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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


紅の彼方

オープニング

投稿者:
件名 :お願いです。
本 文:お願いです。どうか私に茜色に染まる空を見せてください。
    私は、占いを生業としている者です。
    占いの結果、私はもうじき死んでしまうことが分かりました。
    残念ですが、私の占いは今まで外れたことなどなく、今回もきっと外れないでしょう。
    ですから、最後に茜色の空を誰かと見たいのです。
    私が存在していた事を、誰かに覚えていてもらいたいのです。
    ご迷惑だとは思いますが、どなたかご一緒していただけないでしょうか?

 これは二日前にゴーストネットOFFに書き込まれた事。
 内容が内容だけに、誰も返信をしていないらしく放置されている。
 それを目にした貴方は返信を返した。
 さて、貴方はどうしますか?


視点→紅葉屋・篤火


投稿者:紅葉屋・篤火
件 名:無題
本 文:興味を惹かれた投稿だったので返事を書かせてもらいました。
    茜色の空を一緒に見られたらと思います。
    良かったら返事をください。

 これは数十分前に篤火が掲示板に書き込んだこと。それからすぐに返事が返ってきて、近くの喫茶店で会うことになった。
 待つこと一時間程度、店内に雰囲気の違う女性が一人入ってきた。彼女は迷う事なく篤火の座るテーブルへと向かってきて「お待たせして申し訳ありません」と丁寧な口調で話しかけてきた。
「とりあえず…座ったらどうです?」
 座るタイミングが掴めないのか、女性は立ったままだった。そんな彼女に声を掛けてやると嬉しそうに「お気遣いありがとうございます」と答え、篤火の向かいに座った。
「初めまして、私はレナと申します」
「…紅葉屋・篤火です。突然ですが二つほど聞いてもいいですか?」
 どうぞ?レナと名乗った女性は微笑を浮かべながら答える。
「どうして自分自身を占ったんです?それと茜色の空ですが思い入れでもあるんですか?」
 普通の占い師ならば自分自身の未来のことなど占ったりはしない。だけど、自分に関わる人間を占ったことにより、自分の未来を知ってしまうという例もある。
 だが、このレナという女性が書き込んだ文章を見ると自ら占った、という風に見られる。
「…一つ目の質問の答えは…私には…もう何もないからです」
 何もない、そう答えた彼女の表情は今まで湛えていた笑みを崩して、悲しみの表情を見せた。
「…二つ目の答えは…空が好きだからです。次に生まれてくる時は鳥になりたい。自由に空を飛べる鳥に…」
 意味ありげに呟くレナに言葉を返そうとするが「そろそろ夕方になりますね、行きましょう」と席を立ったレナに遮られて問いかけることは出来なかった。
 あくまでも『お願いをした者』と『お願いをされた者』それ以上の関係でも、それ以下の関係でもないと言われたような気がして篤火は言葉を紡ぐことが出来なかった。


「うわぁ、綺麗」
 あれから向かった先は電車で一時間くらい揺られた先の海。夕日に照らされたオレンジ色の海と、それに対抗するかのように煌く橙色の空。
「…綺麗ですね、篤火さんもそう思いませんか?」
 確かに綺麗だとは思う、だがレナを見ていて胸を襲う不安感、それを拭い去れぬ今、目の前の景色に心躍らせるわけにはいかなかった。
「お話、してなかったですよね。私が自分を占うことになった原因を。私ね…」
 恋人を殺したんですと続けられた言葉に篤火は驚きを隠せなかった。
「…殺した…んですか…?」
 レナは靴を脱ぎ、海水に足を浸しながら「ふふ」と笑みを浮かべてこちらを振り返る。
「大好きな人だったんですよ。突然占ってと言われて、名前を伏せた全てのデータを渡されたんです。良く考えてみれば誰のデータかわかったはずなのに…。プロポーズされて浮かれてたんでしょうね」
 誰のデータかも確認をせずに占いをしたんです、レナはそう呟き空を仰ぐ。
「このデータの人の余命は少ないわ、いつもならこんなはっきりした言い方しないのに…彼に向かって言っちゃったんです。結果、データは彼のもので数日後に彼は自殺しました」
 ザザァ、と波の音が篤火の耳に大きく響いた。
「私が余計な事を言わなければ、彼は事故で死ぬはずだったんです。それなのに彼は自殺した…。私は人の運命を捻じ曲げたんです」
「それと、自身を占う事に何の関係があるんですか?」
「私の能力は契約で手に入れているもの。自身を決して占わないという絶対事項の元に…。それを破れば自らの未来に見えるのは死なんですよ」
 レナ、彼女は自身の未来に見えるのが強制的な死だと知りながらも己の未来を占った。
「同業者の方はきっと怒るんでしょうね、そうでしょ?篤火さん」
「…知っていたんですか」
「えぇ、私の書き込みに答えてくれるのも占いましたから」
 それからも彼女はポツリ、ポツリと話を続けた。
 婚約者にプロポーズされた場所が海で、茜色に染まる綺麗な夕空の下だったということ。
 絶対事項を破った自分には三日以内に死が訪れること。
 せめて、自分がいなくなる前に自分と婚約者の事を知ってもらいたかったという事。
「ありがとう、篤火さん。私の我侭に付き合ってくださって。彼の次に好きになりそうです」
 ふらり、とレナがよろめく。『その時』が近いのだろう。
「そんな顔をしないでください。私が選んだ道ですから」
 最後に会えたのが貴方で良かった、そう言ってレナは瞳を閉じてその場に倒れた。
 その顔は死に対する恐怖など微塵も感じさせず、愛しの恋人に会えるという安らぎの顔にも見えた。
「…あんたは占い師をするには優しすぎたんだ」
 今はもう届かない声だと分かっていても篤火は小さく呟いた。

 夕日が沈み、漆黒の闇が訪れる。
 その闇の先には夜明けという名の光が顔を現す。

 レナが恋人という光に出会えるといい、そう思いながら動かぬレナの身体を抱きしめていた。


                     END


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

6577/紅葉屋・篤火/ 男性/  22歳/占い師

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■         ライター通信          ■
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紅葉屋・篤火様>

初めまして。
この度は『紅の彼方』に発注をかけてくださいまして
ありがとうございます。
何かご意見・ご感想などありましたら
いつでもどうぞです^^
それでは、またお会いできる事を祈りつつ失礼します。

           −瀬皇 緋澄