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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


いらっしゃいませ・真夏のクルーズ?へ

0.
 【とある広告よりの抜粋】

 夏ひと時を海の上で過ごしませ〜んカ!?
 優雅にして豪快な船の上で1泊2日のさわやかクルーズ。
 飛び散る汗も海上の風が吹き飛ばしてくれマ〜ス!
 釣りに興じるもよし、編み物に興じるもよし、豪快な海鮮料理に舌鼓を打つもよし。
 あなたの夏の思い出作りニ〜!
 
 今回格安の1000円にてこのツアーをご提供致しマ〜ス!
  申し込みは【みやこいツアー企画】まで。

  【ここまで】


  …・・・あ、さて。
 そんな広告に踊らされやってきたのはご存知・草間興信所所長であらせられる草間武彦(くさまたけひこ)とその妹・草間零(くさまれい)である。
 草間はアロハなシャツと浮き輪に麦藁帽子、零は白いノースリーブのワンピースにサンダルといった姿である。
 集合場所である港までやってきた彼ら二人は呆然と立ちすくむ。

 そこにあったのは豪華な客船ではなく、豪快な漁船であった。

「…騙された?」
「…そのようですね」
 深いため息をひとつついた後、草間は覚悟を決めた。
 探偵としての度胸ゆえか、はたまた貧乏人としてたかが1000円でも無駄にしないためか。
 草間とその妹は漁船へと乗り込んでいった…。


1.
「武彦さん!」

 白地に大きな淡い花柄のワンピースを風になびかせながら、シュライン・エマはまさに今漁船に乗り込もうとしていた草間兄妹を呼び止めた。
 想像していた豪華客船とはかけ離れた漁船に乗り込もうとしている草間を見つけ、エマは最初から感じていた不安がより具体的なものになってきたのを感じた。
「お、おう。来たか」
 少し気まずそうに振り向いた草間は、エマが口を開く前に決心したかのように口を開いた。
「まぁ、なんだ。ほら、格安だしな? おまえもたまには海が見たいって言ってたじゃないか。綺麗な海じゃないか。ははは…」

  …改めて見たあの広告の文体、某氏の口調まんまなんだけど。本当に武彦さん気がついてないのかしら?

 ふとよぎるそんな思いを口に出さず、エマはにこりと笑った。
「まぁ文字通り乗りかかった船だもの。楽しみましょう?」 
「…すまんな」
 申し訳なさそうに肩を落とした草間が、エマには悪戯が見つかった子供と重なって見えた。
「荷物これだけか? 運んでやるよ」
 そういって草間がエマの持っていた小さめの旅行カバンに手をかけようとした時…

「ミーの荷物はこれだけよ!」

 大きなカバンが草間めがけてヒュンヒュンヒュン! と3つほど飛んできた。
「うわぁああ!」
 避ける暇もなく、草間はエマの目の前で押し潰された。
「武彦さん!」
 駆け寄るエマの目の前で、とどめとばかりに飛んできたデイバックが草間の上に落ちた。

「草間さんならNiceCatchできると思ってたのに」

 いつの間に来たのか、ライフジャケットにハーフパンツを穿いたサングラスの金髪少女・ローナ・カーツウェルは、いかにも残念そうな手振りをしつつ呟いた。
「お手をどうぞ。草間さん」
 こちらもいつの間に来ていたのか、高級ブランド服に身を包み首からひまわりの花輪をした長い髪の男・シオン・レ・ハイが草間に手を差し出した。
「わぁ、皆さんもツアーに参加されるのですね」
 一足先に船内に荷物を置いてきたらしい零が、ニコニコと笑顔を振りまいた。

「なぜかしら…。この嫌な不安をどうしても取り除けないわ…」
 エマはこの旅路できっと何かが起こるであろうことを確信した。
「…できれば、俺の上から荷物を取り除いてほしい…」
「!! ご、ごめんなさい!」
 草間の命がけの呟きに、エマははっと我に返って荷物を退けたのであった。


2.
 漁船とは言っても、近海用ではなく遠洋漁業用の宿泊施設を兼ね備えた船であった。
 とはいえ客船用のそれと比べられると段違いであり、また草間興信所のソファより寝心地がよいかと問われても『?』と首をかしげるような設備である。
 そして、何より…

「ハァ〜イ! アタクシ、船長兼ツアーコンダクターを勤めさせていただきマ〜ス『マドモアゼル・都井(とい)』と申しマ〜ス!」

 エマの不安の元凶はそこに確かにいた。
 船長としてもツアコンとしても不似合いなピンクの毛皮を着たそれが。
「…えぇと、訊いておきたいのだけどいいかしら?」
 軽い頭痛を感じながら、エマは目の前の人物に尋ねた。
「何なりト〜♪」
「救命具の場所と…あと、調理場を拝見したいのだけど」
「ハイハァ〜イ! それでは皆様ご案内いたしマ〜ス!」
 都井が先頭に立ち、どやどやとそれの後に続くご一行。
 狭い通路をコソコソと移動し、やってきたのは調理室。
 薄暗い印象のそこには、壁にかけられたいくつかの調理道具と米袋がドーンと中央に置かれている他は特に見る物はなかった。
「…お米…ですね?」
 シオンがポンポンッとペットでも叩くかのように軽く叩いた。
「ソレ、旅行中の主食となりマ〜ス!」
「…Oh! リョーカイね。Main Dishはミー達が釣るって事ネ!?」
 ドンと胸を叩いてローナはキラキラと顔を輝かせた。
「Yes!! 期待してマ〜スので、大物釣ってくださいネ〜!」
「…あの、できれば捕りすぎた分は買い取っていただけないかと…」
 こっそりとそう言ったシオンに、都井はウンウンと頷いた。

 2人が意気揚々と出て行った後、残ったのは草間兄妹とエマ。
 エマは、「ちょっといいかしら?」と先ほどから気にかかっていたことを聞いてみることにした。
「もし…もしも魚が釣れなかった場合はどうなるのかしら?」

「ご飯だけになりマ〜ス! アタクシ、おいしいご飯炊いて皆様のお帰りをお待ちしてマ〜ス♪」


3.
 漁船というのは、一般の客船に比べると揺れ具合が段違いである。
 空は快晴、波も穏やかで、船は今小さな無人島の近くで停泊中である。
 そんな船の上で垂れる釣り糸は4本。
 ローナとエマと草間と零、それぞれの糸である。
 シオンは…なぜか見当たらない。

「ところで、ローナちゃんは釣りってしたことあるの?」
 エマが風でなびく髪を押さえつつ、ローナにそう訊いた。
「ううん。Daddyと何度かやったことあるけど、ミーはあんまり釣れなかったヨ。でも、今日のミーは海の主がTargetなの!」
「そうなの。釣れるといいわね。ちなみに武彦さんと零ちゃんは…?」
「岸からならやったことあるが、さすがに沖釣りはなぁ…」
「初体験です」
 おおよその期待通りの答えにエマは1つため息をついた。

  これならあの島の近くで素潜りでもした方が何か取れそうかもしれないわね。
  …誘ってみようかしら?

 せっかく水着も持ってきたことだし…とエマは隣で暇そうに糸を垂れる草間に目を向けた。
 と、

「お待たせしました! これで今夜のおかずは私の物なのです!」
 かっこいい…とはお世辞にも言いがたいポーズを決め、投網を背負ったシオンが颯爽と現れた!

「投網か…。これなら上手いこと獲れるかもしれないな」
 草間が感心したように呟いた。
「Wonderful! シオンさん、Finghtヨ〜!!」
「頑張ってください!」
 キャーキャーと飛び跳ねるローナとニコニコと応援する零。
 ふと、エマの頭の中を疑問がよぎった。
「でも、シオンさん投げれるのかしら? あれって結構難しいって聞くけど?」
 大きく振りかぶってシオン選手、投げましたーーーー!!

「落ちたーーーーーー!!?!?」

 ばしゃーーんっと大きな音と水しぶきを立て、シオンが海へと消える。
「きゅ、救命道具を!」
 エマがそういうが早いか、草間が近くにあった浮き輪をシオンが消えた海面へ投げた。
 だが、それはシオンには届かなかった。

「た、助け…てください〜…」
 海面に浮かんできたシオンは自らが投げた網に見事に引っかかっていた!


4.
「助けに行かないと…」
 エマはきょろきょろと辺りを見回して、役立ちそうな物を探した。
 しかし、本人が絡まっている以上何を投げても無駄だと思われた。
「Oh、待って! ミーの釣竿にHitヨ!」
 見ると今にも沈んでいきそうなシオンをよそに、ローナの釣竿が激しくしなっていた。
「零、シュライン! 悪いが少しの間ローナの竿を手伝ってやってくれ。俺はシオンを助けてくる!」
 草間がてきぱきと指示を出し、上着を脱ぐと海の中へと飛び込んだ。
 エマはローナの竿を支える手を貸した。

  これは…もしかしたら大物なのかしら!?

 ぐいぐいと引っ張る魚の影は見えないが、船が魚に引っ張られているように思える。
「きっと『海の主』ヨ!」
 ローナが張り切って竿を引こうとするが、びくりともしない。
 やはり女の力だけでは無理だということなのだろうか?
 そう思っていると、船べりから這い出てくる二つの影が目に入った。
「く、食われるかと思った…」
「私の鮫さんはそのような人ではありませんよ」
 顔面蒼白の草間に対し、シオンはなぜか悲しげな表情をしている。
 いったい2人に何があったというのか?
「…って、そんな場合じゃない! ローナ達を助けないと!」
 ハッと我に返り、草間がエマと場所を変わった。
「シオンも手伝ってくれ!」
 草間がそういうと、シオンは微妙に盆踊りに見えるフラダンスで「応援します〜!」と激しく腰を振った。
「そうじゃないでしょう! 零ちゃんと場所を交代してください!」
 見かねたエマがシオンと零を交代させたその瞬間、ローナと草間とシオンの体が海へと飛んだ。

 空を飛ぶ3人。取り残された2人。 

「武彦さん!?」
 思わず飛び込んだエマは水中でとんでもない物を見た。

 そこには、大王イカと戦うローナとシオンとサメと、そして意識を失いかけた草間が…。


5.
「ミーの忍術に掛かれば、EasyVictoryねッ!」
 ローナが満面の笑みで水上からひょいっと船へあがった。
 辺りはすでに夕闇で包まれ、空腹が限界を超えていた。
「まさかこんなもんが釣れるなんて…」
 先に船に上がってタオルに身を包んでいたエマはため息をついた。
 船にもたれかかる様に絶命していたのは体長10メートルはあろうかという大王イカである。
「冗談じゃねぇぞ。俺がいくら怪奇探偵といわれてたって、こんなもんと戦う予定はなかったぞ」
「都井さん、これいくらで買い取っていただけますかね?」
 生きた心地がしないといった表情の草間の隣で、シオンは都井にそう問った。
「ム〜…。アタクシの財布からではキビシ〜ので、少々お待ちいただけますカ〜?」
 都井がそう言って船内へと消えた。

「そうだわ。記念写真撮りましょうか」
 一心地ついたエマはふとカメラを持参したことを思い出した。
「あ、私が撮ります。皆さんが活躍した記念ですから」
「じゃあ、お願いしてもいいかしら?」
 零がエマからカメラを受け取り、大王イカを背景に全員が写るようにカメラを向けた。
「えーと、こういう時はどういう掛け声がいいんでしょうか?」
 零がそう訊くと、シオンがにっこりと答えた。
「1+1は〜?」

『 に〜! 』


6.
「皆様にご案内申し上げマ〜ス!」
 写真撮影が終わると、嬉々として都井が戻ってきた。
「この度大王イカを見たいとおっしゃるVIPな豪華客船より皆様をご招待したいとの連絡が入りマ〜シた! これより皆様には豪華客船へと移っていただきマ〜ス!」

 何がなんだか分からない顔をしている一同を尻目に、あれよあれよという間に一同は豪華客船へと案内された。
「まさに嘘から出た誠…って感じね」
 豪華な食事を前に、貸し出されたディナードレスを着たエマはクスッと笑った。
「1000円が化けたもんだよな。まぁ、楽しんでいこう。あいつらも楽しんでるしな」
 タキシードに身を包んだ草間がクイッと顎で示した方向には、同じくドレスとタキシードに身を包んでカメラの前でポーズをとる零とローナとシオンの姿だった。

 旅はまだ終わっていないのだが、先ほどの出来事がすでに遠い記憶に感じられた。

  なんだか変な旅行になっちゃったけど、面白かったわ。
  …今は、こっちを楽しまなくちゃね。

 シャンパンの入ったクラスをカチンと合わせたエマと草間。
 豪華客船はエマ達を乗せて夜の海を航行していくのであった…。


−−−−−−

■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

3356 / シオン・レ・ハイ / 男 / 42 / 紳士きどりの内職人+高校生?+α

1936 / ローナ・カーツウェル / 女 / 10 / 小学生


NPC / マドモアゼル・都井 / 謎の人

■□     ライター通信      □■

 シュライン・エマ様

 お久しぶりです。
 この度は「いらっしゃいませ・真夏のクルーズ?へ」のご参加ありがとうございました。
 真夏の…夏…あ、秋ですね。すいません。
 勝手にエマ様の服装書いてしまいましたが、なんとなく清純そうな服も似合いそうな気がします。
 旅の前半部分のみで終わってますが、きっと皆様良い旅を続けられたと思います。
 楽しかった夏の思い出として、楽しんでいただければ幸いです。
 それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。
 とーいでした。