「ちょっと……待ってください!」
必死な様子に子供達も足を止め、見送りの手を中途半端に開いた店主に、漸く自分の意が通ると安堵の息を吐く。
「……飴下さい。そこの、青いのを一つ」
昔懐かしどんぐり飴のケースが並んでいるのが、気になっていたのだ実は。


 ソーダの味を口中に転がしながら、皆は左右に子供達を伴って当て所なく流離っていた。
 まさしく、流離う、という言葉が相応しい……客商売といえど、店の性質上子供の来店はなく、引き受けたはいいもののどうあしらえばいいのか皆目見当もつかない。
 その上、二人はやたらに無口なのだ。
 何がしたいか、何か欲しいか食べたいか。代価と称されたそれを意識して問うてみるものの。
「書目様から頂ける物なら」
「何を頂いても嬉しいです」
と、参考にならない言を得て、困惑はいや増すばかりだ。
 二人の歩幅に併せてゆっくりと、道なりに進んでいくに辿り着いた、寂れた商店街のうらぶれた様子もまたそれを助長し、飴一つ舐めきらぬ間に皆は早くも後悔していた。
 錆びたアーケード、人気のない店舗……シャッターの閉まっている店が圧倒的に多く、地元の人間の不自由を思わせる風情に、時ならぬ場所へ迷い込んだような言いしれぬ不安に皆は周囲を見回し、ほ、と知らず肩に入っていた力を抜いた。
「……なんだ、お休みですか」
商店街の定休日を記した、いつの頃から張り出されているかは知らない、金属製の板が柱に巻き付いているのを確認する。
 しかしそれはそれで難である……適当な玩具を買い与えるという、最も単純且つ効果的な計画が水泡に帰した事を、これまたふるびた色合いに、まだらに色の抜けた玩具店の看板を見上げ、固く閉ざされたシャッターに視線を下ろした。
 選択の誤りは否めない。これなら最初から駅近くのショッピングセンターへ向かうべきだったと、寂れている割には長い商店街をそれでも前へと進む。
「……あぁ、二人とも大丈夫かな。足痛くしたりしてない?」
子供相手にどう話しかければいいのか、躊躇しながらの皆の気遣いに、男女の双子は同時にこくりと頷いた。
「そう、良かった……?!」
話しかさえすれば応じ二人、歩を進めながらの会話(?)に皆は一歩進んで二歩下がった。
 幸せを探しての事ではない。
 当然、先に進む子供達は腕を釣るように引き戻されて、器用な事に同時に歩調まで乱れる。
「あ、ごめんごめん」
軽い調子で唐突な動きの謝罪をし、皆は二人の手を軽く引いて、目線を外さないまま彼の気を引いた店先へと移動した。
 軒先に積まれた七輪、使用の痕跡を感じさせるアルミの鍋……生活用品を雑多に積み上げた古道具屋、時計が陳列された硝子ケースに引き寄せられる。
 天板は磨りガラスかと思えば薄く積もった埃で、その放置っぷりにいっそ感心を覚えながら、皆は掌で硝子を拭って中を覗き込む。
 注視する先には、二本の万年筆。
 漆塗りに朱と黒の、クリップの部分は透かし模様に幾何学的な模様が彫り込まれ、同じ種類である事を明確にしている。
 だが、やはり店の性質からしても古道具である事に間違いなく、蓋の縁を巻いてクリップと同じ意匠の金属部分は褪せた感触を持ち、しかしそれはある種の雰囲気を醸す一助になっていた。
「……いいな、これ」
手書きの札が示す値段も物の割に手頃で、皆はコシカタとユクスエを左右に見ると大きく頷き、店に向かって声を張る。
 奥からのっそりと現われた、店主と思しきと老人は、先ずコシカタを次いでユクスエを、そして最後に皆を見るとお求めですかと口の中にもごもごと呟いた。
 些か不安を覚える相手に僅か怯んでしまったが、気を取り直して皆は万年筆を求めた。
 ケースから出して貰って改めて見れば、やはりと言うべきかそれなりに埃が積もっていた様子で、指の腹で拭えば黒ずんだ汚れが肌に付く。
「……書けますか」
「……さぁ、ねぇ」
皆が求めなければ存在すら忘れていたろう勢いで、実にやる気のない老人である。
 許しを得てキャップを外せば、すっかり曇ってしまっている金色のペン先に皆はふぅと息を吐いた。
「お湯と綿棒と……ティッシュか何か、お借りできませんか」
使用の是非すら問えぬ品物を買い上げようというのだ。それ位は受けて貰おうという腹から出た要望に、老人は再び奥に消えると皆の求めた通り……湯呑みに入れた湯と、100本はありそうな綿棒、ティッシュ、そして銀を磨くための布を持ち出してきた。
「よろしいんですか?」
様々な意味を含んだ問いに、老人は鷹揚な動作で頷くと、更に薬缶を置いて行く。
 至れり尽くせり、というには微妙ながら、有り難く借りることとして、皆は店先に並ぶ古びたベンチに腰掛けた。
 それに倣って双子が両脇に腰掛けるのに、必要な道具は膝と腿の間、足下に置いて作業に取りかかる。
 調べてみれば万年筆は古さに相応しい吸入式で、試しに肌の上にペン先を乗せてもインクは出ず、すっかり詰まってしまっているようだ。
 少々厄介に思いながら、皆は万年筆の先を湯呑みに浸け、軸とペン先を互い違いに捻った。
「僕も万年筆持ってるんですよ……最近、使ってないですが」
 皆の持つ万年筆は中学入学当時に貰った祝いの品だが、未だ現役である。とはいえ、パソコンの利用が増え、手書きの機会が減るにつけ、引き出しの中で眠らせたままであるのを思い出し、帰ったら自分のも手入れしないとな、と反省する。
 吸入式のそれであれば、詰まったインクが湯温に溶け出して来るはずなのだが、湯はいっかな濁る気配がない。
 首を傾げる皆が綿棒でペン先のペンポイントを拭うなど、ひとしきりの奮闘をした後に奥から声だけがかけられた。
「デッドストック品だから、インクは入っとらんかもなー」
「……早く言って下さい」
老人の口からデッドストックという言葉が聞けると思わず、先ず其処に意表を突かれた皆だが、そうであるならインクが出ないのも当然てある。
 子供達の手前、きちんと扱えるところを見せ……併せて手入れの方法を教えようと思っていただけに肩透かしで、皆は早くも仕上げに至るしかなく、借りた布で丁寧に万年筆を拭う。
「昔、印刷機が存在しなかった頃、本は全て人の手で書かれていたのを知ってますか」
細工の細かいクリップの部分を丁寧に拭い、汚れを取るのに集中しながらの皆の問いに、コシカタとユクスエは首を横に振る。
「羽ペンとインクのみで、細心の注意を払ってですね、一文字ずつを口述や原典を忠実に写し取っていくんですよ。その当時に万年筆があったら、どれだけ楽だったろうかと思います」
とはいえ、万年筆自体は使い捨てや手入れの要らないボールペン、シャーペンに比べると圧倒的に手間のかかる品である。
 度々に手入れをし、また頻繁に使ってやらねばインク詰まりを起こして、使いたい時に手入れから始めなければならない。
 しかし長い時間をかけて持ち主の手に馴染む、独特の味を持っているのも確かだ。
 皆は磨き終えた万年筆、赤と黒のそれを検分し、指紋まで拭い取ってしまうとそれ等をコシカタとユクスエにそれぞれ差し出す。
「はい、どうぞ。お父さんの言ってた代価はこれでいいかな」
双子を店主の子供と判断しての言だが、二人は特に異論を唱えることなく、コシカタは黒の、ユクスエは赤の万年筆を受け取った。
 皆は満足に頷き、さて、道具を返そうと路上に直接置いた薬缶に伸ばそうとした腕が、左右から伸びたコシカタとユクスエの手に阻まれる。
「題なく、持つべき血筋の名のみを冠するのみの魔道の書」
淡々と紡がれるコシカタの声、その言葉の意味するところにぎくりと手を止める。
 一頁に一つずつ描かれた魔法陣に、悪魔を一体ずつ籠めた『ショモクの魔術書』の存在が先ず思い当たる。
 有事でなければ持ち出しを禁止されているそれの存在を、今日初めて会った子等が知るはずもない。
 理解を越えた言、図れ意に動き止めた皆の手に、コシカタの銀髪がさらりと流れて触れた。
「従えるに力及ばず……いずれ魂を、奪われる」
ショモクの書は、悪魔を従える為の物でなく、ただ召し出すだけの品だ……使役出来るかは己の裁量、気力体力時の運を駆使せねばならない緊張を、不吉な言葉で示されて走る動揺に、双子は両側から皆の耳元に手を添えた。
「陣が源としてり存在を支えるなら」
内緒話のくすぐったさで、こしょこしょと囁かれる言葉に相変わらず感情の抑揚はない……が,何処か悪戯っぽい感触を得たのは続く言葉のその所為か。
「書き加えてしまえば、いいですよ」
子供の頃からその危険性をとくと骨身に教え込まれた、一族の財産に。
 手を加えてしまえと唆し、不吉な言を払う子等に、皆は失笑した。
「そうですね、物は本ですし……手書きなのですし」
精緻に刻まれた幾つもの陣、それに手を加える事態にそう出会したくはないが。
「ありがとうございました。ご意見、参考にします」
左右交互に礼を述べ、皆は微笑んだ胸中に、帰ったら早速万年筆の手入れをしようと、いずれの予定を決定に替え、保身の護りとする事にした。


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

【6678/書目・皆/男性/22歳/古書店手伝い】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

お初の御依頼ありがとうございます、皆さんと書くとどうしても「みなさん」と読めてしょうがない闇に蠢く駄文書き、北斗玻璃に御座います。
先ず、古書店勤務という事で、以前から欲しいな欲しいなでも使う機会ないしなーと、指を銜えて眺めていた資料を買う口実を与えて下さってありがとうございます!(待て)
捏造の嵐が吹き荒れがちな過現未、何やら不穏なネタを投下して御座いますがその、あまり気になさらないで頂きたいものです……通販のカタログの頁を折るすら出来ない北斗、本に手を加えるなんてえぇッ! とのたうち回る身なので、皆さんがそんな憂き目に遭わないで済むことを願っております心から。取り敢えず、万年筆はお守りで。ついでに代々、愛用の万年筆が一本ずつあるとかだととてもいいとそんな事を考えている早朝に御座います。
寝不足加減にとりとめの無さを覗かせながら、また時が遇う事を祈りつつ。