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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


姉ショタ異界其の一


 日本が夏の頃、オーストラリアは冬らしい。
 ある時代劇漫画は初期の頃、季節の描写に力を注いでいたけれど、時が止める必要性が出て来た事で、情景の中には唯、風を荒ぶ表現のみを用いるようになったらしく。
 始まりの季節が何時か? 多くの人は春を唱える、その次には冬、一年の始まりの日を指すかもしれない。……自分が生まれた季節を、例えば五月晴れの日を始まりとしてる人も、きっと居るだろう。
 だけど、でも、結局、《それ》の始まりなんてものは――
(髪をくしゃりと、女性が撫でたり)
 ……まぁ、《恋》の始まりなんてものは、何時が定めなのかは解らなく。
(少年が料理を振舞ったり)
 春だろうと、夏だろうと、秋だろうと、冬だろうと、また来る、春だろうと、
(二人が、ぎゅっとしあったり)
 ただ風が吹く中であろうと。
 人という生き物は、自然の摂理によくよく逆らい、笑いあったり、泣きあったり、怒りあったり、
 幸せそうに、していたりする。


◇◆◇


 天は時に二物を与える。
 たった一人の人間に、文武を両道させる事もあれば、類稀なる身長とバネを与える事により、生き様をバスケットボールに没頭させる事も神の悪戯か。戦争を停止させる美声に、類稀なるギターが加われば、最早その人間は神域の住人である。
 勿論、天から与えられた物全てが、努力という水遣りを経ずして花開く訳ではない――そういう意味で言えばこの少年は、その水遣りによって開く才能と、そんな事せずとも永遠に咲きそうな才能、という、ある意味合判する強さを授かったとも言える。そのどちらも天然素材の可能性もなくはないが、
 やはり、鋼は叩かれて鍛えられるといる性質がある事を踏まえると、
「……はぁ、もう」
 その名を負う少年の強さは、少なからず、戦闘経験によって成長しているはずである。勿論近所のおじいさんに教えられた、四次元流格闘術という下地があったとしても。
 まぁでもやはり、中学時代に初めて(?) の喧嘩で、絡んだ不良達を一蹴し、しかもそこから総番の道へ一直線となると、努力に応じるだけの才能はあったかもしれないが。名は、不城鋼。そして異名は鋼鉄番長。どちらも雄雄しい様をよく表し、名こそ、彼の勲章であり生き様であると歌うかのように。しかし、
 天が彼に与えたのは、一物だけではなかったのである。
「だからぁ、もう俺はこの世界からオリたんだって。何度言ったら解るんだよお前等」
 俺、普通の男の子に戻りますと確かに宣言したはずなのに、(本人にとっては)どういう訳か未練がましく慕ってくる舎弟に、借りを返しに来てまた利子つけて返済される、今目の前で伸びている連中を、膝を左右に広げて座り覗き込んでいる少年の容姿は、
 めらんこりー可愛かった。
 言い直すと、とってもきゃわゆかった。
 153センチ45キロ。体系まるっきり女の子だが、顔つきもすっかり女の子だった。でも男の子である。なんと呼ぼう。そうだ、ショタだ!
 ……実際、凶悪であった。世の中には歓迎される恐怖というものも確実に存在するのだ。このちんまい容姿に、ぶかりと大きな学ランを羽織っている様、そして見た目とは裏腹の強い性格とのギャップ。もしこれが変になよなよして媚びていたりしたら、そこまでは凡百の少年に過ぎない。いやあれもいいものだけれど。しかし偉大なるけして舐めてはいけない先猫という事例があるように、ギャップ効果というか、世の中にはそういうかわゆさというか萌があったりするのだ。従順なメイドより暴虐なメイドとか。
 まぁそれもあるし、何より本人のぶっきらぼうながらも優しいという、日本男児の良き性格も合わさって、最早不城鋼の人気は下手なアイドルよりも高らかだった。実際、校内に私設ファンクラブが出来るならまだしも、それが複数存在しているのも凄まじい。バレンタインの彼へのアタックは、それこそ、鋼が(気がついたら起こしてた)切り抜けてきた戦争に比べて遜色ない。というかもしかしたら酷い。嗚呼もし、そんな彼に既に特定の相手が居たとしたら、天下分け目の戦が起きるのではないか――
 ……でも、実は居たりする。
 ちなみに不城鋼は、その相手がある意味苦手だ。だって、
「鋼君――」
「……ゲッ」
 厭な予感がして振り返る、するとそこには教師が居る。だが、喧嘩した事を咎められるのが怖い訳ではない、実際、法律的にも正当防衛だ。何がいやかって、この教師は、
 鋼にとっては数少ない、敬語を使う相手の響カスミという教師は、
「だ、だ、だ、大丈夫だったー!? 私、鋼君が校舎裏で喧嘩してるって聞いて、慌てて飛んできて! ああ傷がある、傷物に!」
「気持ち悪い言い方するな!? あの、これくらい掠り傷」
「そそそそうね取り乱したらいけないわまず落ち着いて119番を」
「その段階で落ち着いてないじゃないですか! もうちょっとしっかりして下さいよこの泣き虫!」
「だって、だってぇ、うえぇぇぇぇぇぇん!」
 ……ものごっつ、疲れるのである。すぐ泣くし、すぐ慌てるし、それに異常に怖がりだし。教師は本来しっかりしなければいけないのに、生徒、それも鋼みたいな少年に助けられている有様だ。
 けれど、密かに付き合っていたりする。それははっきりとした証がある訳ではないけども、……そもそもこれが公然的なのかという、重要な問題も置き去りにしてる感はあるけども。
 大声は停止したけれども、グスグスと目尻に溜めた涙を指で拭い続ける彼女に、身長の低い彼は溜息をつき、
「泣き止んでくださいよ、今日先生の家に行きますから」
「え?」
「……相変わらず、不摂生な生活してるんでしょ、ったく」
 鋼鉄番長のあるかどうかはしらないけれど、裏の異名。料理裁縫をこなす事からの、完全主夫。あるかしらないけれど。
 まぁともかく、小さく可憐な顔をりりしく引締めながらも、その頬をかきながら照れている様子からして、ツンデレは軽く完成していた。
 響カスミは感極まって思わず抱きついた。はーなーれーろーだった。あ、ごめんなさいだった。ったく、とかいいながらミクロ単位名残惜しそうだった。じゃあ放課後、一緒に買い物行きましょうだった。あーはいはい俺もどっからだった。ちゃんと授業に出てねーだった。このやり取りが本当にバレてないか疑問だった。バレてたらファンクラブで人津波が起こりそうだった。


◇◆◇


「……汚い」
「あ、アレそう? 一応さっきよりはマシになった気がするんだけど」
 そして放課後。最早勝って知ったる場所になっている響カスミの自宅、というかマンション。袋二つ分の買い物を済ませ、その玄関の前に待たされる事十分。しかし、一体彼女がどんな荒療治をしたのか良く解る。
 クローゼットの中に色々ほうりこんだのだろうな、と思ったが、そこまで触れるのはやめといて、
「テーブルの上がまず片付いていません。台拭きとか新聞紙とか、床にちらばっていたものを全部のせとけって感じじゃないですか」
「ま、まぁそれは確かに」
「それと先生、掃除機かける時窓あけてますか?」
「あ、あけたような、そうでないような」
「だからこんな埃が漂っているんですよ、これが積もって汚れになるんですよ、ほら」
 そういって、人差し指の腹で電子レンジの上をぬぐうと、埃が薄くながらびっしり。
「ハウスダストに過敏になりすぎるのも問題ですけど、これはちょっと酷いですよ。窓が一つしかなくて風のめぐりが悪いなら、玄関を少し開けるだけでも」
「お、おー」
「……感心して拍手しないでください、この駄目っ子」
「そ、そんな酷いわ! わ、私だって、教師として忙しくなかったら、これくらい」
「先生は色々効率が悪いんですよ、……ともかく掃除しましょう、色々教えますから」
「あれ、料理は?」
「それが終わってからです。だいたい、流しに食器が軽く溜まっているじゃないですか」
 響カスミは、もう苦笑するしかなかった。
 実際この関係になってから、彼女の方が彼に甘えているケースが多い。ナリがこんななのにやけに引っ張られている感じがする。導き手として、灯台の明かりのような強さが感じられた。
 それは小さな子が背伸びして自分を引っ張ろうとする訳ではない、あくまで自然体での彼女の所為である。それほどまでに自分は情けないかと思うと、ちょいとよよよと涙が零れる。
 本当、見た目とは相応しくない――
「掃除が終わったら」
「ん? ……あ」
「料理作りますから、今日はホワイトカレーに……どうしたんですか先生?」
「……反則だから鋼君、その笑顔は反則」
 不城鋼の特殊能力の一つ、無邪気な微笑み。
 本人にとってはなんて事のない、しかして対象者にとっては100メガショックネオナントカとなるこの笑顔によって、一体、老若男女問わずどれくらいが撃沈されたか。はがねんは無自覚ながらも、人生という荒波を切り抜けてきた強力なテクニック、
 ちょっと、鼻血が出そうになった。胸もきゅんとした。呆けてないでまず新聞紙持ってきてください、それでワックスがけしますからといわれても、反応が遅れた響カスミだった。


◇◆◇


「いただきます」
 ホワイトカレーの発祥は、言うまでもなく北海道。
 もともと大自然の幸がたっぷりのこの場所は、実に多様な食文化に恵まれている。最早馴染みとなりつつある、スープカレーの元祖も北国が発祥である。
「クリームシチューとのあいの子みたいね。……あ、でも後でちゃんとスパイスの刺激がきて、美味しい」
「このカレーだったらじゃがいも結構あいますね、ニンジンとかアスパラガスも良くあいますし。肉なしでも全然いけます」
「鋼君はじゃがいも入れない派?」
「普段はいれませんね、冷凍すると美味しくなくなるから……。一回きりで食べる時はいれるかな。カレーがたっぷり染み込んだホクホクのじゃがいもも、やっぱり美味しいですから。それになんか懐かしいですし」
「そうよねー、やっぱりじゃがいもが入っていると、お母さんの味、って感じがするわね」
 カレーは野菜を煮てルーを入れるだけ、と失敗の少ない料理であるが、矢張り、鋼の手際は良かった。彼の為だけに購入した台の上にのった少年が、野菜を均等に切り分けていく。水に晒してのアク抜きもしっかりして、鍋にはまずにんにくをしっかりいためてと。時間短縮の為に根野菜は電子レンジで過熱しておき、コクだしの為に野菜ジュースを使用する。ルーをいれて一煮立ち、普通のカレーならここでカレーやソースなどをいれるが、今回は始めてのホワイトカレーという事でシンプルに仕上げきった。
 カレーの調理をしている間に、手で千切ったレタスに、刻んで加熱した玉葱を使ったオイソースドレッシングをかけサラダも作り上げている。
 番長と言われている彼だけど、正直嫁に来て欲しいくらい家事スキルが高い。天は二物を与えずというけれども、この少年は夫の役割妻の役割両方、完全にこなす事が出来る性質を持っていた。本人の意思はともかくとして。
 カレーの美味しさで弾む心で、その事を考えると自然、カスミは微笑んでいた。すると鋼も釣られてかにこりと笑い、計らずもカウンターを喰らった彼女ある。
 ともあれ、「「ごちそうさま」」
 事食事において、カレーについてはその言葉が終わりではない。素早く流しに食器を運び、水でざっと流す必要がある。調理の功績者である少年にかわって、カスミはせめてそれくらいの事はと、後片付けを始めた。
 本来はがねんチェックが入るであろう、順序に問題がある食器洗浄であったが、掃除と料理のコンボでくたびれた彼は、寝るまではいかないものの、大の字になって目を瞑っていた。
 響カスミとこういう関係になろうとは、誰も予想出来ない事である。実際、ノストラダムスも預言書に記していないし。そもそも現実に在るのは過去と現在だけであり、未来とは本来幻想に過ぎない物、
 なのだけれど――
「……ん? ……!」
「お疲れ様、鋼君」
 なんという事でも、ない。けれど、鋼の顔は赤くする力はあった。
 そう、未来は確かに決まっていた。他の可能性がない、夢も希望もあったもんじゃない、残酷なくらいの確定事項。
 彼女が頭をひょいとかかげ、鋼を膝枕してあげたなら。
「ちょ、ちょっと先生――」
 当然硬派で売る彼としては、普段、彼女を引っ張っていく少年としては、いただけない環境であるのだけれど、
「?」
 ……響カスミの《単なる》無邪気な微笑みに、言葉は止められてしまった。小さな声で、たく、と悪態をつくが、結局、膝枕からは逃れようとしない。いや進んで囚われた。
 彼女の膝は温かく、また、彼女の手が頭を撫でる感触は、優しく、
 腹が満たされた少年にとって、眠りの世界へ誘われるには、整いすぎていた。うつらうつらとして霞む視界、
 彼女の優しい笑顔が、まるで雲のように溶けていく。
 けれど、何処へもいかない感触が、頭の裏にあって、安心するかのように。


◇◆◇

 無自覚ながらもこうやって、本当に時々、彼女は少し優位にたてる。
 母性本能という備わった機能は、不城鋼が天から与えられた何よりの物、彼の強い性格を時々停止させる。
 けれどそれは、多分、幸せの分類。

◇◆◇

 時計の長い針が、一周してもう少し過ぎて、
「こうやって寝てると」
 頬に、軽く指をあてる。
「もっと、可愛いんだけどなぁ」
 この時の彼が好きで、そして、あの時も彼も勿論好きで、
 雨の日の君も、風の日の君も、晴れた日だって、そうじゃなくたって、
 君が、
「……変な事言わないでください、怒りますよ」
「あ、起きちゃった」
 好き。

 跳ね上がる彼、もう帰ります。そんなもうちょっとって、無自覚な攻撃。
 あーもううっとしいだとか、鋼君の人でなしとか、力関係は少年に分があるけれど、
 晴れ時々曇り、
「ね?」
「……あぁもう」
 少年、時々彼女。





◇◆ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ◆◇
 2239/不城・鋼/男/17/元総番(現在普通の高校生)

◇◆ ライター通信 ◆◇
 エイひとです。◎がみつからんかったとです。(挨拶)
 いやまぁ、ページにある通りそないたいした事ではないですが、次回から注意してくださいませ; いや初参加の方のみなんで、次回とかあらへんのですけど。
 とにもかくにもまずは新しい異界に一番に飛び込んでいただきおおきにでした。本来の姉ショタとはちょっと変形的な関係でしたが、仕上がりのほうはどうだったでしょうか? はがねんがツンデレになっているのかちょっと不安ですが。
 納品が期日を一日超過してしまいまことに申し訳ありませんでした。
 また機会があればよろしくお願い致します。