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世紀末覇王の妹〜決闘編
□Opening
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拝啓 世紀末覇王殿
我ら世紀末爆裂連合は、貴殿に果し合いを申し込む。
三日後、広場空き地へ来られたし。
万が一貴殿が来ぬ場合は、貴殿が潔く負けを認めたものとし、
我らこそ世紀末覇王を名乗らせていただく。
世紀末爆裂連合
敬具
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草間・武彦は、その手紙を握り締め、深くため息をついた。
その姿は勇ましく、盛り上がった筋肉とひらりと泳ぐ外套が印象的だ。
「準備は万端ですね、後は、相手をやっつけるのみです」
武彦の姿に満足したのか、依頼人・ユリカはニコニコ笑顔で拳を握り締めた。
実は、依頼人からこの果たし状を受け取った後、武彦は世紀末覇王の身代わりとして指名され、世紀末覇王としての姿形を準備されたのだ。
当の武彦の気持ちは、この際、無かった事になっている感じ。
「しかしだな、連合、だろ? 相手は四・五人くらいか?」
もはや、代理で決闘をするしかないのか。武彦は自分の被害が最小限になるよう、祈りながら相手の数を確認した。
「え? そんなぁ、兄は世紀末覇王ですよ?」
そんな武彦の事などお構いなしに、ユリカは笑う。
「一騎当千と謳われた兄ですから、相手はきっと千か二千ですね」
へぇ。と、
武彦は、何となく遠くが見たくなった。
「ナニソレ、馬の数?」
思わず、棒読みで口から希望と言う名の台詞が漏れる。
「いえいえ、人間ですよ喧嘩慣れした、あ、確認しますが殺しちゃ駄目ですよ? 犯罪ですからね」
そんな事、念を押されなくても、むしろ自分の命が危ない事を武彦は感じた。そんな数の相手は流石に一人では無理無理。武彦は、引きつった笑顔のまま、一緒に戦ってくれる同士を探した。
□01
「そう言えば、背格好が似てたから代理の話、来たのよね?」
シュライン・エマは、筋肉の盛りあがった武彦を横目で見ながら、ポツリと呟いた。
筋肉隆隆となった今の武彦は、普段の武彦とは似ても似つかぬようなシルエットになっていた。依頼人のユリカは、ようやくその事に思い至ったのか、はっと息を飲みおろおろと武彦を見上げた。
「そ、そうです、兄は兄さんはこんな筋肉達磨じゃなかった……」
「……、何気なく、失礼な娘だな」
よよよと涙するユリカと、目を細めて抗議をする武彦。
その様子を見ながら、シュラインは冷静に件の果たし状を読み返していた。
「ん、でも手紙の内容を見るに、勢いで押し切っちゃえば大丈夫でしょ」
あとは、そうね、空き地に本当にそんな人数入るの? などと、呟きながらごそごそと用意をはじめる。決戦前の準備だろうか、零は興味深そうに、シュラインの手元を覗き込んだ。
「はい、ともあれ、武彦さんとお揃いのお面を人数分用意してみました」
と、取り出したるはホラー映画の世界を練り歩く殺人鬼がつけているようなマスク。小さな穴が無数に開いているそれは、一応、視界を保つ事ができそうだった。
「わぁ、兄さんとお揃いですね」
出てきた仮面を見て、無邪気にはしゃぐ零。
「シュライン……、お前、それ自分もかぶるんだな? 本当に?」
にこにこと仮面を並べるシュラインに、武彦は低い声で唸り声を上げる。
「あ、女子用のはリボン付きだからね」
武彦の言葉に笑顔でシュラインは返す。恐怖の仮面に可愛いリボンが光っていた。
「じゃあ、私もかぶります」
似合いますか? と、多分笑顔で、零も仮面をかぶった。ひらり揺れるリボンに、武彦は困惑の色を隠せない。
「それ、俺も一つ貰おうかな」
そんな武彦の隣から、ひょいと顔を出したのは三葉・トヨミチ。
その井出達や勇ましく……と言うわけではなく、至極普通の格好だ。それでも、トヨミチは武彦の肩を軽く叩き、笑顔を見せた。
「演出的には一騎当千の方が見栄えがするけど、中身は草間君だからなあ」
そして、くくと笑い、それを取り出した。
「多勢に無勢じゃあまりにかわいそうだ、俺も手伝うよ」
その手には、日本古来の伝統を重く深く尊び伝承されてきた……気がする刀。
「ちょ、お前、それ真剣……?」
流石に、それはヤバイ。武彦がずさりと一歩引き下がる。
「まさか、劇団で使ってる模造品だよ」
きらり、と光るその刀。確かに、良く見れば重さも特に感じられない、玩具のようなものだった。しかし、それをトヨミチが、『役者』として振るうのならば話は違ってくるだろう。
「世紀末覇王の仲間なんだから宮本武蔵や沖田総司を演じるんじゃおかしいか」
ぶつぶつと呟き、刀を眺めるトヨミチ。
その瞳に、鋭い光が混じり始める。
「覇王の盟友……ここは、やっぱりクールな参謀系キャラかな?」
トヨミチは呟きながら、眼鏡を外し役者となった。シュラインの用意した仮面をかぶりながら、オリジナルの剣豪像を作り上げる。
そう、今日こそ彼の舞台。彼が演じるは、世紀末覇王の盟友か。彼の演技は見せる相手に共感させる力がある。彼が剣豪として役を全うするのなら、その剣は最強……、と、相手に受け取らせる事ができるだろう。
「なかなか面白そうじゃないか、混ぜろ」
にやりと笑いながら、シュラインの用意した仮面を持ち上げたのはラン・ファー。
くるくると興味深そうに仮面を手元で回転させ、世紀末覇王然としている武彦を見て笑う。
「……、お前、戦えるのか?」
笑われた事が恥ずかしいのか、そもそもその姿を見られる事が嫌なのか、武彦はやけに殊勝な態度でランに訊ねる。
確かに、無駄に体力はあるけれど、特に戦闘能力に長けていると言うわけではない。
しかし、だ。
「方法は、いくらでもある、気にするな!」
そう、純粋な戦闘能力で全てが決まるわけでは無いし、そもそも、こんな面白そうな事に混ざりたいではないか。
ランは、ころころと笑い、リボン付きの仮面をかぶった。
「おい、相手は千とかだぞ、皆怪我だけは気をつけろよ」
盛りあがる皆へ、武彦が活を入れる。
「そりゃ戦闘能力は特別無いけれど、他に出来る事は沢山あるわよ」
シュラインは、荷物を整え笑顔でその言葉に答える。
「数には何で対抗するか、ってね」
トヨミチは、人差し指で軽く自身の頭をつつき、仮面の下でにやりと笑う。
「怪我? 誰が誰を?」
ランは、くすくすと笑いながら、ふんぞり返る。
全く笑わせてくれる。その瞳で語り、武彦を見返した。……。仮面をかぶっていたので、伝わったかどうかは定かでは無いけれど。
「では皆さん、よろしくお願いします」
最後に、依頼人であるユリカが丁寧に頭を下げた。
さて、いざ出陣。
一同は、果たし状の差出人達が待つ広場空き地へと向かった。
■02
「確かに、この人数は半端じゃないわね」
広場に群がるその集団をシュラインは冷ややかな目で見ていた。皆、何やら奇声を発しながら武彦に向かってくる。
それぞれに、チェーンやナックルを持ち、武彦を威嚇する。
その全ての言葉を聞き分けながら、全てを聞き流しシュラインはそっと武彦に並んだ。
「お前、これはヤバイ、下がっていろ」
流石に、事態を重く見たのか、武彦が片手でシュラインを制する。
しかし、シュラインは、その手をそっと押しのけ、武彦と零に耳打ちした。
「かく乱する、耳を塞いでいてね」
向かってくる人数は多数。ある程度武装しているだろうし、シュラインが格闘をした所でそれは役に立たない。
自分に出来る事と言えば、これ。
シュラインは、砂埃を立てて走り寄ってくる敵勢力に対し、にやりと笑みを漏らした。
一瞬、仮面を少しだけ持ち上げ、自らの口を喉を、開放する。
「 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄っ!  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄っ!!」
言葉では無い。
聞き取れるものでも無い。
ただ、その『音』は、周波を作り多数の者に襲いかかった。
「……え?」
「な、な……んだ?」
「ぐっ」
耳を塞いでいても、キンと耳の奥で何かが鳴った気がした。
武彦と零は、その音の波で襲いかかろうとしていた多勢が、ばたりくらりと倒れて行く様を見ていた。
「凄いな、お前」
「今更何を……、三半規管を狂わせたわ、この隙に零ちゃん」
武彦の言葉に、笑顔で答えながらシュラインは素早く後退する。
「はい、行きますっ」
それを合図に、零は両手をかざし、道を作った。
それは、見るもおどろしい怨霊の壁。武彦に向かって直線に伸びているが、そのため武彦が囲まれる事は無くなった。
「ざけんじゃねぇ、世紀末覇王さんがよぅ」
ようやく、立ちあがって来た者達は、その壁に挟まれた狭い道を一人ずつ律儀に走り寄ってくる。武彦目指して、向かってくる。
「あ、最後はやっぱり俺な訳ね」
取り敢えず、四方から囲まれてタコ殴りにされる危険は免れたと言うところか。武彦は、諦めたように一人ずつの相手を開始した。
「ファイトよー、武彦さんっ」
「ガンバレー、兄さんっ」
その後ろでは、仮面のリボンをひらひら揺らし、シュラインと零が笑顔の応援に入った。
□05
「見つけたぜぇ、悪いが、人質って奴だ」
武彦を応援するシュライン、零、そして皆の様子を祈るように見つめていたユリカは、その言葉にはっと振り向いた。
武彦に襲いかかる敵は一列に真正面から向かってくるばかりだったので、つい背後を忘れていたのだ。
突然、至近距離に現われたその大男は、ぐへへと笑いを浮かべ、女性三人へ手を伸ばす。
「っ、たぁ」
しかし、天から舞い降りる風が一陣。
まるで、こうなる事を見越していたかのような、そのタイミングに、皆は目を見張った。
「貴様、何者かっ」
男は、ざっと背後に飛び、距離を取った。
「ふ、世紀末覇王の盟友、とでも言おうか」
ぶんと、手にした刀も勇ましく、女性三人を守ったトヨミチが口元に笑みを浮かべる。
「ありがとうございます、助かりました」
零はにこやかに礼を述べる。
「この辺でヒロインが人質に取られるのは王道だからね」
俺が関わっている限り、そんなありがちな展開にはさせないよ、と、トヨミチは剣舞の構えを取った。
睨み合い、相手との距離を測る。
「ん、て言うか、卑怯者の常套手段よね」
ふ、と。
敵のその作戦がお気に召さなかったのか、シュラインは冷ややかな視線をその大男に投げかけた。
「何を言うかっ、これぞ、立派な作戦である」
卑怯、とののしられ、大男はぴくりと反応する。
「あら、人質を取るのは負けのフラグって知らない? 誰も教えてくれなかったの?」
心底気の毒と言う風に、シュラインは語る。
彼女の言葉に、トヨミチもなるほどと頷き返す。
「な、な、な、俺はっ、最も効率の良い作戦をだなぁ」
その二人の様子に、大男は顔を真っ赤にして必死に反論する。
「あ、ごめんなさい、そうね、進言してくれるお友達、居ないのね?」
しかし、シュラインの攻撃は止まらない。まるで哀れな者を見るような目で大男を見、口に手を当て申し訳なさげな表情を作った。
「そうか、友達がいないんじゃあな、仕方ないな」
ふむ、と。
トヨミチも気の毒げに頷く。
「お、お、お、俺はっ、俺っ」
大男は、目を白黒させ、一歩、また一歩下がって行く。
そして、ついに、滝のような涙を流し、走り去った。
「うぉーーーんっ、覚えてろよーーー」
悲しい叫びだけがこだまする。
「あれは完全に自信喪失だな、やるなシュライン」
遅れて到着したランは、大男の様子に同情するようにため息をついた。
「ふふふ、そちらはどう?」
大男は去った。
シュラインは、ランの呼びかけににこやかに答えながら、武彦の様子を確認する。
「ん、あらかた片付いた」
ランのその言葉に、一同は武彦を見る。
その眼前に、まるで同士討ちで共倒れになったかのように、折り重なり倒れる爆裂連合の面々。一体何があったのか。聞くのも恐ろしいような、ちょっとした地獄絵図だった。
□Ending
「では、皆さん、お疲れ様です、怪我は無い?」
シュラインは、戦った皆をねぎらうようにそれぞれを見た。
トヨミチは、仮面を取り眼鏡をかけてなんでもないと言うように片手を上げた。
ランは、取った仮面をまた、手の中で遊ばせ、ころころと笑った。
「お食事の用意もしてきたわ」
さぁ、皆食べましょう、と、その掛け声に各々シュラインの用意した食事に手を伸ばす。
「皆さん、ありがとうございました、これで、兄の名誉も守れます」
依頼人のユリカは満足そうだった。
と、そこへ、一人疲れも果てて枯れ果てたと言うような感じの人物が一人、ふらりと姿を表す。
「シュ、シュライン……、からだが……」
「武彦さん?!」
その姿……、疲れ果てた中年親父の如く。
あれほど盛りあがっていた筋肉はもはやなく、スプレーで固めていた髪はぼろぼろと崩れ落ち、疲れ果てた表情が痛々しい。
「おや、草間君、あれくらいの運動でへばるなんて」
トヨミチは、笑いながらも武彦に椅子を渡す。
「全く、なさけない、ま、面白いから良いけどな!」
へなへなと椅子に座り込む武彦に、ランはまた、からからと笑いを漏らす。
「大変、ほら、マッサージするから」
今からこんな事では、明日は一体どうなってしまう事か。
シュラインは、苦笑いを浮かべながら、マッサージをはじめた。
やるべき事は全て終わった。
依頼は果たされ、皆、役割を終えて笑顔だ。
「……、つか、お前ら、元気だなぁ」
ははは、と言う、武彦の乾いた笑いがその場で誰の耳にも届く事無く虚しく響いた。
<End>
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【6205 / 三葉・トヨミチ / 男 / 27 / 脚本・演出家+たまに役者】
【6224 / ラン・ファー / 女 / 18 / 万屋斡旋】
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■ ライター通信
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この度は、ノベルへのご参加ありがとうございました。ライターのかぎです。依頼は果たされました。皆様、お疲れ様でした。
過度の運動は無かったものの、多数の敵勢力との戦いの後です。どうぞ、お帰りになられましたらゆっくりとお休みください。
□部分は集合描写、■部分は個別描写になります。
■シュライン・エマ様
いつもお世話になっております。前回に引き続きのご参加ありがとうございました。
今回、シュライン様の能力の一端を描写させて頂きましたが、いかがでしたでしょうか? 草間氏は非常にお疲れのようですので、よろしくいたわってあげてくださいませ。
それでは、また機会がありましたらよろしくお願いします。
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