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『逢魔封印〜参の章・後編〜』
闇。
一面真っ暗で、何も見えない。
美沙姫は、穏やかに周囲を見回した。
すると、目の先に、ひとつ、またひとつと光が灯り始める。そして、現れたのは、扉だった。まるで、そこだけにスポットライトを浴びたかのように、暗闇の中でぼんやりと浮かんでいる。
その数、六つ。
彼女は、再び周囲を見回してみたが、扉以外は何も見えないし、人の気配もしない。
とりあえずはこの扉をくぐれ、ということなのだろう。
そう解釈した彼女は、手近な扉を開けると、中へと入った。
気がつけば、目の前には巨大な壁があった。
傍らには、ぼんやりしている葉月の姿がある。
「葉月様、ご無事で良かったです。お怪我はございませんか?」
美沙姫が微笑みかけると、葉月は小さく頷く。
「うん。大丈夫。ありがとう。美沙姫ちゃんと一緒で良かったけど……亨ちゃんや皆は、大丈夫かな?」
その言葉に、美沙姫は暫し考え込んだ。精霊たちは、数が少ないように思えるものの、確かに周囲にいる。しかし、他のメンバーの居所を探ろうとすると、『壁』に阻まれる。恐らく、別々の空間に飛ばされているのだろう。
「大丈夫です。恐らく、別々の空間に飛ばされたのだとは思いますが、皆様、ご無事です」
「ホント!? 良かったぁ……」
それを聞き、葉月が安堵の溜息を漏らす。本来なら、断言できる状況ではなかったが、要らぬ心配をさせても仕方がない。とにかく今は、ここから脱出するのが先だ。
「ねぇ美沙姫ちゃん。壁になんか書いてある。……えっと」
その壱。迷宮に入る際は、この下にあるボタンを押すこと。
その弐。いんちきはせずに、きちんとクリアすること。
その参。儂はあくまでも頭脳派です。
「……なんだろ? これ」
「さぁ……。でも、多分、これをクリアしないと、ここから出られないということではないでしょうか」
「とりあえず、押してみよっか?」
「あ、ちょっとお待ちください」
そう言うと美沙姫は、意識を集中させ、朗々と言葉を紡いだ。
「目覚めなさい! シャイニング・ソウル!」
すると、光が急速に周囲から集まって来て、美沙姫の手に、眩い精杖として具現化する。
「おお! 何かカッコいいね、それ」
感心している葉月に、美沙姫はにっこりと微笑んだ。
「この先、何があるか分かりません。そうなったら、力を出し惜しみしている場合ではありませんから。……では、そのボタンは、わたくしが押します」
そう言うと、彼女は、静かにボタンを押す。
すると、目の前の壁が、轟音と共に左右に開いた。その先は、通路になっているようだ。
「わたくしが先に参りますから、葉月様は、わたくしから離れないでください」
「うん。分かった」
そして二人は、歩みを進める。
暫くすると、道が二手に分かれていた。その分岐点には、次のように書かれていた。
1+1=□
そして、右の道には『2』、左の道には『4』と書かれている。
「……これ、バカにされてんのかな?」
「さぁ、どうなのでしょう……? 参りましょうか」
「そうだね」
迷わず二人は、右の道を選ぶ。
程なくして、次の分岐点に差し掛かる。
円周率の3以降、125桁目の数字は=□
「げっ! 何で、こんなに急にレベルが上がるわけ!? あたし、分かんないよ!」
葉月の悲鳴を聞きながら、美沙姫は急いで計算を始める。
「……『4』です。参りましょう」
「え? それ、ホントに合ってる?」
心配そうに呟く葉月に、美沙姫は穏やかに微笑んでみせる。
「ええ、間違いありません」
「美沙姫ちゃんって、頭いいんだね……」
「いえ……お褒めの言葉、恐縮です」
天王星の大気に含まれる水素の量は=□
「これは、『83%』です」
「もう一個の道、『82%』……ヤな問題……」
こうして、二人は、順調に歩みを進める。
「あのさ、思ったんだけど……」
「何でしょう?」
葉月の言葉に、美沙姫は足を止める。
「上、スカスカだよね。登れそうじゃない?」
葉月の言うように、この迷路には天井がない。壁も、乗り越えようと思えば、乗り越えられそうな高さだった。
「わたくしも気づいてはいましたが……」
「インチキしちゃダメって、書いてあったもんね……」
「はい。こういう場所には、必ずルールがありますから、それを破ると、面倒なことになりかねません」
それを聞き、葉月は溜息をついた。
「でも、いつまで続くんだろう……これ」
「もう少しですよ」
すると、葉月の目が輝いた。
「ホント!? 美沙姫ちゃん、分かるの?」
「ええ。精霊が、教えてくれていますから」
美沙姫は、精霊たちの報告を、常に聞いていたので、笑顔で答える。しかし、葉月の表情は曇った。
「でもさ、それ、インチキにならないかな?」
「大丈夫です。問題には、きちんと答えていますから」
「そっか……じゃあ、行こうか」
「はい」
しかし、先ほどから、結構な距離を歩かされている。それが、何かを意図したものでないとは限らない。美沙姫は気を引き締めると、再び歩みを進める。
映画、『おなべのふた』の主人公の名前は=□
「どうしましょう……わたくし、分かりません」
「あ、あたしこれ分かるよ! 『西郷健史』。だから右」
「葉月様、凄いですね」
美沙姫が感嘆の声を上げると、葉月は複雑そうな顔をした。
「いや……こんなカルトムービーのことを知ってるヒトの方が少ないと思う」
「そうなのですか……」
話しながら、二人が進んだ先は――行き止まりだった。
「え!? ウソ!? 絶対、西郷健史だって! 映画も俳優も全然売れなかったけど、あたし、結構タイプだったもん!」
取り乱したあまり、訳の分からないことを口走る葉月を宥めながら、美沙姫は注意深く壁を見る。
すると、上方に、小さな文字が見えた。
転がってくる物体を、壊さないでクリアしてください
そして――音が、聞こえた。
「葉月様! わたくしの後ろに!」
「え? ……う、うん」
怪訝そうな顔をしながら、葉月は美沙姫に言われるままに、彼女の後方に移動する。
すると、暫しの後、巨大な球体が、通路を猛スピードで進んできた。
美沙姫は、葉月を庇うように腕を広げ、精杖を目の前にかざす。
その瞬間、目に見えない障壁が、球体を押し留める。耳障りな摩擦音と共に、次第に球体の動きは弱まった。
すると、左の壁が、轟音と共に開いた。
「葉月様。参りましょう」
美沙姫は葉月の手を取ると、開いた扉の中へと突き進む。
その先には、まるで病院の一室のような白い部屋があった。
そしてそこには、丸い眼鏡をかけ、白衣を着た白髪の老人が、丸いテーブルを前に、紅茶を飲んでいる姿があった。老人は、こちらに気づくと、おもむろに拍手をする。
「いやぁ、お見事お見事。お嬢さん方、お見事だった。……紅茶でもいかがかな?」
老人は、ティーポットとカップをこちらに見せ、ニヤリと笑う。
「せっかくですが、毒入りの紅茶などはいただけません。わたくしでしたら、お客様にお出ししたりは致しませんわ」
それに対し、美沙姫は優雅に微笑んで見せた。
「ど……毒入りなの?」
「ええ。精霊たちが教えてくれました」
葉月が、小声で尋ねてきたので、美沙姫は穏やかに答える。
「いやぁ、お見事お見事。お見事お見事」
老人は、またわざとらしく拍手をする。
「申し遅れましたな。儂はDr.00TT。呼びにくいだろうから、『ドクター』と気軽に呼んでくれればいい」
ドクターがそう言った途端。
美沙姫たちの足元に、穴が開いた。
しかし、美沙姫たちは、宙に浮いている。風の精霊の助けを借りて、穴に落ちるのを防いだのだ。下を覗くと、幾つもの刃物が、こちらに牙をむいているのが見える。
「いやぁ、またもやお見事お見事」
「ドクター。失礼ながら、頭脳派と仰る割には、姑息な手段をお使いですね」
そう言いながら、美沙姫は精杖を振るう。風の刃が、部屋の隅に飾ってあった、観葉植物を切り刻む。すると、その植物は断末魔の叫びを上げ、緑色の液体を垂れ流しながら、動かなくなる。天井を示せば、無数の毒矢が部屋中に降り注いだ。無論、美沙姫たちは精霊に守られていたので無事だが、ドクターは、まるでサボテンのような状態になってしまった。
「死んじゃったのかな……?」
葉月が、恐る恐る尋ねてきたので、美沙姫は首を静かに横に振る。
「いえ。あれは彼の『本体』ではありません。葉月様、『封印』の準備をなさってください」
「う、うん。了解」
すると、百足のような小さな虫が、何十匹も逃げていくのが見えた。
大半はダミー。
美沙姫は、『本体』だけに的を絞って、『風牙斬』を放つ。二組の風の刃が、正確に足だけを斬りおとした。おぞましい悲鳴とともに、ダミーは消え、ドクターの『本体』がのたうちまわる。
「葉月様! 今です!」
「よっし! ――我が同朋が封印師、瑪瑙亨の名に於いて命ず! 我の言葉も鎖となりて、彼の者を捕らえる檻と化す! ――逢魔封印!」
その途端、葉月の持っていたカードから眩い光が発せられ、触手のようにドクターを絡め取ったかと思うと、中へと引きずり込んだ。
そして、景色が変わる。
そこは、ホテルのラウンジのような場所だった。
赤い絨毯が敷き詰められ、天井には煌びやかなシャンデリアが下がっている。
「あ、しーたん! 皆も無事だったんだ。良かった〜」
森羅の声をきっかけに、一同に安堵の言葉が漏れる。一緒に来たメンバーは、全て揃っていた。
「でも、これで終わり……という訳には参りませんよね……」
美沙姫の言葉に、皆は頷く。まだ、肝心の津久乃が見つかっていない。
「あ! そうだ亨さん。俺、亨さんとも葉月さんとも一緒じゃなかったから、鬼、倒しちゃった……なんか、マズかったかな?」
森羅が問うと、亨は小さく首を振り、穏やかに答えた。
「いや、何の問題もない」
「そっか、良かった……」
「問題ならあるわよ」
森羅がホッとした瞬間、唐突に声が聞こえた。皆が、一斉にそちらを向く。
「津久乃ちゃん!」
葉月が、その声の主を見て、言葉を発した。目の前には、いつの間にか御稜津久乃が立っていた。しかし彼女は、自分の置かれた状況を気にもしていないかのように、艶然と微笑んでいる。
「津久乃ちゃ……あれ?」
葉月が、何か語りかけようとした途中で、急に額に手を当てて、軽くよろめいた。
「葉月様? どうなさいました?」
「いや……ごめん。何か眩暈が……」
美沙姫が気遣いの声をかけると、葉月は、そのまま床に座り込む。
「きっとお疲れになったのでしょう。後は、わたくしたちにお任せください。何かあっても、葉月様はわたくしが守りますからご安心を」
「うん……ありがとう」
礼を言う葉月に、美沙姫は『聖風壁』を纏わせた。
それを横目で見ながら、森羅が再び口を開く。
「あの……問題があるって……?」
その問いに、津久乃は微笑んだまま、静かに答える。
「『封印師』は、『封印』の代償に、文字通り、命をかける。あなたが戦った鬼は、亨が以前に『封印』したもの。『封印』から解放された対象が滅した場合、命が削り取られる……簡単に言えば、寿命が縮むのよ」
「え……?」
「戯言だ。気にするな」
森羅が思わず声を漏らすと、亨が静かに言い放つ。しかし、津久乃は笑いながら言葉を続けた。
「戯言なんかじゃないわ。これは真実よ。……でも残念ね。本当は、皆をバラバラにして、もっと亨の命を削ってあげたかったのに……もっとも、全員がバラバラになれば、戦闘能力を持たない亨は、確実に死んでたでしょうけど。そんなにあっさり死なれても面白くないから、逆に良かったのかもしれないわね」
「ご、ごめん……俺、そんな大変なことだとは思わなくて……」
「だから、気にするなと言っている。大体、鬼を倒さなければ、君が死んでいた。俺の場合は、生きられる時間が少し縮むだけだ。それに、『封印師』になった時点で、そのリスクは覚悟の上だ」
「でも……」
「頼むから気にしないでくれ」
「うん……解った」
いつもは陽気な森羅だが、流石に、自分のせいで人の命を縮めたなどと言われれば、気にせずにはいられないようだった。だが、これ以上気にしていても仕方がないのも事実ではあるので、目の前のことに、頭を切り替えようとしているように見える。
「……オンブル伯爵や、あの姉妹を解き放ったのも、あなたなのですね?」
紫桜が口を開くと、津久乃はまた楽しそうな笑顔を見せた。
「そうよ。……亨、何故聞かないの? 私が誰なのか、もう解っているでしょう? 『封印』を解けるのは、『封印』を施した『封印師』だけ。けれど、私はあなたの『封印』のシステムを『知っている』。……当たり前よね。二人で一生懸命考えたんだから」
そこで、皆の視線が亨へと集まった。しかし彼は、目の前の状況を認めたくないかのように、俯き、顔を背けている。そして、喉の奥から搾り出すように声を発した。
「椿……なの……か?」
「そうよ。覚えていてくれて光栄だわ」
それを聞いた途端、弾かれるように亨は顔を上げた。
「忘れるはずないじゃないか! 俺は、この十年の間、ずっと君を探し続けてきたんだ! もしかして、君は……」
そこで、一旦言葉を切り、亨は、その先を続けたくないかのように、苦しげに言葉を紡ぐ。
「……死んだ……のか?」
それを聞き、津久乃――椿は、冷たく言い放った。
「何を言ってるの? 私を殺したのは、あなたじゃない」
「俺が……殺した……?」
愕然とする亨には構わず、椿は続ける。
「私は、息絶えた後、あちこちを彷徨った。悲しみと憎しみで、浮かばれることなんて出来はしなかった。そして七年前、ある人の協力を得て、この子の中に自分を『封印』した。この子の『能力』は力を蓄えるためには最適だったから。そして、何の因果か、この子は亨――あなたに近づいた。復讐するには、まさにうってつけだったわ」
「――待ってください!」
そこで、今まで黙っていた結が、声を上げた。
「あの……私、違うと思うんです。瑪瑙さんは、大切な人を殺めるような人じゃありません。きっと……きっと何か事情とか、行き違いとかがあって……その……だから……」
「あなたに何が解るの?」
一生懸命思いを伝えようとした結に注がれたのは、ぞっとするほどの冷たい視線だった。
そして。
(――!? 風の精霊!)
「――結様!」
美沙姫の声と共に、結の目の前を風が薙ぐ。それと同時に、血飛沫と獣のような咆哮が上がった。
視線の先には、黒い狼のような生き物。それが、牙を剥き出しにして唸っている。
「あ、ありがとうございま……」
結が礼の言葉を言い終わるよりも早く、尾が何本にも分かれ、こちらへと襲い掛かってくる。美沙姫は手にしていた精杖でそれを払い、森羅は殴りつけてかわす。紫桜は、自分に向かってきたものと、結を目掛けて放たれたものを、手刀で裂いた。また獣が、悲鳴を上げる。
「結さん、今はこの状況を何とかしないと。悩むのは後です」
紫桜にそう言われ、結は力強く頷いた。
「はい。――あ、瑪瑙さん! ――はぁっ!」
ぼんやりと立っている亨が、獣の尾に捉えられそうなのを目にし、結は『魂裂きの矢』を放って、それを阻止する。
「亨さん! コイツ、『封印』すんの? それとも、倒しちゃっていいの?」
「……え?」
森羅が呼びかけると、亨が虚ろな表情で振り向く。森羅は再び向かってきた凶器の尾を殴りつけながら、言葉を続けた。
「椿さんって人は、亨さんにとって大きな存在かもしれねーし、俺たちには到底わかんないことかもしれない。でも、俺たちだって、亨さんと関わった以上、見殺しになんて出来ないんだよ! しっかりしてよ!」
すると、亨は、力なく微笑んだ。
「……ああ、すまない……そうだな。こいつは俺が『封印』した者だ。この異世界を創り出しているのもそうだと思う。――よって、再び『封印』する」
「りょーかい!」
森羅が頷きと共に踏み出すと、紫桜もそれに続く。背後から、美沙姫と結の援護射撃も飛ぶ。
美沙姫の『風牙斬』と、結の『魂裂きの矢』で切り裂かれた獣に、森羅と紫桜の拳が入る。
「よし! 下がってくれ! ――我が言葉は鎖なり! 彼の者を捕らえる檻と化す! ――逢魔封印!」
亨のカードから、眩い光が発せられ、触手のように獣を絡め取ったかと思うと、中へと引きずり込む。
そして、世界が崩れた。
周囲を、コンクリートの壁が覆いつくしている。
そこは、皆が合流した、新宿の路地裏だった。
日は既に、高く昇っている。
「今回のところは負けね。……いいわね。あなたには素敵な仲間がいて」
椿はそう言うと、寂しげに微笑み、立ち去ろうとする。
「お待ちください!」
そこに、美沙姫が声をかけた。
「津久乃様を、お返しください。それは、貴方様の肉体ではありません。津久乃様のものです」
「それは無理な相談ね」
椿は、すうと目を細めると、淡々と言う。
「私の新たな『封印』のシステムを、亨は知らない。だから、この『封印』は、私にしか解けない。そして、私はこの身体を返すつもりはない。……この子を取り戻したいなら、この身体を殺すか、もしくは……」
「……が言葉は刃なり……」
椿の言葉を遮るように、唐突に葉月が何かを呟きながら立ち上がる。その目はしっかりと椿に向けられてはいたが、焦点は定まっていなかった。
「……我が言葉は刃なり……彼の絆を断ち切る力と化す……我が言葉は刃なり……」
「くっ……ああっ……!」
椿は急に苦しみ、悶え始める。そして、その目は驚愕と恐怖に満ちていた。
「まさか……『結壊師』……!?」
「――やめてくれ!」
椿が掠れた声を振り絞った時、亨が葉月にしがみつき、悲痛な叫びを上げた。
「椿を……椿を壊さないでくれ!」
涙を流して懇願する亨に、葉月は虚ろな目を向けると、再び、気を失った。
『……とんだ誤算だったわ。「結壊師」の末裔が、まだこの世に存在していたなんて……でも、これだけは覚えておきなさい。亨――私はあなたを赦さない』
そう声がしたかと思うと、椿は、ゆっくりと倒れた。皆、慌てて彼女の元に駆け寄る。すると――
「う〜ん……」
彼女は大きく伸びをしたかと思うと、不思議そうに目を瞬かせた。
「あれ? 皆さん、何やってるんですか? それで……ここ、どこでしょう?」
あまりにも場違いな津久乃の言葉に、皆、思わず吹き出していた。
「さぁ、どうぞ。皆様、お疲れ様でした」
美沙姫を筆頭に、数名のメイドが、大きなテーブルに、紅茶や菓子、軽食などを並べていく。
「うわぁ、美味そう! いっただっきまーす!」
「頂きます。……おい森羅。そんなにガツガツ食うなよ。恥ずかしいだろ」
「ふぁっへ……」
「飲み込んでから喋れ」
「……だって、昨日から何も食ってねーんだもん。仕方ないじゃん。それにさ、しーたんだって、別に金持ちの坊ちゃんって訳でもねーし、そんな澄ましたところでさ、こないだも……」
「ああ、分かったよ。俺が悪かった」
一同は、美沙姫の計らいで、事件解決後、彼女の勤める屋敷に招かれていた。ただ、亨はいつの間にか姿を消していたし、葉月も、誘いを断って自宅へと帰った。
「あの……私、やっぱり……」
「やめときなよ」
そう言いながら立ち上がりかけた結に、森羅が声をかける。
「心配なのは解るけどさ、男には、ひとりで考えたい時があるんだって」
「あら。女性にもありますよ。ひとりで考えたい時が。……でも、結様、森羅様の仰るように、今は、おひとりにして差し上げた方が良いと思います」
美沙姫にもそう言われ、結は、一瞬躊躇った後、頷いて、再び椅子に腰を下ろした。
「そう……ですよね……。じゃあ、私もいただきます。……わぁ、この紅茶、凄くいい香りですね」
「ところで……何があったんですか? 堂本さんも、何か元気なかったみたいですし……」
それまで、よほど腹が減っていたのか、黙ってサンドウィッチを食べていた津久乃が、問いかけてくる。
「あーと……そうそう。皆で鬼ごっこしてたんだ。葉月さん、中々俺たちを捕まえられないから、落ち込んじゃってさー」
なんと答えて良いものか、一同が迷っている中、森羅は、いつものように軽口を叩いてしまう。
「おい、いくらなんでも――」
「そうだったんですかぁ! いいなぁ。私も参加したかったなぁ……鬼ごっこって楽しいですよね! 私も小学生の頃、中々友達が捕まえられなくて困ってたら、赤鬼さんと青鬼さんが来てくれて、鬼を代わってくれたことがあるんですよ」
「それは楽しそうですね」
津久乃は何故か納得し、美沙姫はそれに相槌を打つ。
紫桜は言いかけた言葉の残りを持って行く所がなくなり、仕方なく、紅茶を啜った。
「どんな経験談だよ」
森羅が小声で突っ込むと、両脇にいる紫桜と結に無言で突付かれる。
――こうして、長かった一日は、穏やかに過ぎていく。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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■PC
【5453/櫻・紫桜(さくら・しおう)/男性/15歳/高校生】
【6608/弓削・森羅(ゆげ・しんら)/男性/16歳/高校生】
【3941/四方神・結(しもがみ・ゆい)/女性/17歳/学生兼退魔師】
【4607/篠原・美沙姫(ささはら・みさき)/女性/22歳/メイド長/『使い人』 】
※発注順
■NPC
【瑪瑙亨(めのう・とおる)/男性/28歳/封印師】
【堂本・葉月(どうもと・はづき)/女性/25歳/フリーライター】
【御稜・津久乃(おんりょう・つくの)/女性/17歳/高校生】
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■ ライター通信 ■
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■篠原・美沙姫さま
こんにちは。鴇家楽士です。後編もご参加いただき、ありがとうございます!
お楽しみ頂けたでしょうか?
まず、今回の正解ルートを発表致します。
312、132、213、231の4つでした。
前半の2つは、亨とチームを組むことになり、後半の2つは、葉月とのチームでした。
今回は、オープニングが曖昧な記述だったため、プレイングがかけづらかったかと思います。にもかかわらず、素敵なプレイングをありがとうございました。最後は、メンバーの皆さまを、おもてなししていただきました。
そして今回も、個別視点が作成されています。なので、ご一緒にご参加いただいた方々のノベルを併せてお読みいただけると、話の全体像が見えてくるのではないかと思います。
それでは、読んでくださってありがとうございました!
これからもボチボチやっていきますので、またご縁があれば嬉しいです。
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