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<東京怪談・PCゲームノベル>


 『逢魔封印〜参の章・後編〜』


 闇。
 一面真っ暗で、何も見えない。
 森羅は、きょろきょろと周囲を見回した。
 すると、目の先に、ひとつ、またひとつと光が灯り始める。そして、現れたのは、扉だった。まるで、そこだけにスポットライトを浴びたかのように、暗闇の中でぼんやりと浮かんでいる。
 その数、六つ。
 彼は、再び周囲を見回してみたが、扉以外は何も見えないし、人の気配もしない。
 とりあえずはこの扉をくぐれ、ということなのだろう。
 そう解釈した彼は、手近な扉を開けると、中へと入った。


 気がつけば、周囲には穏やかな田園風景が広がっていた。後ろを振り返ってみるが、そこには土の道が伸びているだけで、通ってきた扉はもうない。
「やれやれ。一息ついたと思ったらこれか」
 森羅はぼそりと呟くと、空を見上げた。青い空には一点の曇りもなく、ただ、太陽が眩しい。屈みこみ、地面に触れてみると、確かな土の感触がした。独特の匂いも鼻につく。
 良く出来てはいるが、この世界が現実であるはずはない。先ほどまで皆、新宿にいたのは間違いないのだから。
 彼はとりあえず道を歩きながら、一緒にいたメンバーの姿を探すが、見えるのは田んぼと木々ばかりだった。
「俺ひとりか……皆は無事かな」
 他の者も、自分のように妙な世界に引き込まれているのかもしれない。そう考えていたところ、目の端に、一軒の民家が留まった。
「とりあえず、行ってみるか」
 彼はそう言うと、民家を目指した。

 民家にたどり着くと、森羅は一応警戒をしながら、開け放たれた戸から、中を覗いた。暗い室内から、何か音が聞こえる。良く聞くと、それは啜り泣きだった。その方向を見やると、ぼんやりと人影が見える。
 暫くそれを眺めていた森羅だったが、ここでただ立っていても何も始まらないと思い、人影へと向かって、声をかける。
「あの……こんにちは」
 すると、人影が、弾かれたようにこちらを振り向いた。ややあって、人影は、よろよろとこちらへ向かってくる。日の光の下に姿を晒したのは、ぼろぼろの和服を身にまとった老婆だった。
「ああ……」
 その老婆は、森羅の服の袖を掴むと、嗚咽を漏らしながら、ただ、泣き続けた。

「みんな……死んでもうた」
 ところどころささくれ立った、かび臭い畳に座り、出された茶を飲みながら、森羅は老婆の話に耳を傾ける。
「この先の山に、その鬼が住み着いたのは一月前くらいじゃったろうか……最初は、何事も起こらんかったし、皆、怖かったから、そのことは気にせんで、普通に暮らしとった。……じゃが、暫くして、急に鬼が『食いもんをよこせ』と言い出したんじゃ。そんで、村の衆が、出来るだけの食いもんを、鬼んとこに持ってった。じゃが……」
「その『食いもん』は、人間だった」
 森羅が言葉を引き継ぐと、老婆は力なく頷いた。
「それから、ひとり、またひとりと、村の衆は鬼に食われていった……爺さまも、息子夫婦も食われてしもうた……残るは、わしひとりになった……」
 そこで、老婆は、また涙を流す。
「どうか……どうかお願ぇします! 鬼を退治して、爺さまや、息子たちや、村の衆の敵をとってくだせぇ! わしはどの道、長くはねぇからどうなってもええ……でも、あの鬼だけは許せん……皆も浮かばれねぇ」
 森羅はそれを聞き、暫し考えてから頷いた。
「分かった。ただ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「ええ、ええ! 何でも聞いてくだせぇ!」
 目を輝かせる老婆に、森羅は穏やかに尋ねる。
「まずひとつ。皆、何で村から逃げようとしなかったのかな?」
 すると、老婆はしわだらけの顔を歪め、首を横に振った。
「皆、逃げようとしたんだ……でも、鬼が来てから、なんでか、この村から出られなくなっちまって……」
 それを聞き、森羅は頷くと、再び口を開いた。
「そっか……じゃあ、もうひとつ。鬼を退治したら、俺はこの世界から出られるかな?」
 今度は、老婆は力強く頷いた。
「ああ……きっと出られる。全部、鬼の仕業だと思うから」
「了解……じゃあ、俺、行ってくるよ」
「お願ぇします!」
 床にこすり付けんばかりに頭を下げる老婆に手を振り、森羅は、家を出た。

 薄暗い森の中を歩くこと暫し。
 岩肌がむき出しになった山をくりぬくようにして、巨大な洞窟が目の前に現れた。光が届かない奥のほうは、暗くて見えない。
「ふーん。ここがねぇ……」
 森羅はそう呟くと、ポケットから一枚の符を取り出す。そして、気を込めてから、洞窟の中へと飛ばす。符は、淡い光を放ちながら、奥の方へと消えていった。
 それを見て彼は小さく頷くと、歩き出した。

「お……お帰りなせぇ! 鬼は……鬼はどうなったとですか?」
 慌てた様子の老婆を見て、森羅はニヤリ、と笑った。
「うん。これから退治する」
「これから? だって……あんたさま、鬼のおる洞窟に行きなさって……」
「鬼がいるのは洞窟じゃないよ」
「ど……どうしてそう思われるんで?」
 森羅は、一呼吸おいてから、言葉を発する。
「だって、鬼がいるのは洞窟じゃなくて、ここだから。……鬼は、ばあちゃんでしょ?」
 それを聞き、老婆の顔がすっと蒼ざめた。
「な――なんてことを! いくらなんでも酷すぎる! わしは、大事な爺さまも、息子夫婦も――」
「だからぁ、それ、作り話でしょ?」
 森羅が老婆の言葉を遮って言う。
「ばあちゃんの演技は、なかなか真に迫ってたけど、台本が良くなかったね。出ることも出来ない、ばあちゃんひとりしかいない村なのに、俺が来ても、警戒のひとつもしなかったし、最初から妙なところは色々あったけど、鬼が来てから、この村から出られなくなったと聞いた後、俺は『この世界から』出られるか、と聞いた。『この村から』じゃなくてね。その問いにイエスと答えられるのは、ここの主だけ。……まあ、誰にでも言い間違い、聞き間違いってことはあるから、念のため洞窟に行ってみたけど、符で調べたら、中はもぬけの殻。それどころか、変な結界が張ってあるんだよなぁ……まるで、クモの巣みたいな」
 それを聞き、老婆はくつくつと笑い声を立て始める。そして、その姿は見る見る大きくなり、天井に届くまでになった。目は落ち窪み、赤く光り、口は耳まで裂けて、牙が生えてくる。乱れた銀の髪の隙間から、一本の巨大な角も姿を現す。
「そうこなくっちゃ! ばあちゃんの姿のまんまぶん殴ったら、後味悪いもんな」
 そう軽口を叩きながらも、森羅は既に気を込めておいた数枚の符を、鬼に向かって投げつける。すると鬼は、悲鳴を上げて暴れた。じゅう、と肉の焦げる音と、鼻につく異臭が、辺りに漂う。
「危ねー!」
 鬼が暴れたので、家が壊れ、瓦礫の数々が飛び散る。森羅はそれを何とか避けながら、家の外へと出た。
「へへぇ! 鬼さんこちら! ……ってね」
 森羅の挑発に、鬼は怒り狂い、太い腕を叩きおろしてくる。森羅が横に跳んでかわすと、地面が大きく窪んだ。
「うげ。バカ力」
 森羅はそう言いながらも、思いを巡らせる。
 鬼は力は強いが、動きは鈍い。具体的に倒す方法はまだ考えていないが、何とかなるだろう。しかし、亨も葉月もいないので、『封印』することは出来ない。そもそも、わざわざ『封印』することに、何の意味があるのだろうか。もしかしたら、特別な意図があるのかもしれないが、いずれにしても、この状況では無理だ。
 彼は腹を決めると、跳躍し、鬼の鳩尾に、思い切り拳を叩き込む。鬼は、また悲鳴を上げながら、腕を滅茶苦茶に振り回した。森羅は慌てて後方に下がる。
(ここじゃねーか……)
 森羅の経験上、魔の者には、必ず弱点がある。鬼は苦しんではいるが、反応が弱い。
 そして、また鬼が、腕を振り下ろしてきた。地響きが鳴ったときには、すでに森羅は空中にいた。鬼の腕を足場にし、今度は眉間に拳を叩きつける。
 また轟音のような悲鳴が上がり、鬼は後ろに倒れこむ。しかし、鬼はすぐに立ち上がろうとする。
(ここも違う)
 森羅は、素早く思考を巡らせる。
 人間にはないもの。
 鬼にしかないもの。
 ――角。
 そう思ったと同時に、森羅は上体を上げかけている鬼の身体を駆け上り、気を拳に集中させると、渾身の力で角に当てた。
 そして、角は折れ、断末魔の叫びと共に、景色が変わる。


 そこは、ホテルのラウンジのような場所だった。
 赤い絨毯が敷き詰められ、天井には煌びやかなシャンデリアが下がっている。
「あ、しーたん! 皆も無事だったんだ。良かった〜」
 森羅の声をきっかけに、一同に安堵の言葉が漏れる。一緒に来たメンバーは、全て揃っていた。
「でも、これで終わり……という訳には参りませんよね……」
 美沙姫の言葉に、皆は頷く。まだ、肝心の津久乃が見つかっていない。
「あ! そうだ亨さん。俺、亨さんとも葉月さんとも一緒じゃなかったから、鬼、倒しちゃった……なんか、マズかったかな?」
 森羅が問うと、亨は小さく首を振り、穏やかに答えた。
「いや、何の問題もない」
「そっか、良かった……」
「問題ならあるわよ」
 森羅がホッとした瞬間、唐突に声が聞こえた。皆が、一斉にそちらを向く。
「津久乃ちゃん!」
 葉月が、その声の主を見て、言葉を発した。どうやら、目の前の少女が、御稜津久乃らしい。しかし彼女は、自分の置かれた状況を気にもしていないかのように、艶然と微笑んでいる。
「津久乃ちゃ……あれ?」
 葉月が、何か語りかけようとした途中で、急に額に手を当てて、軽くよろめいた。
「葉月様? どうなさいました?」
「いや……ごめん。何か眩暈が……」
 美沙姫が気遣いの声をかけると、葉月は、そのまま床に座り込む。
「きっとお疲れになったのでしょう。後は、わたくしたちにお任せください。何かあっても、葉月様はわたくしが守りますからご安心を」
「うん……ありがとう」
 礼を言う葉月に、美沙姫は『聖風壁』を纏わせた。
 それを横目で見ながら、森羅が再び口を開く。
「あの……問題があるって……?」
 その問いに、津久乃は微笑んだまま、静かに答える。
「『封印師』は、『封印』の代償に、文字通り、命をかける。あなたが戦った鬼は、亨が以前に『封印』したもの。『封印』から解放された対象が滅した場合、命が削り取られる……簡単に言えば、寿命が縮むのよ」
「え……?」
「戯言だ。気にするな」
 森羅が思わず声を漏らすと、亨が静かに言い放つ。しかし、津久乃は笑いながら言葉を続けた。
「戯言なんかじゃないわ。これは真実よ。……でも残念ね。本当は、皆をバラバラにして、もっと亨の命を削ってあげたかったのに……もっとも、全員がバラバラになれば、戦闘能力を持たない亨は、確実に死んでたでしょうけど。そんなにあっさり死なれても面白くないから、逆に良かったのかもしれないわね」
「ご、ごめん……俺、そんな大変なことだとは思わなくて……」
「だから、気にするなと言っている。大体、鬼を倒さなければ、君が死んでいた。俺の場合は、生きられる時間が少し縮むだけだ。それに、『封印師』になった時点で、そのリスクは覚悟の上だ」
「でも……」
「頼むから気にしないでくれ」
「うん……解った」
 いつもは陽気な森羅だが、流石に、自分のせいで人の命を縮めたなどと言われれば、気にせずにはいられない。だが、これ以上気にしていても仕方がないのも事実だ。目の前のことに、頭を切り替えなければいけない。
「……オンブル伯爵や、あの姉妹を解き放ったのも、あなたなのですね?」
 紫桜が口を開くと、津久乃はまた楽しそうな笑顔を見せた。
「そうよ。……亨、何故聞かないの? 私が誰なのか、もう解っているでしょう? 『封印』を解けるのは、『封印』を施した『封印師』だけ。けれど、私はあなたの『封印』のシステムを『知っている』。……当たり前よね。二人で一生懸命考えたんだから」
 そこで、皆の視線が亨へと集まった。しかし彼は、目の前の状況を認めたくないかのように、俯き、顔を背けている。そして、喉の奥から搾り出すように声を発した。
「椿……なの……か?」
「そうよ。覚えていてくれて光栄だわ」
 それを聞いた途端、弾かれるように亨は顔を上げた。
「忘れるはずないじゃないか! 俺は、この十年の間、ずっと君を探し続けてきたんだ! もしかして、君は……」
 そこで、一旦言葉を切り、亨は、その先を続けたくないかのように、苦しげに言葉を紡ぐ。
「……死んだ……のか?」
 それを聞き、津久乃――椿は、冷たく言い放った。
「何を言ってるの? 私を殺したのは、あなたじゃない」
「俺が……殺した……?」
 愕然とする亨には構わず、椿は続ける。
「私は、息絶えた後、あちこちを彷徨った。悲しみと憎しみで、浮かばれることなんて出来はしなかった。そして七年前、ある人の協力を得て、この子の中に自分を『封印』した。この子の『能力』は力を蓄えるためには最適だったから。そして、何の因果か、この子は亨――あなたに近づいた。復讐するには、まさにうってつけだったわ」
「――待ってください!」
 そこで、今まで黙っていた結が、声を上げた。
「あの……私、違うと思うんです。瑪瑙さんは、大切な人を殺めるような人じゃありません。きっと……きっと何か事情とか、行き違いとかがあって……その……だから……」
「あなたに何が解るの?」
 一生懸命思いを伝えようとした結に注がれたのは、ぞっとするほどの冷たい視線だった。
 そして。
「――結様!」
 美沙姫の声と共に、結の目の前を風が薙ぐ。それと同時に、血飛沫と獣のような咆哮が上がった。
 視線の先には、黒い狼のような生き物。それが、牙を剥き出しにして唸っている。
「あ、ありがとうございま……」
 結が礼の言葉を言い終わるよりも早く、尾が何本にも分かれ、こちらへと襲い掛かってくる。美沙姫は手にしていた精杖でそれを払い、森羅は殴りつけてかわす。紫桜は、自分に向かってきたものと、結を目掛けて放たれたものを、手刀で裂いた。また獣が、悲鳴を上げる。
「結さん、今はこの状況を何とかしないと。悩むのは後です」
 紫桜にそう言われ、結は力強く頷いた。
「はい。――あ、瑪瑙さん! ――はぁっ!」
 ぼんやりと立っている亨が、獣の尾に捉えられそうなのを目にし、結は『魂裂きの矢』を放って、それを阻止する。
「亨さん! コイツ、『封印』すんの? それとも、倒しちゃっていいの?」
「……え?」
 森羅が呼びかけると、亨が虚ろな表情で振り向く。森羅は再び向かってきた凶器の尾を殴りつけながら、言葉を続けた。
「椿さんって人は、亨さんにとって大きな存在かもしれねーし、俺たちには到底わかんないことかもしれない。でも、俺たちだって、亨さんと関わった以上、見殺しになんて出来ないんだよ! しっかりしてよ!」
 すると、亨は、力なく微笑んだ。
「……ああ、すまない……そうだな。こいつは俺が『封印』した者だ。この異世界を創り出しているのもそうだと思う。――よって、再び『封印』する」
「りょーかい!」
 森羅が頷きと共に踏み出すと、紫桜もそれに続く。背後から、美沙姫と結の援護射撃も飛ぶ。
 美沙姫の『風牙斬』と、結の『魂裂きの矢』で切り裂かれた獣に、森羅と紫桜の拳が入る。
「よし! 下がってくれ! ――我が言葉は鎖なり! 彼の者を捕らえる檻と化す! ――逢魔封印!」
 亨のカードから、眩い光が発せられ、触手のように獣を絡め取ったかと思うと、中へと引きずり込む。
 そして、世界が崩れた。


 周囲を、コンクリートの壁が覆いつくしている。
 そこは、皆が合流した、新宿の路地裏だった。
 日は既に、高く昇っている。
「今回のところは負けね。……いいわね。あなたには素敵な仲間がいて」
 椿はそう言うと、寂しげに微笑み、立ち去ろうとする。
「お待ちください!」
 そこに、美沙姫が声をかけた。
「津久乃様を、お返しください。それは、貴方様の肉体ではありません。津久乃様のものです」
「それは無理な相談ね」
 椿は、すうと目を細めると、淡々と言う。
「私の新たな『封印』のシステムを、亨は知らない。だから、この『封印』は、私にしか解けない。そして、私はこの身体を返すつもりはない。……この子を取り戻したいなら、この身体を殺すか、もしくは……」
「……が言葉は刃なり……」
 椿の言葉を遮るように、唐突に葉月が何かを呟きながら立ち上がる。その目はしっかりと椿に向けられてはいたが、焦点は定まっていなかった。
「……我が言葉は刃なり……彼の絆を断ち切る力と化す……我が言葉は刃なり……」
「くっ……ああっ……!」
 椿は急に苦しみ、悶え始める。そして、その目は驚愕と恐怖に満ちていた。
「まさか……『結壊師』……!?」
「――やめてくれ!」
 椿が掠れた声を振り絞った時、亨が葉月にしがみつき、悲痛な叫びを上げた。
「椿を……椿を壊さないでくれ!」
 涙を流して懇願する亨に、葉月は虚ろな目を向けると、再び、気を失った。
『……とんだ誤算だったわ。「結壊師」の末裔が、まだこの世に存在していたなんて……でも、これだけは覚えておきなさい。亨――私はあなたを赦さない』
 そう声がしたかと思うと、椿は、ゆっくりと倒れた。皆、慌てて彼女の元に駆け寄る。すると――
「う〜ん……」
 彼女は大きく伸びをしたかと思うと、不思議そうに目を瞬かせた。
「あれ? 皆さん、何やってるんですか? それで……ここ、どこでしょう?」
 あまりにも場違いな津久乃の言葉に、皆、思わず吹き出していた。


「さぁ、どうぞ。皆様、お疲れ様でした」
 美沙姫を筆頭に、数名のメイドが、大きなテーブルに、紅茶や菓子、軽食などを並べていく。
「うわぁ、美味そう! いっただっきまーす!」
「頂きます。……おい森羅。そんなにガツガツ食うなよ。恥ずかしいだろ」
「ふぁっへ……」
「飲み込んでから喋れ」
「……だって、昨日から何も食ってねーんだもん。仕方ないじゃん。それにさ、しーたんだって、別に金持ちの坊ちゃんって訳でもねーし、そんな澄ましたところでさ、こないだも……」
「ああ、分かったよ。俺が悪かった」
 一同は、美沙姫の計らいで、事件解決後、彼女の勤める屋敷に招かれていた。ただ、亨はいつの間にか姿を消していたし、葉月も、誘いを断って自宅へと帰った。
「あの……私、やっぱり……」
「やめときなよ」
 そう言いながら立ち上がりかけた結に、森羅が声をかける。
「心配なのは解るけどさ、男には、ひとりで考えたい時があるんだって」
「あら。女性にもありますよ。ひとりで考えたい時が。……でも、結様、森羅様の仰るように、今は、おひとりにして差し上げた方が良いと思います」
 美沙姫にもそう言われ、結は、一瞬躊躇った後、頷いて、再び椅子に腰を下ろした。
「そう……ですよね……。じゃあ、私もいただきます。……わぁ、この紅茶、凄くいい香りですね」
「ところで……何があったんですか? 堂本さんも、何か元気なかったみたいですし……」
 それまで、よほど腹が減っていたのか、黙ってサンドウィッチを食べていた津久乃が、問いかけてくる。
「あーと……そうそう。皆で鬼ごっこしてたんだ。葉月さん、中々俺たちを捕まえられないから、落ち込んじゃってさー」
 なんと答えて良いものか、一同が迷っている中、つい、森羅はいつものように軽口を叩いてしまう。
「おい、いくらなんでも――」
「そうだったんですかぁ! いいなぁ。私も参加したかったなぁ……鬼ごっこって楽しいですよね! 私も小学生の頃、中々友達が捕まえられなくて困ってたら、赤鬼さんと青鬼さんが来てくれて、鬼を代わってくれたことがあるんですよ」
「それは楽しそうですね」
 津久乃は何故か納得し、美沙姫はそれに相槌を打つ。
 紫桜は言いかけた言葉の残りを持って行く所がなくなり、仕方なく、紅茶を啜った。
「どんな経験談だよ」
 森羅が小声で突っ込むと、両脇にいる紫桜と結に無言で突付かれる。

 ――こうして、長かった一日は、穏やかに過ぎていく。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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■PC
【5453/櫻・紫桜(さくら・しおう)/男性/15歳/高校生】
【6608/弓削・森羅(ゆげ・しんら)/男性/16歳/高校生】
【3941/四方神・結(しもがみ・ゆい)/女性/17歳/学生兼退魔師】
【4607/篠原・美沙姫(ささはら・みさき)/女性/22歳/メイド長/『使い人』 】

※発注順

■NPC
【瑪瑙亨(めのう・とおる)/男性/28歳/封印師】
【堂本・葉月(どうもと・はづき)/女性/25歳/フリーライター】
【御稜・津久乃(おんりょう・つくの)/女性/17歳/高校生】

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■         ライター通信          ■
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■弓削・森羅さま

こんにちは。鴇家楽士です。後編もご参加いただき、ありがとうございます!
お楽しみ頂けたでしょうか?

森羅さんからは、一番早くご発注をいただいていたので、納期ギリギリになってしまいました……申し訳ありません。

まず、今回の正解ルートを発表致します。
312、132、213、231の4つでした。
前半の2つは、亨とチームを組むことになり、後半の2つは、葉月とのチームでした。

今回は、オープニングが曖昧な記述だったため、プレイングがかけづらかったかと思います。にもかかわらず、素敵なプレイングをありがとうございました。森羅さんは、不正解ルートに行ってしまったので、孤独に戦っていただき、そして、亨の寿命を縮めるという、ちょっと後味の悪い結果になってしまいました……申し訳ありません(汗)。

そして今回も、個別視点が作成されています。なので、ご一緒にご参加いただいた方々のノベルを併せてお読みいただけると、話の全体像が見えてくるのではないかと思います。

それでは、読んでくださってありがとうございました!
これからもボチボチやっていきますので、またご縁があれば嬉しいです。